FBI特命捜査官 滝和也 サイドストーリー(平山亨執筆原稿より)
滝和也とは、仮面ライダーシリーズ第11話ゲバコンドル篇で登場し1号ライダー本郷猛 2号ライダー一文字隼人のよきパートナーとしてショッカー、ゲルショッカーの最期まで 共に戦った米国FBIの特命捜査官だ。
彼の登場はシリーズとしては全く予想されていなかったもので、あのアクシデント、藤岡弘くんの骨折入院による出演不可能という最大のピンチを切り抜ける窮余の策として出演して貰ったのだ。主演俳優なしで映画を作らねばならない。しかしあの時は、なんとしても、やってのけて見せるといきりたっていたのだ。しかも作ればすむというものではない。面白いものを作って視聴率をあげなければならないのだ。
まだ放送にもなっていない時点でのトラブル、主役なしで、どうやって面白くするのだ ?いや、主役はいる、藤岡くんの画は吹き替えの演技に彼のアップのコピーを入れよう。
本来秘密捜査のストーリーだから、彼は神出鬼没の方が面白くなる。しかし、それだけでは、いかにも不自由だ。そこで、滝和也の登場となるのだ。なぜFBIか?
当時「FBI」という人気外国テレビ映画があって最もポピュラーだったからだ。FBIは専ら米国国内の犯罪捜査のみを行なうもので…判ってます。表向きはそうでも、 事実上のFBIは、あの悪名高いフーバー長官下、国内国外を問わず、秘密裡に、その 猛威を揮っていたのだ。そのFBIのはぐれ捜査官が、世界的秘密結社ショッカーを追って日本にやって来ても不思議はない。
しかしこの時点では、藤岡くんの怪我が数週間で治るという希望的予想で、その間を何とか凌ごうという算段だったのだが.........。
精密検査の結果、その希望も潰れて複雑骨折で数ヶ月の治療期間を要するとのこと、そこで滝和也のレギュラー化と共に2号ライダー一文字隼人を登場させて藤岡くんの完治再登場を待つという体制を取ったのだ。この一文字と滝のコンビネーションというスタイル をとったのは、藤岡くん1人の時にあったモノローグが多くなるという難点をカバーす る作劇上の理由もあり、これによってドラマが明るくなる効果を発揮した。
「負けてたまるか!ってやって来たんだ」
滝和也は眼を細めて語る。そんな苦労をして来たとは思えない程明るく、そしてシャイな彼が珍らしく自分の過去を語ってくれたのだ。
「とにかく、いじめられたんだよ、小さい頃。なにしろチビでヤセで貧乏と来てるから、 いじめがいがあったんだろうね。どういうわけか俺は年上の子とばかり遊んでた。そして泣かされてもかかっていったね」
米国南部のオクラホマシティの油田労働者の息子に生まれた和也。日系三世で一獲千金を夢見て移住した祖父母はすでになかった。
「俺は祖父ちゃんの血をひいてるんだね。とにかく負けるのが嫌いなんだ。大したことも出来なかった人だけど、俺は大好きだった。俺が泣いて帰ると、ほんとに情けない顔してね。どなりはしなかったけど、負けちゃいけない。今日は負けても明日勝てばお前の勝ち だって抱いてくれたっけ。ママはまた、ひと味ちがってたなァ。泣いたら負けだよ。笑ってるうちは負けじゃないっていうんだよ。ママも二世でそんなに幸せな家庭でもなかったけど、明るい人だった。今思って見ればあれがママの頑張りだったのかも知れないね。パパの顔はほとんど知らない、俺が生まれて間もなく病気で死んじまったらしい」
その母も彼の長い放浪の後、オクラホマに帰った時にはもう彼を待っていてはくれなかった。
「いくら明るいんだといっても苦労がなかったわけじゃない。多分苦労だらけだったんだよ。死んじまいたいような辛いことが山程あったんだよ。南部というのは、ついこの間まで奴隷制度があったところだ。貧富の差別、人種の差別が根強く残っているところだ。貧しい日系二世の彼女がそんなに幸わせであったわけがないよ。きっと辛かったんだろうな子供の俺には判らなかったんだ。ある朝、日本女性らしく膝をしばって死んでいたそうだ。でもママらしく美しく笑みを浮かべて死んでたって後で聞いたよ。笑って死ぬ。 これはママの最期までやり通した冷たい世の中への抵抗だったんだ」
泣いたら負けだ。笑って進め。
ヒョーキンとも見える滝和也の明るさの根っこはそんなところにあったのか?
