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ドール達の午後・・・スピンオフ   人を超えたロマンス 第三話

2019年5月、GWも終わり気温は初夏と言っていいほど高い気温の日が続いた。某大学商学科4年生、川城祐希は片思い中の”マヤ様”こと大山雅子の気を引こうと日々料理の研究に励んでいた。「まずは胃袋からだな。食前酒にカクテルを作れるようにもなっておこう。」TVやネットでレシピを調べ愛するマヤ様の為に必死に努力を続ける祐希。料理研究会のキッチンでマヤ様が好きなフランス料理に合うカクテルを開発している。「だめだ、この味では満足していただけない。いったいどうすればいいんだ。」「おい祐希、ちょっとは休めよ。もう三日だぜ。しかし祐希も理想が高いよな。もっと身の丈に合った女の子のした方がいいんじゃないか?。」祐希は断固としてそのアドバイスを拒否した。「好きになてしまったんだから仕方ないよ。理屈じゃないんだよ。たまたまハードルが高かっただけだ。今更後へは引けないぞ。だから行くのだ。」拳を握りしめる祐希。マヤ様を招いての試食会はあと三日に迫っていた。
 
 同日同時刻あのパピー君は校舎裏で女性と何やらもめている様子である。「もういい加減にしてよ。何で私だけを見てくれないのよ。散々抱いておいてひどいじゃない。」涙ながらに声を上げる女性。しかしパピー君はうっすら笑っている。「ごめんえね。魔が差しちゃった。でもあの子もほっておけなくてさ。顔にあざがあったし、さみしそうだったから仕方ないじゃない。」何とも掴みどころのない様子である。「ねえ、もうほかの子と寝るのはやめてよ。お願いだから。」女の子は涙目でパピー君の手を握る。「もう泣かないで。可愛い顔が台無しだよ。」パピー君は黙って優しく女の子をそっと抱いた。決してもうしないとは言わないところがパピー君のズルい所である。
 その様子を双眼鏡でのぞき見している男がいる。祐希の友人の坂田三郎である。「パピーのやつ又やり逃げするつもりだな。うらやまし・・いやいやひどい奴だ。けしからん。後で祐希に言いつけてやろ。」パピー君の女癖の悪さは学校中に知れ渡っている。しかしそれでもパピー君になびく女の子は後を絶たない。坂田にはそれが不思議で悔しくて仕方ないのだ。「学園の女帝マヤ様をめぐり、祐希VS性欲魔人パピー君か!これは面白い勝負になりそうだぜ。」性欲魔人とはひどい言われようである。しかしこの手の人物は同性からはどうしても嫌われるようである。坂田は料理研究会のキッチンに戻りパピーの先ほどの様子を祐希に報告した。「なんだって!。ちきしょう許せない奴だな。あんな男とマヤ様が付き合ったら絶対マヤ様は浮気されまくって不幸になる。絶対阻止してやる。」「おいおい思い余ってパピーを殺すなよ。しかし不思議だよなあ。なんで女の子ってああいうタイプに弱いのかな?。真面目で誠実な男って意外とモテないんだよな、ホント不思議??」祐希も苦い顔で言う。「そんな男はつまらないとか思うんだろうな。悔しいけど女性の扱いはあいつ上手いし決して怒ったり切れたりしないからな。強敵であることは間違いないよな。」パピー君は他にも女の子がデートをすっぽがしたり約束を破ったりほかの男と寝ても決して怒らないし別れようともしないのだ。相手を縛らない。又甘え上手で女性の母性本能を刺激することも得意でさらに貢がせることも得意でお金には不自由しないようだ。ホストに最適な人物である。祐希とは真逆なのかもしれない。

