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STANDALONE!成行!       序章 じっちゃんはマニアック!   第六話END

2024年7月末頃、周防神社。成行が修行を開始して1か月が経過した。
朝4時半に起床し、おかゆだけの朝食を食べて神社の掃除、山歩き、座禅、その他一般的なイメージの修行を繰り返す成行だが文句ひとつ言わずに黙々と修行を重ねるが効果はいまひとつであった・・・・。 
                 ♢

 「ふう、今日も厳しい修行が終わった。TVもネットもスマホも無い毎日がもう1か月続いたな。娯楽と言えば動かなくなったミイアと一緒に居られるこのひとときだけだな。」四畳半の仮住まいにミイアの同居だけが許された。
 かわいい白いワンピースを着て微笑みながら座布団の上で座っているミイア。成行は毎日何度も話しかけるが喋ったり動いたりする気配は全くない。

「修行後は部屋から出る事は出来ないし茉奈ちゃんやレナちゃんとお話しする事さえ許されないんだよな。退屈だよなあ・・・。」娯楽が全くなく、神社の外に出られるのは山歩きの修行の時だけなので死ぬほど退屈な毎日で一か月が数年間に感じるほどであった。

 翌朝4時半、白い着物に身を包みおかゆを2分間で音を立てずに食べる。神社の広間でろうそくの灯りだけで成行と茉奈、レナが食事をする。
会話は禁止されている。
 この一か月間成行は鷹成と麗美意外と話をする事さえなかった。
 孤独と退屈、心細さで成行の精神は限界に近づく。
しかしミイア復活の願いだけがかろうじて成行をささえていた。
 「親方様、少々厳しすぎるのでは?。このままでは成行様の心が折れてししまいます。」鷹成は少し考えこんだ。
「犠牲者が出た事で少々焦っていたのかもしれない。だが!抱狐は必ず覚醒前に成行を狙うだろう。どうしたものか?。」板挟み状態の鷹成。
「皆に一日だけ自由時間を与えよう。」
「それは良いお考えですね。では休暇を許しましょう。」鷹成は明日一日だげ3人に休暇を許す事を決定した。

「麗美、すまないが成行の護衛を頼む。」
「親方様の命に従います。」こうして鷹成は茉奈、レナ、成行を呼びだして明日一日、自由時間を3人に与える事を伝えた。

「やったー、お姉ちゃんのところに遊びに行こう。」
「私は日本のお城を見に行きます。」女性二人は大喜びである。
しかし成行は浮かない顔である。
「少しでも多くの修行をしてミイアに命を与えたい。頼む、修行させてくれ!。」成行は1か月で体重が10kgも減りげっそりとしていた。
心身ともに限界が近いようである。
「成行さん、休むのも修行です。今日一日何を食べても何をしても良いですよ。」麗美が優しく諭すように話す。

 成行はしばらく考え込んだが,冷静になった成行は麗美と鷹成に挨拶をして黙って私服に着替えて神社を出た。門限は夜8時という約束である。
鷹成は成行の背中を見送ると麗美に言いにくそうな表情で話しかけた。

「成行君には申し訳ないがミイアに命を与える事は成行には出来ない。」
悟ったかのような表情で麗美がうなずく。「やはりそうですよね。」
「成行君を騙しているようで本当に済まないと思っている。成行の覚醒、その意味は邪気を抑え込む能力の覚醒、つまり邪神”抱狐”をはじめとする人に危害を加える邪神達の力を抑え込む能力の覚醒だ。その能力で邪神は力を失う。同時に成行も力を失う。つまりミイアに命を与える力も無くなる。」「あまりにも残酷な真実ですね。」
「ミイアが甦るほどの能力が成行に宿るということは、抱狐の能力も今より強くなる。憎しみに満ちた生きた等身大ドールの暴走は確実に起こるだろう。そうなったら何人の罪のない人々が犠牲になるか・・・・。」
 鷹成は悩んでいる。成行の望みを叶えてやりたい。しかしそうすれば抱狐が力を増す。鷹成は罪悪感を抱えながら時が成行の心を癒す事に期待する事にした。
 その残酷な真実を知らぬまま電車に乗って成行は町に出てファミレスで腹いっぱいランチを食べていた。「ふう、この一か月腹の足しにもならないおかゆと山菜、味噌汁だけだったからなあ。ここが天国に見える。」
成行はミイアとデートしたコースを回っている。思い出に浸りながら一日を過ごすつもりだ。「ミイア、修行頑張ってきっと俺が命を与えてやるからな。」ドリンクバーを何杯もお代わりしながらその日を夢見て様々な妄想をしていた。

