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人のいない楽園 第一章 見えない束縛 第二話

2022年4月某日。昌行は小さなお葬式会場にいた。棺の上にかわいい猫の大きな写真が額に入れらてており微笑んでいるように見える。涙でいっぱいになった昌行の瞳からはとめどなく涙がこぼれる。人生が二度あればもう一度会いたいと何度も思った。参列者は昌行の両親と妹だけである。「これより荼毘に付させていただきたいと思います。」葬儀場の火葬担当者がつぶやく。しかし昌行はなかなか棺から離れようとしない。「お兄ちゃん、もういいよ。アイちゃんが天国に行きにくくなるよ。」涙を流しながら妹が昌行の手をそっと引く。アイちゃんとは昌行家族の愛猫で享年20歳の老齢雌猫である。「アイちゃんがいなかったら俺はおそらく失恋からあんなに早く立ち直れなかっただろう。ありがとう。」昌行は手を合わせて棺から遠ざかった。
小さな体なので火葬は短時間で終わった。「こんなに小さくなっちゃったね。今までお疲れ様。」昌行は骨壺にアイちゃんの遺骨を入れて埋葬場に向かった。小さなペット用墓地に埋葬し、うろ覚えのお経まで唱えた。
アイちゃんとの出会いは2年前であった。当時昌行は短大の社会福祉学科に通っていた。そこで精神科医を目指す下村由紀と出会い、恋に落ちた。しかし1年足らずで破局し、深く傷ついていた。大学の体育館の裏側の誰も来ないベンチで一人泣いているとすでに年老いたであろう雌猫が昌行のそばに近寄って体を寄せて来た。「ん?なんだ? 猫か。」エサでも欲しいのだろうと子にも留めなかったが鳴かずにすっと体を寄せていた。意味は不明だったが昌行は温めてくれていると思いそのまま家に連れて帰った。「お兄ちゃんおかえり、あれ、何そのねこちゃん。かわいい。抱かせて。」妹はすっかり拾ったネコの虜になった。「ねえ飼っていいでしょ?。」昌行を無視して両親に直談判した。両親は昌行が恋人と別れた事をしっていたので黙って首を縦に振った。アイちゃんのおかげで心が癒された昌行は次々に女学生をナンパし愛欲に溺れた。一年間の間に二人三人と相手を替えていた。しかし昌行の心を満たす女性にはとうとう出会えなかった。
2022年5月昌行は大学を卒業して精神科の相談員の仕事をすでにしていたが愛猫の死がショックで仕事に身が入らない様子だった。職場に迷惑をかけてはいけないので必死に立ち直るきっかけを探していた。仕事を終えた昌行は自宅に戻り自室に引きこもった。「もう、生き物はいやだな。ロボット犬でも買おうかな。」しかし決まったプログラムで動くロボット犬に違和感を感じてなかなか決心がつかなかった。「これもなんか違うな。」途方に暮れながらギターを鳴らしていた。ふと理想の女性の顔が目に浮かんだ。「彼女欲しいなあ。裏切らずいつまでも望む限りそばにいてくれる死なない彼女が…欲しいな・・・いるわけないか。」昌行はバイクに乗って気晴らしをする事にした。あてもなくバイクで走っていると景色のいい海辺にやってきた。

バイクを止めて崖の上にある展望台に上った。崖の前に厳重な鉄柵があったががばがばで簡単に人が通り抜けられそうである。スリムな昌行は鉄柵をすり抜ける事が出来た。「ここから落ちたら楽になれるのかな?。」昌行は魔が差したのか崖に歩み寄った。すると。「ん!もしかして人が倒れている!!!。」あわててスマホで拡大して写真を撮るとなんと人形だった。
等身大で肌色をしている。翌日日曜日、警察に通報して現場に立ち会った。警察官と消防署員が共同で人形を引き上げた。「う!首が無い、。」頭はすでに海に落ちたようだ。「これは等身大リアルドールだな。持ち主がいらなくなって不法投棄したんだな。今多いんだよな。」呆れた表情で警察官はため息をつく。「不法投棄捜査に切り替えよう。」警察は不法投棄の捜査に乗り出すようだ。昌行はその等身大ドールの傷んだ体を見て恐怖した。「もし魔がさしてアイちゃんに会いたいなんて思ったら今頃俺もこうなっていたかもしれない。」奇しくも昌行は等身大リアルドールに命を救われた結果になった。家に戻った昌行は命の恩人?とも言えなくもない等身大リアルドールについてネットで検索した。出てくる画像は人間とは区別がつかない、しかも絶世の美女ばかりであった。「すごい!現実で出会う事が困難なハリウッド女優やトップモデルみたいなドールばっかりだ。一瞬魔が差したとはいえ一度は失ったかもしれない命を救ってくれたんだ。金額に糸目はつけず俺が一番気に入ったドールを探すとするか。」その日から等身大リアルドールを探す長い旅が始まった。昌行は関東にある等身大リアルドールのショールームを片っ端から訪問した。
