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人のいない楽園・・・ 第三章     喪男(モダン)タイムズ 

 2024年7月。真夏の太陽が容赦なく照りつけるかと思えば突然のゲリラ豪雨に悩まされる季節である。ここ、たまプラーザの築40年のマンションに小さな探偵事務所がある。
所長の名は”モダン ジョージャック”というパプアニューギニア系トンガ人である。彼はこれまで恋人を持ったことが無い。それどころか女性の友達さえできなかったのだ。しかし探偵としての実力は折り紙付きで依頼達成率は80%を超える。その誇りがあるので彼は前向きに生きているのだ。
この事務所にはよくSIROGANEというフォトグラファーが遊びに来る。この二人は高校生からの親友で今でもたまに一緒に仕事をすることがある。SIROGANEこと白銀哲也は突然ジョージャックに呼び出された。
ジョージャックの探偵の仕事を手伝うためのようだ。しかし彼らは無言でPCの依頼画面を見ている。
「なんだよ、又浮気調査かよ。お前ほかにもっとかっこいい依頼受けたりしないのか?。」
「浮気調査や身辺調査、最近は減ったが結婚調査が探偵の仕事の王動さ、ホームズやコナンじゃねーんだから。」
不機嫌そうなジョージャック。不機嫌そうな哲也。
 
 依頼の内容とは夫が最近休日になると朝から出かけて夜まで帰ってこない。夫の洗濯物から女性の長い髪らしき髪の毛が何度も見つかりしかも毎回長さや色が違う、そして女性ものの衣装や化粧品はたまた下着のレシートが多数出てきており、しかもそれらは奥さんに渡されていないという報告内容だった。「もう浮気に決まってんだろ。馬鹿らしい。尾行してスマホで証拠写真とりゃいいじゃねーか。」哲也が不機嫌そうに言う。
 「それが不思議とラブホには行かないんだよな。いつも駅で見失うんだ。」「駅?何で駅で見失うんだ?。」
「俺は情弱で未だに切符買って乗車しているんだ。そのスキに見失うんだ。」「なんだと!馬鹿らしい。俺はSAYAKAが待ってるから帰るぜ。」
 哲也は馬鹿らしくなって帰ろうとするが。「SAYAKAの魂が甦ったのはだーれのおかげかなあ~。」わざとらしくつぶやくジョージャック。
哲也はしぶしぶ再びソファーに座った。
「わーったよ。感謝してるよ。やりゃいいんだろ。」
「よろしい。ギャラは弾むぜ。じゃあ明日尾行に付き合え。」
「探偵業って疲れるよな張り込みとか尾行とか。こりゃ早く老けちまうぜ。」文句をいいつつも付き合う哲也だった。
「お!そうだ。ギャラは弾むんだったよな。たのみがあるんだ。」哲也はニヤリと笑った。

 翌日、ジョージャックは。何故か女装していた。女装して女性用衣装やブラジャーやパンティーをカードで購入するジョージャック。店員はカードの名前を見て不審に思った。「主人のカードですのおほほほ。」ジョージャックはヘリウムを口に吹き込んで高い声を出してごまかした。さすがは腕利き探偵である。蓄えた知識をこのような形で応用する事が出来るのだ。 
 しかもジョージャックは実はIQ150以上である。
しかし高いIQの使い方を完全に間違っているようだ。 
 買い物から帰ったジョージャックは買って来た衣装や下着を事務所に持ち帰った。「哲也、これでいいか?。」「おおすまねえな。SAYAKAはピンク色が大好きだからな。サイズもぴったりだぜ。恩にきるぜ。」
 無性に大喜びする哲也。
 実は哲也は通販で下着を買っていたがサイズがでたらめだったり品質が悪かったりで散々な目にあった事がある。そこで等身大リアルドールの先輩であるジョージャックに下着を買ってもらう事にしたのだ。

