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第6話 彰子ちゃん

確かに差別されても
仕方ないくらい
市営団地の環境は良いとは
言えないことも多かった

とにかくボヤが多い
とにかく自転車が無くなる
とにかく警報器のイタズラをする
とにかくエレベーターの全ての階が
押されている
とにかくヤンキーが多い

8棟の中層ビルと7棟の高層ビル
合わせて
おおよそ2850世帯ほど

そのうちの1棟は
生活保護世帯が多く住んでいた

(そういうことも
小学校高学年になれば
誰かれ言わずとも
皆、理解できるから
不思議だ)

そこに住んでいるクラスメイトの
女の子がいた
また同じ名前の彰子ちゃん

お母さんと二人暮らしで
大きな目をいつも
キョロキョロギラギラさせていて
不機嫌にしている子だ

友達はいなくて
いつも1人でいることが多かった

だけれど
同じ名前だからか?
私にはよく声をかけてきた

笑うと可愛いのに
大抵は私の言葉に
腹を立てて行ってしまうのだ

私は怒らせる言葉を言ったわけでもなく
ただ「⚪︎⚪︎ちゃんたちもいるけどいい?」
と伝えるだけなのだが

恐らく「私」を
独り占めしたかったのだろう

もともとそんな彼女の異変に
ある日気づいた私は
彼女の後を放課後ついて行ってみた

彼女は、真っ直ぐに教室に向かった
そして、ガサゴソ音がして
ガタン…キッキッ
ガタン…キッキッ
と音がする

私は気付かれぬように
廊下の窓から覗くのだが
すぐには何をしているのか見えず
仕方ないので
ドアを開けて
「どうしたの?」と声をかけた

(今、思えば…チャレンジャーな私である)

彰子ちゃんは
ハッとしたものの
開き直って言った
「腹が立ったから…」

彼女は、クラスのドッチボールに
カッターナイフでグサグサと刺しては
裂くように下へと手を進めている

「ちょっと!!何があったの!?」

彼女は泣き始めたが
手は止まらなかった

先生を呼びに行き
後は先生に任せることになった
私はもうそこから帰され
彰子ちゃんと先生が何を話したのか
分からないが
次の日クラスのドッチボールは無くなり
数日後に新しいドッチボールがやってきた

彰子ちゃんは
平然としているように見えた

彰子ちゃんが時々話すことは
お母さんのことだった
「身体が弱くて働けないから
全て私がお手伝いしているんだ」

でも私は知っていた
お母さんは元気に歩いて
時々スーパーで見かけたから

いつも真っ黒な服装に
ビックリするくらいの長い真っ黒な髪
そして彰子ちゃんと同じように
目がギョロギョロしていた

ある日
私の妹が言った
「昨日ね、まゆちゃんたちと遊んでたらね
お姉ちゃんのクラスの彰子ちゃんが
入れてって言うから、いいよって言って
ドッチボールで遊んでたの。
そしたら、まゆちゃんの投げたボールが
彰子ちゃんの手にあたってね
病院に行ったらしくて
病院のお金とかホショー?とかを
払えってこと言われてて
まゆちゃん困ってるんだ」

確かに彰子ちゃんは指に包帯を巻いていた

まゆちゃんのお母さんから
私の母に連絡がきたようだったけれど
とにかくひつこく慰謝料払えなど
言いに来るとのことだ

結局は、母には何もできないと判断したのか
学校の先生を挟んでのお話し合いが
続いたようだった

彰子ちゃんは
相変わらず不機嫌な顔のまま
ただ
あまり関わって遊んではいけない子
というレッテルが貼られてしまった

彼女は私に言った
「どうして同じ名前なのに
こんなにいろんなことが違うの?
ズルいと思うんだ。
明子ちゃんは、私から見たらナウシカだ。
でも私は何にもなれない
何にも似ていない
ただの人なんだ…」

私は何も言わないまま黙って聞いていた

彼女は何かしら言いたそうだったが
そのまま後ろを向き
「バイバイ」と言った

その日以来
恐らく彰子ちゃんとは
話していない

でもたびたび怪我をしては
そこのご家庭と揉めているという話は
風の噂で聞いた

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