2022年六月、昌行は毎日のようにネットで理想の等身大リアルドールを探していたがこれというドールが見つからなかった。「はあ~。ダメだ。見つからない。😿探し方が悪いのかな~。宣材写真見てからショールーム行っても実物は全然違うしな~。」等身大リアルドールは宣材写真はプロが実物以上に綺麗に撮るので実物と違う事はあるあるである。それゆえ昌行は悩んでいる。「もうつかれたな~。」YOUTUBEでも探しているがなかなか理想とするドールは出てこない。するとランダムに占い師の動画が再生された。「そうだ!占いで決めよう。」ちょうど占い師の動画が再生され始めた。「どうせ占ってもらうならスレンダー美女がいいな。巨乳は苦手なんだ」昌行はあるスレンダー美女占い師に占ってもらう事にした。
数日後某スレンダー美女占い師の占いの館に昌行はやってきた。「ここかあ~。すみませーん。予約した佐藤でーす。」「はーい、私が某スレンダー美女占い師でーす。某スレンダーが名字で美女占い師”博麗”が名前でーす。」某スレンダー美女占い師”博麗(はくれい)”と名乗る見るからに胡散臭いスリムな美女占い師はやけにノリが軽い。「あーた、あたしになにを占って欲しいのさ?。何が知りたいのかしら??」「なんだか初対面なのにフランキーな方ですね。」「でっへっへ照れちゃうわ。」「ほめていません。」昌行はだんだん腹が立って来た。昌行は事前に下調べをした。人気ランキングでも常に上位だし何より見た目が昌行のタイプだったのでこの人に占ってもらう事にしたのだが失敗したようだ。「私は理想の彼女を探していますがなかなか見つかりません。どうすればいいのでしょうか?。」「あなたが探している女性は地方訛りがありますね。関東の人ではありませんね。」「外国人です。」占い師は焦った。「ガガガ外国語って地球規模で訛っていますよねえ。おほほほほ。」冷やせを出しながら笑ってごまかす。「普通外国語って言いませんが。?」「おほほほほ ごくまれにそういう場合が多少あるかと💦。」こいつ絶対怪しいと昌行は思った。って誰でも思う。「外国人の彼女とは外国で出会いまーす。」完全に焦って思考が回っていない。「あのーそれって当たり前なんじゃ・・・。」話にならないと思い昌行は占いを止める事にした。「でっへっへどうじゃわらわの占いは死ぬほど良く当たるじゃろう!なーに!礼には及ばん。」昌行はついに切れた。「知らないね。もう帰ります。」某スレンダー美女占い師”博麗”と名乗るインチキ占い師は急に態度が変わった。「一名様お会計でーす。占い料は10万円いただきます。」昌行はついに切れた。「本当は20万円なのじゃ。10万円に負けてやる。ありがたく思え。おほほほ。」「1円にも値しないと思います。」昌行は黙って出て行こうとしたら・・・。「占われ逃げだー。誰か捕まえてー。」某スレンダー美女占い師”博麗”と名乗る怪しい占い師が豹変して叫んだ。「やばい逃げろ。」昌行は1円も払わず逃げた。「逃がすなー捕まえろー。」同じテントにいた客が来ないヒマな占い師たちが昌行を追ったが昌行は100mを11秒で走れる脚力を持っていたため誰も追いつけなかった。「はーはーはー逃げ足の速い奴だ。占われ逃げだ!後で被害届出しておこう。」その会話を隠れながら昌行は聞いていた。「ふざけやがって。何が占われ逃げだよ!こっちこそ詐欺で訴えてやる。!無駄な運動させやがって!!。もう占いはこりごりだ!!。何が”博麗”(はくれい)だ!今回の占い師はハズレだったな。あいつハズレいって名前に変えた方がいいな!」昌行は激怒しながらそう思った。余談ですが某スレンダー美女占い師”博麗”と名乗る怪しい占い師は後に詐欺罪で告訴される。ちなみに若作りしているが後に40歳を超えている事が判明しネットでは”金返せ”コメントで炎上した。占いが当たらないからかそれとも若いと思っていたのに40歳を超えていたからなのかどっちの詐欺で炎上したのだろうか??。そんなことは昌行にとってどうでも良かった。しかし見た目で占い師を選んだのに40歳を超えているは占いはでたらめだはで昌行はすっかり人を見る目の自信が無くなった。