いじめられっ子だった和也。
負け嫌いの和也 。
彼の半生は勝つことに向かって捧げられたといっても過言ではない。
5歳の春から祖父の友人の柔道家の手ほどきを受けたのを皮切りに、11歳の秋には町のボクシングジムの使い走りをしながらトレーニングを受け、めきめき腕を上げた。たかが14 歳の少年だったが、もって生まれた勝負の勘と敏捷さ、ダメージに負けない根性で彼をいじめたボブを始めこのあたりの少年では敵うものなしの強さを発揮した。見る見るうちに、 この地方の不良少年のボスになってしまった和也の天狗の鼻をへし折ったのはジャッキーという黒人運転手だった。
ジャッキーは相当酔っていた。そして利腕はビールのジョッキをもち、しかも椅子に腰かけたまま、和也のパンチをすべて封じ、ほんの短かいストロークのパンチ1発!右手のビールはそのままというのに、和也は床に沈んだ…
「おい大丈夫か?」
やさしく太い声に気がつく和也。もうろうとした視界にジャッキーの黒い顔が笑っていた。
「今のはまぐれ当たりだ……もう一度…………………」
息まく和也を制して。
「やめな、世の中にはこの俺より、もっと強いお方もいるってことよ」
「何だと?」
「この俺に教えてくれた老師は、俺の百倍も強い」 「誰だそいつは」
「ジン・ルン老師」
「中国人か?」
「多分な……あの時は朝鮮におられた。風のように世界中を回っていらしゃる…」
「お前、朝鮮戦争に行ったのか?」
「昔の話だ・・・・お前は昔の俺のようだ…。喧嘩に勝てば偉くなれると思って…可愛いい奴だよ。お前は......」
べろんべろんに酔ったジャッキーのすきを見て、打ちかかる和也。
判ってやったのか。寸前ふらりと立ち上がるジャッキーに和也のパンチは空を切った。
「こいつ!」
かっとのぼせて打ちかかる和也のパンチをあっちへふらりこっちへふらりの千鳥足に奇妙にかわしてしまうジャッキー。「ちきしょう!ちきしょう!ちきしょう!」
すっかり逆上してとびかかる和也を、軽くはらうと和也の体は宙に舞って床にたたきつけられる。
「あばよ若いの、お前はまだまだ強くなるよ……」
と和也の手に空のジョッキを投げてドアから消えた。
思わず受けとってしまった和也は、しばらくぼう然としていたが、やがて口惜しさが、 どっと押し寄せてジョッキをたたきつけて泣いた。
ここしばらく負けたことのなかった彼を赤子のようにあしらって去ったジャッキー。
酒場の人々は皆ぼう然として見ていた。札つき少年の和也が負けた!
キューバにカストロ政権確立、ソ連のフルシチョフ首相が訪米し、日本では伊勢湾台風、皇太子御成婚の年であった。
それからの和也は変わった。暴走族の頭となってあちこち荒らし回る日々は同じだったがその目的が違っていた。
ジャッキーはどこだ! ジャッキーをさがせ!
