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8本の足の記憶

やさしいひとは記憶力がいいのだろう。眉間の皺が深く、これは誰かを救いたいと思う度に刻まれていった顔。それか救えなかった度に刻まれていった顔。
前者にするために私はたびたび挨拶しに行くことにしている。
帰る。
部屋の半分は残置物でしかないキャンバスが積み重なり埋まっている。
この家には、死んだ猫と生きた猫が混在している。
死に目に会えなかった猫たちの墓参りに行く。すみれの写真を撮る。気位の高いおまえと、口卑しいおまえよ。暖かかったおまえたち。しんでしまったものたちへは一方的に祈るしかない。
帰る。
生きた猫の遠吠えのような大きな鳴き声が五月蝿い。心からの愛情より宥めるためのやさしさで撫でる。4本足はおまえひとりになってしまった。 


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