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乃木坂46 9th year birthday live 感想:熱狂と空虚さの狭間で

毎年恒例の乃木坂46の誕生日を祝うイベント・birthday liveは9回目となる今年、無観客・配信で開催された。多人数アイドルとしての柱である「CD発売→握手会→有観客ライブ」という流れを封じられた1年間の総括としての位置付けにあったイベントであろう。実際に1年間を振り返るような演出も行われた。
今回のnoteでは今までのbirthday liveそれぞれの意義と9th year birthday liveの感想を書くと共に、個人的な乃木坂の在り方の未来について書けたらいいなと思う。

1st~3rd 
アイドルを応援する、そしてその熱狂に身を預ける上で最も白熱することができる段階というのは、声援を贈る対象が道半ばのタイミングであろう。動員数・セールスといった数字的な側面であったり、曲の認知度やメンバーの活躍の場の拡大だったりがひたすら右肩上がりの状態。そしてそれが頭打ちでないことはファンとアイドル間では当然の認識であるタイミング。そんな時期が1st~3rd birthday liveである。順調なキャパシティ・セールスの拡大だけではなく、ミュージックビデオ、曲、衣装といった乃木坂46のアイデンティティの輪郭がくっきりとし始めた。曲披露だけでなくファッションショーのようなステージを披露した、というのも乃木坂46としての一つの方向性が定まったことの顕れだ。その歩みを振り返りながら、ファンと乃木坂46のメンバー・運営が目標を共有する機会としての場、というのがこれら3回のbirthday liveの意義であった。

(心の中の林瑠奈「Blu-rayでしか見てないです」)

4th
フロントメンバーの卒業という2016年以降の乃木坂46の方向性を定める象徴的な出来事を経た上でのbirthday live。しかし喪失感や悲壮感は微塵も感じない。紅白出場、とあるメンバーが悲願と言っていた2ndアルバムの発売、他の多人数アイドルにはない新たなコンテンツとしての46時間TVの成功といった要素が乃木坂46の歩みの順調さを裏付けていたからだ。聖地神宮での開催、全曲リリース順に披露と、1期生・2期生での乃木坂46の集大成という圧倒的祝祭空間がそこにはあった。また、座長である齋藤飛鳥の躍進、3期生オーディションが進行中と乃木坂46が別のフェーズへ変わる前の最後の打ち上げ花火だった、という見方もできる。

(心の中の林瑠奈「Blu-rayでしか見てないです」)

5th,7th
6thは後に回し、この2つのライブについて。橋本奈々未、西野七瀬の最後のステージ。あらゆる曲に別の意味が付け加えられ、送り出すメンバーは涙ぐむ。自身の卒業シングルとソロ曲を歌い上げ、最後にメンバーと抱擁して舞台を去るという様式美。ひとつ到達点に達してしまった乃木坂46の活動の先に主要メンバーの門出を設けることで強制的にその歩みを止めず、ファンもなんとか応援を続けるという力技が成したライブだ。また、この2つのライブにはもう一つ役割があった。それが3期生・4期生それぞれのお披露目の場である。屋台骨がグループを去るということは、それだけグループとしての勢いを削いでしまうということでもある。だがその抜けた穴を塞げはしなくとも、新たな装飾を加えてグループとしての在り方を更新する。力技でありながらも、「物語性」というファンが食らいつく要素を補強した非常に意味のある場であった。

(心の中の林瑠奈「Blu-rayでしか見てないです」)

6th
このbirthday liveはこれまでと一線を画したものだった。全曲披露封印・2会場同時開催・3日間で18万人動員というトピック重視のライブ。東京ドームライブを終え、レコード大賞を獲得、背後にスタジアムツアーを控え、そして白石麻衣センターの名曲「シンクロニシティ」を引っ提げた、まさに乃木坂46の全盛期と言えるライブ。とはいえその衣装や演出が乃木坂46のクリエイティビティを余す事無く反映させた、と言い切れるものではないだろうが、女性多人数アイドルのトップランナーとしての現在地を明らかにしたものではあった。そしてこのライブもまた、もう一つ非常に重要な役割を果たした。それは「選抜←→アンダー」を上下関係ではなくひとつの対立関係として提示した、ということである。オープニング画面から白石麻衣と鈴木絢音は対等に画面を占拠した。恒例の花火の打ち上げの演出もかたや「裸足でsummer」、かたや「アンダー」の披露中に行われたし、最終日のアンコールでは共に、別々の会場で同時に新曲を披露した。2会場での同時開催という特性に因るものではあるのだけど、ステージの幕の開け閉めを担当していた時期を鑑みると、アンダーメンバーの躍進という点で大きな意義を持っていたことがわかる。

(心の中の林瑠奈「これは、唯一生で見たライブです」)