仲間はジャッキーを捕えて、仕返しをするものといきり立っていたが、和也はジャッキーからあの神技をならいたかったのだ。
世の中にはもっと強い人がいる! 思い上がりの鼻を折られた和也ではあったが、ただそれだけの少年ではなかった。不良グループのボスになっても暴走族のリーダーで荒らし回っても、世の中すべてに勝ったとは思えない和也だった。
ジャッキーはこれまた風のような、渡りの運転手だ。仕事があればどこへ行くか判らな い。今日は南部、明日は西部、米国国内はおろか北はカナダから、メキシコ、グアテマラとほ っつき歩く暴走族の広い行動範囲で情報を探ったが、ついにはジャッキーの行方は判らない。
15歳の春、母にも行方を告げず和也は一人バイクを駆って旅立ったのだ。 チビでやせっぽちだった和也は、たくましく15歳とは見えない成長をとげていた。 まずは米国国内を東西南北走り回り、金が無くなると皿洗いやトラック運転手をやって稼ぐ。ドライブインやトラック仲間に聞けばジャッキーの消息が知れる筈と走り回った一 年半。ついには南米チリーから北の涯アラスカにまで来ていた。和也16歳半、時はケネディ時代、キューバにソ連ミサイル基地が出来ようとしていた。 アラスカ鉄道の線路工夫をし、グレイシャークリークあたりで砂金の密掘をして、和也は乗り潰しKTMを新車に買いかえる資金を溜めていた。
そんなある日彼は搬送バイクの積み降ろしに精出す。Mr.スパッツに出会った。
その鮮やかなハンドルさばき!
本当に指1本でバイクを操る。バイクの特性を知りぬいたそのあざやかさに見とれてしまった和也は思わず声をかけた。
「いかしてるね!」
Mr.スパッツは返事する間も作業の手をゆるめない。
1台また1台と見事に貨車に積み込んで行く。
「商売だからね」
「走りもやるんだろ!」
アクセル音に思わず大声になる。
「ああやるよ」
「ビッグイベントは?」
「バハとI・S・D・E・・・・・ポーランド……君も走るのか?」
「いや、俺は「族」の方だから......」
「族もいいけどレースを走ってみなよ 」
「ちょっと休みなよ、俺がかわる」
白い歯を見せて汗を拭いたMI・スパッツにかわって、和也は久しぶりにアクセルの感覚を味わった。「やるねえ暴走族やらしとくには惜しい」
「おだてるない。照れるじゃないか」
照れ屋の和也は調子に乗ってバイクの曲乗りまでして見せる。
Mr.スパッツも乗りのいい男で和也に負けじと曲乗りをはじめる。
アラスカの夏は白夜の夏。 夜半の10時でも太陽は沈まない。まさにファンタジイの世界に和也はMr.スパッツから神技のマシンテクニックを学んだ。
「時速100マイルで逆ハン切ったらどうなる?」
「100マイルで!」
「勝ちゃいいってもんでもないんだよ。 人生ってのはな......」
にぶく光る太陽をみつめてMr.スパッツはつぶやいた。 突然はしゃぐのをやめた彼に和也はふとその胸の底をのぞいたような気がしてたたずんだ。
「100マイル…下り坂で目一杯吹かしたからなぁ・・・。 あの時俺があんな無理しなきゃ。 トムは死なずにすんだんだ」
「事故かい?」
いや戦場のことさ。オートバイ隊だった。トムとくだらん賭をした。オフロードには格好のアップダウンのコースだ。俺が転倒して、そのバイクに奴は突っ込んで吹っ飛んで、それきりだったよ。 事故ってのは君も知ってる通り先頭は助かるんだ。そのつもりで飛ぶからね」
「運がなかったんだよ、トムは」
