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絶滅危惧種②黒喪服

この30年で、冠婚葬祭の常識は大きく変わりました。

以前はお葬式があると、亡くなったご本人とは面識なくとも、故人の親族の知人友人仕事関係多くの人が参列しました。

喪主さまが働き盛りですと、訃報を耳にして、何百人もが焼香に並ぶということも珍しくありません。

ご近所さんは炊き出しや交通整理に協力して、一大行事でした。

お香典も数が多いのでたいへんです。だいたい半額のものをお返しする、香典返しも遺族にとっては非常に負担の大きいものでした。

それがいつしか、故人の遺志により、お香典はお断りさせていただきます、ということが増えはじめ、お葬式は専用の会館で執り行うため、ご近所の負担もなくなり、故人にごく近しい人だけで行う家族葬が今では主流になりました。

私は結婚した時に母が誂えてくれた黒喪服を、4回着ました。その時の着付けは義母がしてくれました。義父が亡くなった時は、さすがに義母に頼めず、自分で着ていきました。まだ着付けは学んでいませんでしたが、作り帯を利用しました。夏と冬の生地がリバーシブルになっているものを用意していたんです。

お葬式の規模は小さくなっても、親族は黒喪服(きもの)を着るもの、と思っていましたが、母方の叔父、叔母が相次いで亡くなった時、家族葬だったからでしょうか?一人もきものを着ていませんでした。

家族が亡くなるというのはたいへんなことです。きものを着るのも身近に着付けを頼める人がいればいいが、仕舞い込んである、きものを出すところから煩わしいこと。また、以前はどこの美容室でも着付けもしてもらえたのですが、最近は着付けのできる美容室も少なく。

結婚式に着る黒留袖は、着る日が決まっているので、それまでに時間をかけて準備することができますが、黒喪服を着る日は突然やってくるのです。深く苦しい悲しみと共に。

黒喪服(きもの)を着る人が少なくなり、染めやさんは悲鳴をあげていることでしょう。京都では黒いきものは専門の染め屋さんで染められています。

三度黒ということばを聞いたことがあるでしょうか?

黒喪服や黒留袖の黒はただ単に黒の染料で染めているのではなく、下地にちがう色を染め、その上からさらに色を重ねる特別な染め方をしています。いろいろな染め方があるそうですが、その中でも三度黒は染めるというより、天然の植物の色を還元させた後で酸化させ、ニカワで仕上げるという手のかかる方法で深い黒を表現するそうです。

この三度黒を現在染めている染めやさんはほとんどないと聞いています。

女性は喪服を着ている時が一番美しいと言われています。ある、きもの作家の先生が、黒のきものが最強、とおっしゃってました。

黒喪服と言っていますが、黒の色無地五つ紋のきもののことで、かの宝塚音楽学校の卒業式にはこの五つ紋の黒無地のきもののに緑の袴を合わせて着用されています。男役も女役も衿は抜かず、首の後ろにピッタリつけています。

さてこの美しいきものを、黒染めの技法を、おしゃれに次の世代に伝えていくことはできないものでしょうか?

洋服や小物に加工するのもいいとおもうのですが、例えば家紋を入れないで、カジュアルに着れるきものにするとか、ポップな地紋のあるきものにするとか、羽織やコートにするとか、黒を好きな人は多いので、絶対いいと思うんだけどなぁ。



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