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早川書房の百合SFフェアに籘真千歳『スワロウテイル』シリーズがピックアップされなかったのっておかしくないか

今更?


百合SFフェア、もう5年前なんすね。
恐らく商業的にはそこそこ成功したっぽいこの企画だけど、
これを機に早川書房から百合小説がいっぱい刊行される流れを期待してたのでそうはならなかったのが歯がゆいところですね。
まあ当時の温度感からして一過性の話題作りっぽさはあったけれども。
一昨年刊行した濃厚な凹凸バディ百合と噂の『ギデオン―第九王家の騎士―』はそのうち読んでみたいと思ってます。
今回は「結局商業主義の一環でお前ら全然百合やっていくつもり無かったじゃねえかよ」という愚痴を出汁に、当時フェア選外で大いに憤慨した覚えのあるスワロウテイルシリーズの話をします。
長らく闘病で音信の無かった作者の生存報告も最近あったしな。(選外はそれが原因では?)
ちなみに条件を満たしているのに百合SFフェア選外だった作品は結構数多くて、不動カリンは一切動ぜずやノノノ・ワールドエンドの存在もTwitterの有識者に指摘されていました。私はどっちも読んでいません。
(追記:ノノノ・ワールドエンドはフェア対象既刊に入ってますね。訂正します。)


4部作からなる本作はパンデミックにより男女が隔離された社会が舞台。
男女それぞれの区画では片方の性別を模した人造人間が伴侶を務めるというゴリゴリに異性愛を前提とした社会設定。
ゴミを自動分解してくれるナノマシンの蝶々など、
都市の風景描写はとにかく清潔感が漂うのが特徴。
ブルーアーカイブで近未来都市やラノベ的なエッセンスがウケているのだから、スワロウテイルも今こそもう一度ヒットするポテンシャルがあると声を大にして言いたいわけですよ私は。

フェミニズムの文脈で思考実験されがちな「片方の性別しかいない街」問題や、最初から男性の伴侶になるために作られる人工妖精のグロさ、人間側の倫理的な向き合い方等荒唐無稽っぽい設定を性差的なテーマに落とし込んでいるのが評価されたのか、Sense of Gender賞を獲得している。
というか普通に選考委員の書評がおもろいな。
2010年刊行だけど、この14年でオタク文化を取り巻く環境は概ねこの人たちが危惧したような、あるいはVtuberの登場でもっと酷いことになっているんじゃないかな。

先に断っておくと、主人公兼メインヒロインの揚羽は男性キャラともCPするので、それを踏まえた上で女女の矢印を追っていける人でないと百合目的で読むのは厳しいかもしれない。(選外はそれが原因では?2)
ここまで読んだ人でふざけんなと思った人がいたら謝っておきます。
作風にも多少触れておくと作者が滅茶苦茶オタクで、
パロネタやオマージュが多い。
もう読んだのは8年くらい前だけど、型月パロがすごかったのが記憶に残っている。直死の魔眼みたいな設定でてくるし、第一巻はテイスト自体が空の境界っぽかった。

人工妖精はその目的上外観を男女のどちらかに模してはいるものの、
性自認はノンバイナリであり、女性型の人工妖精だとしても男女共に恋慕の対象たり得るという設定になっている。
この設定記事書くまで忘れてたんだけど、これは賛否が分かれる所でもあるな。
性自認女じゃないと百合と認めないとか、女性も愛せるように最初から作られてるなら恣意的だとか過激派百合厨は言うかもしれない。(選外はそれが原因では?3)
いやでも百合はあったんだよ うるせえな いいから俺の話を聞いてくれよ。


様々な女女の矢印

1.揚羽×鏡子
人工妖精の揚羽とその養母の鏡子による親子百合。師弟百合の要素も。
結局あーだこうだ言うてもこの作品が百合だと断言できるのは数少ない親子百合の担い手だからなんですね。
母親側がツンデレという属性なのも珍しさに拍車がかかる
鏡子に絆創膏を貼る時に出来心でキスするシーンが好き。
ちなみに鏡子は明らかに蒼崎橙子をパロったキャラ。
空の境界好きすぎだろ。

2.揚羽×真白
双子の人工妖精である二人。
目覚めの際にちょっとした事故があり真白は長い間意識が不安定な状態になってしまったのだが、
揚羽はそのことで真白に負い目を感じ遠ざかろうとする。
一方の真白は揚羽に対して強すぎるほど愛情を抱いており、
そのすれ違いが作中であれやこれやと膨らんでいくのが美味しすぎ!
真白視点だとヤンデレに近い感じの感情が噴出しているのを見られる。
すれ違いにより一方的に向けられる感情がメインで直接的な絡みは乏しいのが物足りなさもあるカプ。

3.「五稜郭」のシスターフッド
第三巻 序章/人工処女受胎にて繰り広げられる揚羽の女子校エピソード。
特に雪柳というテンションの高い後輩とのコンビが良かった記憶がある。
妹を愛しているにも関わらず深く関わってはいけないという自戒を勝手に立ててるせいで反動で後輩を可愛がってるんだよね。


存在を忘れてるサブカプがあるかもしれないけどメインどころはこの辺。
あとは東京自治区総督とその影武者の関係性も確か愛憎入り混じる系の百合だったと思うんだけど完全に詳細を忘れている。


親子百合と姉妹百合がセットになっているという点はSF要素抜きでも非常に珍しく、
やはり百合SFの一つに数えて良い作品ではないだろうか。

記事書いてたら再読したくなってきた。
皆さんの今こそ再読したい本も教えてください。

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