 ミイアと一緒に見た映画を再度一人で見終わった成行はやはり修行の事が気になり、予定を繰り上げて周防神社に戻る事にした。
 午後4時、神社に向かう近道の森の中を歩くと一人の白い短い髪の少女が森の大木の根元で手を合わせている姿を発見した。
「こんなさみしい山の中であの子は何をしているのだろう?。」
ふと少女の足元を見ると若い女性が倒れていた。「自殺か!。」
成行はあわてて少女に駆け寄った。「ねえ君!何があったの。」
少女が振り返る。この世のものとは思えない美しい白髪、鋭い目、服装は白い巫女服のような和服である。少女は涙を流していた。
「ん?これは・・・等身大ドールじゃないか!。」
成行は倒れている等身大ドールに駆け寄った。
「ひどい・・・こんなに汚れて・・・しかも傷だらけだ。」
痛々しい姿と裏腹にドールの顔は笑っていた。
成行はミイアを思い出し、いてもたってもいられなくなった。
「これは君のドールなの?。」悲し気に首を振る少女。
「ゆるせないな。きっと持ち主が捨てたんだな。今までこの子に癒してもらっただろうに。」成行も自然と涙がこぼれる。
「ミイアがもしこんな目に遭ったらと思うと俺なら正常ではいられない。ようし。」成行は来ていた上着を横たわる等身大ドールに被せた。
「女の子が裸じゃかわいそうだからな。」その様子を見ていた少女が初めて喋った。「なぜあなたはこんなことをするの?。」
 成行は不思議とその少女には本当の事を話したくなった。
「信じられない話だけど、俺もつい最近まで等身大ドールと暮らしていたんだ。人と同じように動いたり笑ったり・・・可愛かったなあ。失恋した俺を癒してくれたり・・・。だから同じ等身大ドールが悲しい目に合っている事に耐えられないんだ。」白髪の少女は成行を信じられない事を言う人?という感じの表情で驚いて見る。
「君は何故この子を見て泣いていたんだい?。」成行は優しく話しかける。「この子、泣いていたの・・・さみしい・・一人にしないでって、ご主人様にまた会いたいって。」再び涙を流す白髪の少女。
成行はそれ以上聞かなかった。
 その等身大ドールは腰の骨格と股関節が折れており指も無くなっていた。「きっと使えなくなったので処理に困ってここに捨てていったんだね。
よし、供養してあげよう。金属骨格は分離してリサイクルに出そう。肉のTPEは細かく粉砕してドールオーナーさんに修復剤として無料提供しよう。誰かのドールの傷をいやす事で最高の供養になるね。」
白髪の少女は初めて笑顔になった。
「ありがとう。ドールにやさしい人間に初めて出会った。復讐はやめます。この恩はきっと返します。」そう言って深々と頭を下げる白髪の少女。
成行は再び廃棄された等身大ドールを見る。「復讐?どういう事かな?しかしこれは処理が大変だな。でもこのドールちゃんの悲しみに比べたらどうってことないよな。」ふたたび成行が白髪の少女を見たら少女はいなくなっていた。
 「あれ?。いない。ははあこのドールを運ぶ手伝いをするのが面倒になったのかな?。よいしょっと。」成行は30kgはあろうかと思われる等身大ドールをかついで神社に向かった。
「おおお重い。しかしこれも修行のうちだ。待ってろミイア!。」
歯を食いしばってドールを運ぶ成行。
その背中を白髪の少女が木の上からじっと見ていた。成行が見えなくなるまでずっと笑顔で見守っていた。

