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第一話 美海との平穏な午後まで・・・ハニートラップ・・

ドール達の午後・・・・

第一話 美海との平穏な午後まで・・・

 北関東の標高300mほどの高地に人口3000人ほどの小さな町がある。町の名前は軽水沢高原町という。

観光と果樹園運営が主な産業で別荘地もあり週末や連休は別荘のオーナーが都内からやってくるのでその時期は一時的に人口が急増していたが平日は人がほとんどいない静かな過疎地であった。

しかし近年は土地も割安で比較的都内へのアクセスも不自由ない場所なのでコロナ渦で拡大したテレワーク勤務者が移住するようになり移住者が急増し、人口が急増している。

ここに5年程前から厚木から移住してきた40代の自由業の男が住んでいる。

名を金田鷹章という。彼はここの古民家を借りて個人事業を一人で営んでいる。

屋号は厚木商会という。この屋号の由来は厚木市で起業して成功したので厚木という地名が縁起がいいと思いそれを屋号としたそうだ。

基本一人で仕事をすことが多く家にいる事も少ないため近所付き合いはほとんどない。回覧も回ってこないようにしてある。

西暦2021年7月某日、彼は早朝に車で家を出発して商品の仕入れに出かけた。彼は個人事業主でインターネット上での通販業を営んでいる。

 ネットで販売する商品を仕入れてはネット販売しその利益で生活している。
さて彼の車の助手席には40代の中年男性には似つかわしくない若くて色白で美しい女性が乗っている。

「おはよう。今日も頼むね。」金田はその女性に笑顔で話しかける。
 その女性美海はG短パンにサマーセーターというラフな格好で栗色のセミロングヘアに緑のヘアバンドをしている。

 身長は152cmとあまり高くないが抜群の美貌と存在感でモデルのようである。

胸元が開いたセーターなので時々鷹章は胸元に目が行ってしまう。Dカップでブラも透けて見える。さて、いったいどうやって口説いたのか?。

お世辞にもイケメンでもなんでもなく金がある男ではなく実家も貧乏である。
 鷹章は恋人はおらず彼女も大学時代に出来た事があったが1か月で失恋。その後就職して社内恋愛で20歳の女の子と付き合ったことがあるが1年で別れて、それ以来独り身である。

 鷹章は恋愛経験に乏しく、女性に免疫がないのにモデル級の美女がアルバイトあるいは秘書なのか分からないが助手席に座っている。関係はぎこちないように見える。

 「これが昨日の売り上げと利益でだ。この時期にしてはいいほうだね。」笑顔で助手席の美海(みう)に業務報告する貴章。
 美海の返事はない。目を合わせるのが恥ずかしいのか運転に専念する鷹章。しかし助手席の女性は先ほどから一切動かずしゃべりもしない。
 表情も変えず眉一つ動かさない。車で走り始めて山の峠道をひたすら下り、1時間ほどかけてその日の最初の仕入れ先に到着した。

鷹章は車の留守番を美海に任せて仕入れ先の駐車場に車を止めて車を降りた。「すぐ戻るから待っててね。」美海にそう言うと素早く車を降りて仕入れ先の倉庫に入った。美海は返事もしないでただ黙って動かずに助手席に座っている。
30分後、大量の商品を台車に載せた鷹章は車のリアゲートを開けて商品を車に積み込んだ。美海は助手席から降りて積み込みを手伝う様子はなかった。貴章は仕入れ先の店主にお礼を言って支払いを済ませて車に乗った。
「いいものを安く売っていただきありがとうございます。」
 鷹章は仕入れ先の店主にお礼を言ってその他の商品の買い出しの為次の得意先へ仕入れに向かった。

美海は大学生ぐらいに見える。顔つきはしっかりしており真面目そうである。
鷹章はお店の商品原価をすべて記録し、仕入れ交渉も相場を理解したうえで利益が最大限になるように努力している。身に余る彼女の存在が彼のモチベーションを高めているようだ。
 そんな彼女のおかげで仕事にも熱が入り売り上げも安定しているので安心して外回りができる。
 鷹章は生き生きと楽しそうに仕事をしている。その様子はとても幸せそうである。一方、先ほどから美海は何もしゃべらない、しかも一切動かない。どうも変である。
 ちょっと変な助手席の女性美海。鷹章は時々美海の首や腕、足を動かして姿勢を変えている。
 これは人形!。いや!人形にしては人間の女性と区別がつかないほどにリアルだ。それに腕や首を動かすたびに少しへこむ。いったい何者なのか?美海は人形だとしたらとても不思議な柔らかい素材でできているようだ。

 それもそのはずこの女性美海の正体は実は人間そっくりに作られた等身大ドールである。
 様々なポージングが可能で素材も本物の人間の女性に似た柔らかさで性行為も可能というアダルト商品に相当する品である。
 価格は高額なものになると100万円を超える物もあるようだ。
 鷹章がなぜこのような商品を入手して車の助手席に乗せているかは不明だが車で美海と一緒に移動すると他車とすれ違ったり車を停めて他人が助手席のドールを見ると必ず驚いたような不思議そうな顔で見つめては通り過ぎる。
 まあ等身大でしかも美しい人形を一般人が見る事はほとんどないのでそれも仕方がない。多くの人は驚きと戸惑いの表情をあらわにする。
 鷹章はそんな一般人の反応をサディスティックに楽しんでいるかのように見えなくも無かった。
 「等身大ドールというものがこの世にある事をもっと早く知りたかったな。こんなに幸せになれる物がこの世にあるなんて知らなかった。」