 そんな数日後のある朝、大学の最寄りの駅で事件が起こった。

 駅の裏側は人が通る事はほとんどなくそのためが物騒な連中がよくたまっている事がある。そこになぜかパピー君がいる。ガラの悪い若い男二人と何やら話をしている。「おい、とぼけんじゃねえぞこら。真由美が白状したんだ。お前と寝たってな。」男の一人はものすごく怒っている様子である。しかしパピー君はビビる様子もない。「君がすぐ暴力をふるうって真由美ちゃん泣いていたよ。暴力は良くないよ。」男は切れた。「俺の女寝取っておいてふざけたことを抜かすな。」男はパピー君の襟首をつかみ、殴り倒した。「おい立てよ。これで済むと思ったら大間違いだぞこら!。」男はパピー君の襟首をつかんで引き起こした。「俺たちは仕事してねえからよ。豚箱ぶちこまれても構わねえんだよ!。」その時後ろからその男の右手首を掴むものが現れた。「そのぐらいでいいだろう。もうやめておけ。」なんと祐希である。祐希は身長182cmもあり細身だが胸板があつくイケメンだが目が鋭いので強面である。「なんだてめえは。関係ねえだろ。」「こいつは知り合いでな。ほってはおけないんだ。そんなに暴れたりなきゃ俺で良ければ遊んでやるぜ。遊んだ後に大好きな豚箱にでも入るんだな。来い。」祐希は格闘家っぽい構えを見せた。おびえる男たち。「ちッ、もう一発ぶん殴ってやったからこれで勘弁してやらあ。今度俺の女に手えだしやがったらぶっ殺すぞ。分かったな。」言い終わるとガラの悪い男たちは逃げるように去っていった。祐希はパピー君の右手首を掴んで引き起こした。「勘違いするんじゃねーぞ。マヤ様が悲しむかもしれないから仕方なくやったんだ。お前みたいな奴でもマヤ様は気に入っているみたいだからな。」言い終わると祐希は背中を向けて去っていった。「あッあのー。助けてくれてありがとな。」祐希は聞こえないふりをしてそのまま足早に大学に向かった。偶然にもその様子をマヤ様が弟子の空子と一緒に見ていた。「祐希ってかっこいいな。恋敵かもしれない奴を助けるなんて。」「やっぱりマヤ様は祐希の気持ちに気が付いていたのですね。」「あれで気が付かないバカがいるか。」マヤ様は祐希を見直したようだがパピー君の様子も気になるようだ。しかしパピー君はすでにいなくなっていた。

 午前中の講義を終えてマヤ様は弟子の空子と一緒に校内のレストランでランチ後にお茶を飲んでいた。マヤ様は何やらスマホでイケメンの写真を見ている。「マヤ様、男の写真ですか?。パピー君や祐希君だけでなく気になる男でもいるのですか?。」「これを見ろ。」マヤ様は空子にあるイケメンの写真を見せた。「ここっこれは人形。でもイケメン!でも人形!」空子は初めて見るイケメン等身大人形に驚いていた。「驚いたか。これは縫いドールと言って布で出来たイケメンだ。入札したかったんだが終了してしまった。残念だ。」「人間の男だけでは飽き足らず人形の男も手に入れようとお思いですか?。いやはやはストライクゾーンが意外と広いのですね。でもそんなものわざわざ買わなくてもマヤ様なら人間の男をより取り見取りでしょう。」マヤ様は別の写真も見せた。「ありゃ、和服が似合う渋いイケメンですね。マヤ様の元彼ですか?。」「いいやこの等身大縫いドールの作者だ。腕のいい職人でな。何回かDMでやり取りしたがお人柄も最高だ。女性がお迎えしやすいようにこのクオリティでこの価格だ。」「はあ?安いんだか高いんだか???。」「しかしこの作家さんの家が洪水で水没してな、今は生産中止状態なんだ。生産再開したらお迎えしたいんだが残念だ。」マヤ様は露骨に残念そうな顔をする。「うーん、マヤ様をめぐる恋模様。祐希君かパピー君かはたまたこの縫いドールイケメンか?。それともこの私か?。予想が付きませんね。」「おい!今なんて言った?。この私ってなんだ?。」マヤ様は意味不明な空子の言動に驚き、焦った。

