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人のいない楽園 序章        敗北の記録  第四話


2021年7月午後3時、某三流大学校舎裏で桜木巧は誰かを待っていた。やけにそわそわした様子である。夏だというのに似合わないスーツを着ている。するとそこに色白の背の高い巨乳の女性がやってきた。ラフな格好で短パンにタンクトップである。「お待たせ~。」「芹沢さん来てくれてありがとう。来てくれないかと思っていたよ。」巧の表情が明るくなった。「ごめんね~B校舎のエアコンが調子悪くてさー。講義中暑くてさーその上講義が長引いちゃてさー。コンビニでアイス食べてから来たんだー。」目のやり場に困る巧。「話しって何?。」巧は緊張していたが落ち着いた様子で話し始めた。「芹沢さんって今お付き合いしている人はいないよね。」少し不機嫌な様子で芹沢京子は話す。「やっぱりなー。噂ってすぐに広まるよねー。ネットやスマホが無かった時代がうらやましいなー。」空を見つめる京子。「率直に言うね。良かったら俺と付き合わない。努力するからさ。」京子は今度は手を後ろに組んで下を向く。「ええ~だって私が彼氏と別れたのは昨日だよ、タイミング良くない?。」巧は京子がフリーになるタイミングをずっと狙っていた。京子が昨日まで付き合っていた彼氏は身長180cm以上ありバスケ部のエースでイケメンだった。しかしバスケの練習が忙しくあまり京子とデートする事も無く又苦学生でアルバイトしながら生活費の一部を賄っていた為あまり京子と会えていなかった。又バスケ部の女子マネージャーと仲が良くいつも一緒にいるので京子は自分が粗末に扱われていると思い込み、切れて別れ話をしたのだ。「俺は芹沢さんを大切にするよ。帰宅部だし。いつでも一緒に居られるよ。」焦りながらも笑顔で告白する巧、しかし・・・「これで4回目だよ~いいかげん諦めてよ。あたしさ~かっこいいイケメンがタイプなのよね。桜木君ちょっと太ったんじゃない。それにその服装は無いんじゃないかな~。一緒に居て恥ずかしくない彼氏が欲しいんだ。んじゃね~。」京子は軽く手を振って巧の告白を断った。「かっこいいイケメンか~。やっぱそうだよな~。ようし!。」巧は何かを決意したようだ。
翌日、校舎の陸上競技場の空き時間にジャージ姿でタオルを首に巻いた巧が炎天下の中ジョギングをしていた。「はーはー。まずは・・・ダイエットだな。10kgは痩せないと見た目が変わらないだろうな。」必死でジョギングを繰り返す巧。「あいつ何やってんだ?。バカじゃないの?運動部でもないのに。」嘲り笑う学生たち。しかし巧はやめない。ジョギングが終わるとバイトに出かけた。なれないブティックで接客のバイトをしている。何故ならブティックで接客する事でコミュニケーション能力を高めなおかつファッションセンスを磨こうと思ったからだ。「お客様は渋い貫禄がある方なのでこのシックなデザインのジャケットはいかがでしょうか?。」「そうかな~。じゃあこれにしようか。」「ありがとうございます。」深々と頭を下げる巧。「なるほど、色黒で細身のシニア層にはこのデザインのジャケットが良く似合うんだな。」休憩中も店にあるファッション雑誌を読んだり店に来るお客さんの服装をチェックしていた。そんなある日店にあるカップルがやってきた。「今日は私が見立ててあげる。」「ありがとうまゆみ。やっぱりまゆみが一番だ。」巧はカップルがいちゃついているなぐらいにしか思わなかったが次の言葉でハッとなった。「そういえばさー又芹沢京子が男と別れたんだって。これで何回目だよまじで。」「またかよ。これで3回目だぜ一年間で。よくやるよな~。顔とスタイルはいいんだけど中身が最悪だからな~俺はパスだな。」「何言ってんの、あんたなんかアウトオブ眼中よ。」京子の悪口を言っていた。巧は頭の中が真っ白になりカップの前に出た。「お客様、お帰り下さい。お客様のような常識のない方にお売りするものは当店にはございません。」言い終わると背中を向けた。「おい!なんだその態度は!それがお客様に対する礼儀かよ!。」巧の肩にカップルの男が手を載せた。「これが私の礼儀でございます。」そう言い残して去ろうとすると。「おいふざけんな!ぶっころずぞてめえ。」巧の襟首をつかんだ。あわてて店長が止めに入る。「お客様暴力はおやめください。さもないと防犯カメラを見てショッピングモールの交番から警察がやってきますので。」巧はスマホで何か話している。「もしもし、警察ですか。今暴行を受けました。怒鳴られて襟首をつかまれて殴られそうになりました。証拠の動画もあります。すぐ来てください。」大声でしゃべる巧。「ちッ覚えていろよ。顔覚えたからな!。」カップルは去っていった。
