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舞台【世界が消えないように】の麻生航太郎についての想像

舞台"世界が消えないように"を観て、松本大が演じる"麻生航太郎"についてお芝居を観て感じた事から勝手に航太郎の心情を想像して書いてみました。
(注)完全なる私の主観と想像で書いています。
もはや二次創作的なものだと思ってください。


幼い頃、酒に酔って暴れた親父のせいで俺の首には大きな火傷の痣ができた。
日に日に手が付けられなくなる親父を憎んだ。
それと同時に、幼心にずっと尊敬していた親父の姿が変わっていってしまう事が悲しかった。そして、親父をそんな風に変えてしまったアルコールを恨んだ。
そんな親父から逃げたくて、そんな苦しい町から離れたくて、故郷から遠く離れた大学に進学した。
遠い街での新生活。
ここならきっと穏やかに過ごせる。
しかし痣のせいもあって、なかなか他人に心を開けなかった。
そんなある日"世界"が現れた。
"世界"はいともたやすく、いつのまにかすーっと壁の内側に入ってきた。
そして"世界"を中心に5人はごく自然に、まるで当たり前に友達になった。
それからの日々はとても楽しかった。
まさに絵に描いたような大学生活だった。
5人でいる時はいつも心が軽かった。
何も背負わずにいられた。
4人の事がとても愛おしかった。
この関係が一生続けばいいと思った…

そんな愛しい時間は唐突に消えてしまった。
あの日、"世界"の様子がいつもと違う事には気づいていた。
気づいていたのに"世界"を残して帰ってしまった。
だってアイツはいつだって笑ってたから。
平気だと勝手に決めつけてしまった。
帰らなければよかった。
朝まで一緒にいてやればよかった。
そうすれば"世界"も、この愛しい時間も、失わずに済んだのに。
またアルコールが俺の大事なものを奪っていく…
あの日から酒は飲まないと決めた。
思い出してしまうから。
そして何より憎かったから。
でももしかしたら逃げていただけかもしれない…
碧に言った「そうやってまた逃げんのかよ?!」という言葉は、本当は自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。
思えば"世界"だけじゃなく4人の事、本当は何も知らなかったんじゃないか…
何を抱えて、何に苦しんでいたのか、
踏み込むのが怖かった…
この愛しい穏やかな時間が壊れてしまうのが怖かった…
見ないふりをしていた。
理解し合えているふりをしていた。
"世界"を失ってそれに気付いた。
"世界"を失った頃から親父の体調が芳しくない。
軽い認知症も患っている。
長年のアルコール依存のせいらしい。
ざまあみろ。…
あの日からいろんな物が変わってしまった。
少しずつ。
静かに。
俺の世界は歪んでいった。
それに気づかないふりをしながら、ごまかしながらここまできた。

学生生活最後に4人で卒業旅行に行くことにした。
卒業しても連絡を取り合ったりするんだろうか…
いや、きっとこの旅行が最後だろう。
なんとなくそんな気がしていた。
初めてのアメリカはそれなりに楽しかった。
他愛もない事でふざけ合ったり、大智をからかったり、なんだか少しあの頃に戻ったみたいだった。
稲光の中に"世界"の姿を見た気がした。
笑っているのか泣いているのか怒っているのか、わからない表情をしていた。

初めて碧と怒鳴りあった
初めて大智の抱えていたものを知った
そうだ、みんな同じだった。
表には出さない空も。
当たり前の事。
触れないようにしてきた。
みんな 自分が"世界"を殺した と思っていた。
みんな"世界"が大好きだった。

グランドキャニオンで思い切り叫んだ。
やっと受け入れられた気がした。
やっとあの日を過去にできた気がした。
あくびがうつる。
「やっぱり、友達や」
"世界"の声が聞こえた気がした。

卒業式で会おうと約束した。
その卒業式はなくなってしまった。
俺は福岡に帰って親父の介護をしながら工場を継ぐことに決めた。
あんなに憎んでいた場所で、あんなに憎んでいた親父を支える事を選んだ。
もう逃げるのはやめた。
向き合う事に決めた
この痣はやっぱり消さない。
でも、親父に思い知らせるためではない。
痣の話をした時、"世界"は「触っていい?」と言ってくれた。
その手が暖かかった。
この痣がある限り"世界"の事を忘れないでいられる。

これからもアイツらと連絡を取り合うかどうかはわからない。
でもはっきりと言える。
アイツらは友達だ。

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