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次世代の働き方は「より良く生きる」からデザインされる。コクヨ山下氏と捉え直すオフィスの価値【Meeteligence セミナーレポート】

世界のオフィスは、COVID-19で進化した。日本でもオフィスの役割や価値は見直され、「ワークエクスペリエンス」の高め方が注目される。

「“はたらく”に歓びを」をビジョンに掲げるリコーも、その向上を目的に、実践型研究所「RICOH 3L」の開設や、創造的な会議空間「RICOH PRISM」の開発なども試みてきた。

次世代の「オフィス」や「働き方」は、どのようにデザインされていくのだろうか?

そうした問いから始動したプロジェクト「Meeteligence」。さまざまな有識者と対話し、COVID-19以降の「会う」が創造性や知性に与える影響を探る。

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第1弾はコクヨ株式会社のワークスタイル研究所所長で、海外の先端的な働き方や環境を発信する『WORKSIGHT』編集長の山下正太郎氏をゲストに迎えた。

リコーからはRICOH PRISM開発担当の村田晴紀と、3Lプロジェクトリーダーの稲田旬が参加。企画したオンラインセミナーから、その議論をレポートする。

創造性を刺激し、特別感を演出。創る人に寄り添った会議室

村田が手掛けるRICOH PRISMは、ビジネスパーソンの働く様式が変わった今、個々人の「人間性」や「創造性」の発揮こそが「“はたらく”に歓びを」のビジョンを前進させるという思いを具現化している。その思いやRICOH PRISMについては以前のインタビューに詳しい。

https://note.com/ricohprism/n/n8396b456f7c7

室内に6台の大型プロジェクターを据えたRICOH PRISMでは、音や香りを含めた空間演出で感覚を刺激し、チームの創造的な「気持ち」を高める。

村田「RICOH PRISMは創る人にとことん寄り添う会議室にしたい。空間がファシリテーションを担うことで、アイデアを出すことだけに集中できたり、光や音の演出がユニークな発想につながったり、集中できる環境を生み出せたり。利用者が求める気持ちをセンシングし、演出としてフィードバックする。その繰り返しで“感情”を熟知し、より良いサービスに練磨し続けます」

実際にRICOH PRISMを体験した山下氏は「1時間があっという間に感じた」と振り返る。

山下氏「在宅勤務が普及するなか、働く環境では“特別感”がキーワードになってきた。オフィスだから得られる体験や情報が働き手を刺激してきた側面を、RICOH PRISMはさらに向上させることで、次世代の働き手をサポートしてくれそうです」

オフィスの役割を「チームの熱量」から捉え直す

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これまでに30か国・1,000カ所以上のオフィスを見てきた山下氏は、COVID-19以降の現況をどう捉えているのか。「2010年代を生きる私たちは、第4世代の働き方にいる」と山下氏は言う。

山下氏「工場での情報処理が主流だった1900年代の第1世代、好景気からオフィス投資が増え、環境の良さで働く人を呼び込んだ第2世代、インターネット技術の発達からオフィス外でも働けるようになり、ワークライフバランスが重視され始めた第3世代。この時代に拮抗した第4世代は、ワークとライフをむしろミックスしていく流れにあります」

この第4世代も、ここ10年で大きく二つの方向に分かれている。

一つ目が、オーストラリアやオランダが先進国とされる、自由に場所を選べる「フレキシブル」な働き方。二つ目は、アメリカ西海岸のテック企業に代表される「イノベーション」重視の働き方。後者はなるべく長い時間、同じ場所を共有してコミュニケーション量を増やし、新しいアイデアを生み出そうとする考えだ。

この二つの働き方は、国や組織の文化によって得意不得意が分かれるという。

山下氏「国や組織の文化を、空気を読まなくてもいい『ローコンテクストな社会』と、空気を読む『ハイコンテクストな社会』に分類したとします。前者は『フレキシブルな働き方』が、後者は『イノベーションな働き方』が得意です。日本はハイコンテクストな社会に属するので、一つの場所に長く留まるイノベーションな働きが性に合っている。一方で、お互いの状況が気になってしまうため、分散型のフレキシブルな働き方は苦手な一面があります」

在宅勤務を強いられ、影響を受けたのはイノベーションな働き方だ。アメリカ西海岸のテック企業では、リモートワークとオフィス勤務を組み合わせた働き方にシフトしつつある。同時に一人ひとりの役割がより明確になり、仕事に必要な人材を割り当てる「ジョブ型」雇用も進むことで、「ローコンテクストな社会」に寄った仕事が増えると山下氏は予想する。

山下氏「周囲の状況を気にし過ぎずに働ける機会が増えれば、オフィスで行うのはハイコンテクストな仕事に限られるかもしれません。頻度も週1や月1ほどになるでしょう。そこで課題になるのは、新規事業の立ち上げといったチームの熱量が必要になる場面。熱狂的な場や雰囲気をどう生み出すか、です」