結局巧はアルバイトを首になった。この一部始終を巧の友人が見ており動画に記録していた。巧の友人は以前病気で単位を落としそうになった時に巧に課題を手伝ってもらい助けられたことがあり恩を感じていた。翌日学校で巧の友人が京子を見つけて近づいた。「京子ちゃん面白い動画撮ったよ、見て見ない?。」京子は女子友と立ち話をしていたがその動画に興味があるらしく寄ってきた。「なになに。」「喧嘩の修羅場だよ。」友人が巧とカップルのやり取りを京子に見せた。「あーこいつだいぶ前に京子にコクッて来たバカ男じゃん。図体ばかりでかくて不細工だから速攻で断ったのよね。って京子の悪口言ってんじゃん!何がパスだよバカ野郎!。ん?これ桜木君じゃない?ええ、根性あるな!」京子はそのカップルを店から追い出そうとし絡まれ、巧よりはるかにでかい男に襟首掴まれてもひるまない姿を見た。「へーいい気味じゃんバカップルが!」京子の友達が京子の気持ちを代弁しているかのような事を言っている。京子は無言でその場を立ち去った。巧は炎天下の中またジョギングをしている。ジョギングの効果で体もかなりスリムになっていた。「今日の目標運動量はクリアっと。大見た目もずいぶんよくなった。良かった良かった。濡れたタオルで体をふいた巧はバイトで買ったジャケットに着替えてロッカールームを出た。すると一人の女性が立っていた。「おつかれー。はいどうぞ。」「え!」京子だ。京子が缶コーラを巧に手渡した。「ああありがとう。でもなんで?。」「昨日バイト先で喧嘩していたでしょう。動画撮っていた人がいてさー。みちゃった。」「えええ!。」「自分を振った女性の悪口を聞いて切れて喧嘩する男なんて初めて見たよ。私にフラてた男はみんなSNSで私のあることない事言いふらすのにさ~。あんたえらいね。」「そりゃ好きだった女の子の悪口いわれりゃ腹立つさ。」「好きだった?。もう好きじゃないの?。」「はあ?。」「気が変わったわ。あんたにチャンスをあげる。友達から始めない?。」「ええええええ!。」これが京子と巧の馴れ初めだった。
2024年3月後半某日。会社に返事をする期日は残り2日となった。仕事は引継ぎが無いためこれまでの取引先への挨拶が終わるとやる事が無く午後から有給消化が許された。巧は昨日予約したマヤ様の占いの館にそのまま向かう事にした。「ふう。あれだけ忙しかったのにリストラされると決まったら急にヒマになったな。今までの苦労は何だったんだろ。」巧は電車に乗りふと向かって前の席のカップルを見たすると。「う!なんだこの頭痛は!しかも吐き気がする。」突然気分が悪くなった。「いかん、吐きそうだ。」巧はあわてて次の駅で降りた。「あれ?なんともない?。いったい何だったんだ?。」不思議な症状に襲われながらも何とか占い師飯能マヤの”マヤちゃんのときめき占いの館”に到着した。「いらっしゃいませ。こちらでお待ちください。」待合室に通された。すると若い高校生風のカップルが待合室で抱き合っていた。人目を気にする様子もない。「いいなあ。俺もちょっと前までは京子と・・うっ。」巧はまた頭痛と吐気に襲われた。「すみません。トイレはどこですか?。」あわててトイレにかけこむ巧。「あれ?治った。」キョトンとする巧。すると場内アナウンスが流れた。「桜木巧さーん。占い室にきてくださーい。」「え?俺の順番来たの?。」待合室のカップルの占いがすぐに終わったようだ。占い室は薄暗いが奥にスポットライトがあり、奥にマヤ様が座っていた。「私の占いの館へようこそ。さあそこへ座りなさい。」不気味な雰囲気の部屋にドライアイスで発生したと思われる白いもやがたちこめている。「では占ってじんぜよう。」マヤ様はタロットカードをシャッフルし始めた。「ん?