私の本棚

 転勤の多い仕事なので、立派な書棚は持てなかった。今でもカラーボックスを重ねたものが私の書棚である。専門書は重いので下の棚に格納し、文庫は軽いので上の棚に格納し、新刊書などは中頃の棚に格納している。

 私の書棚には文学書が極端に少ない。仕事のために専門書を読む時間が多過ぎて、なかなか他のジャンルの本に手が出ないのである。しかし、いつもいつも専門書に取り組んでいるわけにもいかない。たまに頭を休めるためにミステリを読んでいる。書棚上段の文庫の大半はミステリである。

 ミステリは、主に殺人という非日常的な出来事を扱っているので、専門分野の呪縛から離れられるような気がする。かといって、ミステリが結界を張ってくれるわけではない。ミステリを読んでいても頭のどこかで読みかけの専門書のことが残っていて、私を手招きしている。
 ミステリを読むのは気分転換が目的だから、推理で犯人を当てようということは決してしない。物語の終盤で犯人と犯行動機や手段が書かれているを読み、「そうだったのか。」と納得して読み終える。こういう読み方は邪道なのかもしれないが、それで多幸感を味わうのであるからこれはこれでいいように思う。

 書棚中間領域の新刊書としては、コンピュータ関係の書籍が多い。私はコンピュータのエンジニアではないので、これらは素人向けまたは中級者向けのものばかりである。仕事で使うパソコン用であるため、OSならMS-DOSやWindows、アプリケーションソフトならExcelやWordやAccessなどのマニュアルや技術的な解説本が多い。

 最も多く開く本は専門書なのだから、本当は下段より中段に格納するのが合理的だと思うのだが、地震のことを考えると「重心は低い方がいい。」と思うので今の状態を維持している。

 かなり前から、「紙の書籍はいずれなくなる。」と言われているし、出版業界の不況も続いているようだから、私のように書棚に書籍を並べている人間は絶滅危惧種なのかな、と思わないでもない。
 私自身は、画面で文字を追うよりも、紙をめくりながら文字を追う読み方の方がいろいろな意味で好ましい。まず、ページの触感、インクの臭い、紙自体が古くなったことによる変質臭、自分で本に線を引くときの決意、それを後で見返したときの「ここ線引かなくてよかったんじゃね。」という軽い後悔、これら五感を駆使して読むことができるところが読書の醍醐味と思っている。
 だから、もうしばらくは電子書籍に移行しない。

以上

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