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アニメ「義妹生活」の訴えるもの

来期が迫りつつある9月。
私はまだ9月1日です。
今日は「義妹生活」の最終話先行上映でした。

いつもの夏クールアニメまとめに書くにはちょっとスペースが足りないので、「義妹生活」について別記事で語ります。

毎度のことですが、全てネタバレ含みます。
アニメしか見ていないので原作も、youtubeコンテンツも見てませんので悪しからず。
あと、原作者の方がとても細かく解説(しっかり考えて見る人向け)をXに上げていますので、それとはちょっと違う見方で行きたいと思います。そんなに違いないですが…。


作品全体の感想

この作品、近年のアニメでは、異色の作品です。

ラノベ原作であったり、ラブコメだったり、部分要素は定番ですが、その描写・ストーリーが
アニメらしくない
という作品です。

その上で、それがこの作品たらしめている、つまり

見えるもの・聞こえるもの・動くもの(アニメーションの基本)では語れない

という作品なのです。
だからこの記事もあまり、意味はありません。
でも、書きたくなってしまう、
人にそうさせるエネルギーが詰め込まれていることを私たちは感じるのです。

静物画

この作品を見始めて思い出したのは「リズと青い鳥」でした。

「リズ鳥」の中で山田監督は、
学校の様々なものが
希とみぞれのやり取りを見守り、そしてそれをずっと受け継いでいく、主人公でもある
というようなことを意識してたようです。

この作品は喋る人の顔を写さず、
視線の動きすら、画角がずれていたり、
ものがあること、光やちりの変化そのもの、
がフィーチャーされます。
監督もそうなってしまったと、トークで話していた気がします。

まさしく、私たちはそこにいる

それが静物画(実際には違う)だからこそ、そう感じられるのです。
それは理屈ではあるものの、何より感性に訴えかけてきます。

見えるものも見えない

タイトルの色や、髪を切ったりだとか、
アニメーションなのですから、当然目に入るものであっても、それが認識のメインにならない。

呼び方が変わっただとか、集団のなかでのつきあい方が変わったとか、
見ていれば読み取れる変化も、直接モノローグや言語化しない。

つまり、見えるものが全てではなく、聞こえるものも全く補ってくれない。
この作品、説明がかなりないんです。

これは次の「期待」ということでもありますが、
視聴者は監督から期待されていたんですね。

大切なものは目に見えないといいますが、
目に見えるものに頼ってはいけないのです。
それこそが、芸術であって、
人の感情なのでしょう。

期待とすり合わせ

このアニメーションのテーマです。
私は、登場人物の繊細な感情が、どう揺れ動くのか毎話毎話面白くてこの作品が好きになったのですが、

1話で出てくる「すり合わせ」という言葉が、
最終話で「期待」という逆の言葉で附置されるのが

なるほど、これを書きたかったのか、
そしてそのために種﨑さんなんですね(関係ない)
となりました。

思えば「すり合わせ」という言葉はあんまり日常生活では使いません。
ぱっと思い浮かぶのはビジネスの場面でしょうか。
ましてや高校生がです。

でも、「感情のすり合わせ」や、「コミュニケーションのすり合わせ」を
本当は私たちはやった方が快適に過ごせるように思えます。

なぜやらないか。
面倒だからでもありますが、
私たちは普段から相手に期待して、それで大抵上手く行っているからです。

でも、しかし、人は期待をしなくなる時があります。
それは裏切りに合ったときです。

浅村くんは女性に期待しない、
綾瀬さんは基本的に全員に期待しない、

それぞれ過去の傷があってからです。
すると用心深いコミュニケーションをとるようになりますし、
あまり人と関わりたくなくなる。

でも「家族」はその距離感を打ち壊してくれたのです。

そしてそんな彼らを見て、
私たちはつくづく人に期待しないで生きていけないし、
その結果、気持ちを押し殺してしまうこともしばしばあるのだと。
でもそれでいいのだと、これまた肯定的に受け取れる。
そんな作品のエンドになっていることも、
本当に良かったなと思いました。

音響のこだわり

この作品、制作スタッフさんたちの活躍がすごい。
原画は一番目を引くところで、もちろん、表情がなんとも言えないニュアンスを表現していて素晴らしいですが、

動画の撮影、効果、色彩設定まで全てが繊細で、
作品の雰囲気を完成に持っていっています。

そして変態チックなのが音響。
至るところに、細かなニュアンスが込められた音響効果が入ってます。一番出てくるのはノックの音。
他には椅子を引く音とか、戸が閉まる音とか、
音1つとってもニュアンスが違うのがすごい。
でも、よく聞かないと聞き分けられないので、何度も見返すといいと思います。
まずは、バターの音から。

抽象的な感想

抽象的な話になります。

義妹生活は関係性をフックにした、
私たち人間の感性についてのストーリーです。

バトルも生き死にもない、
主人公が色んなヒロインに好かれる…わけでもなく、
感じ方によってはなかなかしっくり来ない人もいるんじゃないかなと思ってます。
その表現技法もまた、作品の解釈の幅を広げ、
正解を隠してしまいがちです。

ただ、アニメーションという表現、
高校生=思春期の、幼少期から身に付けてきた感性の分岐点、
人間が他者を愛してしまうのはなぜか、という哲学、

いずれも私たちの感覚の本質を揺さぶるものであり、
理屈で考えることではない、
つまり本能に語りかけてくる作品なのだと思います。

エロゲだと義妹設定がよく出てくる、って知ってる世代に刺さりやすい設定だとも思いますが、
その実、色んな人に見てもらって感想を聞いて回りたい作品ですね。
案外、もっとダイレクトに感情を伝えた方が生きやすいでしょ、みたいな人が多いのかもしれません。

いずれにしても、私たちは頼り、頼られることが「普通」になってしまっている。
そんな中で個人主義を進めることは、本人は隠したい、隠しているはずの自らの傷を開示していくようなことで、
頼らないという武装は、脆さと表裏一体になっている。
私たちは、心理的な傷を認識した上で、裏切られた過去と向き合いつつ、
それでも人を好いて、期待して生きていく動物なのだと思います。
それは、例え数少ない人しか期待できないにしても、
ありのままの感情を伝えられる、そういった関係性を築ければ、
深く支えあって生きていける。

最後に、
意外と「期待」というのは、人間味に溢れた思いで、
AI、プログラミングに代えられない、
理屈からは、少し欠けはなれたものだと思います。

「すり合わせ」も実は同じ。
機械的に割りきれない感情に揺さぶられることは、
苦しいことであれど、
生きている実感にもつながることのように思いました。

そんな静かなアニメーションにもかかわらず、
また繊細な心にもかかわらず、
人間の生を動的に示してくれる、主人公たちの生き方は、
私たちの本質を表現していて、
今、現代に必要なものを届けてくれている気がします。

そう。見終わると心が少し暖まる。
二人のこの先をまた見たくなってしまいました。


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