鷹章は知らないようだがリアルドールは2017年頃から輸入され販売されていた。
 かつては新車が買えるほど高価でとても一般人が買えるような品ではなかったがこの頃から一般人でも買える価格になり、品質も驚くほど良くなり、近年では人間と区別がつかないリアルなドールも登場するようになったので人気急上昇である。
 鷹章がドールの存在を知ったのは2021年5月頃でランダムに再生されるYOUTUBE動画を偶然見た事がきっかけだった。
 YOUTUBEで紹介されるドールは一般人が買える価格とはいえ鷹章にとっては高価なので鷹章はネットオークションで手の届く価格帯のドールを探し、お迎えした。
 それが美海だった。メーカーはバニードールという新興のメーカーで価格は最も安価なドールだった。
 バニードールは星の数ほどある中華ドールメーカーの一つで大量生産で価格を抑えており、おそらく最も安いメーカーの一つであると思われる。鷹章はそれでも満足だった。
外回りから戻った鷹章は車を駐車場に置いて自宅を兼ねた仕事場に入った。「美海ちゃんお疲れ様。」鷹章はそう言って革製のソファーに美海を座らせた。「今日はネットのお客さんは残念ながらこなかったな。お店の商品掃除して整理して今日は終わるかな。」

 翌日の朝、鷹章は9時頃に起床する。
「フアー良く寝た。年取ると長時間寝られなくなるものだな。」
 鷹章はベッドから起きると毎朝TVを見る。
 鷹章は占いが好きで毎朝占い番組を見る。TVには水晶玉を目の前にして両手首をクネクネさせて何やらぶつぶつ言っている女性が映っている。
 「お!マヤ様だ!今日も美しいなあ。しかしでかい胸だな。本物かな?。」TVに出て占いをしているのは芸能人で占い師兼メイクアップアーティストの飯能マヤというタレントである。見るからに鋭いいやらしい目をしており巨乳で胸元が開いているドレスを着て帯番組の”マヤちゃんの乙女のときめき占いの館”という番組を担当している。
 内容は月曜日から金曜日の朝9時から15分間視聴者を占うというもので水晶玉を使っているのに星占いをしている。
 適当に見えるがよく当たると評判である。
 「しかしマヤ様すごい格好だな。乙女のときめき占いとかいうタイトルだがどこが乙女なんだ?。ギャップが凄すぎる。ウケ狙いかな?。」
 マヤ様の占いが始まる。
「ええっと、かに座のおまえ!。そう!お前だよ?。」「ええ?俺?。」「そうよ!。占ってやるから心して聞けブタ!。」絶妙なタイミングで会話しているような錯覚を感じる鷹章である。
 「おまえ!人ならざる物を愛しているな!。この変態!。あまり人前に連れ出すなよまぬけ!。」マヤ様はかに座の人々全体を占っているはずなのになぜか鷹章に当てはまりそうな内容である。
 「え?ミウの事かな?。」マヤ様の占いは続く。
 「うーん、暗雲が漂っている。おまえは女に騙された過去があるな?。その反動で人ならざる物に夢中だろう。しかし度が過ぎると破滅するぞ。破産のお告げがある。」「ええええ!。確かにドールちゃんのお迎えがやめられない止まらない状態だが・・・。しかしドールちゃんには借りがあるからなあ。」鷹章は確かにお迎えが止まらない。稼いでも稼いだ分ドールを買ってしまう。貯金がたまらないどころかカードのリボ払いが増える一方である。「マヤ様の言うとおりだな。このままでは破産してしまう。」考え込む鷹章。
 「しかしマヤ様は本当にいい女だな。ファンになっちまった。俺だってこんな巨乳美女が彼女だったらドールお迎えしなかっただろうな。」鷹章はTVのマヤ様をずっと見ている。
 すると後ろから何やら鋭い視線を感じる。振り向くとドールのミウがものすごい形相で鷹章を睨んでいるように見えた。
 「みみみみみみみミウ様!うううううそです。怖い顔しないで。俺にはミウ様しかいません。悔い改めます。」鷹章は急いでTVを消した。