8th
パンデミック前に行われた最後の有観客ドームライブ。このライブで何を行ったか、というと「何もやっていない」のである。正確に言うと「何も変なことをしていない」。乃木坂46の持つ曲の強度、衣装の美しさといった要素を大きなLEDスクリーンをバックに、できる限り洗練した演出で披露する。そこにはメンバーの不在による喪失感があり、3期生・4期生の躍進があり、形を変えながら一つのブランドとして確立しつつあるありのまま乃木坂46の姿があった。生演奏やコーラス隊の活用による乃木坂46楽曲のアレンジは功を奏し、珠玉の楽曲たちが新たなメンバーとともに復活したような印象を受けたのは僕だけではないはずだ。

(心の中の林瑠奈「Blu-rayでしか見てないです」)


そして、9th

今回のライブでは、以前よりも更なる数の表題曲が新たなメンバーをセンターに据えて披露された。『シンクロニシティ』は梅澤美波が、『しあわせの保護色』は大園桃子、『帰り道は遠回りをしたくなる』は遠藤さくら、『インフルエンサー』は山下美月と与田祐希と、卒業したメンバーの代わりを3期生・4期生が務め、これら全てが卒業したメンバーを前提にしての人選だった。乃木坂46という名前を冠しているからこそ、3期生・4期生だけでの物語は僅かで、あくまでかつて在籍していたメンバーあってのパフォーマンスのように思えた。
とはいえ齋藤飛鳥が述べていたように、梅澤美波の長い四肢を活かしたパフォーマンスは曲の美しさを白石麻衣に負けず劣らず体現していたように思えたし、大園桃子の白石麻衣へのリスペクトを込めた歌唱は曲の多幸感を押し上げたものであった。さらに特筆すべきは遠藤さくらで、加入3年目とは思えない凛とした表情は西野七瀬のそれさえも凌駕したものであろう。
変化せざるを得ない状況の中で、できる限りの最善の一手を繰り出したという感を受けた。

また、このコロナ期間の頃から乃木坂46内で一つのムーブメントとなっているのが期生ごとに分けた露出である。同期同士であれば隔たりの無い関係でいられるし、思い出話に花を咲かせ、気軽に「エモさ」を演出できるのだろう。しかし、それと同時にその括りでの発展というのは頭打ちだと感じた。各期がそれぞれの初センターを務めた表題曲を歌う、という演出は白石麻衣卒業コンサートで見られたものであったし、この後には期別ライブが控えている。もっとごちゃ混ぜのユニットとかを見たかったなぁ、という末端からの叫びをここに記した次第だ。

また、ところどころの演出が気になった。これは今に始まったことではなく、今までの花を咲かせたり、警備員のタップダンスから始まるovertureであったり、壁を昇ったり、空中にメンバーを飛ばしたり、布を舞わせたり、電車を開通させたり、謎の曲アレンジを続けざまに披露したりと個人的に首を傾げてしまう諸々に連なるものであるので、今更感はあるが。

そして、どうしても拭えないのは「空虚さ」である。ライブの最後に「これからも坂を上り続けよう」という文言が掲げられていた。いちファンに過ぎないので当然ではあるが、正直これを受けて僕個人は何も感じることが出来なかった。コロナ禍という閉塞感から来るものかもしれないが、この「空虚さ」はどこからくるのか。それは端的に「目指すべき場所の不在」だ。先程も書いたのだが、アイドルの道程では「ミリオンヒット」「大きな舞台でのライブ」といった具体的な道標であったり、「創作面での充実」「メンバーの掘り下げ」といった具体数値では表せないものも含めてあるひとつの「目指すべき何か」が必要に思える。例えば日向坂46なら東京ドームライブの成功などがそれに当たるだろう。しかし乃木坂にはそれが無い。ある程度のセールスも達成できているし、大きな会場や誰もやっていない形式でのライブも行った。各メンバーを掘り下げる機会も適度にあるし、急にトップアイドルてしての立場から陥落するような未来も想像し難い。逆に言うと、坂道の先が何なのかが誰にも見えていない。先日封切られたドキュメンタリーでも梅澤美波は「何をすれば良いか分からない」と述べていた。ではこれからn……

♪ドゥグバンバンドゥバンバン

♪トゥッタッタラトゥータータ

♪トゥッタッタラトゥートゥットゥ

ここまで、乃木坂のプレイリストを聴きながらこの記事を書いていたわけだが、奇跡的なタイミングで件の「モンスター楽曲」が流れはじめた。そう、「I see…」だ。今回のライブでも新しい乃木坂を担う4期生のテーマソングのように高らかに鳴り響いていた。軽妙なカッティング、J-ファンクの熱狂。かつての国民的グループの多幸感を引き継いだ4番目の彼女達はこう歌う。


I see どうでもいい WOW WOW WOW
突然 思ったんだ Yeah Yeah Yeah
I see そんなこと WOW WOW WOW
まるで関係ないね
(意地なんか貼ってちゃ)もったいない
(自分の気持ちに)素直になろう
大事なのは 一つだけ WOW WOW WOW
君のことが好きだ


うん、残ってるのはやはり「乃木坂が好きだ」という思いだけなのだ。数年後は分からないが、ライブを観終えた今は少なくとも乃木坂への熱は続いている。10周年の白熱祝祭空間が今から楽しみです。

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