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今も世界のどこかで

「ベトちゃんとドクちゃん」 下半身がつながった結合双生児として1981年にベトナムで生まれた兄弟です。ベトナム戦争中に米国が大量に使用した枯れ葉剤の影響が障害の原因と指摘されています。

1988年に日本赤十字社の支援などを受け2人はホーチミン市の「ツーズー病院」で分離手術を受けました。手術は成功しましたがベトさんはその後重い脳障害を抱え、2007年に亡くなりました。一方、ドクさんは高等職業学校を修了し、ツーズー産婦人科病院の職員となります。2006年に結婚し双子の男女を授かり、分離手術や支援に関わった日本への感謝を込めて「フジくん」と「サクラさん」と名付けました。

1975年の戦争終結から来年で50年になります。ドクさんは現在43歳。家族の日常を追ったドキュメンタリー映画『ドクちゃん-フジとサクラにつなぐ愛-』が5月3日から日本国内で順次公開されています。

以下の映画公式サイトで予告編が見られます。


2人は私の娘と同い年です。それもあって私は2人にずっと関心を持ってきました。学校でも折に触れて2人のこと、ベトナム戦争のことなど生徒たちに話してきました。日本にとってもベトナム戦争は他人事ではないからです。戦争中は日本の基地からもベトナムに向けて多数の戦闘機が飛び立っていました。1988年に2人の分離手術が行われたというニュースを耳にしたとき私は学級通信に「今も世界のどこかで」と題した以下の文を載せました。当時は1年生を担任していました。

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「ベトちゃん、ドクちゃんの分離手術、4日にツズー病院で」こう題された記事が新聞に載っていました。ベトナムで二重胎児として生まれた「ベトちゃんとドクちゃん」のことはみんなも社会科の授業などで聞いたりしていると思います。2人は生まれながらにして腰から下がつながっています。だからみんなと同じようには歩くことができません。日常生活だってみんなのようには送れません。生まれてから大半を病院のベッドで過ごしてきました。

二人は数年前に病気の治療のため日本を訪れたことがあります。その際にプレゼントされた日本のおもちゃをいじっていたドクちゃんの嬉しそうな顔を私は今も覚えています。でもその時重い病気にかかっていたベトちゃんの状態がその後思わしくなくなり、このもまだと元気なドクちゃんにも影響が及んでしまうということから今回の分離手術が決まったそうです。腰から下を共有している二人を切り離すのですから危険な手術であることは間違いありません。命に係わる手術です。これまでにも何度か手術を経験してきた二人ですが、今に至るまで分離手術が行われなかったのはそれだけ危険な手術だからでしょう。10時間以上に及ぶその手術が現在行われています。無事に手術が終わることを祈らずにはいられません。

世界には生まれたときから障がいを持つ人はたくさんいます。私たちの学校にもいます。原因がはっきりしない人もいますし、原因がわかっていてもそれが避けられないという場合もあります。ベトちゃんやドクちゃんの場合はどうでしょう。二人の障害は原因がほぼはっきりしています。そして加害者がいます。それは戦争、そして戦争を引き起こした人間です。

みんなも知っているように二人はベトナムで生まれました。ベトナムは1961年から1975年という長い年月戦争をしていました。いわゆるベトナム戦争です。その際にジャングルに潜む敵を壊滅させるために米軍が空から撒いた猛毒の「枯葉剤」が人々の体内に入り健康に大きな被害をもたらしました。怖ろしい被害です。女性の場合は胎児にまでそれが影響し、障がいのある子どもが数えきれないほど生まれました。障がいは様々なかたちで現れています、生まれることなく失われた命も少なくありません。ベトちゃんとドクちゃんもその犠牲になったと考えられています。

「戦争さえなかったら」と思いながら今も世界のいろいろなところで苦しんでいる人がたくさんいます。みんなにも知ってもらいたいと思いこの学級通信を書きました。


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