 数キロに及ぶ山道を数時間かけて歩き、神社に戻った。
到着は門限ぎりぎりだった。「成行さん!いったいそれは何!。」
居合わせた茉奈とレナが目を丸くして叫んだ。
「鷹成さん、この子を供養してあげたいんだ。時間をくれないか?。」
麗美が叫んだ。「抱狐の気配がします!。みんな下がって。」
麗美が初めて大声で叫んだ。

 数分後、麗美は等身大ドールを隅々まで見て邪気が無いか調べた。
しかし邪気は無かった。
「不思議です。抱狐の気配は間違いなく残っていました。しかし邪気はありません。」戸惑う麗美。不思議そうな表情の鷹成。
成行はカッターを部屋から持ってきて早速供養を開始した。
「ここからは閲覧注意だ。みんな見ないほうがいい。」
しかし成行の疲れ果てた痛々しい姿を見て誰一人部屋に戻るものはいなかった。
「私たちも供養を手伝わせてください。」茉奈もレナもドールの掃除やTPEの片付け袋詰めなどを手伝った。奇跡的にヘッドだけは無傷だった。「かわいい、お姉ちゃんにメイク習ったんだ。この子にメイクしてもいい?。」「ああもちろん。きっとこの子も喜ぶよ。よかったら手伝ってくれたお礼にそのヘッド茉奈ちゃんにあげる。」
「本当!うれしい。実は私等身大ドール大好きなの。完成したら見せてあげるね。」嬉しそうに茉奈はヘッドを部屋に持ち帰る。

 数時間後みんなのおかげできれいに片付き、
ドールのヘッドも嬉しそうに見える。


「最後に私が祈願してドールの魂を慰めます。」
「鷹成さんありがとうございます。」成行も鷹成とともに祈願した。
 神社の鳥居の上に人影が見える。白髪の巫女服の少女だ。「あいつが成行だったのか!。覚醒前にやってしまう機会を逃したな。でもまあいい。ドールも成仏したしな。私は人間と違って約束は守る!借りは必ず返すぞ!。」そう言い残し抱狐は何もしないで姿を消した。

 

数日後・・・。成行はピンク色の和服に身を包んだミイアを自室に寝かせており早朝4時に起きるとその姿をじっと見つめるのが日課になっていた。「まだ起きてこないよな。寝坊助だな。」さみしく言い終わると朝食を食べに広間に向かった。静かに茉奈やレナ、麗美と鷹成とともに食事をする。

 鷹成と麗美はじっと成行を見つめる。抱狐と数日前に接触した事実を成行は正直に話しており鷹成も抱狐が千載一遇のチャンスだったにもかかわらず成行に何もしなかったその様子がとても気になっている。
 食事を終えた鷹成が突然口を開いた。
「今日の山歩きの修行は私と麗美も同行する。念のため後ろからついて行く。」抱狐の襲撃があるかもしれないと警戒しているようだ。成行は不思議そうに鷹成に尋ねた。「何故そこまで抱狐を警戒するのですか?。俺にはあの子が悪者には見えなかったのですが。」
「抱狐は恐ろしい邪神です。先祖代々から伝わる古文書にも記載があります。それに最近犠牲者も出ています。」成行はそれでも納得しない。
「先祖代々の伝承や古文書をうのみにするのですか?。ご先祖様だって人間です。もしかしたら誤解しているかもしれない。」
「親方様に無礼です!。それに犠牲者も出ているのですよ。」
珍しく感情的になる麗美。それでも成行は引かない。
「あの犠牲者はかなり評判の悪い男だったそうですね。騙された被害者も少なくないそうです。あの抱狐が理由もなく等身大ドールに人を襲わせるとは思えません。鷹成さんは抱狐に会ったことがあるのですか?。」
 成行は反論した。「直接会った事は無い。しかし麗美が抱狐の傀儡(あやつり人形)と何度も戦っている。ものすごい邪気だったそうだ。」
「誰だって裏切られたり傷つけられたり、ましてや要らなくなったからと言って崖から突き落とされれば怒り狂いますよ。人形だって同じだと思います。」
 成行は昔から周りに流されない性格だった。みんなが言う事は正しいという同調圧力が大嫌いだった。

