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「南桂子展 透き通る森」に行って・2

南桂子展続き。南桂子の絵をじっと観ていると、そこにいない人の存在が浮かび上がり、お話が立ち上がってくる感覚がある。小川洋子の引用をまた(エッセイ「友だちのお城」から)。

"あるいは誰かがいる様子などわずかもうかがえないお城や教会や時計塔も、じっと目を凝らしているうち、小さな窓の向こうに隠れた人影が、感じ取れるようになってくる。その人は一人ぼっちで泣いているお姫様だろうか。ろうそくの炎に照らされながら祈りを捧げる老婆だろうか。それとも何十年とぜんまいを巻き続ける時計守だろうか。"

 あの少女はどこに向かっているのだろう?鳥が飛んでいく先は?お城に住んでるのは誰?絵の世界に誘発され、頭の中で物語が動き出す。そんな想像する楽しさが南作品の魅力。

 最後に私の好きな「城砦」(1980年)をご紹介。小川洋子さんも今回の企画で、この作品を選んでいて嬉しかった。

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 城砦を横切るように歩く少女はどこか寂しそうだ。しかし彼女は一人ではない、後ろには犬が一緒にいる。この二人の距離感が良い。べったりくっ付いているのではなく、少し間をあけて、でもちゃんと少女に寄り添う犬。二人の信頼関係が感じ取れる。
 特別企画の会場には何枚かカードが置かれていて、表に作品、裏にその絵を観た小川さんのつぶやきが書かれていた。「城砦」を観た小川さんの感想は

"この女の子はこれからどこに行くのか?でもきっと行ったきり戻ってこない"

 そう、少女は行ったきり戻ってこないかもしれない。どこに行ってしまったのか...。私もこの絵を観て自分なりのお話を作りたくなった。例えばこんな出だしで

"昔、森の奥に古い城砦があり、そこに少女が住んでいた。彼女は他に家族もなく一人ぼっちで、唯一の友だちは一緒に暮らす犬だった。ある日のこと..."

(おまけ)
①タイトル画像は会場で購入したポストカード。左は「街の門」(1967年)、右は「林の中の城」(1969年)
②これも会場で購入した『小川洋子のつくり方』(田畑書店、2021年)。装画は山田ミヤさん。南桂子につながる世界

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③南桂子が装幀・装画を担当した谷川俊太郎『空に小鳥がいなくなった日』(サンリオ出版、1974年)。展覧会に行った後、どうしてもこれが欲しくなり、神保町の古本屋で手に入れた。いつかこの詩集の話をしたい。




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