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人のいない楽園 第二章       裏切りの黙示録 第四話

 2020年6月、某日日曜日の晴れた午後、某湘南地方の白い海沿いの教会で若いカップルが結婚式を挙げていた。白いウエディングドレスを着た綺麗な色白の背の高い女性は新郎の隣ではにかむような笑顔を見せる。隣の新郎は黒い礼服の上下で背が高くやせ形で細面のイケメンである。嬉しさが笑顔にあふれておりこの世界で一番幸福だと感じているように見える。「哲也おめでとう。ちょっと先を越されちまったなー。でもすぐに追いつくからよ。」「相手もいないのに何言ってんだ。」哲也は祝福?の言葉をくれたジョージャックにやや心配そうに答えた。「あやめおめでとう!本当に綺麗だよ。」
堀田あやめ改め、白銀あやめはうれしそうに笑う。

四年前に付き合い始めて女優デビューも果たしたあやめはあれから高校を卒業し女優業を本格的に開始した。当初は忙しくて哲也にもなかなか会えなかったが幸か不幸かしだいに仕事に余裕が出て来た。哲也は高校卒業後に写真専門学校を卒業してアルバイトをしながらフリーのフォトグラファーをやっている。お互い生活に余裕が無いので同棲していたがそれならいっそ入籍しようという事になり親族の厚意もあって小さいながら結婚式を挙げる事になったのだ。式には学生時代の友人やフォトグラファー仲間、バイト先の店長やあやめの学生時代の友人、女優仲間や所属プロダクションの社長、その他大勢が祝福に訪れている。しかしそんな中一人だけ浮かない顔のイケメンがいる。「あやめちゃんおめでとう。本当に綺麗だよ。幸せになってね。」そのイケメンはさみしそうに笑った。「君が哲也君だね。フォトグラファー目指しているんだよね。写真見せてもらったよ。本当にいい写真だ。君は絶対成功するよ。頑張って。」言い終わると式の途中にもかかわらずイケメンは姿を消した。

「彼が松波君か。いいやつだな。」「プロダクションは違うけどよく一緒に仕事したんだ。共演もしたよ。」「そういえば芸能ニュースで付き合っているかもとか報道されていたよな。俺ひやひやしたよ。今の俺じゃ松波さんにはかなわないからね。」「大丈夫よ。哲也が私の夢をかなえてくれたんだから今度は私が哲也の夢を叶える番よ。」笑顔で話すあやめ。このイケメンは松波幸也という売れっ子イケメン俳優で何度が恋人役でドラマで共演したことがあり常に噂になっていた。しかしあやめは裏切らず最終的に哲也と結婚したのだ。哲也はあんなイケメンに勝ったと大喜びである。披露宴会場ではジョージャックが漫談をやったり女優仲間が寸劇を見せるなど大いに盛り上がった。

1か月後の7月某日、日曜日、哲也は高校性の頃に買ったデジイチをいじりながら渋い顔をしている。「哲也、まだ持っていたのね。それって私を初めて撮ってくれたカメラでしょう。懐かしいね。」「ああ、でも調子が悪くてね。それにライバルの新人フォトグラファーはプロ仕様のカメラ持っているから俺も新型欲しくてね。」あやめはカメラの事は知らないが哲也が真剣に悩んでいる姿を見て心配になった。「カメラは詳しくないけどそれって高いんでしょう。」「軽の新車が買えるカメラ持っている人もいる。バイト頑張らないとな。」「哲也無理し過ぎよ。今日もバイトでしょ?。」「今頑張らないといい未来は来ないからな。」哲也は日曜日の朝7時だというのに単発のバイトに出かけた。一日看板を持って立っているというつらい仕事だ。あやめは哲也が見ていたPCの履歴を見た。するとデジイチのカタログが出て来た。「えーこんなに高いの?。まあプロのフォトグラファーだもんね。哲也カメラ安物だけど腕で補うって言っていたけどカメラの差で仕事取れなかったらかわいそうよね。」あやめはPCを消してプロダクションから送られてきたオーディションのリストを見る。「回流呪詛師の準主役から4年か。」次々とデビューする若手女優が活躍し20歳を超えたあやめも次第にオーディションの通過率が下がり始めその人気に陰りが見え始めた。数多くの才能ある芸能人が目まぐるしく入れ替わる。又あやめは哲也の夢を叶えてあげたくて何としてでもレギュラー出演の仕事や映画の仕事が欲しかった。