 ジョージャックは早速奥の部屋の白人女性等身大ドールに下着を着せ始めた。「気の早い野郎だ。これから浮気亭主の尾行だというのに!。」呆れた表情の哲也だった。
浮気調査の相手は薬品会社の営業課長”草薙誠”49歳である。今日は土曜日。ジョージャックと哲也は草薙の自宅前で何故が焼き鳥屋の屋台を開いて張り込んでいた。誠が早朝7時に足早に自宅を出ていく。朝7時に住宅街で焼き鳥屋の屋台をやっている方が怪しまれそうだがそんな屋台には目もくれず誠は小走りに目的の場所に向かった。「ちッ!折角屋台まで苦労して用意したのにリアクション薄!おい哲也、誠が家を出たぞ。B地点に差し掛かったら尾行頼む。」「分かったぜ。ブラジャーとパンティーの分はしっかり働いてやる。」哲也はかっこよくつぶやいたが内容はかっこ悪い。30分後今度は屋台を片付けて車に乗ったジョージャックがC地点で哲也と交代し哲也は車でジョージャックの事務所に戻り事務所待機となった。
「ヒマだな。ビールでも飲むか。」哲也は待機が退屈なので勝手にジョージャックの冷蔵庫を開けて暑いのでビールを飲み始めた。哲也はビール2本を飲み終わったが足りないので又冷蔵庫に取りに行ったが冷蔵庫にはもうビールは無かった。「仕方ないな。確か瓶ビールがあったはずだな。氷入れて飲むか。」哲也は瓶ビールがしまってある事務所の倉庫に行ったが・・・「ない!ビールが無い!大変だ!ビールが無い!どうしよう!。」哲也は実は大のビール好きでビールが無いと夏を越せないのである。「しまったああ。ビール飲んじゃったから車運転できないぞ。コンビニまで8kmあるし。暑いから歩くのやだし!どうしよう。」真剣に悩む哲也。「仕方ない。今残っているビールを水で10倍に薄めて飲むか。」哲也は水でビールを薄めて飲んだが・・・。「不味い!やらなきゃよかった。でももったいないから飲むしかないな。」哲也は無理やり薄めたまずいビールを飲んだ。「ちくしょう!ジョージャックの奴あれほどしつこく何度も”ビール買ってこいビール!”昨日もビールが無かったぞ~””ふざけんなこらあ”~ってメールしまくったのに無視しやがったなあ。帰ってきたら文句言ってやる!!。」哲也は普段は大人しく紳士的だが死ぬほど真夏のビールが好きでビールが切れると正気ではいられないのだ。以前、あやめと離婚した後アルコール衣依存症になったことがあったのでしばらくはアルコールを控えていたが真夏のビールだけは我慢できなかった。「しょうがないから奴が戻って来るまで寝るか。ジョージャックに速攻で20ダースぐらい買ってこさせよう。」クールで渋い哲也の意外な一面であった。

2時間後、ジョージャックが戻った。「おまえ又俺のビール飲んだな!おい起きろ!。」「ん~おはようSAYAKA。」「俺はジョージャックだ、寝ぼけるな馬鹿野郎。」哲也は目を覚ました。「駅に入る前に誠にぶつかってそのすきに発信機付けて来たぜ。」「その前にスマホ決済覚えろよ。」呆れる哲也。ジョージャックは早速発信機の追跡を開始した。
「なになに、国際等身大ドールミュージアム IRM?なんだそりゃ?。ドールってことは人形の博物館かな?面白そうだから今度行くかな?。」哲也とジョージャックは同じことを言った。「これで誠がどこに行っているかわかったな。明日も来るかな?。」「来なくても面白そうだから行ってみようぜ。」二人は明日国際等身大ドールミュージアム IRMに入館して誠を追跡する事にした。
 翌日、哲也とジョージャックは国際等身大ドールミュージアム IRMの駐車場に入り車を停めて博物館に入館した。入場券を自販機で購入する。入場券は3000円と高めであったが二人は躊躇なく入館した。入場券を購入するとかわいい受付嬢が笑顔で案内してくれた。受付嬢はあの飯能マヤ様の実の妹”大山マコ”である。「当ミュージアムは世界の等身大リアルドールの最新モデルが展示されています。体感コーナーでは実際にドールに触れる事も出来ます。」「ぜひ触りに行こうぜ。」「もちろんだ!サービスいいな!。」この時点では誠はまだ来ていなかった。入場すると二人はこれまで見たことが無い光景を見た。そして見てはならないものを見てしまった。
 プロの女優やファッションモデルのような美しい世界の女性たちが美しいきらびやかなドレスをまとい、様々なポーズでステージの上でスポットライトに照らされながら立っている。人間と全く区別がつかない美しい女性達に魅了される二人。「これはいったい・・・・見たことが無い最新モデルがずらりだな。SAYAKAの姉妹もいる。天国だな。又お迎えしたくなるが。いやいやいや俺にはSAYAKAという嫁がいる。我慢我慢。」哲也は欲望を抑えつつ各ドールメーカーの解説が展示されている看板を見た。「何々。オリエンタル工業?。」看板には会社の生い立ち、商品紹介、商品の開発目的、使用目的など事細かに簡潔な説明文が記載されていた。「ということはやっぱあのダッチワイフの究極進化版というだな!。それにしてものすごい進化だな。」二人は中央にあるステージに人だかりが出来ているのを見つけたので行ってみることにした。ステージ上ではオリエンタル工業の社員とあの序章の主人公 桜木巧がステージで何やら解説をしている。

