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33 窓はいつも開けてあります:保護者と手をつなぐために

前回のnoteに「それは正しい情報でしょうか?」という文章を載せました。保護者の間に飛び交う「うわさ」について書いたものです。根拠のない「うわさ」を信じて一喜一憂する保護者とその被害を受ける生徒たちについて書きました。教員時代は「うわさ」に振り回される保護者の姿をよく目にしました。そしてその状況を危惧していました。保護者と手をつなぎたいのに、それがなかなかできない理由を模索していた頃です。以下はそのことを保護者に向けて書いた学級通信です。

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仕事帰りにスーパーに立ち寄って買い物をする時間は私が教師から主婦に「変身」する時間です。「今日の夕飯は何にしようかな?」と特売品の品定めをする私の後ろから主婦の話し声が聞こえてきます。「テスト前なのにうちの子全然勉強しないのよ。先生がもっとハッパをかけてくれなくちゃ!」「学校のことちっとも話さないから何もわからなくてね。心配になっちゃう」「部活部活で毎日ぐったりよ。日曜日くらい休みにしてくれてもいいのにね」「うっそー!進路希望表の提出今日までだったの?知らなかった」「今度の担任は『当たり』だといいわね」ギョッ!自分もこうしてうわさの種になっているのかもしれないと思うと、陳列台に伸ばしかけた手が思わず止まります。でも保護者としてはそれだけ学校に関心があるということなのでしょう。あるいは心配なのでしょう。正確な情報が欲しいのかもしれません。責任の重さを痛感しながら私は値引きのシールが貼られたアジの干物をかごに入れます。

家庭訪問や面談で保護者の皆様とお話をするときいつも感じるのがお子様への親の思いです。「友達とうまくやっているだろうか」「いじめられていないだろうか」「いじめてはいないだろうか」「勉強は~」「部活は~」「悪いことは~」学校のことを心配し始めたらきりがありません。私も家に帰れば一人の母親です。わが子が宝であることは実感しています。自分の子どものこととなればどんな些細なことでも気になります。「勉強なんかできなくたって元気でいてくれれば」などと口では言いながらテストの点は気になります。友だちとトラブルになったと聞けば「いじめ」の3文字が頭に浮かんだりします。4月の学級通信で私は「クラスのお母さんになったつもりで頑張ります」と自己紹介しました。本当のお父さんやお母さんには到底及びませんが、学校では少しでも保護者の皆さんの代わりができるよう努力したいと思っています。

皆様からはよく学校のことを聞かれます。勉強や部活に関する質問が多いですが、校則や指導方法などへのご要望やご意見もいただきます。学年あるいは学校全体に関わることは他の教職員とも話し合い、よりよい教育の場にしていきたいと思います。ただ、ご意見やご要望はご家庭によってそれぞれ違います。すべてのご要望に応えることはできません。様々なご意見やご要望をいただきながら学校としては何ができるか、どのようにしたらよいか、個々の生徒にとって必要なことは何かを考えながら対応していきたいと思います。

ところで、教師と保護者の両方を経験している今の私には、学校と家庭の間に小さな溝のようなものがあるように感じます。普段はほとんど目に入らない溝ですが、何かあると途端にその溝が広がり、お互いに声が届かなくなってしまいます。学校はどちらかと言えば集団を重視し、家庭は個人に重きを置いています。生徒は個人として尊重されるべき存在ですが、学校には1000人近い生徒がおり、集団で生活しています。個人だけに目を向けるのは難しいことも少なくありません。集団の和はどうしても必要です。集団を重視しつつ個人の「幸せ」(最近は「ウェルビーイング」と言うようですが)を実現するにはどうしたらよいか考えていきたいと思います。

学校のことでわからないこと、気になること、疑問に思うことがあればいつでもご連絡ください。どんな些細なことでも構いません。窓から覗き込む気持ちで気軽に声をかけてください。さわやかな風が吹き抜けるように窓はいつも開けてあります。




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