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パリ ゲイ術体験記 vol.8「怒涛のコロナ渦日本帰国 機中の巻」



パリCDG空港での、予想外のドタバタ劇をやっとのことで終えて、お待たせしてしまった飛行機に放り込まれるように乗り込んだ私たち親子。
機内で出発を待たされていた乗客から、「ああ、やっと遅刻組が来やがった。どうせ、田舎っぺが買い物でものんびりしてたに違いない..」的な冷ややかな視線を浴びせられるなー、と覚悟しながら機内に入る。

だけど、機内は異様にガラガラというか、乗客の姿がない。まるで、搭乗一番乗りのようである。出発前のエンジンのモーター音が静かに耳に入るだけ。
私達が乗り込んだと同時に、後ろでバタンと閉められた搭乗口の扉。
すぐさま、「当機のドアーは只今閉まりました。直ちに出発でございますので、どなた様もシートベルトを腰の位置でしっかりお締めになり…etc」の機内アナウンス。
これは何かが変..と感じて、客室乗務員さんに
「 こんなに空席が…?」
「左様でございます。大変ご心配おかけしますが、本日の羽田行きのご搭乗は4名様でございまして」
「4名!」
B-777の大きな機体にたったの4人だけで、その内2名が我々親子だ。
(本当はまだ他に2人いたが、例の政府が決めたややこしい陰性証明書のせいで、結局乗っけてもらえなかったそうな ..)

長距離路線で空いている時にあたるとラッキー!と思うけれど、ここまでスッカスカの機内となると、航空会社に申し訳ない気持ちが先にたって、こちらはだんだんと血の気が引いたような顔になってくる。
母が「こんなに僅かな乗客で飛行機を飛ばして頂くなんて、なんて事でしょう。お気の毒な事でございますわ…」なんて言えば、乗務員さんは「いいえ、ご心配ありません」とは返してくれるが、その返事が心持ち冷ややかに聞こえてしまうのは、多分こちらがあまりにビビっているからだろう。
話を聞けば、4人でのフライトは最悪ではなくて、乗客がたった1人のフライトが何回かあったらしい。その時の独りぼっちだった乗客の心情を想像すると、気の毒になってしまう。

こういう、明らかに乗客よりも乗務員の人の方がが多い尋常ではない機内だから、普段では無さそうな事が何かしら起こる。
まず、客室乗務員のほぼ全ての方が代わる代わる座席にやって来て、胸元についている自分の名札を見せながら..
「乗務員の○○でございます。本日のご搭乗まことに有難うございます。長時間のフライトではございますが、ご用の際には何でもご遠慮なく云々…」と、ご丁寧な挨拶をされる。
そして、我々も何人分もその似たような挨拶をひたすら聞かなくてはならない。

飛行中は、たった4名の客では相当に手持ち無沙汰らしくて、「お飲み物はいかがでしょうか?」と、各々に違う乗務員さんが5分おきにニコニコ顔でやってくるので、私は愛想返しに忙しくて、眠りにつこうとする暇さえもない。
5分毎には喉は渇かないよ!とも言えないので、仕方なく貰った飲み物を流し込む。
そのせいで、急に頻尿気味になった私が席を立とうとすれば、機内後方からサッサッサッとやって来たと思ったら、私の先に立ってトイレまで誘導してくれて、トイレの扉まで両手で丁重に開けてくれる…
いざ、用をたして扉を開ければ、斜め向こうにあるギャレーから二人も乗務員さんが出てきて、私に満面の笑みをたたえてお辞儀をする!ゲゲーっ!

これが、フランスのエアラインであったならば、ここぞとばかりにサービス•ゼロに限りなく近い状態となり、ずっと横になって寝ていられたのだろうけれど、運が良いか悪いか今回は日系エアラインである。
搭乗直前にコロナワクチンを打たれた乗客がいる事も、乗務員さん全員に情報が届いているらしくて、「ご気分はいかがでしょうか?」
「お水などをお持ちいたしましょうか?」
「おやつのご用意もございますが…?」
…と、ご丁寧に代わる代わる尋ねてくれるのだが、ワクチンを打たれたのは高齢の母だと勝手に解釈されている様子。
私の前列で、乗務員のお声掛けのせいで寝たいのに眠れないでいる母は、「いざ横になると、ブーンと飛んでくる蚊みたいだわ!」と、小声で文句をたれる。
とにかく、スカスカの機内でグウグウ寝れると考えたのは大間違いで、フライト中こんなに忙しい思いをした経験はいまだかつて無かったのだった。

12時間後、やっと羽田に到着したと安心したら、コロナ対策で空港内の人数制限が敷かれているので、降機は今から2時間後とのアナウンス。ふ~っ
そして、やっとボーディング•ブリッジを踏んだのだが、今から思うとまさに地獄への架け橋を渡るようなものだったのであった…

つづく

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