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【日曜美術館(4)】だるまさんの魔法 絵本作家かがくいひろし

子を持つ親ならば、誰でも一度は目にしたことのある絵本『だるまさん』シリーズ。僕も1歳半の娘がいるので、絵本の読み聞かせ会などで見たことはあったものの、一体どういう人が描いたのかまでは全く知らなかった。

作者の名前は、かがくいひろし。珍しい名字ながら本名で、漢字だと「加岳井広」と書く。2005年に50歳で絵本作家としてデビューした直後から爆発的な人気を博したものの、54歳で膵臓がんにより惜しまれつつ逝去されたとのこと。つまり絵本作家としての活動期間は、わずか4年に過ぎないという。

僕は仕事柄、色んな病気のことを知る機会があるんだけど、特に膵臓がんは進行が早くて、宣告されたと思ったらあっという間に亡くなられるケースをいくつか見てきたので、氏のように人気絶頂の折に志半ばで亡くなられるのを見ると、人生の無常を思わざるを得ない。

閑話休題。氏の代表作『だるまさん』シリーズは、柔らかな丸みを帯びた赤いだるまさんが、左右に揺れつつ「だ・る・ま・さ・ん・が〜」の言葉に続いて「どてっ」などの動きを繰り広げる絵本だ。これが、特に0〜3歳児の乳幼児に大ウケするということで人気を博した。

番組を観ていてまず感じたのは、とても身体的だなということ。だるまさんが左右に揺れる描写は、左から右に等間隔で描かれているんだけど、ちょうどパラパラ漫画みたいに動きが表現されている。

これに「だ・る・ま・さ・ん・が〜」と声に出して読み聞かせてあげることで、子どもたちも一緒に左右に揺れつつ、一緒にドテッと転んでは、大爆笑。無駄を削ぎ落とした音と動きで子どもたちの興味を惹くその構成は、まさにシンプル・イズ・ザ・ベストの体現といってよいだろう。

これには、氏が美大を卒業して以来、長年の間、支援学校で勤務されてきた経験が活かされているという。例えば、身体であれ知的であれ、障がいのある子どもたちには、文字が多かったり、複雑な構成の絵本は理解するのが難しい。そのため、氏は人形劇や音楽などの、目で見て耳で聴いて楽しめる遊びを重視していたという。

翻って本作は、パッと見て分かりやすく、大人の膝の上で一緒に揺れながら読むことができる。時には大人の身体にすっぽりと包まれるようにして、その体温を全身で感じながら読むこともあるだろう。僕もよくそうして娘に絵本を読んであげている。このように本作には、直接身体に訴えかけてくるようなリアリティがあるのだ。

話は少し逸れるが、人間の身体とは、あるいは自分のカラダとは、存外不自由なものだと常々思う。手や足はある程度は自在に動かすことが出来るけれど、それ以外の部分は、関節や筋肉の具合でちょっと思うようにはいかない。背中や顔なんて、自分のカラダなのに直接見ることも出来ないし、もちろんカラダの内部もそうだ。病気やケガだって、なりたくもないのに勝手になる。

そういう意味で、人間の身体は、自分のカラダであっても、不自由な部分が非常に多い。大人ですらそうなのだから、話すこともままならない乳幼児や障がい児は、口には当然出せないものの、もっと不安を抱えているんじゃないかと思う。

そうした不自由なカラダへの不安に対して、本作は、とてもシンプルかつユーモラスに応えているんじゃないか、そしてそれが本作が絶大なる人気を誇る理由の一端なんじゃないかと、ふと思った。

また、面白いのは、氏の作品には、だるま以外にも日常生活の身近な動物やモノを擬人化して描いた作風が多い。2009年の『おふとんかけたら』では、掛け布団をかけられたタコやソフトクリーム、トイレットペーパーが、その身体的特徴に応じて、足を巻き付けたり、溶けたり、転がったりする。そこにある種のユーモアが生じるわけだが、やはりここにも『だるまさん』シリーズで見られた身体性が、擬人化されたモノでも同様に、あるいは少し発展的に描かれており、興味深いところである。

番組中で紹介された作品はごく僅かであるから、多くは語れないが、是非とも今度、図書館で借りて娘に読んであげてみようと思った次第である。

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