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【読書感想文(6)】デイヴィッド・エディングス『ベルガリアード物語①予言の守護者』


太古の昔、莫大な力を秘めた宝石〈珠〉をめぐって神々が熾烈な戦いを繰り広げた。争いの末に魔術師ベルガラスが邪神トラクを倒し、その復活の日まで争いにひとまず終止符を打ったのだった……老人ウルフの語る神話は、平和な農園で暮らす少年ガリオンの一番の楽しみだった。しかし少年の人生はある日を境に一変する。世界の命運を賭け、予言を成就する冒険の旅に連れだされたのだ!大好評ファンタジイ巨篇、新装版登場!

内容紹介(裏表紙より)

デイヴィッド・エディングスとその妻リーの共著による本シリーズは、僕にとって数あるファンタジー小説の中で最も好きな作品の一つだ。個人的な話で申し訳ないが、大学時代に通学電車の中でシリーズを通読した思い出は、今思い返しても幸福な時間だったと思う。

さて、まず本シリーズの特徴を言うと、複数の神々が各自特定の民族を選んで加護を与える多神教的世界観を背景にしており、まぁファンタジー小説では結構よくある設定だとは思うのだが、興味深いのは神々が至高の存在ではなく、その上位に自由意思を有する「予言」が存在するということだ。

そして、予言は自らの「成就」を目的として神々や人間を将棋の駒のように使役する。登場人物たちは大袈裟に言えば予言の糸に操られているに過ぎず、そういう意味ではボードゲームやロールプレイングゲーム的な感覚を覚えるのだが、しかしながら、そのことが原因で人物描写が浅くなることはない。

なぜかというと、本シリーズの最大の魅力は、ある時はウィットに富み、またある時はブラック・ユーモアを交えた登場人物たちの会話が絶妙に笑えるところにあるからだ。ともすれば人種差別的な発言も多いため、昨今のポリコレ・ブームのハリウッドでは実写化は期待できないだろうが…笑

閑話休題。軽業師兼スパイのシルクは徹底的にアイロニカルな性格だし、善人ダーニクは常に実際的な善人を演じるように、一度設定されたキャラクター設定は基本的にブレることはなく、それでいて次から次へと新たな国を訪れては癖のある新キャラクターが仲間になるため、個性掛ける個性の乗算をこれでもかと押し出した小説である。

また、本巻に関して言えば、主人公ガリオンの少年から青年へと移り変わる微妙な心情の揺らぎがよく描けていると思う。生まれてこの方、センダリアのファルドー農園以外の世界を知らず、また幼い頃に両親を亡くして親類はポルおばさんのみだと信じていた彼にとって、そうした世界の基盤、心の拠り所が一挙に崩壊してしまった時の絶望感はいかほどだったろうか。

そもそも明るめの小説なのでガリオン少年が絶望の淵に突き落とされることはないが、巻末で「僕は両親のことを知らなくちゃならないんだ」とベルガラスに語る彼の気持ちは素直に理解できるし、腐らずまっすぐに育っておくれよと老婆心ながら思ってしまう僕である(もちろん、先の見え透いた物語なので、絶対に闇堕ちなんぞするはずもないのだが)。

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