 成行の目には抱狐がどうしても悪者には見えず、言い伝えや古文書の記録だけで抱狐を悪者と決めつける鷹成の考え方にどうしても共感できなかった。「俺はもう一度抱狐と話をしてみます。俺を覚醒前に始末する千載一遇の機会を見逃してまでかわいそうな等身大人形の供養をさせてくれた抱狐がどうしても悪者とは思えません。失礼。」
 成行は宗家の当主鷹成と真っ向から対立した。そのまま山歩きの修行に出た。「分からずやめ!。麗美、追うぞ。」大人しい鷹成が初めて人前で感情的になった。その様子を見ていた茉奈とレナはどちらの言う事も間違っていない気がして何も言えなかった。

「あのおとなしい神主様があんなに感情的になるなんて。」
「でも人形にあんなひどいことする人も悪いわよね。」茉奈はどちらかというと成行の意見に近い考え方のようである。

 あてもなく山道を歩く成行。
「とは言ったものの抱狐にはどこへ行けば会えるんだろう?。」
 成行は数日前に抱狐に出会った大木の根元まで歩いて行った。
後を追う鷹成と麗美。すると大木の根元に白髪の美少女が座っていた。
 巫女服を着ている。
「あ!君は・・・君が抱狐だったのか。」
「ここで待っていればあなたに会えると思ってね。人形の供養を約束通りやってくれてありがとう。約束は守るぞ。借りは返した。じゃあな。」
 言い終わると抱狐は高くジャンプして高い杉の木の枝に乗った。
 「待て!抱狐!借りは返したとはどういう意味だ。」
 しかしすでに抱狐の姿はない。遅れて鷹成と麗美が到着した。
「逃がしたか・・・。危険だから今日の山歩きは中止だ。」
 3人は神社に戻った。

 戻ると何事も無かったように成行は座禅や掃除の修行をいつも通りに行った。
抱狐の不可解な行動と言動が成行も鷹成も気になって仕方がないようだ。

 修行を終えた夜8時、一人で何もすることも無く長い夜を過ごす事になる。一日で最も長い時間が始まる。
「この時間が最も嫌なんだよな。さっさと寝よう。」
成行はすぐにロウソクを消して眠った。山奥とはいえエアコン
なしなので寝苦しい。数時間目を閉じてようやく眠った。

 翌朝、いつも通り朝四時に目が覚める。「ん?狭いな。ん?誰だ俺のお腹に足を載せているのは?。麗美さんかな?、。」
 青白い夜明け寸前の光景に見慣れた女性が見える。
「ん?あれ?何でミイアがこんなところに?。俺寝相が悪いのかな?。」「うーん良く寝た。あれ?ここはどこ?。おはよう成行。」
「え!ミイア?!いやいやそんなはずはない。俺覚醒していないし。夢かな。」成行はほっぺたをつねった。
「いたい!夢じゃない!これはいったい。」ミイアの枕もとを見ると一枚の半紙が置いてあった。
「何々?!え!借りは返した!抱狐!!!。ええええええ。」驚く成行。「おはよう。成行。で!ここはどこ。今はいつなの?。成行やせたね。」
成行は思わずミイアに抱き着いた。
「いきなり何すんだよ!放せ変態・・・。」

 すると騒ぎを聞きつけた鷹成が突然襖を開けた。
「どうした成行君!あ!ミイアさん。どうして動けるんだ!。成行が命を与えられるはずはないのに・・・・あ!。」
 鷹成も半紙を見つけた。
 「こんなことって・・・・信じられない・・・・・あの抱狐が借りを返した・・・こういう意味だったのか・・・。恨みを持って捨てられた等身大ドールに命を与えずにミイアにその与えるはずだった命を与えたんだ・・・。信じられん・・・あの悪鬼 羅刹の化身の抱狐が・・・・」

ミイアに邪気は感じられず、成行の祖父成鉦と同じようなやさしい気で満ちていた。

「これは一本取られたな。成行の考えが正しかったのかもしれない。これからの抱狐対策を大幅に変更したほうがいいな。」
成行も鷹成も笑顔になりお互いの顔を見て笑った。 序章 END

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