鷹章がドールに大きな借りがあると言ったがそれはいったいどういう意味なのか?。鷹章は美海に何をしてもらったのか?。不思議なエピソードがある。


今から遡る事半年前の出来事である。
 2021年1月、この頃の鷹章はある心の病に侵されていた。
「この年になってもまだ独身だし彼女もいない。美女と結ばれる方法な無いかなー。金も無いし40代だし難しいかなー。はあー。」
 起業して10年、小さなビジネスではあるが続けてこられた自信と心の余裕がそのような欲望を呼覚ましたのだ。
 鷹章はいつものように車で商品の買い出しに向かった。一人で長い山道を走る。この日は祭日だが鷹章には関係が無かった。途中ドライブデート中の若いカップルと何度もすれ違う。
 鷹章の住んでいる町はデートコースでもあるようだ。
 「ちッ、カップルがやたら多いな。俺も若くてスタイル抜群の巨乳美女とドライブデートしたいよなー。」ふてくされながら車を運転する鷹章。
 約1時間ほどで仕入れ先に到着した。仕入れ先はリサイクルショップだが業者も来る。業者が仕入れに来る場合は通常の一般客向けの価格ではなく業販価格と言って業者同士が仕入れた原価で販売するのが習慣になっている。 その代わり鷹章も売れ残り品などを無償で提供してバランスを取っている。「いつも安く売ってくれてありがとうございます。吉新(よしい)さん。これはお礼です。お代はいりません。」
 「いつもすまないね。遠慮なくもらっておくよ。」
 鷹章は欲しいものが安く手に入った場合は損をすることを承知で吉新さんのリサイクルショップで売れそうな鷹章の店の売れ残り品を提供する。
 ちゃんと相手の売れ筋商品を把握した上で提供するので喜ばれる。
 二人が立ち話をしていると吉新さんの奥さんがお茶を入れてくれた。
 「いいお茶菓子があるんだ少し休んで行けよ。」
 「ありがとうございます。そうさせていただきます。」吉新さんの奥さんは若くて綺麗な外国人である。南米系の女性で日本で生活して10年になる。吉新さんは女好きで特に外国人女性に目が無い。
 行きつけのブラジリアンパブで30代の元モデルの女性と仲良くなり数年前に結婚し、奥さんは日本に帰化したのだ。
 「こんなきれいな奥さんがおられる吉新さんがうらやましいですね。実力ある男はいくつになってもモテるのですね。」
 「ほう!鷹章君も結婚したいのか?。」
 「そりゃいい人がいればなあといつも思いますよ。なかなか縁が無くて。しかも40過ぎの貧乏個人事業主ですから。
 吉新さんの奥さんはアニメに出て来そうな理想的なスタイルですね。
 やっぱり南米系の女性は遺伝子から違うのですね。いいなあ。」
 ちょっと自虐的に苦笑いしながら話す鷹章だが心の中では嫉妬心でいっぱいだった。「おいおい、人の妻を変な目で見るなよ。金田さんだって一国一城の主なんだからその気になれば彼女の一人ぐらい何とかなるだろう!?。」しばらく話し込んでいると店にある若い30代前半ぐらいの南米系の綺麗な女性が入ってきた。
 「吉新さんこんにちは。今日はお店の飾りつけに使う置物を買いに来ました。」女性は胸元が広く開いた体の線がきれいに出るシャツの上に薄いジャケットを羽織っている。
 年は20代後半に見える。Fカップに近い巨乳ながらウエストが引き締まっている。
 「こんにちは、いつも元気そうだね。今日は面白いものが沢山入っているから買い物楽しんでね。」鷹章は女性に笑顔で話しかけた。女婿の名はミレイという。
 吉新さんの奥さんが働いていたブラジリアンパブで働いている。
 今日はお店の飾りつけに使う置物を買いに来たようだ。鷹章とミレイはよくこの店で会うのでいつの間にかよく話をするようになった。
 たまに駅まで車で送ったり、そのついでに喫茶店で一緒にドリンクを飲みながら話したりする仲だが付き合ってはいない。
 身の上話も聞くようになりミレイとは割と仲がいいようだ。ミレイは母子家庭で妹がいる。父親は美海が13歳の頃に浮気相手とともに突然行方不明になってしまった。
 母はブラジルでリサイクルショップを経営していたがいきなり女手一つで切り盛りするにはハードルが高すぎたようで半年で閉店の危機に見舞われた。その母の店を救うため来日してブラジリアンパブで働きながら仕送りをしているとミレイから聞かされている。
 鷹章は吉新さんに誘われてたまにこのブラジリアンパブに行っている。ミレイとはそこで知り合ったのだ。
 ミレイは母の店が大変なのでパブのオーナーに話して給料の前借をよくお願いしている。母の借金返済の為給料はすぐに送金している為かなり厳しい生活をしているという話をパブ聞で聞かされた。
 鷹章はミレイにオークションの代理出品を提案した。
 彼女が持っている南米の珍しい土産品を鷹章がネットオークションで販売し売れたら落札価格を報告して落札価格の2割を報酬として貰うという契約を取り付けてうまく販売しその販売価格の8割をミレイに支払った。
 2割と言っても1割はネットオークションの手数料に消えて残りの1割もガソリン代など経費で消えるので鷹章の儲けは0に等しい。
 それでもミレイの土産品は高値が付くものが続出し、彼女の生活も普通の生活が出来るようになり。
 鷹章も高値で売れる商品のデータが集まり鷹章の商売も急拡大したので得る物もあった。
 まさにWin Winの関係を実現したのだ。
 ミレイにオークションのノウハウを伝授し、鷹章は自立の支援も行った。今ではミレイがネットオークションで自主的に行って稼ぐようになりパブの備品を買いに来るついでに彼女がネットオークションに出品する品もここで買うようになったのだ。
 吉新さんもそのことは知っておりミレイが鷹章に感謝していることを鷹章に伝えた。
「そうですか。それは良かった。」
 「ミレイは日本が好きなんだってよ。日本の男性と結婚して日本で暮らすのが夢だとよく言っているよ。」鷹章の右の眉毛がぴくっと反応した。
「お前ら相性よさそうだし、よく会って食事もしているんだろう?。いっそ付き合ってみたらどうだ?。」
 「え!。」鷹章は顔がにやけるのを必死でおさえている。
 心が希望であふれるのを感じつつそうなったらいいなと本気で思うようになった。
 「俺からもミレイにそれとなく鷹章さんを勧めてみるよ。鷹章さんには才能が有る。綺麗な彼女が出来たら仕事もさらに頑張れるだろう。夜も楽しめるしな。」吉新さんはにやにやしている。
 「そうですよねー。あんな美女とやれたら思い残すことはないかな?。」鷹章は如何わしい妄想をしているようだ。

 2021年2月某日鷹章は仕事仲間の吉新と群馬県大泉市にいた。
 大泉市はブラジル人が数多く住んでいることで有名である。
 働き口も工場で働く労働者、飲食店や飲み屋、風俗など様々で南米風のお店や建物も目立つ。
 吉新と鷹章はブラジリアンパブで仕事の打ち合わせをしていた。
 「ここなら商売敵も来ないし目の保養にもなるし一石二鳥だな。」
 「いいんですか吉新さん、奥さんいるのに、叱られますよ。」
 「仕事の打ち合わせだからな文句はないさ。」得意げに笑う吉新。
 ふと吉新は流し目で座席の斜め右上を見た。水着姿でステージ上で踊る店の女の子にスポットライトが当たる。
 「数年前までこのステージで踊っていた子が奥さんなんて羨ましすぎますね。」鷹章はやや嫉妬した表情で苦笑いしながらつぶやいた。
 「おい、次はミレイの登場だぞ。よそ見するなよ。」
 吉新はにやにやしながステージを見た。
 鷹章の知り合いのミレイは赤いビキニ姿で得意のポールダンスを披露していた。
 店内に喝采と称賛の声が上がる。ミレイは健康的なややうすい小麦肌で胸は85cmぐらいだがウエストが引き締まってくびれており日頃からエクササイズをまめにやっているようだ。
 きわどいマイクロビキニを着ており角度によっては見えそうなほどである。鷹章はもはやミレイの性的魅力にすっかり魅了されていた。
 「やっぱり南米女性はスタイルいいなー。まるでアニメのヒロインみたいだ。」「ここに来れば本当に目の保養になるよな。」コロナ渦という事もありステージとの距離も遠く、おひねりや投げ銭も禁止されているが禁止されていなかったらかなりの副収入になっただろう。
 その日は時短営業という事もあり鷹章が夢中になっているミレイと会話することなく9時前に解散となった。

