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「心理ゲームの迷宮~反復強迫の誘惑~」 を受講して 2022/9/10下川完平准教授   

2022年9月10日(土)関東支部研修「心理ゲームの迷宮~反復強迫の誘惑~」の講座が開催されました。下川完平先生の「迷宮」シリーズでは、考え込むテーマでありながら深く探求していく楽しさが、毎回「抜け出せなくなる」のを実感して受講しています。
はじめに先生より「『心理ゲームの迷宮』は、どのようなものか?」と、投げかけられました。皆さんはどのようなイメージをお持ちになりますか?私達も、グループセッションの受講する理由からも、迷宮は「人生の」「分かっているけど、やめられない」「既に入り込んで迷っている感覚」と、いろいろなイメージを持っていることを共有しました。

【ゲームとラケット、ラケット感情、本物の感情】
講座では、それぞれのキーワードの定義と、どのような意味があるのかを学びました。
「心理ゲーム」は、仕掛ける人+乗る人=応答→転換(切り換え)→混乱→結末・報酬の一連の相補的・裏面的交流と確認しました。相手がいて、お馴染みの展開・転換と結果をもたらし「いつもの事なのに、今までと同じ驚きを持つ」という先生の言葉が印象的でした。

 ゲームと似た「ラケット感情」は、本物でない感情で、生き延びるために幼児期にストロークやその他の欲求を満たす方法として、代用された感情であると確認しました。
また、「ラケット」とは、「不正な取引」という意味があるそうです。本物のお金を渡したにもかかわらず品物が手に入らなかったが、偽物のお金では得ることができてしまった...その時、独特な感情を味わいます。私達の幼い時の親に受け入れてもらえない感情やストロークを得るための好みの態度や感じ方と、同じような感覚であることに納得がいきました。

 それに対し「本物の感情」は、「悲しみ・怒り・幸せ・恐れ」で、過去から現在、未来へ時間軸があり、問題解決へ「悲しみの表現」や「他者の行動を変えるための他者への関わり」「うまくいっていること」「安全のための適切な行動」という力を有するそうです。

「心理ゲーム」と「ラケット感情」の違いは、①相手がいるか?いないか?②転換があるのか?ないのか?で区別できることを学びました。また、③「本物の感情」は、それを感じるのにふさわしい状況があり、問題を解決する力を有するか否かで分かります。
これらの定義や違いを明確にする事で、「心理ゲーム」と「ラケット感情」はとても密接に関係し、本物の感情を自分で認識することで、ゲームやラケット感情に飲み込まれないことができる希望も湧きました。

【ゲームの欲求・ゲームの利益】
では、なぜゲームをするのか?について、①ストローク欲求②時間の構造化欲求③人生の立場の確認欲求が、あるとされています。これ以外に、④準拠枠の維持:自分の枠組みへの肯定⑤スタンプ収集:グレースタンプを集め現実と交換(感情の清算)⑥本当は親密な関わりを求めているのに、防衛機制により切なくてもどかしい行動も、理由にあるそうです。誰にも思い当たることが多々あると考えさせられました。

 そして、ゲームを仕掛ける人が、ゲームに乗る人が持っている「指導欲求」「救援者欲求」「被害者欲求」への反応としてゲームを仕掛け、単独では成り立たないのだと説明して下さいました。グループセッションの意見交換でも、それぞれの日頃の心理ゲームの話から「心理ゲームは仕掛ける人(相手)の問題だと思っていたのに、乗る側(私)の問題だったなんて…」と、お互いに気づかされた驚きを分かち合いました。薄々感じていたものの、もやっとした霧が晴れたように、私もこの気づきに、とても衝撃を受けました。
日頃、私達はF・イングリッシュが示す雑談・気晴らしの時間で「無力・泣き言・援助・ボス」的行動に対するラケット感情にストロークをもらうために、人を操作する目的で無意識的に行われています。そこで、ゲームへの誘いが行われ、知らず知らずに繰り返すパターンに入っていることもあるのだと振り返ることができました。

【エリック・バーンの着想点 反復強迫、死の本能】
 苦痛なパターンを繰り返す理由を、エリック・バーンは、①脚本を推し進めるため②ゲーム・プレーヤに一般的利益(生物的、心理的恒常性)を得るためとし、ゲームの利益を6つあげています。講座では、「あなたがこんなふうでなかったら」という事例で整理しました。
①生物的な利益(生きるのに必要な強力なストロークを得るための信頼できる方法)
②実存的利益(幼児期の早期に自己と他人に対して持った基本的な信念・立場を確認する)
③内面的心理的利益(社会的に承認されるような形で神経症的恐怖を体験しないで済む)
④内面的社会的利益(恐れている状況を避けることができる)
⑤外面的心理的利益(偽りの親交と呼ぶ他者との社会的時間で過ごす口実を作ってくれる)
⑥外面的社会的利益(愚痴のように その話題を外部の社会的接触の状況で利用する)
 
 最後に、フロイトの死の本能の反復強迫のためではと、理由を下川先生から解説していただきました。フロイトは、戦争でノイローゼになった兵士が、恐ろしい体験を何度も夢に見ることに着目しました。不快な夢にもかかわらず「自ら不快・苦痛を繰り返し求めるように見える反復強迫」は、「快感原則(不快を避けて快・欲求や願望を得たり充足させることを目的とする)」や、「現実原則(損か得かで快感原則や満足感を遅らせたり、同じ目的に到達させるために現実に適応させる)」からも説明ができないそうです。

 本来、人は緊張やストレスを減らすこと(快感原則や現実原則)を行いますが、「反復強迫」は、幼児期の苦痛な体験が関わり意識レベルで復元・想起されないものが修正を求めて象徴的なものに繰り返させると考えられています。それは、「生体には緊張の全くない本来の無機質な状態(生命を得る以前の状態)に戻ろうとする死の本能」があると考えたそうです。
 死の本能に逆らって、創造や発展でよりよく生きようとする成長させる生の本能(エロス)があれば、無に帰る目的の死の本能も同時に存在しているのだと理解しました。

【ゲームをやめるべきか?やめられるのか?】
心理ゲームをしながらもお互いの夫婦も温かさを感じる下川先生の好きな短編小説を聞き、
心理ゲームも人間らしさやゲームが生きるエネルギーになるのだと考えました。また、人と関わる仕事において「生命や人生をかけた心理ゲーム」に出会うことも多く、これまで「心理ゲーム=マイナスなこと」と捉えている所もありました。しかし、本能として人が持っている存在や力として認めていくことが重要で、それも可能だと確信を得ることができました。  
下川先生の理論に基づいた奥深い講義と、グループセッションで本音で語り合うことで、たくさんの気づきも与えられ感謝です
(交流分析士インストラクター 堀越 夏奈恵)

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