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【音楽遍歴】2004年に行ったライブ②


はじめに

2003年はMagic Rock Out、Fuji Rock Festival、Summer Sonicを全日見に行くなどライブ三昧だったのですが、一転して2004年はどのフェスにも行かず、単独公演に行った数も8本とそれまでと比べると比較的少ないものでした。

今回はそんな中から、クアトロ最高人口密度最高記録The Polyphonic Spree、グルーヴィな期待の大型ニューカマーKasabian、古くて新しい音を出す歳食ったニューカマーFranz Ferdinand、泣きのキラキラポップチューンを連発するニューカマーKeaneという、いずれも初めての単独来日公演となったキャリア浅めのバンドの4本のライブに関する出来事について書きたいと思います。

ライブ情報

  1. Belle & Sebastian(2004年1月25日@Zepp Osaka)

  2. Muse(2004年2月11日@なんばHatch)

  3. Spiritualized(2004年3月11日@心斎橋クラブクアトロ)

  4. Radiohead(2004年4月14日@インテックス大阪)

  5. The Polyphonic Spree(2004年9月6日@心斎橋クラブクアトロ)

  6. Kasabian(2004年11月9日@IMPホール)

  7. Franz Ferdinand(2004年11月27日@Mother Hall)

  8. Keane(2004年12月15日@なんばHatch)

出来事もろもろ

The Polyphonic Spree

「polyphonic 【形】多声の」、「spree【名】酒盛り、バカ騒ぎ、浮かれ騒ぎ」だから、強引に言うとThe Polyphonic Spreeとは「雑多な声が混ざったのバカ騒ぎ」と言ったところ。そして、結論から言ってしまうと、この日のライブはそのバンド名を体現したものでした。

ほぼ定刻にメンバーが登場。楽器とマイクだけでキャパオーバーのクアトロのステージに出てきたメンバーは20人を超えていて、人口密度ではフロアよりも高いくらい。足場が少ないのでメンバーが揃うのに時間がかかり、その間を繋ぐようにハープの荘厳な音でライブスタート。続く"We Sound Amazed"もその「音楽的」な面を引き継いだものの、コーラスが加わった瞬間に会場の雰囲気は一変し、壊れた機械仕掛けの人形のように髪を振り乱し、身体を捩りながら発する人間の声が持つ力強さがそれまでの「音楽」をアッという間に飲み込んで行きます。

ハープやフルート、バイオリン、テルミンなどの音が鳴らされていますが、アルバムで聴けるような繊細なオーケストレーションはほとんどなく、場の許容量までパワーを蓄積しては放出し、放出しては蓄積するサイクルの連続。"It's The Sun"でもウネるようなエネルギーの流れが会場を支配し、フロア前方を中心にして笑いながらジャンプするオーディエンスが続出。イントロから比較的楽器パートのアンサンブルが前面に出ている"Hold Me Now"でさえ、結局はリフのボーカルとコーラスが中心となる人の声を中心とした構成の徹底ぶりも見事でした。

序盤の2曲だけで体力を使い果たしてしまった後も、脳の疲れを感じる部分をバイパスして筋肉を直接刺激するようなリフに理性を飛ばされてしまい、膝がガクガクしているのにジャンプし続け息も絶え絶え。ライブを通して、何かを与えるパフォーマーと何かを受け取るオーディエンスという関係ではなく、オーディエンスがパフォーマーの領域に踏み込んで大声で歌い、身体で感情を表現するライブだからこそのキツさ。あらゆる瞬間が"Give & Take"ではなく、"Share"する関係で満たされた体験は、これこそが音楽が本来持つべき基本的な特性のように思えました。

それぞれの楽器の音が全体としての「バカ騒ぎ」に埋もれてしまっていたのはちょっと残念ですが、それを補って余りある人間の力強さと音楽の楽しさが表現され、その当然の帰結としてフロアには笑顔が溢れていました。久々に感情をストレートに表す時間を過ごすことができ、終わってからもしばらく宙に浮いたような感覚が続いたライブでした。

Kasabian

いつものように梅田をブラブラした後で御堂筋線に乗って心斎橋へ。って、心斎橋へ着いた直後に会場がBig Catではなく、IMPホールだったことに気付いて、慌てて鶴見緑地線に飛び乗って京橋へ。幸いなことにこの日はオープニングアクトがいて、Kasabianのライブには充分間に合いました。

