[小説]坂の上の白い蛇

学校を出て、歩道橋を越え、降りたとこから三つ目の角を曲がり、そのまま歩いた半ばあたりの左てに、小さな脇道がある。その脇道は大通りから外れているものの、近道になっており利用する人は多い。

「でもナベちゃん。気をつけなくちゃね。あの道は、たまに坂道になるんだ」

とマッキーが言ったので、ナベちゃんは返事をした。

「まさか、マッキー。あそこは平らな道さ。」

「本当だよナベちゃん。」

「どういうこと?」

「そのまんまだよ。いつもは平らな道だけれども、たまに坂道になるの。急な坂道。」

「ふーん…」

「本当だよナベちゃん」

「うん」

「坂の頂上は果てし無く長く遠く、てっぺんは見えないの」

「あの道、そんなに長くないだろ。すぐ住宅街に出る」

「そう。だけど坂道になってる時はどこに続いてるか分からない。もちろん道も長くなってるの。そして、頂上には、巨大な白い蛇がいるんだよ」

「マッキー…今なんの話をしているんだっけ?オカルト?」

「実話」

「そう…」

「たまにしか行けないんだ。蛇に会える坂道には。普段は、普通の、平らな道」

「そう」

「でも蛇に出会っちゃダメなんだ。すごい速さで追いかけてくるの。とてもじゃないけど、逃げ切れない。逃げ切れないまま、坂道は、いつもの平らな道に戻ってしまうから、そうなったらその坂道の世界に閉じ込められてしまうんだ」

「この辺で行方不明者が出たなんて聞かないけどなあ。」

「怖いねぇ」

「坂道を登るメリットが何一つもない話だったな。マッキー、20点。」

「作り話じゃないんだよ!」

「ハハハ」

「それでね、ナベちゃん。今日一緒にそこに行ってみようよ」

「え、ヤダよ」

「頼むよお」

「何もないから!絶対何もないから!何も面白くねーよ」

「今日は、坂道になっている気がするんだ」

「直観?」

「直観!」

「…行かない」

「ナベちゃ~ん。」

それからマッキーはしつこく食い下がってきたけど、ナベちゃんが「それよりオレんちでゲームしようぜ」って言ったらそれに賛同してくれたので放課後、ナベちゃんは自分の部屋でマッキーが来るのを待っていた。

でも、

いくら待ってもその日マッキーは来なかった。連絡はつかない。既読すらつかない。

マッキーどうしたのかな?

次の日、学校に着いたらマッキーはまだ来ていなかったのでナベちゃんは隣の席の岩山くんに声をかけた。

「昨日、マッキーと遊ぶ約束をしていたのにすっぽかされたんだ」

「お、ナメられてるねぇ」

「そんなんじゃねーよ。今日もまだ来ていないし、心配だなぁマッキー」

「風邪でも引いたんじゃね?」

「…早く来ないかなぁ」


結局、マッキーが来ないままホームルームが始まり、そのまま一時間目が終了し、休憩時間になった。ナベちゃんはまた、岩山くんに声をかけた。

「マッキーが来ない。休みかな?」

「先生は何も言ってはなかったけどな」

「どうしたんだろうか?」

「いまさらだけど、」

「うん?」

「マッキーって誰?」

「え?」

「巻田のことか?アイツは来てるよ?」

「ん?ああ。なんだよ。わからないのに聞いてたのか?山本のことだよ。マサキっていうんだアイツ。マサキのマッキー」

「山本マサキ、ね。やっぱ、俺しらねーナ」
やっぱ、俺しらねーナ」

「なんだよ、オレとよく喋ってるヤツだよ」

「…いや、俺、あんまり仲良くねーヤツの名前、覚えてねーんだよ」

「このクラスになって3ヶ月は経つのに。薄情なやつだなぁ」

「記憶力ねーからなオレ。まだクラスの半分くらい顔と名前が一致しない。まだクラスの半分くらい顔と名前が一致しない」

「そうか…頑張れよ」


2時間目が始まり、退屈な授業にナベちゃんはボケーとしていた。マッキーどうしたのかなあ、とまたボンヤリと考えた。マッキーの席の方に目をやる。そして、あることに気がついた。

マッキーの席がない。

え!?