そんなある日オーディションの結果通知があやめに届いた。「えー。なんで!。このオーディション私が演技力、発声力、キャラの個性どれをとってもぴったりでマスコミも太鼓判をおしていたのに・・・。なんでなのよ・・。」あやめは悔し涙を流した。哲也は夜遅くまでバイトでげっそりと痩せていた。あやめに負担をかけまいと慣れない力仕事までやっているからだ。そんな哲也の為にも何が何でも欲しかった役だ。翌日あやめは所属するプロダクションに出向いた。マネージャーに今後のオーディションの相談をする為である。「私も納得がいかなかったのよ。んで調べたのよ。ふざけた茶番の出来レースだったわ。」「出来レース?。」「実はあやめが満場一致でオーディション合格したのよ。でもね・・スポンサー企業の社長のごり押しでこの女優に決まったのよ。なんでも社長の姪っ子なんだってさ。可愛くないのにねえ。この作品絶対ヒットしないわよ。ストロール一族かよ!。」あやめは衝撃を受けた。「これが大人の事情ってやつなのね。」「あやめ、こんなことは言いたくないけど芸能界は枕営業や身内のコネあたりまえだからね。それに若くて綺麗な子も毎年数多くデビューしているし。消えていく女優や芸能人も数え切れないわ。」あやめは哲也の事もあり折角哲也が女優の夢をかなえてくれたのにここで諦めるわけにはいかないと決意を新たにした。

数週間後。その日は哲也の誕生日だった。哲也はコンビニのバイトを終えて自宅に戻るとあやめがケーキを用意して待っていた。「おかえり哲也。」
「あやめ・・・ん?うまそうなケーキだな。」「哲也大丈夫?今日はあなたの誕生日だよ。」「そうか!すっかり忘れていた。」おもむろにあやめは大きな箱を取り出した。「じゃーん、はいプレゼント。」「え!誕生日プレゼント。あけていい?。」「もちろん。」哲也は早速箱を開けた。「え!!。最新型のデジイチじゃないか。しかも望遠、広角 精密レンズの新品まである。!よく買えたな!。新車が買える値段だぜ。」「これで借りは返せたかしら?。私は女優よ。頑張ればこのぐらい大丈夫よ!。」笑顔で話すあやめだがその笑顔が少し元気が無いように見える。

数週間前あやめは現在収録中のドラマ”湘南真夏物語”の打ち合わせに呼び出されていた。収録現場をスポンサーの清涼飲料製造会社の社長と息子が見学に来る予定なのでスポンサーの意向も反映させるため出演者との顔合わせも含む内容のようだ。あやめの役はレギュラーではあるが主演女優の友人の一人という目立たない役である。しかしスポンサーの息子は真っ先にあやめに声をかけた。「白銀あやめさんですね。はじめまして。清涼飲料株式会社の営業部長 清涼ライトと申します。私は回流呪詛師の回流白百合の大ファンです。あなたご出演の映画見ました。お会いできる日を楽しみにしていました。」握手を求めるライト。「本当ですか~嬉しいです。覚えていて下さったんですね。もう4年前なのに。」「私がアニメで見たイメージとあやめさんの演技はまったく一緒でした。相当ご努力なさったのですね。尊敬します。」あやめは実際死ぬほど努力した。それが認められて天にも昇る嬉しさだった。見学会終了後あやめは清涼飲料株式会社の社長と息子にディナーに誘われた。もちろんスポンサーなので断れない。ロケ地は湘南なので海が見える高級レストランは数多い。

その中でも五つ星の完全予約制のレストランにあやめは招かれた。夜の湘南海岸は三浦半島の夜景が楽しめる。ワインと前菜があやめに出される。「回流呪詛師何度見てもしびれるほどに面白いですよね。白百合の絶対引かないキャラが大好きで・・・。」ライトは心底回流呪詛師にはまっている。特に白百合というキャラが大好きであやめはアニメから出て来た実体だと思い込んでいる。「これこれライト、あやめさんは人妻だぞ。そんなに近づくな。」「いえいいんですよ。私の大ファンがこんな素敵な方で大変うれしいです。」ライトはあやめに夢中になっているようで目が輝いておりずっとあやめを見つめている。「宜しかったら今日の記念に何かプレゼントさせてください。あくまで白銀夫妻への贈り物です。旦那様のお好きなものでも大丈夫ですよ。」あやめは冗談半分で答えた。「ありがとうございます。そういえば主人のカメラが調子悪いって言っていたような・・・でもプレゼントは受け取れません。」そのまま別の話題になり数時間後に会食が終わった。タクシーで自宅まで送ってもらいお土産にもらったワインを持ち帰った。疲れ切った様子の哲也にワインを渡すと哲也は「ありがとう。」と一言言ってさみしそうにグラスに注いでゆっくり飲んだ。収入が少ない事をすまないと思っている上に高級ワインを飲ませてもらいあやめに頭があがらないと思ったようだ。

