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例えるなら、薔薇のような。



「梅!」

「梅澤さん!」



今日もどこかで、こんな声が聞こえる。
声の主は先輩、同級生、後輩なんて関係なかった。

そんな人が、私の席の前にいる。

「おはよ!」

例えるなら、マンゴーフラペチーノのような爽やかさと

「昨日食べすぎちゃったぁ。」

キャラメルフラペチーノみたいな甘さだ。




だからこそ、私はいつだって


「それでも、梅は綺麗だよ。」








ホットスナックみたいな定型文しか返せない。




「久保さ、、、。」

「嫌だ。」

「お願い!!」

「宿題ぐらい、自分でやりなよ。」



”ヒロイン”な梅だけど、
私の前ではなんだか普通の女の子で。
なんだか嬉しいっていうのは、私だけの秘密。
でもこんな時間はいつだって、あの子に持っていかれる。


「、、、邪魔。」




YouTubeの広告みたいな彼女は、
いつだって私の隣に座る。
それがなんとも不快で、自然だった。


「もうちょっと愛想よくできないのかね。」


私の前の子は私の方を見ながらそう言った。
私はいつもこの問いにこたえられない
きっと、顔が近いからだと思う。


いい匂いがする。


触れてしまいそうな距離にいる彼女を横目にそう思った。




「文句があるならハッキリ私に言えよ。」

「、、、。」

「、、、しょうもな。」




いつもとは違う展開そのままに
クラスの空気が凍てつくのが分かった。
けど、そんな時間は一瞬で。


「何アイツ?」
「かっこいいと思ってんのかね?」


すぐに取り巻きが脇を固めるんだ。
その姿が少し滑稽で、不気味だった。


「し、、、久保さん。」

「ん?どうしたの?」

「顔、赤いよ?」

「へ?」

「、、、ちょっとこっち来て。」









女の子だけの集合場所
上履きからスリッパに履き替え、入っていく。


「ここに座って。」


女の子の中じゃ群を抜いて高い身長の梅が、
なんだか倍ぐらいに見える。

あ、私が座ってるだけか。

「どういうつもり?」

低く腹の底に響く声で梅は言った。

「どういうこと?」

「とぼけないで。」

私の腕をつかむ力が強くなった。

「山とは、別れたんだよね?」

「もちろん!そうに決まってるじゃん!」

必死になってそう返したけれど、梅は力を緩めない。
今、私の目に映る梅は”ヒロイン”なんかじゃなかった。


「じゃあ、証明して。」

「どうやって?」

「決まってるでしょ。」


遠くに梅の取り巻き達の声がする。
どうやら、ここに来たようだ。


「ここじゃまずいよ。」

「いいから。」


梅の綺麗な顔がゆっくりと近づき、
目の前が真っ黒になった。
ほんのり、コーヒーの匂いが鼻を通って行った。

「ん、、、。」


「なんか聞こえなかった?」
「気張ってんじゃない?」
「あー。なるほど。」




水の音が止み、私たちだけの世界になった。
鼻に通るコーヒーと例えようのない甘い匂いは、
より強くなった。




「梅、もう授業始まるよ。」

「ん、、、。」

「まだ足りない?」

梅は目線を自分のスカートに落とした。
スカートにあるシワが少し、深くなった。

「今日、私暇。」

「へー。そうなんだ。」

「家に誰も、いない。」

「うん。」

「来てくれる、、、よね?」





すっかり”ヒロイン”の鎧は解けていた。


「宿題やったらね。」

薔薇のような貴方が、愛おしい。






「じゃあ、今日待ってる!」


一面オレンジ色の教室から出ていく”ヒロイン”。
日直の仕事が終わっていない私は一人残っている。




ーーーーギュ。


そう聞こえるほど、強く縛られた。
私は気にせず、今日の授業の清算をしていた。



「無視しないで。」

「してないよ。」

「今日、家に来るって言った。」

「言ったね。」

「でも、」

「大丈夫。忘れてないよ。」










山?




fin














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