見出し画像

不適切保育はどうしたらなくなる?

ここ数年「不適切保育」が取り沙汰され、各メディアがこぞって報道しています。不適切という言葉も流行性を持ち、テレビドラマでも「不適切」をタイトルに用いて話題になるものがあるくらいで、一種のトレンドになっています。

従来、保育士や保育所に対しては「保育士は保育のプロだから、不適切な保育なんかあるはずがない!」「福祉や教育に携わる人に悪い人はいない!」という性善説が蔓延っていたように思います。

しかし、2022年、静岡県における園児虐待と保育士の逮捕を発端に全国で不適切保育が摘発されるようになりました。 

不適切保育の定義は?


「不適切保育」にはどのような定義があるのでしょうか。その前に「不適切」とはどういう意味なのか? 不適切とは、「普通じゃない」「(状況に)ふさわしくない」「常軌を逸している」「正常な状態から著しく外れている」それによって「誰かが不利益を被る」ことを意味します。

では、不適切保育とは? これには実はしっかり定義があります。『不適切な保育の未然防止及び発生時の対応についての手引き』(令和5年5月こども家庭庁)で、「保育所での保育士等による子どもへの関わりについて、保育所保育指針に示す子どもの人権・人格の尊重の観点に照らし、改善を要すると判断される行為」と定義されました。同手引きには詳しい事例も載っており、一読しておくとよいでしょう。

保育所等における、職員によるこどもに対する虐待(上記「手引き」より抜粋)

身体的虐待

・ 首を絞める、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物を飲ませる、ご飯を押し込む、食事を与えない、戸外に閉め出す、縄などにより身体的に拘束するなどの外傷を生じさせるおそれのある行為及び意図的にこどもを病気にさせる行為
・ 打撲傷、あざ(内出血)、骨折、頭蓋内出血などの頭部外傷、内臓損傷、刺傷など外見的に明らかな傷害を生じさせる行為 など。

性的虐待
・ 下着のままで放置する
・ 必要の無い場面で裸や下着の状態にする
・ こどもの性器を触るまたはこどもに性器を触らせる性的行為(教唆を含む)
・ 性器を見せる。など

ネグレクト
・ こどもの健康・安全への配慮を怠っているなど。例えば、体調を崩しているこどもに必要な看護等を行わない、こどもを故意に車の中に放置するなど
・ こどもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など)
・ おむつを替えない、汚れている服を替えないなど長時間ひどく不潔なままにするなど
・ 泣き続けるこどもに長時間関わらず放置する など

心理的虐待
・ ことばや態度による脅かし、脅迫を行うなど
・ 他のこどもとは著しく差別的な扱いをする
・ こどもを無視したり、拒否的な態度を示したりするなど
・ こどもの心を傷つけることを繰り返し言うなど(例えば、日常的にからかう、「バカ」「あほ」など侮蔑的なことを言う、こどもの失敗を執拗に責めるなど)など。

不適切な保育はもっとシンプルに言ってしまえば、「子どもだけではなく、大人もやられていやなこと」となるでしょう。これ以上、詳細には説明できません。同手引きには、いくつかのカテゴリに分けて具体的な行為が並んでいます。現場を預かる保育者であれば、一つくらいは思いあたるものがあるのではないでしょうか。

重要なことは、今、自分がやっている保育が「実は不適切ではないかな?」という点検と確認です。ゴールは、不適切な保育を認めさせることではなく、なくすことです。保育者は、完璧ではありません。感情もあります。ただし、事前に失敗や不適切な行為に対して意識的に取り組んでいくことが必要です。


 実際に保育現場では次の3つがポイントとなるでしょう。

1.自分の保育が不適切ではないかと疑ってみる

2.ぼやっとしている不適切の保育のイメージを明確にする

3.不適切の解消のために、車座になって皆で話し合うこと

 この3つを定期的に点検することで発生を防ぐことができます。

また、不適切保育の発生理由に待遇の悪さも指摘されますが、本当にそれだけでしょうか? 保育者としての資質や素養は関係ないのでしょうか? さらに、加えるとすれば、保育への熱い心と、保育科学に基づいた保育の専門職であるという自覚と誇りが必要だと考えます。

 保育を専門職と捉えるならば保育所保育指針が最も重要です。日々の保育からリスクマネジメントに至るまで拠り所となります。保育所保育指針については、オンライン講座でも詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。


橋本圭介 
社会デザイン学修士、社会福祉法人友愛会川口アイ保育園理事長、学校法人三幸学園 大宮こども専門学校専任講師、埼玉県の社会的養護を考える会 代表


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?