数日後、なんとあやめの所属プロダクションに最高級のデジイチが届いていた。送り主はあの清涼飲料株式会社から白銀夫妻へとの事だった。「えええ!何で!。こんな高いもの受け取れないよ。」「でも折角のご厚意を返品したらスポンサーの逆鱗に触れるわよ。受け取りなさい。」「分かりました。」このような経緯がありあやめは哲也に最新型高性能なデジイチをプレゼントする事が出来た。新型デジイチを入手した哲也は元々腕がいいので等身大リアルドールのフォトコンで最初に準優勝を受賞した。(実話)勢いに乗った哲也は自信もついて次々にコンテストで入賞、優勝を繰り返し。グラビア撮影などの仕事も数多く依頼を受けるようになりSIROGANEというニックネームで事務所を持つまでに至った。

誕生日から1年後あやめも仕事が増え、哲也もフリーのフォトグラファーとして有名になり、お互い充実した日々を過ごした・・かに見えたが・・・。
ある朝哲也は一人で朝食を作りTVを見ていた。あやめが地方ロケで留守にしているからだ。「次は芸能ニュース。人気女優の白銀あやめさん不倫疑惑?!清涼飲料株式会社の御曹司 清涼ライトとホテルで深夜の密会!!?驚きましたね~。あのSIROGANEさんと電撃結婚したニュースが1年前でしたよね。」「清涼ライトさんは回流呪詛師の白百合というキャラの大ファンで実写映画の白百合役のあやめさんの大ファンだそうです。」
「なるほど、それで最近は清涼飲料株式会社がスポンサーのドラマや映画で主演に抜擢されたのですね?。」「断言はできませんがその可能性はありますよね。」哲也はその報道に目が釘つけになった。「そんな・・・・・信じていたのに・・・・そういえば急に羽振りが良くなったよな・・・。変だと思っていたけど・・・でも実力で努力で役を獲得していたと信じていたけど・・・」哲也はショックでその日は仕事をキャンセルした。自宅で酒を飲み悪夢を忘れようと焦るが飲めば飲むほど悪夢が襲ってくる。

数日後あやめが帰宅すると暗い部屋の奥で哲也が寝ていた。床には無数の酒の瓶が転がっている。「ちょっと、哲也!どうしたのよ。」目を覚ます哲也。「あやめ!お前今までどこに行っていたんだ!。プロダクションに電話したら地方ロケなんて無かったぞ!。」哲也はあれから冷静になってあやめのプロダクションに地方ロケの事を問い合わせた。すると「あやめは休暇を数日取って出かけると言っていました。ご一緒じゃなかったのですか?。」「やっぱり、がちゃっ。」哲也は乱暴に電話を切った。
「ライトとかいうやつのところだな!。」あやめはもはや隠し通せないと悟った。「仕方ないじゃない。実力で役がもらえるほど甘い世界じゃないのよ。生活もかかっているのよ。分かってよ。」「こういうのを不倫っていうんだぞ。そんなに金持ちがいいのか!。」あやめは開き直った。「そのデジイチ実はライトさんがくれたのよ。そのおかげで今のあんたがいるんじゃない。偉そうな事言わないでよこのかいしょうなし!!。もう無理!別れよう。実はライトさんから結婚申し込まれているのよ。」言い終わるとあやめは出て行った。

数日後あやめから離婚届の書類が哲也に送られてきた。その書類を握りしめしばらく動かなかった。「あやめ、変わってしまったな。昔はあんなに純粋で優しかったのに・・・。あやめが女優ではなかったら・・・お互いうまくやれたのかな・・・・。」哲也は天井を見つめている。あふれる涙をただながれるままに天井を見つめていた。
第四話 END


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