トイレの話

突然こんな話ですみません。
トイレの話、と言ってもトイレそのものより、トイレの汚水を処理する形式の話です。どっちにしてもそこそこ汚い話なのでご注意ください。
あと、田舎に住んでみようと夢見ている都会っ子は、ぜひ読んで、戦慄してください。

汲み取り式トイレと「肥え」

現在の日本だとたいていの地域に下水道が普及していると思いますが、山の中とか孤立集落などでは汲み取り式(いわゆるボットン便所)や浄化槽(バクテリアで分解して綺麗にして流す)のトイレも現役で活躍しています。
私も滋賀に来て最初に住んだ家は汲み取り式で、当時は珍しくありませんでした。紙も、トイレットペーパーなどという洒落たものではなく、便所紙っていう四角い紙の束が売っていましたね。絵の好きだった私は、当時貴重だった白い紙を求めて、この便所紙にすら書いていたものです。
まあ書けたものではありませんでしたが。

昔は肥溜めというものがあって、そこに人間の糞尿をためていました。
今になると不衛生だと思われると思いますが、それがけっこう合理的で、そのままだと肥料どころか植物を枯らせたり寄生虫をばらまきかねない糞尿を、肥溜めで発酵させ有害なアンモニアなどを分解し、またその発酵熱で寄生虫を殺して、有機肥料として利用していたのです。(※1)
化学肥料などなかったころは、人間の糞尿は貴重な肥料として売り買いされ、滋賀では人口の多かった大津へ対岸から、野菜などや現金と引き換えに糞尿を持ち帰り、運ぶための船が琵琶湖を行き来していたそうです。(※2)
現在はお金をかけて下水道を通し糞尿を分解し、お金をかけて化学肥料を作っていることを思えば、究極のSDGsと言えないこともないかと思います。

汲み取り式トイレの問題

で、私は市街化調整区域の借地上に古い平屋を所有しているのですが、そこのトイレがいまだに汲み取り式です。
といっても、現在は、簡易水洗といって洋式便座で水に流すこともできる、一見汲み取り式とはわからないものも普及しています。そこのトイレは現在は簡易水洗です。しかし、見た目にかかわらず汲み取りはしなければなりませんし、水で流す分汲み取りの頻度は増えます。

トイレの下には便槽と呼ばれるスペースが広がっており、屋外には汲み取り口があり、それの専用の蓋もあります。
そして以前、長年住んでくださった入居者様が退去されるとき、その便槽の蓋が欠けていることを知らされたのです。

便槽の蓋というのは、いわゆるマンホールの蓋のようなものです。
しかしその性質上(汲み取りの為頻繁に開け閉めする)あまり重いものではなく、それゆえそれほど丈夫なものでもなく、マンホールの蓋のように車が走るような場所には設置されません。
そしてその蓋が欠けているとなれば、やっぱり匂いなんかもするわけで、周囲にほとんど家はないとはいえ、放っておくわけにはいきません。

そこで私は何とかしなければならないと、とりあえず代替品を探し始めました。しかし、なんと検索していいのかすら分かりません。
「便所の蓋」と検索したら洋式トイレの便座や和式トイレのカバーなどがひっかかり、「汲み取り式 蓋」で調べるとあっさり出てきてちょっと喜んだものの、(探し物が探し物だけにそんなにうれしくない)、便槽(この言葉もここで初めて知った)の蓋にも色々規格があるようで頭を抱えました。そんなもん最初から統一しとけと。
なので捨てる気満々だった便槽の蓋の型番を確認し(何のための型番なのか、マジで。マジレスすると便槽の型番に合わせたんだと思いますがそんなところで企業が競争するんじゃない)すでに生産終了していることに絶望し、汎用型で合うものがある事を知った時は本当にうれしかったです。
誰かと分かち合いたい喜びでしたが、誰とも分かち合えない喜びでした。少なくとも共感はしてもらえない。
もしそういう方がおられたら、一緒に喜びたいので教えてください。

下水道が開通してない物件の注意点

それで、その平屋の便槽の蓋の件は何とかなったのですが、いろいろ調べた中で判明した、汲み取り式トイレや浄化槽というものの存在がけっこうな衝撃でした。
判明も何も浄化槽は特に街中でも普通にあって、敷地が大きく従業員の多い工場などでは浄化槽を採用しているところもあるようですが、日本は大体下水道が通っているだろうと思っていたのが、意外に近くに浄化槽や汲み取り式があるのに驚きすぎました。

汲み取り式も、都会であっても古い家や昭和からあるようなアパートでは、今でも汲み取り式のトイレがあるようです。
目印は、小さな屋根のついた細い煙突のようなやつです。それは便槽の中のにおいを逃がすためのもので、外から見てそれがついているトイレは汲み取り式の証です。
また、そこのトイレが汲み取り式だからって下水道が通ってない地域なわけばかりでもなく、トイレの下水道工事義務が発生する場合もあるかと思います。その場合は自治体から補助金が出ると思いますが、その費用も考えておくことが必要です。
浄化槽は定期的な汲み取りや下水道代はかからず、その代わり定期的な本体の検査や水質検査が義務付けられており、そっちの費用も気を付けなければなりません。

滋賀でも孤立集落などでは浄化槽を設置している家屋も多くみられます。
物件をお探しになるとき、田舎の家の場合は下水道の有無を確認なさって、汲み取り式の場合は下水道工事の義務が発生しないか、浄化槽の場合はランニングコストについてよく確認しておく必要があるかと思います。

という、どっちかというと不動産関係の話でした。
最近久々に汲み取り式のトイレを見たので書いてみた記事でした。

参考文献

※1「図解 土壌の基礎知識 前田正男 松尾嘉郎著 農文協刊」より
1974年初版の本ですが、別に農業を学んでいたわけでもない私の学生時代の愛読書でした。なぜか読んじゃう。古い本なので多少時代に合わないところもあるかと思いますが現在でも土づくりの参考になるかと思います。
私に土づくりの予定はないんですけどね。
そして気が付けばけっこう読んでる農文協の本。

※2「信長 船づくりの誤算 用田政晴 著 サンライズ出版刊」より
タイトルは信長の本のようですが、琵琶湖の湖上交通の歴史にスポットを当てた本でもあります。冒頭では琵琶湖岸周辺に住む人々の証言で構成されており、その中に、琵琶湖東岸から大津の方まで野菜を持って行って、あるいは現金で人間の糞尿を取引してた話があります。「コエトリ」という方言は「肥え取り」が語源だそうです。
ちなみに信長の船というのは、信長が琵琶湖に大型船を浮かべようとして実際作ってみた実話です。あまり有名ではないと思いますが、じわじわくる面白い話ですので興味を持たれたらぜひ調べてみてください。


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