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『コラテラル』 サイコパスな殺し屋

 映画『コラテラル』はcollateralで、「まきぞえ」というそうですが、英和辞典で探すとそのような意味が出てきません。collateral damage は、「付随的損害」という意味になりますが、これは軍事用語のようなので、ここでは関係ないでしょう。(この単語(collateral damage)は、映画『ボーン スプレマシー』の中で裏切り者のCIA幹部が言っていたように記憶しています。)

 まぁ、それはそれとして『コラテラル』です。
 この映画の主演はトム・クルーズなんですが、珍しく悪役です。しかも、かなりかっこいい。

 トム・クルーズは殺し屋で、ロサンゼルスにやって来て一晩で数人を暗殺して翌朝飛行機で帰るという超過密スケジュールの仕事を請け負います。(そのための資料をトム・クルーズに渡すのは、映画『トランスポーター』のジェイソン・ステイサムです。恐らくまだ新人だったときなんでしょうね。)
 一晩で仕事をやり終えるためには、地理に明るい腕のいいドライバーが必要ですが、運よくお誂え向きのタクシードライバーを一晩専属運転手にすることができます。
 この『コラテラル』は、殺し屋とこの運転手の、ある日の夕方から翌未明までの物語です。

 殺し屋は、最初の暗殺で運転手に殺人のことを気付かれてしまいます。運転手は殺し屋の手伝いを嫌がりますが、殺し屋は脅したりすかしたりして運転手に言うことを聞かせます。
 一人、また一人と暗殺を続けていく殺し屋。殺し屋は、「言うことを聞かないと、何にも関係のない人々を射殺するぞ。」と運転手を脅します。善人で運転の腕はいいが決断力に乏しい運転手は、巻き添えがでることを恐れて殺し屋に従ってしまいます。また、偶然入院中の母親の存在を殺し屋に知られてしまい、母親も巻き添えの脅しの対象になってしまいます。「言うことを聞かないと、町を出る前に必ずお前の母親を殺してやる。」と言われれば、だれだって言うことに従いますよね。

 この殺し屋、一風変わっていて、妙に哲学的です。殺し屋として行う殺人を哲学的に肯定的に考えています。そして、宇宙という視点で見たら、人間の生死などは取るに足りないものだと言います。もうサイコパスです。

 一方運転手は、将来はリムジンの貸出会社を経営することを夢見ています。そのためタクシー運転手を続けていますが、なかなか会社立ち上げの決断ができません。

 残るターゲットはあと一人というとき、殺し屋はタクシーの中で「借金してリムジンを買えばよかったんだ。とにかくはじめるんだ。考えているだけじゃなにも始まらない。」と運転手に言い放ちます。殺し屋に決断力のなさをなじられる運転手。怒った運転手は、二人が乗っているタクシーを暴走させ横転させます。

 この交通事故現場からまず殺し屋が離脱して、最終のターゲット(女性検察官)の元に向かいます。
 運転手は、運悪く警察官に捕まりますが、なんとか逃げ出し、やはり殺し屋の向かう先に走ります。

 殺し屋より先にターゲット(女性検察官)を見つけ出した運転手は、二人で地下鉄に乗り逃げようとします。
 しかし、それを追う殺し屋。

 とうとう運転手と殺し屋は、地下鉄内で対峙します。
地下鉄の車両を隔てるドアを挟んで向かい合う運転手と殺し屋。

 殺し屋は、運転手に「これは、仕事なんだー!」と叫びながら拳銃を撃ちます。
 運転手も発砲します。

 殺し屋は、全弾撃ち尽くし、オートマチック拳銃の弾倉を交換しようとしますが、その弾倉は手から滑り落ちます。被弾したのは殺し屋の方でした。肝臓の辺りから出血しワイシャツがみるみる赤く染まっていく殺し屋。
 出血が多くて立っていられなくなった殺し屋は地下鉄のロングシートに座ります。
 殺し屋が負傷していることを知り、そのすぐ横に座る運転手。

 さっき撃ち合った二人が仲良く座っている。不思議な光景です。

 殺し屋は、「地下鉄で一人死のうが誰も何とも思わない。」と言い残して息絶えます。

 拳銃の扱いが堂に入っていると定評がある俳優は、アラン・ドロンとスティーブ・マックイーンですが(二人とも軍隊経験があります。)、トム・クルーズの拳銃の扱いも自然でした。演技で操作している感じがしませんでした。

 暗殺のターゲットの一人、ジャズバーのオーナーを射殺するとき、トム・クルーズはオーナーの思い出話を笑顔で聴きながら、テーブルの下で拳銃にサイレンサー(今はサプレッシャーと言いますね)を装着し、厨房の皿洗いの姿が見えなくなったとき、いきなりターゲットの額を撃ち抜きます。
 悪役といえば悪役ですが、桁違いの悪役演技に震えそうでした。
 映画『羊達の沈黙』のレクター博士とどっちが恐ろしいだろうか、とよく考えます。 

以上


#映画感想文 #コラテラル #トムクルーズ

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