 そうこうしているうちに料理研究会のマヤ様専用の試食会の日がやってきた。会場に空子をお供に引き連れてマヤ様がやってきた。会場の教室には赤い絨毯が敷いてあり執事服を着た部員が4人整列している。その整列している通路の下にも赤いビロードが敷かれている。「偉大なる我らが女神!マヤ様!ご来場~。」どこからかファンファーレが鳴り響き、くす玉が割られて白いハトまで放たれた。「やりすぎだ!(/ω\)恥ずかしい!。」テレながらマヤ様は試食会の会場に入る。西洋アンティーク調の高級椅子とテーブルが置かれており。祐希は白い手袋をしてマヤ様が座る椅子を引いた。ゆっくり座るマヤ様。空子も同じテーブルに通された。すぐに食前酒のカクテルがテーブルに置かれた。「お毒見は済んでおります。」祐希は膝真づいて右手を胸に当てて目を閉じた。マヤ様は早速カクテルを口にする。「こっこれは・・・。」マヤ様は意外とお酒好きでよくショットバーに行くことがある。味にうるさい方だと自覚しているのでそう簡単にはお酒をほめない人である。しかし・・「これは・・・プロのバーテンダーに勝るとも劣らないまろやかでさわやかな味だ。一大学生でこれほどのカクテルを作れるなんてありえない。」マヤ様はそのカクテルを絶賛した。「ありがたき幸せ。この川城祐希天にも昇る栄誉でございます。」又膝真づく祐希。しかし美味いのはカクテルだけではない。運ばれてくるフランス料理も五つ星レストラン急である。マヤ様は祐希の目にクマが出来ている事に気が付いた。「おまえ・・・この私の為にそこまで・・・。」さすがのマヤ様もここまでしてくれる祐希の真心と紳士的な対応に心を打たれた。マヤ様の心が温かくなっていく。人を想う純粋な気持ち、そして献身的な努力が痛いほど伝わってくるのを感じずにはいられなかった。マヤ様の目に涙が浮かんだ。「お前凄いな。この私に涙を流させるなんて・・・。お前みたいな男は初めてだ・・・褒めて使わす。」祐希も感激のあまり目が潤み始めた。「この川城祐希、たった今人生で最高の栄誉を授かりました。神に感謝し、お父さんお母さんからもらったこの命がマヤ様のお役に立てた事を心より誇りに思う次第です。」マヤ様はすっかり感激し笑顔になった。
 「お礼にお前が望むものを申してみよ。遠慮はいらぬぞ。私がやってもいいと思う事であればそなたの願いかなえてやるぞ。」意を決した祐希は高鳴る心臓を手のひらで押さえて言った。「私がお願いしたいことはただ一つ。マヤ様の彼氏になる事だけでございます。カクテル、料理、ボディーガードその他なんでもして差し上げたく思います。どうか私の願いお聞き届け下さい。」祐希は膝真ついて目を閉じて右手の掌を胸に当てた。高鳴る心臓音。
「面を上げい。私の負けだ。ここまで気合の入った告白など初めてだ。私は今日からお前の彼女となろう。喜べ。そしてありがたく思え。」その瞬間祐希は両手を高く上げて「やったーーーーーーーーー。」と学校中に響き渡る大声で叫んだ。ちょっと恥ずかしそうに俯くマヤ様。マヤ様21歳の春に何人目か分からないが新しい彼氏が出来た瞬間であった。隣でその一部始終を見ていた空子は半分呆れていた。「なんなの、この茶番は?。これが20歳そこそこのカップルの会話か?。どこの国の王族気どりだよ!。」おもしろくない空子はひたすら祐希が作ったカクテルを飲み続けた。その様子をあのパピー君がずっと見ていた。パピー君は又スイーツでも食べられるかなと思い料理研究会のイベントだと思って会場に来たのだ。そこで一部始終を隣の彼女?と見ていた。「おめでとう川城君、おまでとうマヤ様。」小声で言い終わると何も食べずにパピーは彼女?と一緒に会場を去っていった。

 その後が大変であった。祐希は試食会を手伝ってくれた部員からシャンパンを頭からかけられたり動画で二人の様子を取られて校内SNSにUPされたりとお祭り騒ぎが続いた。お祭り騒ぎが終わり会場を後にした祐希はマヤ様を家までお送りする事にした。

 気を利かせたのか空子の姿はない。二人は駅を降りてマヤ様の借りているマンションまで一緒に歩いた。「ボディーガードの仕事はここまででございます。それではマヤ様良い夢を。」立ち去ろうとした祐希をマヤ様が追いかけて祐希の右手首を掴んだ。「ボディガードの仕事はまだ終わっていないわよ。朝まで側で守ってくれるんじゃなかったの?。」祐希は心の準備が出来ていないのでめちゃくちゃ戸惑った。「いえいえいえいえ。今日付き合い始めたばっかですし、物事には順序っていうものが・・・・でもでもでも、今夜マヤ様に万が一の事が起こらない可能性が無いわけじゃないし。守ると誓った以上約束を守んなきゃだし。ええいお邪魔します。」祐希はマヤ様が借りているワンルームマンションに入ってしまった。「何もしないから安心してマヤ様。」「あーら本当かしらね?。」やや意地悪っぽくマヤ様は言った。祐希は女性慣れしていないのがバレバレな様子である。さてどうなる事やら。

第三話 END

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