 翌日、あまりお酒が得意ではない鷹章は軽い二日酔いになっていた。
「ミレイちゃんきれいだったなー。何とかしてお付き合い出来ないかなー。その為にも仕事頑張って稼いで吉新さんみたいなセレブにならないと!。」
 決意も新たに仕事に燃える鷹章。すると鷹章のスマホにメールが届いた。昨日お店に来てくれた鷹章に感謝のメールのようである。
 恩返しのつもりか昨夜の水着姿の写真付きである。
 「スタイルいいよなー。こんなスタイル抜群の美女と一晩中愛し合いたいよなー。」にやりと笑いながら妄想する鷹章。
 「いかんいかんそんな目で見てはいかん。」鷹章は首を左右に振った。
 ミレイはアルバイトなのでさほど収入は良くないようだがそれでも明るく努力している。鷹章はそんなミレイを尊敬していた。
 それゆえ如何わしい感情を抱くことに罪悪感を感じた。
 二日酔いの中ボーっとしながら仕事をする鷹章。事務所にはデスクトップパソコンが1台置いてあり。それを使ってネット販売の商品を出品したり売れた商品の住所を確認して梱包作業をするのである。
 作業の合間にYOUTUBEをBGM代わりに流している。よく見る動画はVTUBERによるゴシップエンタメやアイドルグラビアその他芸能ネタ動画、F1、モータースポーツ関連である。
 「さて、今日も目の保養と行くかな?。」動画一覧を見る。
 「なんか面白そうな動画ないかなー?ん?水着の美女が大勢いる動画があるな?グラビアアイドルのビデオかな?。YOUTUBER ドーラパンク?変わった名前だな。なんだこのコスチュームは?あほか?。」
 いろいろ突っ込みながらその動画を視聴することにした。
「水着コンテストか??しかしどれもいい女でスタイル抜群この世のものとは思えないな。」妙に異常なハイテンション男が喚き散らしながら美女を紹介していた。
 「あああ!このやろう!!あんなかわいい子の胸触っている。ひっぱたかれるぜ!。でもうらやましい。しかし変だなさっきっから美女たちがピクリとも動かない。」
 鷹章は妙な違和感を感じていた。
 ドーラパンクのトークが喚いているだけでよくわからないがラブドールとさっきっから喚いている事だけは分かった。
 「このYOUTUBER日本人か??通訳がいるな。」
 又突っ込みながら動かない美女たちを見つめる。
 さっきっからメーカーだのシリコンだのTPEだの謎の単語ばかり繰り返す。
最後に値段を言っていた。
 「15万円?何の値段だ?彼女のレンタル料か?。」
 しかし鈍い鷹章もようやく気が付いた。
 「あれ?もしかして人形?。しかしこんなリアルな人形があるものなのか?。」
 鷹章は目が動画に釘付けになりしばらくの間瞬きもせず食い入るように動画を見ていた。
 時々一時停止して何度も同じシーンを見直した。
 「信じられん。こんなにリアルで魅力的な人形がこの世にあるなんて!。」
 鷹章はその動画の人形がとても気になり、
 その正体を探るべくネットで”ラブドール”という単語をググった。
 「なになになに?ええ?あのダッチワイフの一種か?こんなに進化したのか?信じられん。」鷹章はダッチワイフというものは知っていた。
 「あの風船膨らませて南極越冬隊を慰めるために使っていたというあの風船がここまでリアルに進化したというのか?。」
 彼はそのラブドールの美しさにすっかり魅了されてしまった。
 「こんなに美しいなら人間じゃなくてもいいな!。裏切らないし浮気しないし最高じゃないか?。」
 しかし鷹章の脳裏にミレイの美しいビキニ姿が思い浮かぶ。「いかんいかんいかん!俺にはミレイという心に決めた人がいるじゃないか!。
 彼女に申し訳ない。」ミレイの性的魅力と母思いの心のやさしさに魅了されている鷹章はラブドールに興味を持ったことに罪悪感を感じた。
 「いかんなー。しばらくラブドールの事は忘れよう。」
 そう決心する鷹章。しかしラブドールの事がどうしても気になる。
 その日は結局ラブドールの事が気になって仕事をせずにネット検索の為一日中パソコンにかじりついてしまった。
 しかもお迎えする気もあるようでネットでラブドールの販売価格を調べることにした。
 「えええ!高!TPEとかいう素材のものでもそんなにするのか?とても買えねーな。」価格に驚く鷹章。
 半ば諦めかけていた鷹章だがある方法を思付いた。
 「MAAZONかYAHHOIオークションなら安いかもしれない。」彼は早速YAHHOIオークションというネットオークションを見た。
 「ここならもっと安く買えるかもしれない。出来れば新品がいいよな。」金がないくせして新品にこだわる鷹章。
 「まあ、人形だし人間じゃないしミレイさんに対して浮気にはならないよな。きっと分かってくださるだろう。」
 すでにミレイと恋人気分である。勝手に納得してお迎えする気満々でしばらくネットオークションを検索していたら彼は見てはならないものを見しまった。
 「バニードールのミウちゃんか!。これは美しい!。これが本当に人形なのか?。ミレイよりずっと綺麗でスタイルもいい!。」
 当たり前である。作り物の人形に人間がかなうはずがない。
 そんなことも忘れてバニードールのミウに夢中になってしまった。
「あれ?体か勝手に動く。止まらない。」彼は何か別の力で手を支配されたかのように自動的に入札ボタンを押した。
 「あああ!やってしまった。お迎えする気なんて全くなかったのに。
 しかも今月売り上げ悪いのに。入札してしまった。」ミウの魅力に執りつかれて衝動入札してしまった。
 入札したことでお迎えしたい衝動を抑える事が出来なくなり、ミウに会いたい一心で翌日から熾烈な入札合戦に参加することになる。