さらに数日後昌行はYOUTUBEの動画を見てドールを探すのと並行して体を鍛える必要があると感じるようになった。ぎっくり腰になって入院するドールオーナーは日常茶飯事に発生し、それだけならまだしも高齢の独身男性がドールに押しつぶされて動けなくなり餓死寸前で病院に運ばれるという悲しいニュースも報じられていた。「なに!殺人等身大ドール事件だと!。なめやがって。ドールのせいじゃないだろうが!。って俺も明日は我が身だな。ドール探しながら体を鍛えるとするか。」昌行は近所のフィットネスクラブに入会した。足腰を鍛えるプログラムに参加することになり数日後初日を迎えた。インストラクターにスクワット運動を習う昌行。40kgのバーベルを担いで立ったりしゃがんだりを繰り返した。「初日だというのに凄い根性ですねえ。」「愛するものの為に命をかけて全力で頑張らなければならないんです。」昌行はフルシリコン素材の160cm以上の等身大ドールを探している。その仕様だと42kg程になる。しかもソフトシリコン希望なのでバーベルのように持ちやすくて硬いわけではない。42kgのコンニャクを取っ手無しで持ち運びしなければならないようなものなのだ。昌行はインストラクターに質問した。「あのーこういう固くて持ちやすいバーベルではなくてコンニャクみたいに柔らかくて50kgぐらいあるでかい重りありませんか?。」インストラクターは困惑した。「はあ!。お客さーーん、悪い冗談はよしてくださいよ。そんなものあるわけないじゃないですか~。」「なければ困るのです。取り寄せてください。」ひるまない昌行。「そうだ!おまえ!俺の肉体バーベルになれ。グッドアイデア!。お前体重何キロだ!?」「はあ?65kgですってそれ以前に肉体バーベルなんて嫌ですよ~みんな見ているんですから(/ω\)恥ずかしい。それに私は忙しいのです。」「うーん少し重いな。」「だから嫌ですって。何で私の意志を無視するんですか?。」「やっぱ重いからいいや。お前50kgぐらいのヒマなスタッフ探してこい。若い美女ならならなおいいな。」勝手な事を言い出す昌行。すると見るからに不健康そうな30代の男性が昌行に声をかけてきた。「あー佐藤さんじゃないですか~。」現れたのは佐藤の某患者である。彼もフィットネスクラブで足腰と腕力を鍛え精神のリハビリに先週から通っているのだ。「失礼ですが某患者さんは体重何キロですか?。」「何でそんなこと聞くのですか?。嵐の二宮和也と同じ55kgです。」いったいどこから二宮和也が出て来たのだろうか?某資料提出より。「5kgオーバーか!某患者さんお願いがあるのですが。俺の人間バーベルになってくれませんが。一切動かずにお願いします。そうしないと練習にならないので。」「はあ?たしかに佐藤さんのカウンセリングには感謝していますがそれとこれとは別です。第一恥ずかしくてここに通えなくなるじゃないですか。」「うーんだめか。仕方ない。諦めるか。」昌行は大変残念な顔になり露骨にがっかりした。昌行が無茶な要求をしていると午後6時になり閉館時間となってしまった。「しまった。終了時間だ。こんなことなら我慢してまずは固いバーベルで練習するんだった。」死ぬほど後悔する昌行。昌行は滅多に会えない某患者さんに会えたのでファミレスに誘った。「いいですねー寄りましょう。」某患者さんはフィットネスクラブの近くのファミレスに寄った。すると見覚えがある美女が二人で大声でしゃべっていた。「由紀だ!」何故由紀がこのファミレスにいるのか不明だがやばいと思って二人はこのファミレスを断念した。 第二話 END


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