「そうだよ。運がなかったんだ。俺が転倒しなきゃあいつもクリアしてたはずなんだ」
「無茶だよ、100マイルで逆ハンなんて・・・・・・」
「そうだよ無茶なんだ。でも俺は出来る」
「出来る!」
「ダートならな」
「!」
「そしてこいつなら」
と愛用のB・M・Wにまたがると砂を巻き上げて輪乗りをかける。
思い切りシートを下げて重心を落し、彼の長い足が十二分に地面を踏んばれる使い込んだマシンだ。まさに時速100マイルの猛速。 見渡す限りの大平原。 彼方から彼方へ砂を巻き上げて走るMr.スパッツは和也の眼前で一度ならず二度ならず三度までも、その妙技を見せてくれた。スピンを起こして流れるリアを足の踏んばりで押しつけるようにして引き起こすのだ。一瞬砂煙りに巻かれて見えなくなる中から彼は弾丸のように飛び出して行く。
和也には判った。彼が胸かきむしられる悲しみのなかで、この技を体得したことが・・・・・。
「トムっていい奴だったんだな…」
それから三年。和也はシベリア経由でモスクワ、キエフ、レニングラードとソ連からフィンランド、ノルウェイ、デンマーク、ドイツ、フランス、スペインを回って、アフリカ経由で中東からルーマニア、ブルガリア、イラン、パキスタン、インド、ビルマと謎の老師ジン・ルンを探してバイクツアーの足を東南アジアに向けていた。
もしかしたら、あの黒人運転手は老師の許に戻ったのかもしれない。あれだけ探しても 見当たらないのは......。
和也19歳の夏、目もくらむような太陽の下をインドのインパールからビルマに向かっていた。何万キロ走ったろうか。さすがの和也にも疲労の色は濃かった。
イラワジ川の支流チンドウィン川畔のカレワンという町で和也は数年ぶりにジャッキーの名を聞いた。何百回、何千回尋ねただろうか?
いつもむなしく 「No I DONT KNOW」
と返ってくる答えに慣れていた和也は耳をうたがった。
「知ってるよ、黒人のジャッキーだろう」 「そうだ昔は米国軍人で退役してトラック運転手をやってた」
「多分、その人だろう。今でもトラックで来る」
「拳法が強かった」
「やさしい人で一生懸命稼いではあちこちの寺の孤児たちに寄附してくれる」
「ここにはよく来るのか?」
「二月に一回か三月に一回かくらい来る」
「ジャッキーはどこに住んでいるのか?」
「マンダレーのほうから来るがあそこには住んでいないらしい」
「どうして?」
「マンダレーには知り合いが多いが彼等の話だと、どこかからあそこへ仕事に来るらしい」 風もなくじりじり焼けつく日ざしのなかを和也はバイクをとばした。
まだ判らない。しかし本当に数年ぶりの情報なのだ。
マンダレーに行けば何かつかめるにちがいない。
町を出た途たんにチンドウイン川がある。その橋を渡るとカーブの向こうから大型のトラックがせまい道杯に砂煙りを上げてやって来る。「チッ」と舌打ちして右の崖に乗り上げるようにしてやり過す和也。
通りすぎたトラックが何かを思い出したように止る。
窓から何かわめいている運転手。「!」
ジャッキーだ! あのジャッキーだ! 「カズヤ!」
運転席からとび降りて歩みよって来たのはまぎれもない。 探し求めていた。ジャッキーだった。
「ジャッキー!」
「!」 ジャッキーだ! あのジャッキーだ!「カズヤ!」
「ジャッキー!」
「カズヤ、 よく来た」
「覚えていてくれたのか?」
「見所のある子は忘れないよ。それにしてもよく、ここが判ったな」
世界中探した本当に世界中だ。南極と北極以外は全部探したよ」
