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これからの証券会社の稼ぎ方

国の圧倒的な後押しにより、急速に投資家人口が拡大している日本。
その受け皿となる証券会社、特にネット証券においては顧客の獲得競争は凄まじく、決算もおおむね絶好調といった調子だ。
しかし、必ずしも中長期的な見通しは明るくない。
その要因と今後の証券会社の目指す稼ぎ方を考察したい。

総合証券2.0

NISAやiDeCoなどの国策もあり、各社口座開設数や預かり資産を一気に拡大しているネット証券。
楽天証券とSBI証券が筆頭だが、そのサービスの類似性をついて松井証券やマネックス証券なども「個性」を生かして一定の顧客層の獲得と拡大を続けている。
これまで野村證券や大和証券が「総合証券」と呼ばれていたが、楽天グループの楽天証券や三井住友とのアライアンスを強めるSBI証券など、グループ内でのメリットを打ち出し、新しい意味で「総合証券」化しているといえる。
かたや外国株やツールに特化するマネックスや、株式に特化し特に若年層向けのサービスを拡充する松井証券が「専業証券2.0」と呼べるかもしれない。
いずれにしても従来の「総合証券」が法人や富裕層向けの対面サービスを堅持する中、マジョリティとしてはネット証券が選択肢の前提となり、その中で先述の構図が出来ているといえよう。
いずれにしてもネット証券は各社口座数や預かり資産といった分母の数では差こそあれど好調だ。

ネット証券の収益構成

口座数が増えているのは良いことだが、当然顧客数に比例して管理コストがかかってくる。
ではネット証券はどのように稼いでいるのだろうか?
楽天証券の決算を参考に、超概算でみるとネット証券の収益構成は次のイメージだ。
国内株式売買手数料:15%
その他株式(デリバティブなど)手数料:15%
信用取引手数料・金利:30%
FX手数料:15%
投資信託(信託報酬):15%
その他:10%

もちろん会社によって強みが違うので、差はあるもののおそらく一般的なイメージと乖離しているのは次の部分ではないだろうか。
・株式の売買手数料が中心と思いきや、その依存度は低い
・投資信託からの収入も同様に依存度が低い
・デリバティブや信用、FXといった「上級者」の手数料が半数以上を稼ぐ
そう、現在ネット証券というのは「レバレッジ取引を行う上級トレーダーに食わせてもらっている」状態なのだ。

「手数料無料化」の脅威は?

コストリーダーである楽天とSBIの手数料競争により株式の売買手数料が無料化へと順調に進んでいる中、収益構成を見ていただいてわかるようにネット証券はすでに株式売買手数料への依存度を下げている。
つまり手数料無料化は、ネット証券にとって大きな収益源を失うことに変わりはないが「それほどの痛手ではない」程度に各社アジャストしている。(松井証券など株式への依存度が大きい会社にとっては相当な脅威であるが・・)
その中で収益源である「大口」「レバレッジ」のアクティブトレーダーを死に物狂いで囲っているというのが実際に繰り広げられている戦争の構図である。

ネット証券の稼ぎ方の変化

ネット証券の稼ぎ方の現状が見えてきたところで、これまでの稼ぎ方からの変遷と今ネット証券が見据えている今後の稼ぎ方の道筋を時系列でサクッとみていこう。

証券会社1.0

2000年以降のネット証券台頭ごもしばらくは旧来の証券会社よろしく「株式の売買手数料で稼ぐ」が証券会社の王道の稼ぎ方であった。
投資信託のラインナップやコストも今ほど魅力がなかったし、国としても大きな後押しがなかったため、あくまでも投資は「金持ちの道楽」「ギャンブル」「マニアの趣味」として株式売買がニッチな世界で行われているイメージであった。
※当然、野村や大和などで富裕層が行う「資産運用」とは一線を画すものであるのは今も変わらない。
ネット証券は会社によって特に大きな特徴も強みもなく「なんとなく安いからネット」で選んだ会社でPCを使って行われるトレードで発生する売買手数料で稼いでいた。

