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庶民の歴史としての着物

うまく表示されてるかわかりませんが、こちら地味に続けてたことです。

https://www.instagram.com/midorinoito/

私の父は紳士服の職人でした。
のちに婦人服の縫製工場を母と二人で始め、長く縫製に関する仕事に就いていました。
母親が着物が好きで、高じて着物を洋服に作り替えるリメイクの仕事もしていました。その仕事をしているときお客様から、ご依頼品のほかにも着なくなったけど売っても二束三文だからとたくさんの着物をいただいていました。
それが積もり積もって200着近く。
ほどいてしまったものも同程度。
ツイッターでは着物を一枚づつ、インスタではほどいたものや端切れで残ってたものの写真を整理整頓がてらアップしていました。

銘仙の長着の文様のみです

私は着物も裁縫もそれほど好きではありません。
きれいな着物はきれいだな、とは思いますが別に着たいとも思わず(そもそも小さくて入らない)うちにあっても勿体ないなと思う感じでした。
母親のお店を手伝っていたころは、ひたすらほどいてリフォームしてましたが、今思うとほどいちゃいけないレベルのものも容赦なくリメイクに回していて心臓がキュッとなります。よくあんなことをしていたものだと…。

母のお店をたたんで、お店に置いてあったものをすべて引き上げてきて、改めて見るとほどいたものや端切れも多く、気が付けば家の中にも頂き物の着物が山と積まれていました。
母はそのころすでに脳梗塞による右麻痺で自分では簡単なものしかできなくなっており、知り合いに頼んでリメイクの仕事の仲介をしていましたが、昔ほどの仕事量はなく、この着物を一体どうしたものかと呆然となりました。
私が集めたものではなく私に責任はないと思いますし、着物にもそんなに興味はないし、でも私が何とかしなければどうにもならないそれを、私は何年もかけて少しづつ整理してきました。不動産トラブルの時も、仕事を辞めた時も、介護に転職した時も、それを辞めた時も。

そして昨年、無職でどうしようかと思って色々とやってみていた時期、着物写真をデータベースがてらツイッターへアップしてみてはどうかと思い、どうせ暇だしと一日一着を目途に続けることにしました。
最初は着物だけでしたが、小物などを作るのに端切れを整理しているとき、少ししか残っていない生地でもかわいい柄のものがたくさんあったので、これもインスタに上げてみたらどうかと思って並行してそちらも始めました。
着物に関する知識はほぼなく、最初は化繊と絹の違いも分かりませんでしたが、母に聞いたりネットで調べたりで少しづつ生地や着物自体の種類なども覚えていきました。
生地の種類や文様、着物自体の格などを知るにつけだんだん価値もわかるようになり、そうなると昔は無神経に使っていたものがリメイクに使うのが怖くなってしまい、ますますしまい込まれる羽目になっています。

遠目で見ると「IN A MODEL ROOM」のジャケットイラストみたいに見える、紬の長着です。

家の仕事が仕事だっただけに、私はなんで洋裁学校に行かなかったのかとよく聞かれましたが、そんなことは親にも言われなかったし自分でも考えたことがありませんでした。私は動力ミシンは使えましたが裁縫は苦手で、家庭科で2(10段階)をとったことすらあります。課題のパジャマやスカートを完成できず、見かねた親にやってあげると言われても飽くまでも自分でやり通した結果でした。
そんな私が今、家に山ほどある着物をどう生かし、活用するかを考えているのも不思議なことです。

私は絵は好きですし、着物の文様の美しさには惹かれますし、これを何とか活用できないものかとも思います。
ミシンは得意で服なども簡単なものなら原型から起こせますし一着仕上げるところまでできますが、根が大雑把なので、世にある手作り品のような繊細な品などとても作れないし、着物の生地で小物やなんや作ってみようと思っても、なまじっか知識がついてしまった為に貴重な生地をうかつに触れないと躊躇してしまうありさま。

昔はいろいろ作ってました、これはつまみ細工のバレッタです。
写真暗くてすみません、これは数寄屋袋です。

先日3月2日に着物を全部アップし終えて、一応の一区切りでありここから新しいことを始めなければいけないな、とも思っています。

着物を生かす、という事についても考えます。
コレクターの方や実際に着たい人の手に渡せたら一番いいのですが、うちにある着物の多くは庶民の着物、昭和中期ごろの日常着であったウールです。多くの人に見向きもされず、価値もないとされるそれらにこそ、私は親やその親の世代の人々の営みを感じていとおしくなるのです。
捨ててしまうのは簡単です、でも古いものは取り返しがつかない。
虫に食われたりして傷んでしまったものは小物に作り替えたりもしていますが、ウールのような価値がないとされる庶民のものこそ、それこそいくらでもあると廃棄され、後世に残りにくいのではないかと私は思うのです。

私がそこまで背負うことはないのかもしれないし、それこそはいて捨てるほどあるから処分したりリメイクに回しては、とも思いますが、一通り整理のついたそれをどうしたものかと、あたらめて考え始めています。

サマーウールの長着です。着心地が良かったようで着こまれた形跡があります。


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