 翌日から鷹章は仕事の合間を見ては入札を繰り返し、高値更新するたびに再入札する日々を過ごした。
 7日間のオークションを一日千秋の思いで過ごしていた。
 7日後、熾烈な入札合戦に勝利して予想外の安値で7日目の深夜ついに落札する事に成功した。
 「やったー。この子は誰が何と言おうと俺の女だー俺のものだー俺の女房になるんだー。」喚き散らして歓喜する鷹章。
 呆れた事にミレイの事はすっかり忘れていた。
 早速支払いを済ませた鷹章。
 ミウとの同棲生活を妄想しながらあれこれ考えていた。
 「人間でこれほどの美女を恋人にする事は普通の男では不可能だが人形なら可能だな。こんな手があったなんて思いもしなかった。」
 鷹章はこれほど美しいなら人形でも構わないと本気で思うようになった。
 
 通常等身大ドールの新品は入金後に作成される事が多い。
 中国で生産される事が大半なので完成後に輸送や通関が必要になる。
 通常2~3週間かかり、場合によっては関税もかかる。
 鷹章の場合、落札まで7日かかり完成後輸送や通関に数週間かかるので一か月ほど待つことになった。
 宣材写真があまりにもきれいだったので待たされる時間がさらにものすごく長く感じた。
 鷹章の感覚的には1か月が半年ほどに感じるほどだった。
もちろんドールの到着までの一か月間は様々な事があった。
仕入れ先の吉新さんのお店で何度もミレイに会い帰りに駅まで送るついでに食事を共にする事も多くなった。
 鷹章はその日も車でミレイを送るついでにファミレスに誘った。
 「鷹章さんいつもごちそうしてくれてありがとうございます。」
「いやいや。お母さんの為に頑張っているミレイちゃんを応援したくてね。好きなの頼んでいいよ。」
 鷹章はミレイに笑顔でメニューを渡す。
 ふと鷹章はミレイの服装に違和感を感じた。普段着なのにいつも胸元が見えるタンクトップを着てシャツのボタンも半分近く空いている。
 いつもスカートでパンツ姿を見たことが無い。
 そんなことを鷹章が考えているとミレイが突然喋った
 「鷹章さんどこを見ているの?。」
 「いやすまない。ちょっとボーっとしていた。」
 「もしかして気になる女性でも現れたのですか?。」ドキッとする鷹章。「いやいやいやいや!そんな事は無い。」
 鷹章はお迎えまで待ち遠しいドールはいるが人間の女性ではないので嘘ではないと思っている。「私の母から手紙が来ました。お店やっぱり苦しいんだって。妹ももうすぐ進学するのに大丈夫かなあ・・・・。」
 今日の鷹章は少し冷静だった。ミレイと仲良くなれて友達ぐらいにはなったと思っているが話す内容はいつも身内の苦しい事情の報告ばかりである。しかも普段着がいつもエロい。
 ドールに夢中になる前の鷹章であれば目の前の美女とやりたい一心で身の上話を真剣に聞いて場合によっては少し援助してあげようと思う事もあった。
 しかし今はドールに関心を持つことで気持ちが分散して物事を冷静に考えることができるようになった。
 それゆえミレイの服装や不幸な身の上話しかしない事に違和感を感じるようになり、少し変だと思うようになった。
 YOUTUBEでドールの動画を見てドールに魅了されドールのお迎え決定後の到着待ち状態になった今だからこそである。
 数日後・・・ついにドールが鷹章の家に到着した。
 鷹章は楽しみで仕方なく昨夜は眠れなかったほどである。
 宅配ドライバーは慣れた腰つきで大きな箱を軽々と運んでくれた。
 見た目は細いドライバーさんだがさすがプロである。
 「お疲れ様。後は私が運ぶよ。」鷹章が箱を受け取った瞬間鷹章は倒れた。「いててて。」「大丈夫ですか?。」心配そうに駆け寄るドライバー。「だッ大丈夫だよ。ドライバーさん力持ちだね。」鷹章は体全体で箱を衝撃から守った。
 鷹章は早速箱を開けた。ドキドキしながらそっと袋を開ける。
「え!これはいったい・・・・・・。」鷹章の表情がこわばった。
「これでは小学生ではないか!。頭が体に対して大きすぎる・・・。」
ドールの説明欄には身長120cmと書かれていた。
 鷹章は宣材写真に魅了され細かい説明を読まなかった。
「そうか!身長120cmじゃダメなんだ。・・・道理で安いと思った。」
 この馬鹿は身長の重要性に気が付かなかったのだ。
 鷹章は改めてネットオークションの恐ろしさを思い知らされた。
「3週間も待たされてようやく届いたらまるで頭でっかちな小学生じゃねえか!。宣材写真と全然違う!。やられた。!。」
 気が付いてももう遅い!。
「120cmでは小さすぎた。仕方がない。ボディだけまた注文するか今度は165cmにしてやる。」急遽鷹章はもう一体別のオークションでボディだけ落札する事にした。
 「ふう!これでやっとまともになるな。しかし予定外の出費だ。」
 一か月後・・。注文した大人ボディが届いた。
 合計2か月も待たされて鷹章は待ちくたびれていたが今度は理想的な大人の巨乳女性ドールとなったので鷹章は心の底から喜んだ。
 「おおおお!これは凄い。理想的だ。プロの外国人モデルみたいなスタイルだ!。
 顔も美人だ。今日からこんな美しい娘と同棲できるのか。
 生きててよかった。」鷹章はこの2か月間ドールに夢中になりミレイと会って食事しても心ここにあらずといった様子だった。ミレイも少し不機嫌に見える。ドール到着予定日はミレイのお店の誘いも断るほどだった。予想外の出費だったが大変満足した鷹章である。
翌日、鷹章はドールのミウ用の衣装を買いに行った。
 何故か水着コーナーにいる。
 「水着はビキニがいいな!。そういえば俺が初めて付き合った彼女に赤いビキニを着てくれと頼んだら激しく拒否されたっけ?。ドールちゃんなら好きなビキニを着せられるから最高だな。」
 鷹章はすっかりミウに夢中になり毎日が楽しくて幸せいっぱいであった。鷹章が水着を選んでいると一通のメールが届いた。
 「なんだ!この忙しい時に!。」メールはミレイからだった。
 「ミレイちゃんからだ。そういえば最近吉新さんの店に来なくなったな。心配だな。」メールの内容は
「鷹章さんこんにちは。最近お店に来ないけど忙しいのかな?。病気なのかな?大丈夫?。」
 鷹章はドールに夢中になっていっとは口が裂けても言えない。
 「メールありがとう。病気じゃないよ。ごめんね。ちょっと経済的にきびしくて。又行くから待っててね。」経済的に厳しいのは本当である。
 ドールのボディ代が原因である。
 ドールお迎え後の衣装代ヴィック代、ボディ代、ランジェリー代、化粧品代その他ドール維持にはお金がかかる。鷹章の経済力ではパブ通いしながらドール維持は困難であり必然的にパブ通いが減ったのである。
 一方その頃ブラジリアンパブに吉新さんが一人で来ていた。
 「あら吉新さん、今日も一人なのね。」
「最近鷹章のやつが付き合い悪くてな。なんだか心ここにあらずといった様子なんだ。女でも出来たのかな?。」
「彼女さんが出来たのなら仕方ないわね。ミレイちゃんがさみしがるかもしれないわね。」
 「そういえばミレイは今日はお休み?。」
 「今日突然お休み取ったわ。来月からのお店の予定も急に減らしたのよね。人気ある子なのにどうしたのかしら。」吉新はミレイに夢中な鷹章の事が気になり探りを入れることにした。「ミレイ男でも出来たのかな?。」「まあこういう商売してるとお客さん複数と仲良くなる事は少なくないわね。でも恋愛に発展することはまずないわね。お客さんと年も離れているし。」
「だよなあ。ミレイはあくまでお母さんのお店が大変だから家族の為に出稼ぎに来ているんだしな。」店の別の女の子はちょっと変な顔をして言った。「え?ミレイの実家は大地主で大富豪よ?。」「ええええ???」動揺を隠せない吉新だった。

