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読んだ本を語る~『「おかえり」と言えるその日まで―山岳遭難捜索の現場から―』~

登山に興味を持った一昨年、しばらくは自分が登ることより、山岳遭難事件に関することを調べたり、関連書物を読んだり映画を観たりしていた。
例えば八甲田山雪中行軍遭難事件や、1996年エベレスト大量遭難事故、2009年のトムラウシ遭難事故などなど…。
とはいえその辺りのことを調べた時は山自体の難度が高すぎたり状況が過酷すぎて、とても自分ごととしては考えられず。
いざ自分も山に登ってみようと思った辺りで、身近な遭難についての本を読むようになった。
その中の一つが、この『「おかえり」と言えるその日まで―山岳遭難捜索の現場から―』だった。

著者は、民間の山岳遭難捜索団体LiSSを立ち上げた中村富士美さん。この本では「なんでこんな山で遭難?」という事例や、遭難者を見つけるまでのプロセス、家族が行方不明になった時の家族の心理状態やケアについても書かれている。
著者が「プロファイリング」と読んでいる、遭難者の性格や持ち物から当日の予定や遭難個所を推測する部分は、まるで推理小説のようだった。

第一章の「偶然の発見」で、中村さんは奥多摩の山で二体の遺体を発見する。
そこは山岳救助に携わるようなプロでは逆に見落としてしまいそうな、ここで迷わないだろうと除外してしまうような場所にあった。
二人目として発見された遭難者は、遭難当時自ら警察に救助を求めていた。
登山道から十数メートルしか離れておらず、他に登山者がいれば見えていた距離。遠くにはたくさんの人が生活している街並みが見える。
そんな場所で下半身を倒木に挟まれ、助けを呼んでも気づかれず、動けないまま……考えただけで辛い。
以前厳冬期登山している人の動画を見た時、「運が良くて即死、悪ければつらい思いをして死ぬ」と言っていたのをふと思い出した。

白骨化した状態の遺体を発見した中村さんが泣いていると、師匠と呼ぶ人が中村さんにこう語っている。

「見て、この景色。ここで亡くなった人が最後に見た景色だよ。この景色を自分たちが忘れないでいることが、見知らぬ方への供養になると思うよ」

『「おかえり」と言えるその日まで』第一章より

『侮るな東京の山  新編奥多摩山岳救助隊日誌』という、奥多摩地域で警察の山岳救助隊に所属していた金邦夫さんの著書の中でも書かれているが、都内の山でも年間100件ほどの遭難事故が発生している。
2023年のデータによると、実は東京都は全国での山岳遭難件数第二位であるらしい。一位の長野、三位の北海道に挟まれて「??」となる順位だけど、初心者でも登りやすいとされる山が多いことや、都内からのアクセスの良さでそもそも登山者数が多いのも原因なのかな。

現在はYAMAP、ヤマレコといった登山用アプリがあり、作中にも登場するココヘリ(契約することで発信機を貸与、遭難した際はヘリやドローンでの捜索をしてくれるサービス)などもある。
しかし携帯を落としたら、バッテリーがなくなったら…不測の事態はいくらでも想像できる。

この本に出てくるのは東京の山だけではないが、エベレストのような限られた人しか行けないような山ではなく、八甲田山雪中行軍のような特殊な状況でもない。
日々の楽しみの一つとして登山をしていた人が、家族のもとに帰ってこない。
自分が今後そうならないとは限らないという自分事として、各章に登場する人々の話を読んでいた。
自分にできる心構えとしては、近場の山であっても行き先を周りの人に伝えておく・登山届を出す・登山アプリの見守り機能を使う…といった基本的なことばかりだけど、ちゃんとやろうと思う。

生きて「おかえり」と言うために。


……とすごい山登ってそうなこと書いてますが、マジで「涼しくなったら高尾山登ろうね!」と友達と話してる程度なのでお恥ずかしい。
体力はもともとないのに出産を機にマイナスに転じてます。
高尾山程度……だけど山をなめるな!!
高尾山は通報数めっちゃ多いぞ!
そんな具合で、今日も小仏城山のでっけえでっけえかき氷に思いを馳せています。
食べに行きたいな~!


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