 「このような精密かつ頑丈なステンレス製の骨格で構成されています。ほぼ人間と同じポージングが可能です。しかも耐久性に優れたナイロン樹脂を関節に使用しています。」ロボコップのような細いSFチックな骨格の解説をしている。
 「これがその骨格を使った最新モデル、じゅわいよクチュール美紀ちゃんです。」「おおおおー。」赤いマイクロビキニを着た人間そっくりのスタイル抜群の美女が現れた。巧は美女のお腹と胸を人差し指でやさしく押した。すると若い弾力のある女性と遜色ない揺れと肌の形状の戻りを見る事が出来た。胸も小刻みに揺れた。哲也はその様子に目が釘付けになった。
 「すごい。これほど美しくて肌触りもさらに本物の女性に近づいたな。
 お迎えは出来ないけどせめて手触りだけでも楽しむか。SAYAKAごめん。」と思った。本当はスケベな哲也は早速体感コーナーに猛ダッシュで移動した。「館内ははしらないでくださーい。」大山マコ(マヤ様の妹)にしかかれる哲也。体感コーナーでドールの胸を揉みしだき、性器も凝視して触って体感した。「すごい!あやめの若い頃と同じ感覚だ。(元既婚者はこういう比較が出来るからいいな。)」もはや哲也は普段のクールなキャラではない。ただのケダモノの雄と化していた。そして、体感コーナーでSAYAKAと同じメーカーの彩美(あやみ)という等身大リアルドールに出会ってしまった。駆け寄る哲也。「ここここここここれは・・・。あの幻影の少女みたいだ。でもSAYAKAちゃんより胸がでかい。」

 一方その頃、SAYAKAちゃんは遠く離れた哲也の自宅で怒り狂っていた。「哲也!私というものがありながら!」

 再び 国際等身大ドールミュージアム IRM。偶然にもSAYAKAと同じメーカーの彩美(あやみ)ちゃんに出会ってしまった哲也。スタイル抜群で綺麗な彩美(あやみ)ちゃんという等身大リアルドールを見て触ってしまった哲也ははすっかりそのドールの虜で愛のドレイにされてしまったからからさあ大変!。もう購入する気満々である。「こんなもの買った事がSAYAKAにバレたら、・・・ぜったい離婚される。でもさっき聞いたら大変な人気モデルで在庫はこの一体で次回の入荷は半年後で次回は為替レートで値上がり確実らしい。もう買うしかない。ええーいSAYAKA分かってくれ!買った!!。」なんと哲也は商談コーナーに猛ダッシュで駆け込んだ。「だからお客様!さっきから館内は猛ダッシュ禁止だと言っているでしょう!もう!。」又大山マコ(マヤ様の実の妹)に叱られた。
この博物館は気に入ったドールがあればその場で購入契約も出来る上に業界初のローン払いも出来る。
 しかも金利は年5%である。哲也との商談に応じる巧。「SIROGANEさんはお目が高い。本日入荷したばかりの最新モデルですよ。
 今日は無料オプションでボディリアル塗装と自立加工分の料金が無料です。SIROGANEさん運がいい。」しかしそれでも新品の中型バイクが余裕で買える値段である。「ええ!こんなにするのか。値上がり半端ないな。
 でもローン出来たし。生活費節約して何とかするかな。」哲也はビールを節約する決心をした。ジョージャックの浮気調査を手伝っていたらその博物館でものすごい衝動買いをしてしまった。まさにミイラ取りがミイラである。
 事務所に戻った哲也は彩美(あやみ)の事で頭がいっぱいになっていた。ビールを運び込んで冷蔵庫に入れ終わるジョージャック。哲也に話しかける。「呆れたぜ。仕事をほっぽらかした上に!SAYAKA一筋とか言っていやがったくせして。第二章の感動を返せよ。」「したなねえだろ。理想の幻影が舞い降りたんだ。」「SAYAKA怒るだろうな。」「分かってくれるかなあ?。」本気で不安になる哲也だった。
「ところで浮気調査はどうなったんだ。」「たった今依頼主の草薙誠の奥さんに報告書を送って終わったよ。もうわかっているんだろう。誠は等身大リアルドールをお迎えする為にあのミュージアムに通っていたんだ。これがオチさ。」「なーるほど!。それが衣装や化粧品の領収書、女物の髪の毛が服についていた理由ってわけか。気の早い野郎だな、買う前から衣装や化粧品の準備とはな、まあ浮気じゃなくて良かったよな。」
「でもSAYAKAどう説得するんだ?。」「それなあ~。😿😢」哲也は頭を抱えた。 END


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