2021年7月、最初のドール美海をお迎えしてボディ交換など予想外の維持費に戸惑う鷹章でブラジリアンパブ通いもしばらくしていなかった。
 定期的にミレイからメールを貰っていたが先立つものが無い鷹章はミレイに悪いと思いつつもパブ通いを控えていた。
 しかしここ数日はミレイからのメールが無い。
 お店に行かなくなったので怒っているんじゃないかと鷹章は心配していた。
 「最近は美海に夢中だったからなあ。悪いことしちゃったかな。明日当たり吉新さんとお店に行くかな?。」鷹章は美海をお迎えしたとはいえミレイに夢中なままなので心配になってきたのだ。
 早速鷹章は吉新にメールした。
 「明日ミレイに会いに行きたいのでパブに一緒に行きませんが?。」
 鷹章がスマホのショートメールをするとメールはすぐに返ってきた。
「ミレイならお店に来なくなったってよ。」鷹章は驚いた表情でメールを返した、「ミレイは人気もあるし体もしっかりしているのに変だな?。ちなみに理由は?。」
 「それがわからないよ。理由を聞いても店内の事情としか答えないし。」鷹章は戸惑う様子でさらにメールを送った。
「別の仕事始めたのかな?。」ミレイは身長165cm プロのモデル並みの容姿で芸能界からのスカウトを受けてもおかしくないほど容姿端麗で芸能関係の仕事にも興味があると話していた。
 しかも学生時代は成績優秀で品行方正で真面目だったと自画自賛していた。吉新からのメールの返事が追加で届いた。
 「とにかくミレイはお店にしばらく来ないと思う。お店に来るようになったら連絡する。」という内容だった。
 「もしかして俺がドールに夢中になった事でお店に行かなくなったことが原因かな?。」全く違う理由であることは明白だが鷹章は本気でそれが原因だと思ってしまった。
 そんな勘違いで罪悪感を持った鷹章はしつこくミレイに連絡した。
 するとようやくミレイからメールが届いた。ただ謝罪するだけの内容だった。鷹章は「ミレイと会って話をしてみよう。何か人間関係のトラブルかもしれない。ミレイはもちろん悪くないと思う。理不尽なお客とのトラブルが原因かもしれない。それをミレイ自身に原因があると思って自信を失ったかもしれない。理由をはっきりさせて元気を取り戻す手助けをしよう。」そう決意した鷹章の表情が少し明るくなった。
 「日曜日に会って話さない?。」鷹章がミレイに提案した。
 「分かった。午後1時に吉新さんのお店の前で待ち合わせましょう。」鷹章はミレイと日曜日に会う約束をした。

