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人のいない楽園 第二章       裏切りの黙示録 第一話

 2024年5月後半某日、湘南葉山に某リゾートマンションがある。海が見える景色のいい場所で他のリゾートマンションや観光ホテルなどが立ち並び目の前には海浜公園もあり休日は若いカップルや家族連れなどが数多く訪れる。人が多いイメージがあるが葉山は比較的静かで他の観光スポットほど混雑も無く、ヨットハーバーもあり、静かに海を見て過ごしたい観光客にも人気である。その日は平日だというのに訪れる他県の観光客や外国人観光客が多くみられる。そのマンションはオレンジ色の屋根が特徴のリゾートマンションでマンションの周りにはヤシの木が多く植えられておりどことなく南国の雰囲気を出している。このリゾートマンションは小説家、画家、漫画家、彫刻家、フォトグラファー、映画監督などのクリエイティブな職業の人々に人気で持ち主の半数以上を占めている。皆日々それぞれのクリエイティブ活動を楽しみながら活動しているような和やかな雰囲気である。その最上階の真ん中の一室にある若いプロのフォトグラファーが住んでいる。彼は朝7時に起きると白いレースのカーテンを開ける。すると白銀色の海が目の前に広がる。やや曇り空の午前7時。太陽が昇れば海はブルー一色に染まる。この部屋のオーナーは”白銀哲也”25歳職業フリーフォトグラファーである。寝室のダブルベッドにはもうすでに目を覚ました美しい女性が横たわっている。朝が弱いのか目を開けてはいるが起き上がって来ない。哲也の恋人?妻?。哲也は近くのホテルマンが届けてくれたトロピカルカクテルを右手に持ってベッドのサイドテーブルに置いた。左手にも同じカクテルを持っている。「おはようさやか、ここに置くね。」哲也は恋人?のさやかに一声かけて左手のブルーハワイの類のトロピカルドリンクをストローで飲み始めた。アルコールは入っていない。部屋の中には恋人とのツーショット写真のパネルが展示してある。それはマンションの最上階の共有スペースで夕陽をバックに撮影した写真で肩を寄せ右手でそっとさやかを抱き寄せる写真である。幸せそうな二人が映っている。共有スペースはガラス張りになっており外の景色がきれいに見える。その写真は何故か外側から、しかも高い位置から撮影されており映画のエンディングシーンのようである。おそらくドローンによる空撮のようだ。それにしても見事な写真だ。「もう2年か。変化の激しい2年だった。」哲也は海を見つめながらそっとつぶやいた。哲也は毎朝TVを点けてニュース番組を見る。なるべく外部からの情報をランダムに取り入れ仕事に役立てるためだ。又、目をいたわるためにPCを凝視せずTVからの音情報からも情報を得るようにしている。するとある芸能ゴシップニューズが流れて来た。「ん?女優、西園寺あやめ不倫疑惑の真相?!」哲也の表情が曇った。アナウンサーの声が部屋に響く。「これで何回目ですかね?恋多き女性ですよね。」「夫婦の仲は冷え切っているようで離婚協議中だそうですね。」「夫は投資ファンド会社の経営者ですが多額の損失を出し会社は火の車だそうですね。」「以前から噂になっている俳優の松波幸也さんとの密会が又スクープされましたね。」哲也はその報道の途中でTVを切った。「昔はあんなに純粋だったのに・・・。」哲也は西園寺あやめという女優と知り合いなのか?。「おっと。打ち合わせの時間30分前か。そろそろ待ち合わせ場所のホテルに行かないとな。」哲也は恋人?のさやかに手を振って。笑顔を見せてマンションを出た。
 
 湘南某所某海岸沿いにあるホテル”マイアミモドキ”に序章の主人公桜木巧と女性スタッフがラウンジレストランの窓際で待っていた。桜木は新規オープンした等身大リアルドールショールームに再就職してまだ一か月ほどの新人である。国際等身大ドールミュージアム IRMと名付けられたショールームはほぼ世界中の最新モデルの等身大ドールを見ることができる上に気に入ったモデルがあればその場で購入契約も出来る。入場料は高めだが需要は高く平日も訪れる客が少なくない。

