見出し画像

人のいない楽園・・・第四章     1982 第四話

 2024年6月、1982剛は会社を逃げ出してある占い師の館に逃げ込んだ。「次の方どーぞ。」「はーい。」1982剛は占い師の前に座る。偉そうにふんぞり返りながらビールを飲むその占い師。若い美女だがやけに態度がでかい。「おお!大頭領じゃないか。久しぶりだな。去年の法要以来だな?。まだ社長現役なのか?そろそろ引退したほうがいいぞ。」「マヤ様!お知合いですか?。」「ああ、うちの母の従妹の親戚の兄弟だ。」マヤ様と大頭領は遠い親戚のようだが演説が好きな事や権力を握っているところは被っている。1982剛はマヤ様の前に座り水晶玉を見つめる。「お!お前は誰だ誰だ誰だ?お前は大頭領であって大統領ではないな?。」「実はかくかくしかじか。・・・以下略。前話参照。」「なるほど。朝起きたら今年に飛ばされて来たと。しかもその未来の自分の姿に幻滅したので過去に帰りたいとの事だな。」「はい、私には好きな女の子がいます。もしかしてだけど未来のろくでもない俺が過去に飛ばされて大学で暴れまわったり、好きな子をレ〇プしたりしないか心配で夜も眠れません。この時代の俺は裏社会のボスと大の仲良しで・・・でもその親分はいい人で・・・でも心配で・・・。」マヤ様はその真剣な訴えと眼差し、純粋なオーラを感じてその話が嘘ではない事をすぐに見抜いた。「では占ってしんぜよう。」マヤ様は薄着でしかも巨乳なのでタロットカードをシャッフルすると胸が揺れる。1982剛は気を利かせて横を向いた。すると「どこを向いている。失礼な奴だな!。」「すみません。」正面を向く1982剛。「これ!私の胸を見るなバカモノ!。」「すみませんってどこを見ればいいのですか?。」「うーん。見られると腹立つけど見られないと魅力が無くなったんじゃないかと心配だ。」乙女心は複雑である。
 「おまえは1982年から魂だけ入れ替わったな。今1982年にはお前が恐れる幻滅した魂を宿した1982年当時の20歳のお前がいる。しかもビンテージフェラーリにのって1982年に行ってしまった。」「やったー。将来の俺はフェラーリ買うんだね。」「感心している場合かバカモノ!。早く戻らないととんでもないことになるぞ。」「でもどうやって戻ればいいのでしょうか?。」
マヤ様は再びタロットカードをシャッフルする。「私はどこを向けばいいのでしょうか?。」「あっち向いてろ。」ひょっとこのお面がかけてある壁を指さした。「出た。魂幻滅版の2024年のお前は高速道路で時速250km出して1982年の歌謡曲を聞きながら午前0時を迎えた瞬間不安定な時の間に吸い込まれて1982年に飛ばされた。入れ替わるようにお前の魂が2024年に飛ばされたので逆を試してみろ。以上。」「時速250kmってそんな速度国産車じゃ出ないよってあれがあるか。アストンマーチンが!。マヤ様ありがとうございます。」深々と頭を下げた1982剛は早速自宅に戻った。
 一方 1982年六月、2024剛は亜希子にフラれて落ち込んでいた。「畜生!ドジった。俺がラブホテルなんぞに行かなければすべて上手く行ったのに。」「そうだぞ。我慢できなかったお前が悪い。」「何言ってやがる。半分はお前のせいだからな。もう雇ってやらないからな!。」「でたよ社長ごっこ。」二人は剛の部屋で今後の事を相談している。「しかし本当の事を言ったらかなり引かれるだろうな。人間の女性そっくりの等身大リアルドールの持ち主でしかもお迎え理由が初恋の人を忘れられないからだなんてなあ。考えただけで気持ち悪くて吐き気がするよなあ。」「そんなことは分かっている。俺が余計な事をしなければ1982年の俺が亜希子ちゃんと結ばれて1年は交際が続いたんだからな。これがホントの自分の首を絞めるだな。」笑えないジョークである。
 六郎はしばらく考えた。「じゃあ、亜希子ちゃんに会って本当の事を言おう。嫌われるだろうがこのまま誤解されて終わるより本当の事を言ってすっきりしたほうがいいぜ。」「そうだな。このまま不完全燃焼で終わるより同じ負けなら本当の事を言ってから負けてやる。男には負けると分かっていてもやらなければならない時がある。」こうして2024剛は恋愛敗北覚悟ですべ
てを亜希子に打ち明ける覚悟を決めた。