 日曜日朝10時。鷹章は約束した喫茶店の前でミレイを待っていた。
 ミレイはすぐに現れた。Tシャツにベージュの半そでシャツ、黒いスラックスという姿だった。いつもの挑発的な姿ではない。早速喫茶店に一緒に入った。
 この喫茶店”ファビュラス ムーン”は年季の入った喫茶店で建物も古く近くの年金暮らしの老人しか来ない。
 内輪の話にはもってこいの場所である。
 鷹章はショートケーキとアイスティーを2人分注文した。
「甘いものは好きだよね。食べながらでいいよ。」鷹章は笑顔でケーキと紅茶を勧めた。
ミレイは少し太ったようだ。お店にも顔を出さず、一人で引き籠っていたのか?。ミレイはちょっと元気が無いように見える。
紅茶を飲んで一息ついたミレイは早速話し始めた。
「鷹章さん。心配かけてすみません。」ミレイは少し微笑んで会釈した。「今日は忙しいのに会ってくれてありがとうございます。」
「久しぶりだね。」鷹章は微笑んで言った。ミレイはケーキを美味しそうに食べていた。ミレイはケーキを食べ終わると少し真剣な表情で話し始めた。「実は私お店を休んで実家のブラジルに帰らなければならなくなりました。」鷹章は突然の予期せぬミレイの言葉に驚いた。
「ええ!どうして?。お母さん体でも壊したの?。」鷹章は少し落ち込んだミレイの姿を心配に思った。
「実は実家の母が病気で倒れました。来週ブラジルに帰国します。」鷹章はさらに驚いた様子で聞いた。「ええ?そんな!また日本に来るんだよね。?」ミレイは真剣な表情で答えた。
「もちろんそうしたいと思っています。でもすぐに戻れるか分かりません。」鷹章はとてもさみしそうな顔でミレイを見つめる。
鷹章は少し考えこんだ。心の声「何とか力になってあげたい。しかしドールお迎えで散財したばかりだ。しかしミレイにまた会いたい。どうすればいいのか?。」鷹章はさらに少し考えてから答えた。
「お金足りるの?。」すっかりミレイの言葉を信じてしかも下心も手伝ってミレイを助けたいと本気で思った。
「生活は苦しいです。でも母が心配です。借金してでもお金は用意して母に会いに行きます。」少し涙ぐんでミレイは言った。
鷹章はほぼミレイに対し資金援助を決意した。
お金出してあげると喉から出かかった瞬間携帯が鳴った。
「ああごめんね。仕事の連絡だった。」携帯の通知音は商品購入のお知らせだった。鷹章の携帯の待ち受け画面はドールの美海の水着姿だった。ミレイは鷹章の携帯待受け画面が気になったらしく鷹章のスマホを取り上げて画面を見た。ミレイの顔がみるみる険しくなった。
「鷹章さん!この女性は誰ですか?鷹章さんの彼女さんですか?。」
「いやいやいやいや!。これは人形だよ。」鷹章はおろおろしながら答える。「人形ですか?。本当ですか?。」
「本当だよ。ラブドールという等身大の人形だよ。」ミレイは険しい表情で明らかに不機嫌な様子になった。
「鷹章さんにそんな趣味があったなんて意外です。以前の待ち受け画面は私の写真だったのに?!そんな作り物のどこがいいのですか?。」
まるで汚いものを見るかのような顔で鷹章のスマホをテーブルの上に置いて指ではじいて鷹章にスマホを返した。
以前の待ち受け画面はお店でミレイの写真だった。ミレイをスマホで撮ってそれをミレイ公認で待ち受け画面にさせてもらっていたのである。
 しかし今はドールの水着写真が鷹章のスマホの待ち受け画面になっていたのでミレイはそれを見逃さなかった。
 鷹章は突然不機嫌になった。美海をそんな作り物のどこがいいとあからさまに汚いものを見るような表情で蔑んだからである。
 「俺だって男だからね。アニメやAVだって見るよ。作り物には作り物のすばらしさがあると思うよ。」ミレイはしまった!というような表情になった。
鷹章がミレイの前でここまであからさまに不機嫌になる事は無かったからである。鷹章は冷めた目でつぶやいた。
「おかあさん心配だね。早く会いにいってあげてね。又日本で会える日を楽しみにしているよ。」そう言い残して鷹章はお店を出て行った。
喫茶店の支払いはミレイの分も支払って店を出て行った。一人取り残されたミレイは呆然としている。鷹章はさっさと営業車に乗って家路についた。「悪いことしちゃったかな?。しかしなんで俺もあんなに怒ったんだろう?。まさか美海に本気で惚れたのかな?。惚れた女を貶されたらそりゃ誰だって怒るし・・・やっぱり惚れているのかな?。」鷹章自身も自分の感情が混乱していると思っていた。

