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映画『スニーカーズ』 ーコンピュータが魔法の箱だった頃ー


はじめに

 アメリカ映画『スニーカーズ』(1992年)は、Windows95発売前の映画です。私は1996年頃にテレビ放送で観ました。Windows95ブームの頃は、パソコンを持っていないのにWindows95を買う人がいたり、一人で数本のWindows95を買う人がいたりなどまだパソコンについて勘違いをしている人が少なくなかった時代です。それより前に公開された映画ですから、作り手も観客の「パソコンの能力とコンピュータ(パソコンを含みます。)を取り巻く技術に対する知識不足」を修正しようとしたり、映画を盛り上げるために能力を過大に設定したり、いろいろな意味で効果的に使っています。

1 ハッカーという新手のダークヒーロー

 この映画の主人公(ロバート・レッドフォード)は、かつてパソコン(かつては「マイコン」と呼ばれていました。)オタクで、今は数人のメンバーと、銀行などから自社のセキュリティーを破ることを依頼され、実際に破って見せてその弱点を報告するというセキュリティー診断的な仕事をしています。
 また、彼(主人公)は、学生時代に友人と二人でハッキングして他人の銀行口座を操作し慈善団体に多額の寄付をします。そんなことをしているとき警察に踏み込まれますが、主人公は運よく逃れます。でも、友人は逮捕されました。
 主人公はその友人への借りを抱えて生きてきたわけです。
 このダークヒーロー的な雰囲気を纏った主人公ですが、彼はハッカーなので「映画『荒野の用心棒』のクリント・イーストウッドが拳銃の替わりにエレクトロニクス機器を持って戦う。」展開になるような予感がします。

2 映画でのコンピュータの役割

 これは、現代でも似た傾向があると思いますが、映画や漫画ではコンピュータの能力を万能に描き過ぎです。多くの映画では、すぐどこかのビルの監視カメラシステムに侵入したり、法執行機関のシステムから重要情報をダウンロードしたりしますが、IDや暗証番号が分からない状態でそれをするのは無理です。また、そういう無理を押し通すために、「天才ハッカー」とか「超コンピュータオタク」を登場させますが、彼らは道具や情報がある程度揃っていれば超人的な技術を発揮しますが、そういうものがなければできる範囲には制約があります。こういう設定という点では映画『ダイハード4』は、一応の説得力がありました。
 映画007シリーズでも、コンピュータに関してはリアルな描写が多いので、好感が持てます。
 映画でのコンピュータの役割が、「魔法の箱」から「最先端技術の電子部品の詰まった箱」に変化してきたように思われます。
 

3 暗号技術に光を当てる

 この映画では、敵と見方とである電気回路を作り込んだチップを奪い合います。それは暗号解読用チップで、これがあると発電所だろうが空港の管制システムだろうがシステムに入り込むことができます。
 この映画の当時、暗号というものに関心を持っていた人がどれくらいいたのか分かりませんが、多くはなかったでしょう。そのせいか、この暗号解読回路について、映画でも数学者が作ったくらいしか説明がされません。映画で、「公開鍵」とか「秘密鍵」なんて言っても多くの観客は「は?」と思うだけでしょうから、それはそれでよかったのでしょう。
 ただ、このことで、すこしは一般に暗号化技術のことが広がったらいいなと思いました。

4 追跡技術と文字通りのスニーク

 物語の途中、主人公が敵に拉致され、自動車のトランクに入れられて敵のアジトに連れていかれます。
 後日、主人公(敵の用件が済んだら無事解放されました。)とその仲間のハッカーは、トランク内で主人公が録音した自動車の走行音や周囲の騒音等から、その自動車の走行ルートを割り出し、敵のアジトを見つけだします。
 映画の舞台はサンフランシスコなんですが、この追跡方法はかなり面白く、思わず見入ってしまいました。
 また、その後公的機関に電話で相談しようとするのですが、その電話も発信元が探知されないようにする工夫が凝っていました。
 電話先の公的機関は、当時極秘扱いだと言われていたNSA(National Security Agency 国家安全保障局)だったので少なからず驚きました。今考えれば、公的機関で極秘扱いってのはおかしいのですが(大体CIAが秘密扱いじゃないんですから)、当時はそう思っていました。

5 実寸大のスーパーコンピュータ登場

  敵のアジトでの出来事ですが、主人公と敵の幹部とが一対一で会話するとき、スーパーコンピュータの台座に腰掛けていました。
 そのスーパーコンピュータは、Cray Y-MP という当時憧れのコンピュータでした。でも、今のパソコンほどの処理機能もないだろうと思います。勿論、日本のスーパーコンピュータ「富岳」に太刀打ちできるはずもありません。
 それにしても、実寸大(と思われる)Crayコンピュータを見ることができたので、そのといの主人公らの会話はまったく入ってきませんでした。だから未だにどういう会話だったのか分かりません。

6 この映画の山場とNSAの登場

 この映画の山場は、主人公が敵のアジトに忍び込み、奪われた暗号解読用チップを奪い返すときです。
 敵アジト室内を監視している人感センサーに引っ掛からないように超ゆっくり歩く主人公。スニーカー(sneaker)はもともとスニーク(sneak 「こそこそ動く」)から来ていますが、その時の主人公はスニークしていたスニーカーでした。
 結局、無事暗号解読用チップを奪い返して帰ってきた主人公らを出迎えたのはNSAの局長でした。その暗号解読用回路を渡せというのです。
 いやいやながらも、豪華な見返りを求めるスニーカーズ達。
 スニーカーズの一人(リバー・フェニックス)は、NSA局長を警護する若い女性警護員とのデートを見返りに求めます。「なんでも手に入るチャンスなのに、私とのデートでいいの?」と感激するその女性。
 リバー・フェニックスは、電話オタク(通信オタク)で、女性とのデート経験がまったくないのでした。そういう気持ち、私は分かります。

7 ハッカーの矜持(きょうじ)

 結局、暗号解読用チップはNSAに渡したのですが、映画の最後にテレビのニュース放送が映ります。
 そのニュースは、「何者かにより、〇〇の口座から、慈善団体の口座に△△万ドルが振り込まれ・・・」という、内容です。
 主人公は、実はNSAには偽物を渡し、本物の暗号解読用チップを隠し持っていて、昔やったハッキングをまたやったのではないか。と思わせてこの映画は終わります。

以上

#映画感想文 #スニーカーズ #CrayY -MP

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