人のいない楽園・・・第五章 不透明な関係 第三話
2014年3月、一人の若い僧侶が修行をしている。彼の名は藤尾宝幸(ふじおほうこう)という。
熱心に修行と学問に励んでいる。彼は地方の小さなお寺の跡取りでもあり親類を頼ってこの鎌倉市にある某宗派の有名なお寺で修行を積んでいる。修行中に命を落とすものまでいる厳しい宗派で多くの脱落者を見送りながら宝幸は日々我慢強く修行を積んでいた。早朝五時、まだ寒さが厳しい時期だが宝幸は誰よりも早く起きて本堂の雑巾がけを率先して行っている。「今日も晴れそうでよかった。今日は年に一度の大きな法要がある。しっかり勉強しよう。」掃除が終わると食事の用意をし始めた。肉や魚が禁じられているので基本山菜や野菜を中心とした精進料理である。するとお世話になっているお寺の一人娘が厨房の様子を見に来た。「お嬢さんおはようございます。」深々と頭を下げる宝幸。しかしそのお嬢さんと呼ばれる女性は宝幸に見向きもせず汚いものでも見るかのような目で見て無視する。その女性は他の食事の準備を手伝う僧侶に声をかける。「今日は年に一度の大切な法要の日です。決められた食事内容でお願いします。」そう言い終わるとそそくさと厨房を出て行った。「何であいつがいるのよ。あいつが作った料理なんて食べられないわ。私は外で食事します。」「あ、お嬢さんどこに行かれるのですか。」世話係の年配の女性が止めるのも聞かずにお嬢さんと呼ばれる女性は寺の外に出て行った。その様子をさみしそうに見送る宝幸。「何でお嬢さんに嫌われているのか分からないが修行頑張ればきっとわかってくれる。」
宝幸はまじめで純粋な心を持っているが見た目はおせじにもかっこいいとはいえず背も低い。
学生時代は一番結婚したくない男コンテストという女子のイベントで常にTOPだった事もあり女性は苦手である。
しかしお世話になっているお寺の一人娘のお嬢さんに対してはいつも勇気を出して元気に挨拶をしている。しかしいつもあからさまに無視されてしまうのだ。「拙僧は見た目も悪いし学生時代も女生徒には嫌われていたからなあ。仕方ないかな。修行頑張ろう。」
宝幸は色即是空の僧侶の世界は自分に合っていると考えており逆に色恋沙汰と無縁な自身のこれまでの人生経験が役に立つと前向きに考えていた。
食事の支度を終えて来客向けの配膳を終えた宝幸はお嬢さんが見知らぬ若い女性と話をしている姿を見た。その見知らぬ女性は度々お嬢さんに会いに来る。お寺の檀家さんでもなく関係者でもない。見た目は派手で水商売風の女性に見える。「あの人最近よく見かけるな?。誰だろう?。」その時その女性と一瞬目が合った宝幸。しかし女性はすぐに立ち去ってしまった。不審に思った宝幸だが忙しいのですぐに仕事に戻った。
そんなある日大事件が起こった!。お嬢さんに頼まれて夜遅くまで他のお寺の法要の準備をした帰り道の事である。宝幸は深夜12時に徒歩でお寺に戻る途中、人気のない田んぼのあぜ道を歩いていた。そこになぜか若い女性が突然現れて宝幸の前をゆっくり歩きだした。
早くお寺に戻らなければ皆に迷惑をかけると思った宝幸はその女性を追い抜いて足早にお世話になっているお寺に戻ろうとした瞬間!