その日の夜、ミレイは自宅マンション自室で険しい表情で一人で酒を飲んでいた。ミレイはここ数日自宅に引きこもってお酒ばかり飲んでいたので少し太ってしまった。
「あの鷹章という男からあと少しでお金を貰えそうだったのに。ドジったわ。」ミレイはスマホでメールを確認した。
するとある男性からメールが届いていた。
「お母さん大変だね。少しだけど先ほど送金しておいたよ。又日本に戻ってきてね。」ミレイはそのメールを見てにやりと笑った。
早速入金口座を確認した。「え?たったこれだけ?しけてやがるな。」
 まるでつまらないものを見るかのような目で言った。
「お店に来る裕福そうなお客さんもだんだん減ってきたわね。日本も景気良くないのかな。」ため息をつくミレイ。
「それにしても先日もドジっちゃったな。」ミレイは先日の出来事を思い出した。3日前。ミレイは店に出勤していた。お店の常連客で関東ツーリストという大手旅行会社の人事部長宇田川という男の接待をしていた。
 宇田川もミレイにすっかり魅了され、プライベートでも頻繁に会っており、資金援助も行っていた。
 最初に多額の資金援助を受けた日の夜ミレイは宇田川とホテルで一夜を共にしてていた。
 かなり深い関係となっているようだ。
 その後再度宇田川が体を求めて来たがミレイはすぐには応じず、じらしながら再度多額の資金援助を求めた。
 欲望を抑えられなくなった宇田は虎の子の貯金を切り崩してミレイに渡していた。
 ある程度のまとまったお金を受け取った時はミレイは宇田川とホテルに入り一夜を共にし、さらに援助を求めていた。
 援助を受け取ったら又じらすという事を繰り返していたのだ。
 宇田川は昨年妻と離婚しており、女子高生の娘の親権は妻に取られていた。それゆえ養育費などもあり生活は楽ではなかったが孤独を癒すため週一のペースでこのブラジリアンパブに遊びに来てミレイと知り合った。
 そんな深い関係となった宇田川はミレイを疑いもせずその日もミレイに会いに店に来た。
 「あら部長さんお久しぶり、もう来てくれないかと思ったわ。」女性店主が笑顔で迎える。「仕事が忙しくてね。」「ご使命はある?。」
「ミレイちゃんに会いに来た。」女店主は少し困った顔をして答えた。
「ミレイは今日はお休みよ。今日は別の女の子が相手するわ。」豊かな胸を強調する赤い胸元が開いたドレスに身を包んだ女性がやってきた。ややウエーブがかったセミロングの髪の毛にヘアバンドをしている。
 大人の魅力が十二分に漂う美女である。宇田川はミレイには会えなかったがその子が相手をしてくれるのでそれはそれで満足そうである。
 「え?君はミレイと同郷なの?。」女性は答えた。
 「はい、家が近所でした。地主の娘で学生時代から男好きでSEXに溺れて男から男へと渡り歩いて一年間の間に何度も相手を替えていたわ。」「え?地主の娘?」戸惑う宇田川。
 「実家が大金持ちで周りを見下していたわね。私はいつも見下されていじめられたわ。」少し恨めしそうにミレイの過去をその女性は話す。
 「家が貧乏でお母さんはリサイクルショップ経営していて無理がたたって倒れたと聞いたが。」「ミレイの母はぴんぴんしているわよ。大地主の奥さんがリサイクルショップなんてやらないわよ。」宇田川の顔色がみるみる真っ赤になった。「いったいどういう事だ?。」宇田川は突然立ち上がって震える手でスマホを操作して誰かに電話をかけた。電話に出ないらしくメールを何通も送った。しかし返事はない。「畜生!騙された!。」宇田川は怒鳴り声をあげて店を出て行った。
 ミレイはその日はたまたま店を休んだがそれが大失敗だった。その事件を他のお店の子からメールで知らされたミレイは結局その事件の数日後にお店を辞めて行方をくらました。鷹章に会ったのは逃亡資金を得るためだったと思われるがそれも失敗した。
さらに数日後。鷹章はミレイと入れ替わるように美海に夢中になり、車に乗せて四六時中一緒に居るようになり仕入れまで一緒に行くようになっていた。
 美海は吉新さんにもすっかりおなじみになっていた。
 「うらやましいなー俺もこんなドールちゃん欲しいよ。最近女房が相手してくれなくてよ。」
 「奥さんがドール購入許すとは思えませんよね。でも貸しませんからね。」冗談半分で答える鷹章。
「そういえばミレイお店辞めたんだってさ。」吉新さんは思い出したかのように言った。
 「私も聞きました。リサイクルショップ経営のお母さんが倒れて帰国したそうですね。」
 「いや?ミレイは大地主の娘で母親は元気だよ。」
 「えええ?地主の娘?私には実家は貧しいって・・・でもなんで日本のパブで働いてたんですか?。」驚く鷹章。吉新は話を続けた。
「ミレイは男癖が悪くて親が決めた旦那と結婚して娘二人生んだんだがその後も家事育児を放棄して若い男と遊んでばかりいたので実家の両親と旦那が切れて家を追い出したそうだよ。
 食うに困ったミレイは知り合いのコネで来日して日本のブラジリアンパブで働いてたんだってさ。」鷹章は動揺を隠せなかった。
 「ええええ?。マジで?。実家の母親のために出稼ぎに来ているというのはうそだったんだ。」
 「体をエサに複数のお客さんから大金を援助してもらっていたそうだ。そのお客にもウソがばれてお店に行かれなくなってお店を辞めたそうだ。」
 鷹章は背筋が凍った。
 「もう少しで私も騙されるかもしれなかったんだな。もし美海をお迎えしていなかったらミレイに夢中になって俺も体欲しさに大金を貢いでいたに違いない。危なかったー。美海に救われた。」
 もし美海の写真をスマホの待ち受け画面にしていなかったら!。鷹章はその場で大金を貢いでいたかもしれないので心の底から美海に感謝した。その後のミレイの消息は不明のままである。

 自宅に帰った鷹章は美海の頭に軽く手を載せて
 「危なかったなー。もし美海をお迎えしていなかったら、俺はあのミレイに夢中になって大金を貢いでいたかもしれない。その後逃げられてさらに大きなショックを受けて二度と立ち直れなかったかもしれない。本当に危なかった。美海!ありがとう。君は俺の恩人だ!。頭が上がらない。しかし皮肉な運命だな。血の通った生身の人間が人を騙して傷つけるのに、無生物の等身大ドールが俺のピンチを救ってくれた。どちらを愛するかは言うまでもないな。」鷹章は心の底から愛おしいと思いドールの美海を軽くそっと抱きしめた。
第一話 END

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