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名前を呼ばれたことが嬉しくて泣いた話
「〇〇ちゃん」
驚いて、一瞬時が止まった。
名前を呼ばれた。ただそれだけだ。
なぜ今なのかわからないが、数秒間、過去の自分に戻っていた。
私は、空気になることに徹していた。
クラスメイトからは存在を認識されていなかった。
やむを得ない用がある時もまともな名前で呼ばれることはなかったし、いつもトゲがあった。
挨拶が空に溶ける。
そんなのは日常で、当たり前で、だから特に声を上げることはなかった。私なんだから、仕方がない。
だけど、
名前を呼ばれただけなのに、なぜか痛い。
何にもされていないのに、息苦しい。
今に戻る。
あの人の声の響きはあたたかかった。
思えば、大学に入ってからは、みんな笑顔で挨拶してくれるじゃないか、名前を呼んでくれるじゃないか、話しかけたら応えてくれるじゃないか。
あぁ、涙がこぼれそうだ。
私だって、一人の人間なのだ。
ようやくここが安全な場所であると理解できた瞬間だった。3年もかかってしまったが。
名前を呼ばれただけなのに、なぜ涙がこぼれるのか。
きっと嬉しくてたまらないのだ。
ありがとうの涙を流したのはこの時がはじめてだった。
私はずっと、名前を呼んでほしかったのだ。
名前を呼ぶことは存在の肯定だ。
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