バイクを荷台に積み込んで助手席に乗り込んだ和也は、ジャッキーの寄附回りにつきあいつつこの数年の苦労を語った。
「俺もよく走るが…お前はすごいな」
「バイクを二台乗りつぶしたよ」
「俺を見つけてどうするつもりだ」
「ジャッキー、教えてくれ。 あの拳法を教えてくれ!」
「不良少年が強くなって碌なことはないよ」
「ちがう、あの頃の俺とはちがう。拳法を学ぶことで、これから何をしたらよいか知りたいのだ」
「お前も世界中走る間に大人になったかな?」
「教えてくれ、たのむ」
「老師に聞けよ。無断で人に教えることは禁じられている」
ジン・ルン老師はメコン川の上流ケントンという町の近くの山に住んでいた。住んでい るといってもいつもそこにいるわけではない。本当に風のような人でいたかと思うともう どこかへ行っている。
弟子たちはそこで自給自足の生活をし、技を磨いて老師の声がかかるのを待っているのだ。 もっとも弟子といってもジャッキーとガイムというビルマ人の青年がいるだけで、もう一人はジン・ルンの孫娘のジンリーという美少女が炊事洗濯の世話をしている。
老師はなかなか帰って来なかった。
探し求めた数年が長かっただけに見つけた興奮は激しかったがそれだけに老師を待つ日日の長かったこと。しかし十日たち二十日たつうちにそのあせりもあきらめに近くなり、和也はジャッキーを助けて農作業に励むようになった。
「世界中探して、畑仕事をやりに来たようなもんだな」
冷かすジャッキーにも怒りを感じなくなった頃、事件がもち上がった。
米軍のベトナム侵攻がこの奥地まで雪崩こみ彼等の聖域を戦場と化してしまったのだ。
神出鬼没のベトコンにおびえるグリーンベレーは動くものと見れば銃砲弾をたたき込み 火炎放射器で焼きはらった。
ジャッキーも和也も米国人だ。事を分けて話をしようとしたが、ベトコン恐怖症のグリ ーンベレーは信じようとせず、彼等を捕えようとした。
彼等の任務はただ老師が戻って来た時その隠れ家が安全であることだ。和也に至っては 老師の教えを受けるまでは死んでも死に切れない。脱走をしてベトコンとの共闘!
そしてその死闘のなかで和也はグリーンベレーの戦闘法を身につけてしまった。戦闘マシーンと化したグリーンベレーのサバイバル戦闘法は和也にまた数段の力を与えてしまっ たのだ。
そしてその彼が不覚を取ったのはこの戦場の生死の境いで共に戦う美少女ジンリーに恋をしてしまったことだ。戦場に未練は禁物だ。勝つための行動、負けないための行動に恋などは一番の不純物なのだ。
しかし和也はそれをやってしまった。藪をかき分けて散開潜行する和也、ジャッキー、 ガイム、そしてジンリー。こういう時に葉ずれの音さえもさせぬ進み方を彼等は身につけていた。
だが! 突如目の前のブッシュからおどり出たのはグリーンベレーだ!彼等もまた、息を殺す潜行法を知っている!
一同は彼等の手にある火炎放射器の筒口を見た。
ガイムが叫んで飛び出した。
「俺だ! 俺だ! ガイムだ!」
裏切り! ジーンと脳裏を刺す怒りに和也は手にしたナイフをその背に投げた。
のけぞるガイム。
しまった!なぜ先頭のグリーンベレーに投げなかったのか!
一秒の何分の一の時間であった。
グリーンベレーの指が引き金をしぼる。逃げろ!
散開潜行の目的は敵の攻撃による被害を最少限に喰いとめることだ!
ジャッキーは左へ、和也は・・・・・・。
しかし、正面になってしまったジンリーをかばうために彼は後に飛んだ!
