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『中村仲蔵』から『高瀬舟』へ (1308文字)

 『中村仲蔵』(なかむらなかぞう)は、講談にも落語にもあるネタで、私はYOUTUBE動画で神田伯山(かんだはくざん)の講談を観ました。当時真打昇進が話題だったのと、「それほど人気があるなら一度は聞いておかないと」と思ったのです。
 このネタは40分以上ある大ネタなんですが、伯山の講談が迫力があってよかったので2回観ました。その後この演目が落語にもあることを知り同じくYOUTUBE動画で三遊亭圓生(さんゆうていえんしゅう)(六代目)の『中村仲蔵』の落語を観ました。こちらの方は、静かな語り口調で淡々と語り、要所要所に笑い所がありやはり面白いと感じました。特に最後のサゲ(オチ)の部分なんですが、私は今までこれほどまでに綺麗なサゲを聞いたことがありません。
 お二人の『中村仲蔵』は、それぞれ話芸として高い技量を持つ者がその技術を存分に発揮したのだ、と思います。
 まぁ、私は寄席演芸の素人なので偉そうなことは言えませんが。

 私がこの演目に関心を持つのは、「工夫をすることで向上する」がテーマのひとつになっているからです。
 私は子供のころ父親から、「工夫をしろ。」とよく言われました。クレヨンで絵を描くときには、どんなふうに影ができているかよく観察してそれをどういうふうに描くか工夫しろ。」といった具合です。

 だから「家柄もなく、下回りから這い上がって名題に昇進した初代中村仲蔵(なかむらなかぞう)。『仮名手本忠臣蔵』(かなてほんちゅうしんぐら)の晴れ舞台で、当時は端役だった「五段目」の斧定九郎(おのさだくろう)の役を振られる。・・・」(『神田松之丞 講談入門』神田松之丞著 河出書房新社 166ページ)という中村仲蔵が工夫で観客を沈黙させる名演をみせるところは他人事とは思えないくらいハラハラして聴いていました。

 この話を職場のかなり高齢の先輩(現在は再雇用されています。)にしたところ、森鴎外の『高瀬舟』を読むことを奨められました。
 そこで、集英社文庫の『高瀬舟』を買って読んでみました。

 高名な作家の作品、しかも大先輩が推薦された作品にこんなことを書くのはなんですが、私には主人公の内省的な感じが気に入りませんでした。
 私は、「幸運の女神には前髪しかない。通りすぎてから『今のは幸運の女神だったかな。』と振り返っても後ろ髪を掴んで引き戻すことはできない。」という話を肯定するタイプなので、「なにかやるときに、そこに幸運の女神がいるかどうか分からないなら、まずはやってみる。」という主人公を好みます。
 中村仲蔵は、どちらかというと「運命を自力でなんとかする」タイプです。

 高齢の先輩のような感性とは反りが合いません。

 そうそう、その先輩に「三遊亭圓生の『中村仲蔵』を聞きました。はじめは爺さんがボソボソ喋っていると思ったんですが、だんだん引き込まれて生きました。」と言うと、その先輩は「だから名人なんですよ。」と言いました。
 私は、名人の技量を褒めているのに、先輩は名人だから神通力を持っている風なことを言う。

 私はこの先輩とは話が合いません。

#創作大賞2024 #エッセイ部門 #中村仲蔵 #神田伯山 #三遊亭圓生

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