「ちょっと早かったかな?。まあいいや。アイスティーでも飲んで外の景色を楽しもう。」「ここが湘南かー。海が綺麗だな~。」桜木巧はグレーの上下のスーツに青いネクタイ姿である。一緒に来た若い女性スタッフは巧と同時期に入社した新卒の元女子大生である。大山マコという。実はネタバレだがあのマヤ様の実の妹である。マヤ様の本名は”大山雅子”である。マコは自分がマヤ様の妹であることを極秘にしている。「しかし大山さんはどこかで見た気がするなあ。ああそうか!何となくマヤ様に似ているって言われない?。」冷汗がでるマコ「たまあーに言われますよ。目が二つあるところが似てるって。(笑) でもあの人嫌いだからあんまり似てるって言わないでね。」「そうなんだ。実はあの人に占ってもらった事があるんだけど。抽選であたってね。何故か顔写真アップロードさせられたな。」「あの人イケメンしか占わないんだってさ。」「マヤ様に詳しいね。」冷汗のマコ「私も占いはすきだからネットの情報でね。」冷汗が止まらないマコであった。

 すると哲也が現れた。哲也は黒いTシャツの上から薄手の白いジャケットに下はジーパンというラフな格好だが不思議と上品に見える。「桜木さんですね。始めまして、私がSIROGANEこと白銀哲也です。」名刺を差し出す哲也。「はじめまして。国際等身大ドールミュージアム IRMのスタッフ 桜木巧です。こちらはアシスタントの大山マコです。」「大山です。宜しくお願いします。」軽く照れながら会釈するマコ。「何かお飲みになりますか。お疲れでしょうから甘くて冷たいものなどいかがですか?。」「それではアイスコーヒーをお願いします。」巧はアイスコーヒーを追加注文した。
 巧は数枚のプリントアウトした等身大リアルドールの写真を哲也に手渡した。「これはSIROGANEさんが先日湘南のスタジオで撮影なさったビキニ姿の等身大ドールの写真ですね。ネットで見つけました。ドローンの空撮ですか?。外側から高い位置やローアングルでガラスの前に立つビキニのドールちゃんが映画のヒロインのようです。」受け取り微笑む哲也。「早速ですが打ち合わせに入らせていただきます。このお写真を見つけたのでSIROGANEさんはしばらくフォトグラファーのお仕事を休止なさっておられましたが今は再開なさっておられると判断させていただきました。それに間違いはございませんが。」哲也は笑顔で答える。「そうですね。正式に活動再開宣言はしていませんがその通りです。」嬉しそうに答える哲也。「最近は等身大リアルドールの宣材写真にもご熱心とお伺いしました。ダメもとで当社からオファーを出させていただきましたところ快く即断で引き受けてくださって本当にスタッフ一同嬉しく思っています。」軽く会釈する巧。「こちらこそIRMさんの噂は聞いておりました。ぜひ一度見に行きたいとおもっていましたので一緒に仕事が出来て嬉しいです。」「SIROGANEさんの過去の宣材写真も拝見しました。この写真が特に素晴らしいです。」巧はもう数枚の写真を哲也に手渡した。写真を見る哲也。「プロが撮影する宣材写真と実際のドールとのギャップはこの業界あるあるなのですがSIROGANEさんのお写真は宣材写真として優れているだけでなく実物とも遜色なく撮影されていますのでその点でもトップクラスだと判断させていただきました。今回の撮影もこのようにお願い致します。」「言われるまでも無いですよ。私の信念ですから。」微笑む哲也。「では早速私がいつも使っている海岸沿いのスタジオにご案内いたします。」哲也はホテルからタクシーを手配した。

 