19時半頃にオープニングアクトのGreat Adventureのパフォーマンスが終わり、短いセットチェンジを挟んでKasabianが登場。オープニングトラックは"I.D."。スペイシーなインストゥルメンタルの前半部でオーディエンスの渇望感をいなし、Liam Gallagherを彷彿とさせる巻き舌のボーカルを絡めて、フロアにパワーを拡散させて行きます。続く"Cutt Off"でもクールなラップと弾力性に富んだバックトラックが人の隙間を縫うように拡がり、フロア全体のエネルギー蓄積量をユックリ増やし、直後の"Reason Is Treason"で一度目のプチ爆発。シンプルでダンサンブルなリズムトラックに重ねられるロック的メロディとギターによって、やや不完全燃焼気味だった炎が一気に燃焼し始めます。

アルバムを聴いたときにも感じたけど、フロア指向の曲が多い割には、直接運動神経に訴えかけるタイプの曲よりも、ちょっとヒネクレタ感じで一度解釈してから身体を動かすタイプの曲のデキが非常に高く、オリエンタルなメロディとThe Stone Rosesから始まるマンチェスターの系譜を凝縮した"Processed Beat"やバックトラックとメロディの連携と乖離の反復が気持ち良い"Test Transmission"などがツボ。引きずるように歌うボーカルがライブ後半になって燻っていた残り火に再度点火した"L.S.F. (Lost Souls Forever)"で45分の短めの本編は終了。

アンコール1曲目はアコースティック風の味付けがされた"U Boat"で、この期に及んでもアノ曲はまだ演りません。そして、期待が膨らむ中でのアンコール2曲目はインストゥルメンタルの"Ovary Stripe"で焦らし、最後の最後で"Club Foot"。異常なまでのフロアの狂騒とメンバーのテンション、ライティングによる盛り上げ方と一点豪華主義的演出には少し違和感があったけど、最後の最後で期待に応えるところは非常にマーケットインの姿勢だったと思います。

パフォーマンスは良い意味でも悪い意味でもそつがないという印象ですが、考え抜かれた構成のセットリストとオーディエンスが期待した曲を期待したタイミングで演奏するサービス精神を見せるクレバーさも発揮していて、必要充分なクオリティを確保したライブでした。

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Franz Ferdinand

19時からオープニングアクトのThe Beat Upが40分ほどパフォーマンスをした後、30分くらいのセットチェンジとサウンドチェックを挟んでメンバーが登場。一曲目は"Michael"。アルバムは二世代くらい前の雰囲気の曲にスマートさをプラスしたような仕上がりでしたが、ライブはドラムもベースもギターもエネルギッシュで、ボーカルの表情が豊かかつ非常にグラマラス。シンプルで挑発的なギターのフレーズはフロア内の人を瞬間的に一体化させ、その熱気がさらに周りを巻き込んでいくという正帰還をかけていて、メンバーも「君ら、スゲーな。思いっきり楽しんでくれよ」というほど。「次は新曲だよ」という紹介で始まった"This Boy"は時計の針をさらに戻したようなメロディで、ナルシスト気味のボーカルにジャストフィットの楽しさ溢れる曲。終盤のブレイクもビシッと決まって格好良かったです。

「次は古い曲だよ」といっていうMCで始まった"Take Me Out"は、途中のリズムが大きく代わる辺りから盛り上がりが右肩上がりになり、"Take Me Out!"のフレーズでは会場中が絶叫。そして、2曲目の新曲"That Was Easy"は何度となくリズムチェンジが行われ、Mansunが"Six"で狂気と共に表現していた世界が、ポップな曲の中に普通に入っていて驚き。"The Dark of The Matinee"を挟んだ後の3曲目の新曲"I'm Your Villain"のイントロでキメポーズを繰り返す姿と、繰り返されるリズムセクションのスワッピングにサービス精神が旺盛になったPaul Draperが頭に浮かんできました。

"Come On Home"で挿入される気の抜けるようなチープなキーボードの音で吹き出しそうになりながら、シックなコーラスと何か途轍もないものが出てきそうな雰囲気あるギターの対照的な音が面白い"40 Ft"と来て、ユニゾンのボーカルが迫力満点の"Darts of Pleasure"へと雪崩れ込み、これまで持続してきた一体感がクライマックスへと向かい、3分間の曲に何カ所も織り込まれた仕掛けを次々に繰り出しながら、文字通り最高潮の中で本編終了。