なんで…?

マッキーの席がないということは解るのに、マッキーの席がどこだったか思い出せない。あのあたりだったはず、そう漠然とはわかるのに、具体的な席は思い出せない。他の生徒も、みんな、始めからその席だったように思える。空いている席はない。マッキーの席はない。しかし、なぜか、そこに不自然を感じなかった。

「先生!今日マッキーは…、山本マサキくんはお休みですか?」

休み時間、ナベちゃんはわざわざ職員室まで行って担任に聞きた。

だって、クラスの誰に聞いたって「山本マサキという人は知らない」って答えるんだ。そんなはずない。そんなはずないのに。


「山本マサキ…。何組の人ですか?先生は2,4,5組しかみていないので他のクラスの人は詳しくないですよ。」

「いや…。2組、うちのクラスです。先生」

「うちのクラス?…私のクラスに、山本くんって子はいないですよ。」

「そんなっ、先生!だって…。山本ですよ?」

「そうですねぇ。第一、今日、2組に欠席者は出ていません。」

「そんな」

「…まだ、クラス替えがあってから3か月ですからね。キミもいろいろ迷うことがあるでしょう。先生の方からも、他の先生に聞いて、今日、山本くんという生徒がお休みしているか調べてみますから。」

「あ…いいです。僕の勘違いでした。もう解決しました!すみません。大丈夫です!!」

心配そうな先生を尻目に、ナベちゃんは職員室を逃げるように出て行った。

もし、きちんと調べた結果、マッキーは、山本マサキは存在していませんでした。と伝えられたら…。怖かったから。

それからマッキーが学校に来ないまま1週間が過ぎた。誰も何もマッキーがいないことに関心がないようだった。

俺はなぜか、マッキーの家の場所を思い出せなくなっていた。あまり行ったことがなかったから、仕方ないことさ!

なぜか携帯の連絡帳からマッキーの名前を探し出せなくなっていた。俺は登録数多いからな!きっとテキトーな名前で登録してて分からなくなってしまったんだ。

きっとそうだ。きっと。

でも、
ナベちゃんは一つの可能性を思いついていた。

「岩山くん、…たまに坂道になる裏道の話を知っているか?」

「いや知らない。なに?怖い話?」

「うーん、そんなようなもの」

「それで?」

「歩道橋を降りた通りに小道があって、そこは普通の平らな砂利道なんだけど、たまに坂道になっている時があるんだ。」

「へえー」

「その坂を登ると白い大きな蛇がいて、襲われると異世界に閉じ込められて戻って来れなくなる。って話」

「ナベちゃん怖い話するの、下手くそだな」

「マッキーはそこに行ったんだ」

「え、何?聞こえなかった」

「今日そこに行ってみようと思う」

「え? おう…」

「1人じゃ心細い。岩山くんも一緒に来て欲しい」

「え、やだよ」

「あ、そう、だよな。ゴメン。…俺、一人で行くよ」

「マジか」

(そうだ、あの時と同じだ。俺が一緒に行くのを断ったからマッキーは1人で行ったんだ。それで…。

マッキー、待ってろ。今行くからな)

岩山くんはまだ何か喋っていたが、ナベちゃんはすっかり聞いていなかった。



次の日、学校に来た岩山くんは、近くにいた伸二くんに声をかけた。

「今日、ナベちゃん来てないなあ。」

「ナベちゃん?誰のこと?」

「渡辺のことだよ。ほら、この列の一番後ろの席の……あれ?」

「このクラスに渡辺っていたっけ?」

「え?…ああオレ、本当に記憶力が悪いんだよなあ。このクラスのヤツだと思ってたのに、オレの勘違いなのか、姿を見かけなくなるヤツがいる。かと思えば、
こんなヤツ、クラスにいたっけ?と新しいヤツが増えているように錯覚する」

「フフ、クラス替えしたばかりだから、混乱しているんだね」

「そうだなぁ。あれ?なんだ?何か光るものが、落ちている。白い…これは、ウロコ、かな?

なんでこんなものが、教室に落ちているんだろう」

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