証券会社2.0

2010年を超えるとネット証券界はSBI証券が覇権を取り始めるとともにNISAといった制度の追い風もあり、投資が一般化し競争が激化しはじめる。
より大衆向けの「投資信託」という商品のラインナップが急速に増え始め、手数料も「ノーロード(買付時の手数料が無料)」が当たり前になり、株式の売買手数料も当然下がり始める。
下がり続ける手数料のアリジゴクから脱却するため証券会社は「脱国内株式売買手数料」を目指し、(ちょうどブームになっていた)外国株式や信用取引の取引ハードルを下げ、投資信託の買い付けを促すためのキャンペーンや「グループとのアライアンス」強化を行い、収益の分散化を図った。
それが功を奏し先述のような一定の「分散化」に至っているのが今である。

証券会社3.0

ではしばらく安泰かというと全くそうではない。
2023年現在、確実に手数料無料化の足音は大きくなっているし外資の参入も見られる。
何よりも「レバレッジトレーダーに頼り切った収益構造」であることは変わっておらず、これはひとりの大口トレーダーの離反やマーケットの変化によって一気に崩れかねない構造である。
とはいっても資金力のない顧客にいかに投信積み立てを訴求しても足元の収益貢献は知れているし、そもそも投資信託の信託報酬自体も今の水準が続くとは限らないしアッパーが知れている。
(仮に楽天証券が約1兆円の今の預かりをすべて投資信託に変えたとして、年間でそこから受け取れる収益は数十億円程度だ)
ここで(従来の総合証券含めて)各社が唱え始めたのが「成果報酬」型のフィーモデルだ。
実はネット証券も、対面型のコンサルティングサービスを「IFA」という形で提供しており、アドバイザーをIFA業者に委託する形で富裕層向けには対面型の提案を行っている。
従来はこのコンサルティングサービスも取引が発生した際の「売買手数料」で成り立っていたのだが、これを成果報酬つまり「儲かった分」や「預かり資産に応じた料率」でフィーをいただくというモデルへの転換を図っている。ちなみに米国では一般的なモデルであり、アメリカ人からすると「何をいまさら」と言いたくなるほど非イノベーティブなビジネスモデルである。
いずれにしてもこのIFAによる収益の安定化を目指しネット証券はIFA事業者との連携や契約形態の見直しを急いでいる。
ネットも「3.0」までくると逆に対面に戻るという、なんとも興味深い変遷といえるだろう。

【提案】これからの証券会社の稼ぎ方

「稼ぎ方3.0」で紹介した成功報酬型のモデルが今度どの程度の収益源に成長するか、私には懐疑的である。
少なくともコンサルティングに対して成果報酬を支払うという日本では浸透していないビジネスモデルが「当たり前」に根付くには時間のかかる戦略だろう。
そこで、私からはこれからの証券会社の稼ぎ方として提案をしたい。
それは、新規事業だ。
そう、経営として常に考えているであろう超当たり前の提案だ。
しかし意外にも、この新規事業(本来の証券ビジネスとは別の事業)を本業レベルに育てている証券会社は意外とない。
しかし他企業が喉から手が出るほど欲しい「顧客リスト(金融資産付き)」と「接点(チャネル)」を備えている業態も珍しいだろう。
今や証券会社は一社で数百万~1千万の口座数を持っているのだ。
これを生かさない手はない。
今のビジネスとのシナジーを考えてもアイデアは次から次に出てくる。

・いつも営業している富裕層に株ではなく高級車や貴金属を販売する(あるいは買取する)
・ビジネスオーナーからのスモールM&A案件を買い手とマッチングする
・自己売買で暗号資産の裁定取引を行う
・預かり資産を担保にローンを行う
・金融資産や職業でターゲティングをした広告事業を行う

すでに一部の証券会社で実施されているようなものもあるが、それを大々的に本業に育てるほどの投資が行われていないのが実情といったところだと思う。
本業に育てるほどの投資に至らないのは、非常にシンプルだと私は思う。それは「証券会社に新規事業の風土がない」からである。
数十年にわたり証券ビジネス一本で生きてきた証券会社からすると、新規事業というのはやり方がわからないうえに「そんなことしていいのかな?」感まである。
この時代、自分たちだけでやる必要は当然まったくないのである程度の予算を持った新規事業開発の部署を持ったりリクルートの「Ring」のような仕組みを準備してみると意外と新しい「稼ぎ口」は出てくると思う。

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