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【読書百冊 10/100】「がんになって良かった」と言いたい/山口雄也+木内岳志(徳間書店)

重いテーマの本が続きますが、この本については、今書いておきたいので、書きます。

筆者の山口雄也さんは現在、京都大学4年生です。

京都大学に入ったばかりの大学1年生の秋、突然の病魔が彼を襲います。縦隔原発非セミノーマ性胚細胞腫瘍という特殊な種類のガンで、5年生存率が50%という珍しい、そして厳しいタイプのガンでした。

彼は自分の闘病記をネットに書くようになります。

文章がうまく、ユーモアに溢れた闘病記は話題になり、ネットニュースになったときには「ガンになってよかった」というフレーズで炎上さえ経験するほど有名になります。この本も、彼のブログを元に、再構成して作られたものです。

厳しい闘病生活の中、多くのがん患者とふれあい、ネットでの声に励まされながら、彼はガンと戦いました。

驚くべきことに、彼は、京大病院に入院しながら、時々病院を抜けて授業を受けたり、試験やレポートもこなしていました。

普通、勉強は「のちのち役に立つ」と思っているからするものです。5年後に生きている可能性が50%という状態で、勉強するでしょうか?自分だととてもできないし、他になにかやっときたいことはないか、必死に考えると思います。正直、進級なんてどうでもいいです。

でも、勉強したいと思う者には、最高レベルの先生や、歳が近く親切な院生がいくらでも相手をしてくれます。病気だからと勉強しないのはもったいない。若いながらも病苦と戦っている彼はそのことを知っていました。彼は、将来役に立つから勉強するのではなく、今を生きるために、今勉強している。それに強く心を打たれました。

結局、彼は抗がん剤治療と手術によって、なんとかガンは克服します。
しかし、約1年後、大学3年生の6月に、今度は白血病と診断されます。
一度は骨髄移植をしますが、生着不全となってしまいます。つまり、移殖失敗です。

そこで、「ハプロ移殖」を試すことになります。

通所の骨髄移植では、同じ型の骨髄移植を移植するのですが、「ハプロ移殖」では、あえて半分だけ同じ型の骨髄を移植します。そうすることで、ドナーの正常な免疫細胞が患者のがん細胞を異物として認識し、攻撃する効果が期待できるのです。

しかし、患者の正常な細胞まで攻撃するので、激しい拒絶反応を伴う、非常にリスクの高い治療です。

半分同じ型の骨髄、ということで彼の母親の骨髄を移植します。

移植手術は成功したものの、激しい拒絶反応で起き上がることすらできなくなります。やや回復して一度は退院しますが、間もなく、今度は重い肺炎になり再度入院。血中酸素濃度が80%を切り、酸素マスクが必要な事態になります。もちろん寝たきりです。

若い体力と、強い薬で約一週間後にはなんとか立ち上がれるまでに回復します。1ヶ月後には退院しますが、肺炎が再発し、また入院。原因がわからず、薬も効かない炎症反応に悩まされる。という事態が続きます。

この頃は本当に絶望だったのでしょう。

持ち前の明るさや、前向きさを文章から感じることはできず、押し寄せる不安に潰されないように感情を殺している様子が、正直に綴られています。
そこにきて白血病が「再発」。ハプロ移殖で抑えられていたはずの自分のがん細胞が、再度増殖を始めます。

ここに至り、彼は薬を捨てるようになります。

あんなに前向きだった彼が、自暴自棄になり、死を望むようになります。
当然すぐに医師にバレ、「従わないのならよそにいってくれ」とまで言われてしまいます。

文字通りの絶体絶命。
そんな彼に、奇跡が訪れます。
でも、きっと、必然だったのだと思います。
彼の身にどんな奇跡が起こったのか。それはぜひ本書で確かめてみてもらえればと思います。
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さて、
この本が出版されたのは、2020年7月です。その後の彼のことを、私達はTwitterで知ることができます。

2021年1月、彼は事実上の余命宣告を受けました。

主治医が彼に提示した選択肢は次の2つ

【選択肢1.】再度、激しい苦痛を伴うハプロ移植を試みる。ただし、3度目なので、うまくいく確率は1割未満。
【選択肢2.】緩和ケアに移行

正直、どちらも22歳の若者が受け止められる選択肢ではありません。Twitterにも、彼がどちらを選ぶかは書かれていません。

代わりに、彼が、再発の宣告の後も、懸命に卒業論文に取り組んでいること、つい先日、それを提出することができたことが書かれています。論文の審査に影響しないように、自身の余命のことは黙っていたそうです。

高校時代はインターハイを目指すほど陸上で活躍していた彼。
現役で京大に入った彼。
理系なのにめちゃくちゃ文章が上手い彼。
病気で苦しいのに真剣に勉学に励む彼。
親思い、友達思いの彼。

両親にとって、彼は本当に自慢の息子だと思います。

そのご両親のために、彼自身のために、そしてこれを書いている僕自身のためにも、彼のことをもっと多くの人に知ってもらいたいな、と今は思っています。

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#読書百冊 #がんになって良かったと言いたい #山口雄也 #木内岳志

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