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三指数フィッティング

今日のテーマ

今日やったことは
小川桂一郎・小島憲道編『現代物性化学の基礎 化学結合論によるアプローチ (第3版)』(講談社)
 1.4.6 電子スピン
 コラム Pauliの排他律の起源
井本稔著『分子軌道法を使うために』(化学同人)
 1-1 分子軌道とはどういうものか
論文 M. Ullah, S. D. Yambem, E. G. Moore, E. B. Namdas, and A. K. Pandey "Singlet Fission and Triplet Exciton Dynamics in Rubrene/Fullerene Heterojunctions: Implications for Electroluminescence." Adv. Electron. Mater. 1, 1500229 (2015).
を読むこと。

電子スピン

 電子の角運動量(スピン)はいまの私の研究には欠かせない概念である。私の分野である有機材料を励起させるとか失活するとかは一重項励起状態や三重項励起状態などを考える必要があってこれはスピンが関係づけている。
 スピンは言うまでもなく電子の量子状態を規定する「量子数」の1つである。歴史的にいえばはじめスピン量子数はこの中になかった。量子数は原子核の周りを廻る電子の位置や方向などを決定づけるパラメータで、たとえば位置をあらわす主量子数は原子核から半径をとったもので、高校化学の範囲ではK殻、L殻、M殻、…で示していたものである。電子の状態を記述するSchrödinger方程式の解は動径部分と角度部分にわかれていて、ここから位置や方位がわりだせる。主量子数、方位量子数、磁気量子数はこのときに活躍する。
 電子のエネルギー準位はこの3つの量子数で決定づけられた。しかしZeeman効果の矛盾が残った。Zeeman効果は19世紀末にZeemanが発見したもので、縮退した磁場中のNaのD線スペクトル(励起-基底の遷移を示すもの)が分裂する効果のことである。つまるところこの効果の発見によって電子の新たな量子数が見出された。これがスピン量子数である。
 1925年といえば量子力学が成立した年であるが、この年にUhlenbeckとGoudsmitによってスピンの概念が導入された。電子の公転()と電子の自転の向き、すなわち右回り(+s)か左回り(-s)か、という自由度を与え、2つに分裂したD線をこの全角運動量J = ℓ ± sに対応させたのである。この2年後Diracによってこれは数学的に証明された。角運動量sはどうやら半整数をもつものらしいが、このへんはイマイチわかっていない。

コラム Pauliの排他律の起源

 私は「Pauliの排他原理」の言葉そのものが好きだ。名前がかっこいいうえにその内容も美しい自然の理を思わせる。

原子中の電子は、4個の量子数(主量子数、方位量子数、磁気量子数、スピン量子数)により規定される1つの状態に1個しか存在できない。すなわち、3個の量子数(主量子数、方位量子数、磁気量子数)で規定される1つの軌道には最大2個(αスピンとβスピンの電子対)の電子が入る。

小川桂一郎・小島憲道編『現代物性化学の基礎 化学結合論によるアプローチ (第3版)』(講談社)
37頁

多電子系の大量の電子を想定しているのにその電子のどの1つも同じ状態をとらないなんて!Pauliはなぜこんな突飛に思えるアイデアを打ち出せたのか?それに誰がこれに賛同したのだろうか。だって原子中の電子のすべてを追いかけることなんて不可能じゃないか。そうやって学部のときから不思議に思っていたが、そのヒントはこのコラムにあった。
 それは2つの粒子の波動関数を線形結合した数式の結果であった。前回Fermi-Dirac統計分布の特徴に「粒子を区別しない」という内容があったが、このように量子論の世界では同種粒子を区別しない。それはおそらくHeisenbergの不確定性原理につながっているような話だと思うが、とにかく、この2つの同種粒子を考えて、この2つを2回交換するとき元に戻るので
Φ(r1,r2) = ±Φ(r2,r1) ・・・①
と書けるらしいのである。実は肝心なここがわかっていないのであるが、この符号が変わる粒子をFermi粒子といい、変わらない粒子をBose粒子という。電子はFermi粒子であり電子2つについての波動関数が①を用いて求められる。この式に同じ方向を向いたスピンの2つの電子を代入すれば0となってこのような状態は存在しないという結果になるのである。
 これがPauliの排他原理の起源である。おそらく本当はもっともっと複雑であるが、これだけでも結構納得のいくものだ。

分子軌道とはどういうものか

 井本稔先生といえば『有機電子論』のような学術書から『化学繊維』のような啓蒙書も有名で、いずれも読んだことがないけれど、ビッグネームであることぐらいは知っている。分子軌道法に関する本を図書室で見つけたので早速借りた。読むと初学者にあわせた歩幅で井本先生は絶対に優しいだろうとすぐにわかる。
 さて分子軌道法を学ぶ理由はπ共役系の有機分子を研究で扱っているからである。そのため、Hücke法、フロンティア分子軌道理論(HOMO、LUMO)などの概念をしっかり理解しておく必要がある。せっかくなのでWoodward-Hoffmann則までやろう。なぜ学部生のときにやらなかったのかさっぱりわからない。まあ、しょうがない。
 今日はメタンの分子軌道について考えた。固体内の電子を見るのに重要なのはやはり外側の電子である。たしかに全電子を考える方が望ましいが、炭素の1s軌道についてはHeの構造をとって安定しているので無視できる。したがって炭素の4つの電子と水素の4つの電子を考えた。メタンの場合、炭素はsp3混成軌道をとるために2s、2px、2py、2pzを考えた。波動関数はこの4つの軌道と水素の4つの1s軌道を線形結合で結ぶ。線形結合で結ぶため、このような分子軌道を「LCAO(Linear Combination of Atomic Orbitals)による分子軌道法」という。
 あとは計算するだけである。確率の合計は1である全空間の積分とともにそれぞれの波動関数を明らかにしていく。これによって「重なり積分」というものが登場する。これによって原子間に存在する電子の割合が導出できる。おそらくHOMO、LUMOが描図できる計算手法はこのような重なり積分がヒントになっているに違いない。今回行った線形結合で結ぶ計算はどうも拡張Hückel法というらしい。Hückel法をよく知らないので当然ピンと来ていないのだが、まあ、そういうことらしい。

論文

例のごとく気になったキーワードだけ述べておくと
・時間相関単光子計数(TCSPC)を使用した三指数フィッティング
・超高速トランジェント吸収
このへんは学部のときに少し触った覚えがある。要復習であることに変わりはないけどね。

おわり

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