  亜希子はショックで2024剛との事があった後、数日間学校を休んでいた。自宅のベッドで寝ていると亜希子の母が手紙を届けに来た。「亜希子、六郎さんから手紙よ。」「え?六郎さんから?。」手紙を渡された亜希子は早速封筒を開けて中身を読んだ。「なになに。剛とあって話をしました。結論から言うとすべて誤解です。剛は浮気なんかしていません。それどころか亜希子ちゃんの事で頭がいっぱいです。車の助手席に乗っていたのは人間そっくりなマネキンです。今度そのマネキンを見せるので連絡ください。繰り返します。剛は浮気なんてしていません。本当です。・・・・えええええ!。でもあんなに精巧なマネキンなんて見たことないし、でも剛君ほ何度もお話ししたから浮気するようなチャラい人には見えなかったし、・・・。」
 気持ちの整理がつかない亜希子だったが何故助手席にマネキンを載せていたか気になるが亜希子が見た女性が本当にマネキンだったらいいなと正直思った。
「だとしたら・・・剛君にひどい事しちゃったな。謝らないと。」数日学校を休んで気持ちが落ち着いた亜希子は手紙の返事を書いて六郎に送った。

 一方  2024年6月の1982剛は1982年6月発売の楽曲の配信をダウンロードして車につないで夜の高速を深夜に何度か走った。「これで3回目だがタイムスリップは成功しないな。何故だろう?。」どうやらまだ上手く行っていないようである。

数日後、出会ったすかいらーくで2024剛と六郎は亜希子と六郎の彼女の到着を待った。「遅いなあ。来てくれるかなあ?。」「手紙の返事は着たから大丈夫だろう。」六郎は亜希子の返事を2024剛に見せた。「なになに、とても落ち込んでいましたが、確かに誤解かもしれないと思い直しました。剛君が嘘を言うような人ではないと思うので勇気を出して一度お話ししたいと思います。か、すべては俺のドジが原因なんだよなあ。亜希子ちゃんには悪い事をしたよなあ。」反省する剛。すると「お待たせー。ごめんねえ、亜希子がいざとなったら気まずいとか言い出しちゃって。でも何とか連れて来たよ。」恥ずかしそうに亜希子は下を向きながら剛の前に座った。すると剛は急に亜希子に頭を下げた。「すまん!心配かけてすまん!。」亜希子も頭を下げた。「私こそこの前は酷い態度でごめんね。六郎君から手紙貰って理由が分かったの。ホントにごめんね。」少し涙ぐむ亜希子。「でもなんでマネキンなんか助手席に乗せていたの?。」しばらく黙り込む剛。「剛、ここが正念場だ。頑張れ。」決心がついた剛は本当の事を話した。2024年から来た事、亜希子を忘れられずに42年後に亜希子に似た等身大ドールを購入した事。そのドールを助手席に乗せて高速でタイムスリップした事などを正直に話した。最初は驚いていた亜希子だったが剛が嘘を言っているようには見えなかったので信じると言ってくれた。「このフェラーリの車検証のコピー見てくれよ。1992年と記載されている。しかもこんな車一般人が買えるわけないじゃん。それに予言だって当たったし。」六郎が助言するまでもなく亜希子は信じているようだ。剛は亜希子に優しく言った、。「今の俺は中身は62歳の爺さんなんだ。でも1982年の俺は必ず君の前に現れる。その時は1982年の俺を宜しくね。」亜希子はそれを聞いた瞬間に又泣き出した。「おいおい、俺が泣かせたみたいじゃないか。そうだ。店を出てそのマネキン見せてあげるよ。」2024剛と六郎は店を出て剛の家に向かった。
 