“生活者”目線で次世代の働き方をデザインする

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山下氏が課題視するように、オフィスに行かなくなることで生じる弊害が、イベント後半のパネルディスカッションでは語られた。提示されたテーマは「オフィスに行かないことで失われたもの」だった。

山下氏「会議前後の雑談や、廊下で会って話し込むなど、“名前のないコミュニケーション”が極端に減りました。目的はなくとも、価値や本音を共有する上で有効でしたし、特に社歴の浅い人には貴重な機会だったのかなと。リモート会議は常に目的が明確な分、そうしたコミュニケーションが発生しづらいですよね」

村田「チームメンバーと『今はこんなことをやってるんですよ』『面白そうじゃん!』と盛り上がるような瞬間はめっきり減りました。その影響か、お互いの成果を発表するハードルも上がったように感じます」

稲田「会社単位でコミュニケーションが失われたように、個人単位でも仕事のオンとオフを切り替える方法が失われたなと思いますね。私は通勤がマインドセットを整える良い時間でしたが、別の方法を探す必要が出てきました」

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次世代のオフィス設計に、山下氏は5つの機能の頭文字をとった「BASIC」が必要に応じて取捨選択されるだろうと整理した。「Booster(生産性を高める)」、「Authenticity(精神的な繋がり)」、「Speciality(専門性)」、「Interaction(交流)」、「Confidentiality(機密性)」である。

山下氏「品川のコクヨオフィスでは、フロアごとに必要な機能を実験的に分けています。『企てる』フロアではメンバーと真剣な話をする場所が、『試す』フロアではさまざまなサンプルを使ったり見たりしてディスカッションする場所が用意されている。これまでは改変の手間から特定機能に偏ることは避けられる傾向にありました。ですが、今後はオフィスに行く理由をつくるために機能を限定していく流れが出てきている」

利用する目的が明確化されれば、それに見合った場を準備する重要性も高まる。村田は、企業側がそこにコストを割くか否かが事業競争力にも関わってくると指摘する。

村田「コクヨさんのオフィスには『遊ぶ』フロアもありますよね。オフィスの利用には一定のコストがかかる分、企業側は無駄をはらむものには投資しづらい面もあると思います。でも、社員のパフォーマンスを上げ、目的の達成を促す空間がどのようなものかを理解して提供することが、競争力を上げることにもつながるはずです」

稲田は「目的達成の最大化」に加え、「期待値を超える仕掛け」にも目を付ける。

稲田「使い手に『まさかこんな経験ができるとは』と思ってもらえるよう、オフィスにサプライズを仕掛けることは、3Lの設計時にもチャレンジしました。オシャレなしつらえだけ作っても、工夫がなければ知らない人との会話は自然に生まれない。空間の美しさに加え、利用者が期待する以上のコンテンツが可変的に用意されていることも重要だと考えます」

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働くことと、生きることの境界がどんどん曖昧になる今、働き方のデザインは「生きることのデザイン」と同義なのかもしれない。オフィスの設計も含め、そのデザインには生活者としての視点も重要になってくるのではと、山下氏は予見する。

山下氏「自宅で働く孤独感を払拭するため、生活者の視点から、みんなが楽しく働き集える場所を作ろうという動きがあります。シドニーのパラマウント・ハウスはその一例です。施設内にはコワーキングスペースに加え、カフェや映画館、スポーツクラブもある。個々人がよりよく生きるためにどういう場所が必要なのかを考えることが、新しい働き方をデザインする糸口になりそうですよね」

パネルディスカッションの最後には、その点から企業同士の協業の可能性についても語られ、濃密な議論が繰り広げられたパネルディスカッションは幕を閉じた。

村田「一企業が働き手の生活をデザインできる幅は限られています。だからこそ、リコーやコクヨさんも、これまで関わりのなかったような企業とコラボする面白さがあるはず。生活者の目線から働くモチベーションを考えれば、RICOH PRISMもエンターテイメント性を強化する必要があります。ソフトの開発でゲーム企業と協業する可能性もありえますよね。そうした先で、仕事上では相反しそうな『楽しさ』と『成果』を両立させていきたいです」

世界が同時に「働き方」の正解を見失い、無数にある選択肢から各々の最適解を見つけ出すため、トライアンドエラーを繰り返している。リコーは「“はたらく”に歓びを」に向き合って事業を展開する立場として、RICOH PRISMをはじめ、生活者でもある働き手がわくわくするような「選択肢」を増やすことが命題になるのかもしれない。

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イベントレポートお読みいただきありがとうございます。RICOHの取り組みや3L、RICOH PRISMにご興味をお持ちの方はこちらよりお気軽にお問い合わせください。

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モデレーター /久川桃子、文/なかがわあすか、編集/長谷川賢人、写真/北山宏一 、企画/NewsPicks NextCulture Studio

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