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老いの本を読んでみたら (1048文字)

 『老いてこそ上機嫌』(田辺聖子著 文春文庫)の96ページに「仕事を仕上げていく、ということ」という一節があります。
 この本は、1ページ当たりの文字数が極端に少なくて、あっという間に読み終わりますが、内容はかなり深みがありました。
 で、「仕事を仕上げていく、ということ」ですが、
 その本文は3行だけで、その中の「・・・、途中で周囲のいうことに、いちいち耳をたかむけて、どの意見もとり入れよう、なんて考えたら、結局、収拾つかんようになるよ」というところが、琴線に触れました。
 この文は『田辺聖子長編全集3「求婚旅行(下)」』からの引用だそうです。

 この文を読んで、昔『闘うプログラマー』(G・パスカル・ザカリー著 山岡洋一訳 日経BP出版センター)を思い出しました。この本の上巻の38ページに「VMSはDECの将来にとってきわめて重要なソフトになり、多数の幹部がVMSの改良にかかわりたがるようになったのだ。カトラーは『どいつもこいつも、好き勝手にクビを突っ込んできて、プロジェクトが進まなくなった。たしかに、多少の検討は必要だ。それは当然だ。でも、なんの仕事もしていない連中が出てきて、これはなんだ、あれはなんだととやかく言うようになった』とこぼした。」とありあます。
 この文は、伝説のプログラマーであるデーブ・カトラーがDECという会社でVMSというソフトウェアを開発しているときの状況を説明しています。
 カトラーはこの後、マイクロソフト社でWindousNTを開発するのですから、かなり古い時代のことです。

 田辺さんの文も、カトラーがこぼした内容も、「介入したがる人間のうっとうしさ」について述べています。

 そういえば、千葉ロッテマーリンズの捕手だった里崎智也さんも「次のバッター、初球からでもストライクなら振って来るからな。」というベンチからの声は意味がないという発言をされていました。
 仮に投手に初球をボール球を投げさせたら(ストライクではないコースに投げさせたら)、次はどうするのか。初球のストライクを振って来る打者なら、2球目のストライクも振って来るっしょ。ということだそうです。

 これもうっとうしい介入と言えるでしょう。

 うっとうしい介入の解決策は、無視することだと私は思います。

 彼らは、本当に仕事の成功を望んでいるのではなく、助言している自分の存在を他人に知ってほしいだけなので、無視でいいだろうと思っています。

#創作大賞2024 #エッセイ部門 #田辺聖子 #デーブ・カトラー

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