「キャー。痴漢よー。誰か助けてー。」「え!拙僧はなにもしていない。」
突然の叫び声に驚き、戸惑う宝幸。しかも運悪くたまたま近くを通りかかった男性数人に宝幸は取り押さえられてしまった。
「何をする。拙僧は何もしていない。」叫びもむなしく宝幸は近くの交番に連行されてしまった。「この人です。間違いありません。突然抱き着かれて胸を触られました。」「違う、拙僧は何もしていない。本当だ。」
「話は署で聞くから一緒に来てもらうよ。」宝幸はそのまま警察に連行された。
数時間後、疲れ果てた宝幸は何も言う元気も無かった。
その後宝幸は留置場に入れられて一晩が経過した。翌朝宝幸は目覚めてすっきりした頭で考えた。「あの女どこかで見たことがある気が・・・あ!あの女はお嬢さんに頻繁に会いに来ていた女だ。思い出した。そうか・・・・俺ははめられたかもしれない。」すると若い警察官がやってきて留置場の鍵を開けた。「おい、起きてるか?。取り調べの続きだ、出ろ。」
留置場を出た瞬間宝幸は警察官を思い切り突き飛ばして逃げた。
「あ!逃げたぞー。捕まえろー。」僧侶の厳しい修行で鍛えらてた足腰と持久力で警察署を脱出した宝幸。
その日のニュースに宝幸の顔写真が全国に公表された。サングラスとマスクを購入して宝幸はお世話になっていたお寺をそっと覗き込んだ。案の定警察官が数多く来ている。
一方、お寺の住職は警察官と話をしていた。「信じられん、あの真面目な宝幸が!。」「お父さん、だから私は反対したのよ。あいついつも私をいやらしい目で見ていたのよ。」「そうだったのか。襲われたのがお前でなくて良かった。あいつはクビだな。」宝幸の解雇が決定され宝幸は行き場を失った。
数日後、宝幸は全国指名手配犯となり潜伏生活を余儀なくされた。
「畜生!あのクソ女共め。俺の人生をめちゃくちゃにしやがって!。どうせ生理的に受け付けないとかいってこの茶番で俺を性犯罪者に仕立て上げてあの寺から追放するつもりだったんだな。どうせ俺は犯罪者にされたんだ。クソ女ども、この恨みはらさでおくべきか!。」これまでの穏やかな表情が人が変わったかのように恐ろしい鬼のような表情になり宝幸はお嬢さんとグルの女に復讐を誓った。
ある夜お寺の前で待ち伏せしていた宝幸はお嬢さんが出ていく姿を見て後をつけた。お嬢さんは横浜の繁華街のキャバクラに入っていった。
「やっと尻尾を掴んだぞ。あのクソ女はここで働いているようだな。」
すると店から宝幸をはめた女がお嬢さんと出て来た。二人は人気のない公園で話をしている。「あれほどのリスクを犯してあいつをはめてやったのに報酬はたったこれっぽっち?。冗談じゃないわ。」何やらもめている様子である。「約束はこの金額よ。」「はあ?。手を汚したのは私よ私、下手すりゃ偽証罪で捕まるかもしれないのよ。倍よこしなさいよ。でないと洗いざらいばらしてあんたも一蓮托生よ。」どうやら宝幸をはめた報酬をめぐってトラブルになっているようである。その会話のすべてを宝幸は聞いていた。
怒り心頭の宝幸は激怒しながら姿を現した。「全部聞いたぞ!。てめえらよくも俺をはめやがったな。」「宝幸!おまえ捕まったんじゃなかったのか?。」「今朝のニュース見なかったようだな。俺は脱走したんだ。てめえらに復讐するためにな。」宝幸は二人を力いっぱい張り倒して暴行を加え、動けなくなるまで殴る蹴るの暴行を加えた。「まずはてめえからだ。俺を痴漢に仕立て上げやがって!。本物の痴漢に望み通りなってやるぜ。」
宝幸はまず自分をはめたキャバ嬢をレ〇プした。続いて這いつくばりながら逃げるお嬢さんをレ〇プした。「どうだ!お前が死ぬほど生理的に受け付けないと言っていた俺に犯される気分は?。地獄に落ちろクソあま!。」
その後 騒ぎを聞きつけた通行人が警察を呼んだらしくやがてパトカーが来たが時すでに遅く二人はレ〇プされた後だった。
その後の取り調べでお嬢さんとキャバ嬢の罪状も明らかになったが宝幸の婦女暴行も当然罪に問われ実刑判決を受けて収監された。
以後、女性不信となった宝幸は世界中の女性を憎むようになり以後婦女暴行を繰り返すようになってしまった。
2024年7月、山城工務店作業員寮で宝幸は仲間の作業員に自身の昔話をしていた。「というわけなんだよ。全くひでえ目に遭ったぜ。あのくそ女が俺をはめなければ今頃実家の寺継いで平和に暮らしていたんだがなあ。」
「そいつはひでえな。気に入らないからって追い出してえからって人の人生台無しにしようなんて人間じゃねえな。そいつらやられてざまあみろだぜ。」
「俺も貢いだ女に騙されてよお。頭に来たからレ〇プして回してやったら捕まっちまってよ。似たようなもんだ。お互い女運が悪かったよな。」