ゴホッ。地獄の火はジンリーにおおいかぶさった和也の背中をひとなめにする。 次の瞬間ジャッキーとベトコンの仲間たちが頭上からグリーンベレーたちにおそいかかった。
和也の心やりもむなしくジンリーは死んだ。わずかに一声。
「和也有難う」片言の英語でいって和也の手を握って死んだ。
そして和也も普通人なら、いかに老師の神薬を用いたとしても死んでいたろう。しかし彼は不屈の精神と肉体を持っていた。
回腹後老師自らの手ほどきを受けた和也は旅立つ老師とジャッキーに別れを告げ故郷オクラホマへ帰国の途についたが、その途上奇しくも、世界最大といわれるオートバイレース「パリ・ダカール・ラリー」にエントリーし、本郷猛、文字隼人、風見志郎と共に2日間のサハラ砂漠突破レースを戦ったのだ。
「おい! 滝和也じゃないか!」
パリのエッフェル塔下の最終エントリーで顔を合わせた本郷が叫んだ。
「え、滝?滝もでるのか?」
サポートの立花藤兵衛がジープの中から飛び出した。
一文字隼人もカメラをかかえてかけよる。
そして本郷の後輩風見志郎ものっそりと歩み寄る。
「本郷!一文字!オヤジさん!風見も!」
数年の旅で人恋いしさも百倍の滝和也はこのグループとの出会いには他人とは思えぬ懐かしさで抱きついた。
ラリーはベルサイユ宮殿前からスタート地中海をフェリーで渡ってアフリカ大陸のアル ジェリアに上陸、そこからサハラ砂漠に突入して行く全長14,000km22日間の死のレー スだ。バイクも四輪も砂地には弱いのだ。
すぐにスタックを起こして脱出出来なければそこで終わりだ。それがミスロードして起これば遭難にもつながる。
砂の固さを読んで砂には入らないようにしなければならない。
重心もなるべく後におき前輪を浮かし気味にしてやることが必要だ。
加速はゆっくり砂をかかないようにしてやることが必要で常に慎重に走らねばならないから一日とも走るとなればその疲労はもう口では表わせない。
10日目のテネレ砂丘の周囲あたりがヤマだ。悪路につぐ悪路軟砂と岩道の交錯に体中の疲労で目まいがしはじめる。
そして、12日目の夜はアガディスとガオの途中で野宿となる。
疲れ切った皆をはげまそうと陽気にはしゃぐ藤兵衛、しかし本郷も風見もさすがに声が出ない。滝も持ち前の笑顔は絶やさないがしかし冗談は出て来ない。
全くの闇空、地上からの明りはキャンピングストーブの火だけ。その明りも砂に吸い込 まれるのか、空には反射しない。
「都会ならどこかの明りが空に映ってるのになぁ」
風見志郎がポツンといった。
「町が恋しくなったのか?」 「熱い鍋焼ウドンなんていいですねェ」
思わず笑う和也。
「サハラ砂漠で鍋焼ウドンはないだろ」と藤兵衛。 「今日のところ43位だ」と和也
「まだやる気あるか?」と一文字。
「やるとも。出た以上は優勝だ」
「お前は勝つことしか考えてないな」と本郷 。
「そりゃそうさ。どこかのお坊ちゃまとはちがうんだ。勝たなきゃオマンマ喰えないもの」 と和也。
「そうですよ。人間勝たなきゃ負けだ。勝って行かなきゃ」と志郎。
「でも俺はこの頃考えるんだ」と本郷がボソボソ語る。
「勝つと負けるとしかないのかなぁッて」
「うーん。難しいこというけどいい考え方だよなぁ」と藤兵衛
「勝たなきゃならないことは判ってるんだけど、それだけでいいのかな?」と本郷。
「それだけ何か・・・・・・それはこれから探そうじゃないか」と一文字。
「そうだ探せばいい。俺たちはまだ若いんだ・・・・・・」と志郎。
「そうだ、まだ若いんだから……」と和也。
「こいつら若い若いって俺をのけものにしやがる。俺だって若いぞ」 爆笑する一同。
見上げる空に星がいっぱい。
そして翌日から砂嵐の中のラリーが続き一同無事でダカールに到着。
入賞は出来なかったが、和也はまた、一つ人生の光明をつかみ故国へ向かったが、彼を迎えたのはやさしい母ではなく、冷たいFBIだった。
反逆罪!あのベトナムでの闘いをどうして知ったのか!
彼は捕えられ取調べを受けたが、苛酷な訊問の末、突如長官室に呼び出された。 「君はFBIに入る気はないかね?」
「?」
「君の忠誠度調査は抜群だ。本来なら死刑だが殺すには惜しい。世界中を回った君の足跡も調査ずみだ。その経験を生かして頑張って見ないか」
たしかに曲者フーバー長官。
こうして滝は、FBI特命捜査官になり、米国ショッカーを追ううちに日本にショッカーの拠点があり、仮面ライダーという者がひとり戦っていると知って連絡を取ったのだ。
まさかその仮面ライダーが本郷猛とは知らなかったが、しかし運命の糸は固く二人を結んでいたのだ。