お前最近大きな失恋をしただろう。しかも数年付き合っていたのにいきなり裏切られたと出た。」「えええええ!なんで言ってもいない事がわかるのですか?。」「私は何でもお見通しだ。」巧はマヤ様のその美しい姿に目が釘付けになっていたが占いの鋭さに驚き目線がマヤ様の胸元からマヤ様の瞳に移動した。「やっと目を合わせる気になったかドスケベ。ところでお前は見た目至上主義のルッキストだろう。見た目さえ良ければ中身がスカスカでも構わないと出ている。元カノの中身も見事なぐらいスカスカだろう?。」「ええええ!何でわかるんですか?確かに京子の中身はスカスカです。」否定しない巧。「すごい!マヤ様の占いは本物だ!」「それで、何を占って欲しいんだ?。」「はい、会社からトラックの運転手をやれと言われています。一応大卒です。しかし運転手やるか辞めるか迷っています。」マヤ様は少し考える。「ではタロットカードで占ってやる。」マヤ様は再びシャッフルする。胸が揺れる。胸を見る巧「どこを見ているバカモノ!まじめにやれ!。懲りない奴だな。」「すみません つい。💦」「ん?DEACHの正位置か。お前はトラック運転手になったら死ぬ!!。」「ええええええ!やっぱりですか。じゃやめときます。で転職は成功するのですか。」マヤ様は再びシャッフルする。胸が揺れる。胸を見る巧。「だからまじめにやれと言っているだろうがバカモノ。つまみ出すぞ。」「すみませんつい。💦」「転職運はと・・・人間関係 死神の逆位置か・・・転職もお前が望む医療事務 医療機器商社 病院関係の転職は絶望的と出た。諦めてフリーターにでもなれ。」「そんなーそれじゃどっちにしてもお先真っ暗じゃないですか~。」「お前が私の胸ばかり見て真面目にやらないからだ。ん?。でも面白い暗示が出たぞ。お前その京子とやらよりもはるかに美人の彼女が出来るぞ!。」「ええええ本当ですか~嬉しいな~。」「ほう!人ならざるものに恋をして人ならざるものに救われる。」「人ならざるものって何ですか?。」「うーん私にも分からない。しかしお前が狂喜乱舞して喜んでいる未来が見える。」「何だか分からないですが俺が狂喜乱舞するほど喜んでいるのですね。よかったー。」「喜ぶのはまだ早い!頭がおかしくなって狂喜乱舞しているのかもしれないぞ!。」「そんなー。」「冗談よ冗談 占い師っていうのは冗談が好きなのよ。」へらへら笑うマヤ様。しかし巧は仕事運は絶望的という占い結果だったが人ならざるものに救われるという未来に希望を持った。「あと最後に一つ。お前今日何回が原因不明の頭痛と吐き気に襲われただろう。」「どうして分かったのですか?。」「私は医者じゃないから詳しくは分からぬが大失恋が影響しているようだ。今まで恋人だけが生きる希望だったのにそれが無くなった。カップルを見るとその失われたという悪夢がフラッシュバックしてお前の精神を崩壊させる。体が耐えられなくなり拒否反応を起こしているようだ。早く精神科へ行け。」「えー俺は正常ですよお。」「いいから医者に頭を診てもらえ。」言い終わるとマヤ様は席を立った。巧は帰りの電車の中で考えていた。「運転手やれば死ぬ!辞めても仕事は見つからない・・・どうしたらいいんだ。人ならざるものに救われるっていったいなんなんだ。」悩む巧。すると又カップルが電車に乗ってきた。「カップルだ!逃げろ!。」巧は別の車両に移った。「よし、スマホを見てほかを見ないようにしよう!。」巧はSNSを見ることにした。するとランダムに出て来た記事に見慣れた女性の写真が上がっていた。「京子じゃないか。ホテルのラウンジレストランで彼氏とディナーだと。ふざけやがって。」すぐにアカウントをミュートした。ブロックしないのはなぜか巧にも分からなかった。「写真でも見るか。」巧は今まで撮った写真を見ることにした。「京子の写真はすべて削除したんだよな。ん?女性の写真が残っている。おお あれか オリエンタル工業の見学会のやつだ。」巧はツーショットで写した美しい等身大リアルドールの写真を待ち受けに設定した。「人形とは思えないよなー。」巧はその写真をとても幸せそうに見つめていた。
第四話 END


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