「おれだって女の浮気相手問い詰めたらナイフでかかってきたから仕方なく戦ったら打ち所が悪くて死んじまってな。ついてねえぜ。」宝幸はすっかり津酔組の組員と打ち解けたようである。「それにしてもこの等身大リアルドールってやつは最高だな。よく出来ているぜ。。」
「そうなんだよ。やっても怖がらねえし、いつでもやらせてくれるし裏切らねえし、下手な女顔負けだな。あーあ。もっと早く出会ってりゃ豚箱何度も入らねえで済んだかもな。それに人形だけど顔とスタイルはプロの女優みてえだろ!こんな女最高だろ。おまえらもどうだ?。」「いいとは思うけどやっぱり俺は生の女がいいな。」
「そうかあ?。俺はこっちの方が良くなったぜ。」宝幸と仲間たちは夜明けまで飲み明かした。
一方、昌行は那須高原某精神疾患自立施設のグループホームのカウンセリング期間を終えて施設の人たちとすみれちゃんに別れの挨拶をしていた。「佐藤さん。三日間お疲れ様です。あんなに嬉しそうなすみれちゃんの姿を見たのは初めてでしたよ。愛香さんでしたっけ。貴重なお人形まで貸してくれて本当にありがとうございました。」深々と頭を下げる施設長。「いやいや。頭を上げてください。私が勝手にやった事ですから。」施設長はすみれちゃんの脈拍数や血圧、その他の健康診断結果を昌行に見せた。「たった3日間でしたがこれを見てください。見違えるように良くなっています。これも新しい希望が生まれたからですよ。」「那須高原はいい所だしたまに愛香と休みの日にお泊りドライブに来ることにしました。そうすれば又すみれちゃんも愛香に会えるし。」「そうして下さると助かります。ホテル代はこの施設で持ちますのでぜひお願いします。」
施設長との面談後に昌行はすみれちゃんの病室を訪問した。すみれちゃんはさみしそうである。愛香はすみれちゃんのベッドの横の車椅子に座っている。愛香の表情はいつも昌行に見せる表情と違って愛おしい妹を想うような慈母的な表情に見える。「愛香もこんな表情を見せる事があるんだな。新発見だな。いい一面だな。」笑顔になる昌行。しかしすみれちゃんは愛香に抱き着いて離れない。「いやッ。連れて行かないで。」まるで子供のようにあからさまに悲しい表情で昌行を見つめるすみれ。見かねた職員がすみれをなだめる。「もう佐藤カウンセラーは戻らなければならないのよ。愛香ちゃんだっておうちに帰りたがっているわ。」昌行も笑顔で説得する。「ここはいい所だね、又必ずお泊りで来るから安心して。約束する。」「本当?。又来てくれる?。いつ来てくれるの?。」「お休みが取れたら又必ず来るから。それまで頑張って病気治すんだよ。」すみれは暫く俯いていたがやがて笑顔になった。「絶対又愛香ちゃんを連れてきてね。」名残惜しそうにすみれは愛香の車椅子を押す昌行の姿を見送った。施設の皆さんに見送られながら昌行は車で帰路に就いた。「那須高原はいい所だったな。愛香の意外な一面も見られたしすみれちゃんも具合良くなったみたいだし、今回のドールセラピーは大成功だな。愛香大活躍だったな。」
愛香はやや俯いてテレているのか、太陽光のせいか?少し顔を赤らめているように見える。「同世代の女子友が出来て嬉しいんだね。やっぱりもう一人お迎えしたほうがいいのかな?。」すると愛香は少し膨れたような表情に見えた。「ごめんごめん。冗談だよ。俺にとって恋人は愛香だけだよ。」愛香はほっとしたような表情になった。
翌日、昌行は由紀が出張なので勤務する病院に出勤していた。そのタイミングである連絡が入った。
「佐藤カウンセラー、以前来院していた斎藤正敏さんが入院なさったらしいです。」「なんだって?。」
「残念ですが末期がんだそうです。余命半年だそうです。病院はこの近くです。」看護婦は昌行に病院名と面会時間を知らせた。昌行はその日の勤務が終わるとすぐにその病院に連絡し面会を予約した。
大きな総合病院の4階の角部屋に正敏は入院していた。意識ははっきりしている。「佐藤さん。お久しぶりです。又お会いできてうれしいです。」「斎藤さん。話は聞きました。大変でしたでしょう。ご身内の方には知らせたのですか?。」
「姉がおりますが九州なのでまだ会っていません。それより佐藤さんにお願いがあるのですが。みゆきちゃんを引き取ってくれませんか?。」みゆきというのは正敏が保有する等身大リアルドールで昌行が愛香と結ばれるきっかけとなったドールで愛香と同じモデルである。「えええ!。」
第三話END 続く
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