第25話 離島の風習

みなさまの中に、離島に行ったことがある、あるいは自分が離島出身である、という方はいらっしゃいますか? これは李さんの孫かひ孫が、とある離島への旅行中に体験した出来事です。

離島の中には、本土から隔絶された場所に位置しているものがある。そのような離島では、本土では想像すらできないような風習や習俗が未だに存在する場合がある。李さんのその親戚も、そのような風習や習俗に巻き込まれた人たちの中の1人。
李さんのその親戚がまだ大学生だった頃、彼は夏休みに友達と旅行に行った。
「離島ってどうよ? 行ってみね?」
友達の提案に、二つ返事で賛成した彼。彼は友達2人と一緒に、とある離島にいくこととなった。

港からフェリーで揺られ、目的地に辿り着いた一行。島内観光は、半日程度で済んだ。一行は離島にある旅館へと向かった。出迎えてくれたのは、美人女将と若い女性の仲居だった。
「遠いところから、よくいらっしゃいました」
美人女将は華のような笑顔で挨拶すると、では、これで、と中へと戻っていった。客室へと案内してくれたのは、仲居の方。年も彼らと同年代で話しやすく、彼らは大学生活のあれこれについて、仲居は離島に来る客や島内や周辺のおすすめスポットについて話していた。
「東京に住んでるなんて、オシャレで羨ましいわ」
若い女の子のそんなお世辞に乗せられたこともあり、一行は
「この島を選んでよかった」
と思った。

客室とその内部、食事や風呂などの説明が終わると、最後に仲居は
「この時期は、夜は外出を控えてください」
とだけ言い、仕事に戻った。
「夜に出歩いちゃダメなのか!? なんでだよー」
「どうする? こっそり出かけるか?」
夜間の外出とは言っても、所詮は小さな離島の中。三人は話し合い、日のあるうちに酒やつまみを買い、客室の中で飲むことにした。

その夜は三人とも酩酊状態だったこともあり、記憶は断片しか存在していない。それでも三人の記憶の断片をつなぎ合わせれば、本土ではまず話題にすら上らないような異常事態が島内で発生していたことがわかった。
酩酊状態の中、三人とも「外がうるさい」と思っていたそう。最初はお祭りか何かをやっているのだろうと思っていたとのこと。それがもし普通のお祭りならば、楽器や太鼓の音、盆踊りで演奏されるような音楽が聞こえるのが自然だ。しかし、そんなお祭りではお馴染みの音が聞こえなかったそう。さらにそこに、悲鳴のような声が混じっていたという話だから、その夜の三人は、
「とりあえず、部屋にいよう」
という結論で一致した。

明くる日、離島での一泊二日の旅程通りに三人は帰りの船に乗った。そしてそこには、あの旅館の仲居もいた。
「実は、昨日突然辞めざるを得なくなって」
元仲居の雰囲気は明るく、話しやすかった。そうは言っても辞めた理由を尋ねるのも失礼なので、一行は前の晩のお祭り騒ぎについて彼女に訊いてみた。元仲居は表情を曇らせ、
「ああ、あれはね…」

元仲居のその人の話によると、その島では毎年夏に「婚期」が訪れるらしい。その「婚期」は世間一般の婚期とは異なり、「誘拐婚をしてもいい時期」とのこと。誘拐婚に関してはインターネットで調べれば詳細が出てくるので、ここでは簡単に触れておく。
誘拐婚とは、相手を連れ去り、連れ去った側の人間が連れ去られた方の相手と結婚することだ。
つまり、一行が聞いていた騒ぎと、歓喜の声に混じって聞こえた悲鳴は、誘拐婚の最中の音だったということになる。元仲居は、夜の戸締りをしっかりと行い、武器を側に置いて自宅に閉じこもっていたそう。

「私、親戚があの島に住んでるから、その伝手であの旅館でバイトしてたの」
夏が来れば、一部の男女が無理矢理結婚させられる。そんな島の風習に、元仲居は嫌気が差していたとのこと。若い女性がそんな島から出て行くのは、当然のこと。そして会話の最後に、元仲居は辞めた理由を明かした。
「お客様に出す食べ物をすり替えちゃったら、もう雇ってもらえないでしょ」
元仲居の話によると、一行の食べ物には睡眠薬が混入されていたとのこと。それをすり替えたのが、その元仲居だった。
「女将さん、あなたのことが好みだったみたいよ」
美人女将に狙われていたのは、李さんの親戚のその彼だったそう。危うく誘拐婚の被害に遭いそうだったこともあり、彼は複雑な心境だったとのこと。


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