[小説]可哀想なチューリップ

チューリップが枯れていたので、わたしは、そのチューリップに言いました。

「枯れてしまって、可哀想。あなたは、可哀想なチューリップだね」

すると、チューリップは言いました。

「私は枯れているけれど、可哀想ではないですよ」

チューリップが強がっているので、わたしは慰めました。

「無理をしなくていいわ。本当は、枯れてしまってツラいんでしょう。チューリップさんの気持ち、わたしには、痛いほど分かるわ。あなたはとても傷ついているのに本心を隠し、気丈に振舞っている。わたしはそんなあなたを、とても気高く感じるわ。美しいと思うわ。

だから、決して卑屈にならないで。自分を惨めだと思わないで。
あなたは、とっても美しい」

「ありがとうございます。貴方は優しい人ですね。もちろん、私は惨めではありません。今の私が美しいとも思っていません。枯れている私は、枯れている私として、私は私のことを愛しているんです。私の心は、いつも満たされています」

「可哀想に、チューリップさん。そんなに強がって。そう言って、自分の弱い部分を守っているのね」

「心配して下さって、ありがとうございます。私は大丈夫です」

「ツラい時は、泣いたって、いいんだよ」

「わたしは強がっていないんですよ。これは素直な気持ちです」

「世界中の人が、あなたのことを枯れて惨めなチューリップだと乏めても、わたしはあなたの味方です。誰もが、枯れて惨めなチューリップだと乏めても、わたはあなたの味方でいるわ。安心してね。」

「安心してください。わたしの回りに、わたしのことを悪く言う人はいません」

「みんな言わないだけで心の中じゃ、あなたの事を、枯れたチューリップだって
思っているはずだわ。」

「わたしは、枯れているチューリップなので、それは事実だと思います。」

「チューリップさん、あなたは何もわかっていないのね。あなたのことを思って言うけどね、世の中、枯れていることを笑う人は大勢いるのよ。枯れるいるなんて、恥ずかしいって、見下す人は、大勢いるのよ。」

「そうですね。そう思う人も、いるでしょう。しかし、私は、枯れていることを
恥ずかしいと思っていません。それは、それで、いいと思います。」

「あなたって人の話が聞けないのね。そんなんじゃ、友達を無くしちゃうかもしれないわ」

「あなたはあなたの考えを述べました。私は私の考えを述べました。それだけの話です。」

「今は、わたしの考えを述べたんじゃなくて、一般論の話をしているのよ、チューリップさん。私は、そんな窮屈な一般論から、あなたを守りたいのよ」

「…あなたの好意は有難いのですが、私はあなたに守られなくても平気です」

「そんな悲しいことを、言わないで。誰もが、孤独では生きられないはずよ」

「私は孤独ではありません。」

「いいえ、あなたは孤独だわ。人の好意を受け取れないのは悲しいことだわ。あなたは、自分の悲しさに気がつけない可哀想なチューリップよ。」

「…残念ですが、あなたとお話しすることは、もうありません。」

枯れたチューリップはソッポを向き、それ以上喋ることはありませんでした。

ああ、どうしましょう。このチューリップは、自分の心の弱さを認めることが出来ずに心を閉ざしてしまった。

そして、他人の親切な気持ちを邪険に扱う、貧しい心の持ち主なのだ。可哀想なチューリップ。枯れてしまって見た目が汚いだけでなく、心もこんなに荒んでいるなんて。
このままじゃ、このチューリップは幸せになれっこない。ああ、可哀想なチューリップ。

わたしが何とかしてあげなきゃ。
可哀想。可哀想なチューリップ。

私があなたを救ってみせる。

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