5分ほどしてドラムキットを祭り太鼓のように使った"Shopping for Blood"でアンコールスタート。力強いコーラスとギターのコンビネーションで一度冷えかかったフロアを再度暖め直す"Cheating on You"を挟んで、サビで強力なユニゾンを聴かせる"This Fire"で14曲約60分の全力疾走のライブ終了。スマートさを残しながら、アルバムでは感じられなかった力強さをデフォルメしたパフォーマンスがカッコ良く、一癖ある楽曲を部屋の中に引き籠もらせることなく、フロアでオーディエンスを踊らせる原動力となっていました。3曲の新曲のメロディとアレンジのヒネクレ具合も次世代の姿を予感させるもので、過去・今・未来を表現した、一流のエンターテイメントを見せてくれました。

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Keane

なんばHatchはMuseで結構な人数が入っていた印象が強かったので、「人埋まるんだろうか」と思っていたところ、残念ながらその心配が的中。フロアの真ん中より後ろはPAブースのみ、前方の左右のスピーカー前スペースも立ち入り禁止になっていて、クアトロでも充分なくらいの人の数。

ほぼ開演予定時刻に落とされ、真っ暗になった中をメンバーが徐に登場。"Can't Stop Now"のイントロのドラムが鳴り響き、ステージ後方からカクテル光線が発せられてライブはスタート。ややスリムになったものの、腹回りがピチピチした青いシャツをパンツの中に入れたTom Chaplinに思わず苦笑。ただ、そんなダサ気味のファッションとは裏腹に、声の美しさと歌の巧さは圧倒的で、歌い始めた瞬間に彼の印象ベクトルは一気に反転した上で極大値を示しました。

「コレハ、ジブンヲシンジルヒトノウタデス」のMCと共に始まった"Everybody's Changing"ではキラキラのバックトラックを従えて、透明感と力強さが共存する美声を響かせ、オフトーン気味のエレピでシットリした"Sunshine"を挟んだ後、美フレーズが断続的に押し寄せるサビを持つ"Snowed Under"、暑苦しさを抑えながらも情感がタップリ込められた"We Might As Well Be Strangers"が序盤のハイライト。アルバムでは線の細さが感じられたボーカルもツアーを重ねた成果なのか、原曲の持つダイナミックレンジの広い色彩を忠実に、そして必要な部分はカスタマイズできる性能の高さを見せつけていました。

「コノキョクハ、ボクヲカナシマセルオンナノコノウタデス」のMCで始まったファルセットの美しい"She Has No Time"、西城秀樹を彷彿とさせるアクションでフロアを地味に煽る"Somewhere Only We Know"、一転してピアノとボーカルの素朴なコンビネーションで聴かせる"Allemande"なども文句なし。「ライネンモヨロシク」と言った後、スケール感と次への期待を抱かせつつ、余韻を残して全てを締めくくる展開の"Bedshaped"も見事にハマッていて、正攻法に拘ったライブは1時間10分で終了。メンバーは肩を組み、お辞儀をした後、ニコニコしながらバックステージに下がって行きました。

良いメロディを書き、そのメロディとバンドの強みを活すアレンジをし、サプライズではなくプラスαを加えて生で演奏するというシンプルなアプローチを生命線とする厳しいポジションの中でも、自然体で自信満々に歌い上げるKeaneは、外見の素朴さやサウンドから想像できる以上に逞しいのかも知れません。予想以上に早く終わったライブ終了後に寄ったなんばパークスのロマンティックなクリスマスイルミネーションに、彼らの美しく力強い音楽がオーバーラップして頭の中で鳴り続けていました。

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おわりに

今回は2004年に行ったライブの内、下半期に行った4本のライブについて書きました。The Polyphonic Spreeは前年、そしてKasabianはこの年のサマーソニック、Franz Ferdinandはこの年のフジロックフェスティバルで日本でのライブデビューを果たしていたこともあって、キャリア浅めと言っても堂々たる立ち振る舞いを見せていました。

そして、何より嬉しいのはこれらのバンドが2024年現在でも活動を続けていること。Franz Ferdinandはリリースが空いてしまっていますが、The Polyphonic Spreeは昨年アルバムをリリースしたところですし、Keaneもシングルをリリースしています。Kasabianは音の指向性は変わりましたが、今月(2024年7月)ニューアルバムをリリースして、2022年のSonic Mania以来となる来日も決定しています。個人的にはThe Polyphonic Spreeのライブをもう一度見てみたいのですが、体力的に過酷な苗場か、熱さが過酷な幕張に行くしか見られる可能性がなさそうで、いずれにしても体力が持つ気がしません(笑)

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