24 源平橋のチア・ガール:全員ゴールインを祈って
「よりによって今日はどうしてこんなに寒いの?」12月中旬のマラソン大会当日は恨めしいほどの寒さでした。太陽も顔を見せていません。どんなにたくさん着こんでも寒さがじーんと感じられます。生徒たちは大丈夫だろうかと心配になります。半袖、短パンで走るのですからさぞかし寒いでしょう。でも開会式に並ぶ生徒たちはみんな元気そう。やっぱり若いから違うのかなと思いながらクラスの列のところに行きました。学級委員が健康チェック表を回収しています。ヤス君が駆け寄ってきました。「先生、チェック表忘れちゃいました」「あら、だめじゃない。でも参加できるんでしょ」と私が言うと「足が痛いです」と言うヤス君。「でも走れるんでしょ」と言う私ににこっとして「大丈夫っす!」と言いました。いつも元気いっぱいのスポーツ少年ヤス君はマラソン大会でも期待の星です。学級委員が集めてくれたチェック表を確認します。病み上がりのキミちゃんは大丈夫かなと思いましたが「参加」となっています。体調に問題のある生徒はいないようです。マラソンが苦手で前日まで参加を迷っていたシゲ君も「走る」と言ってくれました。よかった!
マラソン大会に向けた練習は期末テスト明けから行われます。放課後毎日、各自のペースで走り込み当日に備えます。当日は男子が4キロ、女子が2.5キロ走ります。現在は男女分けなどせず同じ距離を走るのが主流なのでしょうか。私はマラソンに関しては素人ですが、マラソンというのは他人との競争というより自分との闘いという印象が強いように感じます。自分はゴールまで走り切れるか、どれだけの時間で走れるかなどそれぞれの目標を持って走ります。自分に負けたらそこで終わりです。技能も必要でしょうしコツもあるでしょうが、何よりも体力と精神力が試されます。マラソン大会では順位も出され、クラスごとの勝敗も出ます。「〇番以内に入る」や「〇〇より上位に入る」などを目標にしている生徒もたくさんいます。一方、「自分のペースで走る」「完走する」「去年より早く走る」などを目標にしている生徒もいます。いずれにしても「自分との闘い」という気持ちで参加してほしいと思っています。そしてみんなにゴールの土を踏んでほしいです。
いよいよマラソン大会が始まりました。開会式がおわり、準備運動が始まったころ私は「持ち場」である「源平橋」に向かいました。教員は分担してあちこちの場所に立ち、走る生徒を見守るのです。私はこの学校に赴任して以来ずっと「源平橋のおばさん」、いや「源平橋のチア・ガール」になっています。今年はショウ君のお母さんと一緒に橋のたもとに立ちました。保護者の方々も交通整理や応援、豚汁づくりなどでたくさん協力してくださっています。源平橋はマラソンコースの中で最もきつい上り坂の上部にあります。だから走ってくる生徒はみんな辛そうです。「がんばれ!」という声援にも思わず力が入ります。
レースは私が担当する1年生からスタートしました。トップの生徒が来ました。女子はミホリンとヨーコが競り合っています。どちらもバスケ部です。先頭を行くのはほとんどが運動部。やはり運動部で鍛えている人は強いなあと思います。余裕でVサインを送るアキ。走るのは大の苦手と言うサクラさんも無事に走り抜けました。男子はナオ君がダントツトップで通過しました。彼の走りはトップクラスです、ちょっとするとタクミの姿が見えました。続いてトモ君。あっ、私の目の前でトモ君がタクミを抜きました。「心臓破りの坂」で追い抜くなんてすごいです。足が痛いと言っていたヤス君も上位で通過しました。シゲ君もにこにこしながら走り過ぎました。いつものようにマイペースです。「頑張って!」と声をかけたら「頑張ります!」と言って頭を下げました。律儀だね~! こうして1人、2人と走りすぎる生徒の数を数えながら反対側の坂を下っていく姿を見送ります。みんな最後までリタイアせずに走ってねと心の中で祈りながら。
ゴールの様子は見ることができませんが、元気よく走りすぎる生徒の姿をみて私は満足でした。応援にもに熱が入り、いつの間にか朝の寒さはどこかに消えて身体全体がぽかぽかしていました。学校に戻ると生徒たちは保護者が用意してくれた豚汁をおいしそうに食べていました。「先生もどうぞ」と言われ私もごちそうになりました。寒い中での豚汁の美味しかったこと!
閉会式ではクラスごとの結果が発表されました。そして私のクラスは優勝です。アナウンスのあと湧き起こる生徒たちの歓声。1学期以来遠ざかっていた「優勝」の額がクラスに戻ってきました。生徒たち一人一人の頑張りがもたらしてくれた最高の結果です。優勝の快挙とともに私は全員が走り抜いたことが何よりうれしかったです。みんなよくがんばりましたね。おめでとう!
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