都内某所某芸能プロダクションに今スキャンダルの渦中にある女優西園寺あやめがいる。プロダクションの社長と事務所で話をしている。「あやめ!松波幸也とかいう俳優と今すぐ別れろ。全く好き勝手やりおって。お前は女優なんだぞ。変なイメージがついたら仕事に影響が出るだろうが。」プロダクション社長”郷島一徹”が不機嫌な様子であやめに説教している。「あら、私だって人間よ。人間が恋をしてはいけないの?。」一徹はさらに曇った顔で不機嫌に話す。「お前は投資ファンド会社経営者”伊藤勇雄”の妻だろうが。不倫疑惑で報道されたらまずいだろうが。」あやめは急に不機嫌な顔になった。「勇雄だって浮気しまくっているのよ。あいつはセキュリティー万全のタワマンに女連れ込んでやりまくっているのよ。私よりたちが悪いわ。」あやめの夫伊藤勇雄はファンド会社経営者である。2年前にあやめは離婚してこの勇雄と結婚した。当初は仲のいい夫婦だったがすぐに夫婦の間は冷え切ってしまいすぐに別居していた。その後会社は投資に失敗し大きな損失を出した。借金が膨れ上がり会社は火の車である。それもありあやめは何度も離婚を迫ったが勇雄は借金申し込みにあやめのネームバリューが必要でなかなか離婚には応じない。しかしあやめが全く夜の相手をしなくなったので他の女性と浮気しまくるようになりさらに夫婦間の溝が深まった。あやめはあやめでその寂しさを若いイケメン俳優に求め、お互いの裏切り行為はエスカレートする一方だった。しばらくしてやや落ち着いた一徹はあやめにある提案をした。「良い事を思いついた。お前の旦那の不倫事実を暴いて公表してやろう。そうすれば旦那のひどい浮気が原因で寂しさのあまり癒しを求めて仕方なく松波と交際したという言い訳が立つ。ついでに離婚もスムーズに進むだろう。」それを聞いたあやめはにやりと笑った。「それはいいアイデアだわ。沈みゆく泥船に乗ったままなんてまっぴらよ。社長、愛してる。今夜は帰さないわよ。」社長に抱き着くあやめ。「腕利きの探偵を雇おう。そしてあのろくでなしのだんなの不倫現場を撮影させてゴシップ記事にしてやる。そして松波とのスキャンダル報道をもみ消して旦那を不貞行為で告訴して離婚させてやる。」プロダクションぐるみであやめの印象操作を行いあやめを悲劇のヒロインに仕立て上げる計画が今開始された。その夜、あやめと一徹はラブホテル街に消えた。

 数日後都内某所某芸能プロダクションにある外国人男性探偵が呼び出されていた。彼の名前は”モダン ジョージャック”という。情弱だが腕のいい探偵で依頼成功率は80%にもなる。「ほう、外国人か?。日本語大丈夫か?。」「私は見た目こそ外国人ですが日本生まれ日本育ちでむしろ英語が苦手です。ご安心ください。」「なんだかよけい不安になってきたぞ。」少しあきれる一徹。その後数分間の打ち合わせが終わった。「なるほど、そのろくでなしの旦那の不倫の証拠を手に入れればよいのですね。この”モダン ジョージャック”様におまかせあれ。これまでの実績と経験、豊富な人脈ネットワークで必ずや証拠を手にいれますぞ。」自信満々の”モダン ジョージャック”前金を受け取ったジョージャックは事務所に戻りPCで今回の依頼にふさわしい人脈を探した。「貰った資料によるとセキュリティー万全のタワマンに住んでいるらしいな。ラブホは使わないからなかなかしっぽが掴めなさそうだな。ドローン空撮のエキスパートやプロの撮影技術を持つフォトグラファーいないかな?。」ジョージャックは口がうまいので人脈だけは豊富である。「ドローン空撮も出来るプロのフォトグラファーの知り合いは・・・これだ SIROGANEこと白銀哲也。ふむふむ、最近では等身大リアルドールの宣材写真撮影もやっているんだな。好都合だ。これなら顔写真もばっちりだろう。彼に決めた。」ジョージャックは早速SIROGANEに仕事の依頼のメールを送った。

2024年6月某日 SIROGANEは湘南のスタジオでIRMから依頼のあった宣材写真の撮影を行っていた。実物と遜色なくかつ他の宣材写真に負けない撮影という難題だがそれを心がけつつ撮影を行っていた。IRMから送らてきた等身大リアルドール数体にビキニを着せて朝日をバックにガラス張りの崖沿いにあるスタジオで撮影している。「ふう、着せ替えやポージングで汗だくだな。初夏の等身大リアルドール撮影は下手なスポーツより疲れるな。」哲也がソファーでペットボトルの緑茶をラッパ飲みしていると一通のメールが入った。「ん?ジョージャック?。あああいつか。何々。仕事を頼みたいので大至急連絡してくれだと?。俺今忙しいのになあ。」一息つく暇も無く哲也は返信を送った。

第一話 END



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