 1時間後、剛の部屋。2024剛は部屋のクローゼットを開けて等身大人形を取り出した。「これが2024年の俺が亜希子ちゃんの面影を追って購入した等身大リアルドールだ。」毛布をめくるとそっくりではないが亜希子に雰囲気が似た美女が現れた。「ほんとだ、亜希子に似てる。」「私が見た助手席の女性だわ。」そのあまりの美しさと精巧さに驚く亜希子たち。そして1枚の写真がドールのポケットから出て来た。「なんなのこれ?。えええ!。」その写真は2024年の剛と年配の女性のツーショット写真だった。亜希子はその年配の男性が2024年の剛だとすぐに分かった。面影や輪郭、今まで会話した内容とその姿が不思議なぐらいリンクしたのだ。「やっぱり・・・そうだったんだ・・。いかにも社長ってかんじの写真だもんね。裏にある建物に山城工務店って看板があるし。その看板の下の車なんて宇宙船みたいだね。」「ああプリウスだね。」亜希子はいつまでもその写真を見つめていた。「ところでこの大きなお人形さんっていったい何に使うの?。」「そそそそそそれはいろいろありまして・・・。」焦りまくる六郎と2024剛だった。 フェラーリの中には予備のスマホが入っていた。剛はそのスマホも亜希子に見せた。「これが2024年の携帯電話だよ。TV電話機能もあるしカメラも内蔵されているんだ。ネットはこの時代はつながらないけど写真は見られるよ。」スマホの写真には最新型の車やスカイツリー、最新型の新幹線や液晶TVにデザイナー物件など2024年当時の写真がいっぱいである。


「わーすごい、。未来ってすごいものがあるのね。」「宇宙旅行や空飛ぶ車はないけれどTV電話やハイブリットカー、ドローンやインターネットや宇宙ステーションなんていうものも出来るよ。」皆2024年の剛の話に夢中になった。
 こうして剛と亜希子は事実上のお付き合いが始まった。翌週の日曜日はふたたび亜希子と2024剛が夜景を見にドライブに出かけた。「この未来のフェラーリの助手席はすっかり私専用ね。誰にも渡さないわ。」「俺も誰にも渡さない。」二人は海沿いの夜景スポットのレストランで食事をした。「あそこに見えるのは横浜港だね。今は建設中だけどこのスマホの写真みたいなベイブリッジがそのうち出来るよ。」「すごーい。私の彼は未来から来たんだって自慢できるね。」「でももうすぐお別れするかもしれないな。何となくそんな気がするんだ。」「ええ~いやよ。ずっとそばにいてよ。」「もちろんいるさ。ただし俺じゃない1982年の俺だけどな。」「1982年の剛君には1度しか会っていないから分からないけどいずれあなたになるんでしょ。じゃあずっと付き合えば又未来で会えるわね。それもロマンチックだわ。」「おいおい、昔の俺だっていい奴だぜ。ちょっとチャラいけど本気出せば社長になるんだぜ。絶対手放すんじゃないよ。損するぜ。」二人はすっかりいいムードである。帰りに亜希子は自然な流れで言った。「今日は帰りたくないな。すっと側にいてよ。」しかし剛も言った。「ありがとう。嬉しいよ。でもその役目は俺じゃない。1982年の俺の役目だ。奴が戻ってきたら又チャンスをやってくれよな。」亜希子はちょっと不機嫌になってふくれた。

2024年6月。何度もタイムスリップに挑戦する1982剛にマヤ様からLINEメールが届いた。この頃の1982剛はスマホが使えるようになっていた。「なになに。言い忘れていてごめんチャイ💛。タイムスリップは満月の夜でないとダメっぽいわよ。えへへへ。?。」おちゃめな美女だな。って今夜満月じゃないか!。間に合うかな?。1982剛はすぐに高速道路に入って1982年6月の楽曲を流した。「君に胸キュン。っていい曲だよな。」満月の夜は月明かりだけで文字が読めそうである。「深夜零時まであと1分。時速250kmまであと数秒。3・2.1 0」その時である。目の前が見えないほどの眩しい光が見えた。一瞬車が揺れるような衝撃を受けた。

 同時刻 2024剛は亜希子を送り終えて高速で帰宅途中だったが同じ強い光に包まれた。「帰れるんだ。これでいつもの姿に。1982年の俺すまなかった。でもお膳立てはしてやったから勘弁しろよ。」光を駆け抜けた後、2024剛はPAの鏡を見た。「戻ったな。ちょっと残念だが楽しかったからまあいいか。1982年の俺、体は返したからな。」少し寂しそうな
2024剛だったが表情は笑っていた。
第4話 END
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?