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人のいない楽園 第二章       裏切りの黙示録 第二話

 2016年4月、朝7時半。某湘南海沿い高校前駅に国道134号線を走る電車が到着した。この高校は比較的偏差値の高い県立高校でヤンキーなどほぼいない高校ではあるが中には若干の例外的生徒がいる。ある不機嫌な顔でややラフに制服を着崩している生徒二人が満員電車から降りて来た。そのまま学校には行かず、近くのコンビニで雑誌を購入し、それを持って登校した。雑誌を隠して校門をくぐる2人。海が見える南校舎の2階にある3年1組の教室に二人は入った。床に座り込み他の生徒が授業の予習をする中静かに雑誌を見ている。「哲也、今週もお前の写真掲載されているな。お前凄いな。」ガラの悪い哲也の友人がそっとつぶやいた。この哲也の友人は外国人である。日本語が堪能で英語が苦手な日本生れ、日本育ちのパプアニューギニア系トンガ人”モダン ジョージャック”という名前である。他の生徒が予習しているので空気を読んで小声でささやくように哲也も答える。「安物の中古のデジイチだけど使い方次第で何とかなるんだよ。」笑顔で答える。哲也は勉強よりも写真撮影が大好きで将来はフォトグラファーになるのが夢である。特に人物写真を撮るのが得意で校内の女生徒をスカウトしては撮影し、雑誌に投稿していた。
「この写真すごくいいよな。2年生のバトミントン部の南ちゃんだよな。別人のように綺麗なのに本人とすぐわかる写真なんだよな。ごまかしが一切ないのにダントツで綺麗な写真だぜ。お前才能あるよ。」哲也は嬉しそうに笑った。「学校で一番綺麗な子といえば堀田あやめ(後の西園寺あやめ)ちゃんだよな。彼女を撮影して投稿してみたらどうだ。きっと今までで一番いい写真が撮れるぜ。」哲也は少しうつむいて答える。「いろんな男子が言い寄って来るから煙たがられるだけだよ。それに俺は普通の女の子を可愛く撮りたいんだ。」哲也は原石のような少女が好きでその隠された魅力を哲也の撮影技術で引き出す事に拘っていた。それゆえすでに完成された被写体に興味が無かった。
昼休み、哲也はコンビニで弁当を買って海岸で弁当を食べていたら、あやめが立ったまま海岸を一人で見ていた。なんだかさみしそうである。その姿は普段のきらびやかで綺麗な雰囲気と違ってごく普通の女子高生に見える。哲也は面識は無かったがそのごく普通の女子高生に見えたあやめに声をかけた。「5組の堀田さんでしょ。もうすぐ昼休み終わっちゃうよ。早く戻らないと授業に遅れるよ。」ありきたりの無難な内容ではなしかけた。「ありがと。でもいいの。今日は午後の授業出る気分じゃないからほっといて。」哲也は普段のきらびやかなあやめには全く興味が無かったがこの日の普通の女子高生に見えた瞬間のあやめにだけなぜか強く惹かれた。「じゃあこの雑誌やるからヒマな時見て見ろよ。俺の写真が掲載されているんだぜ。」哲也は今朝買った写真雑誌をあやめに渡した。「ありがと。午後の予定ないしここで見る事にするわ。」少し微笑んであやめは雑誌を受け取った。「返さなくていいけど俺のメルアド書いておくからよかったらモデルになってよ。」「考えておくわ。」哲也はあやめと別れて午後の授業に出るために学校に戻った。
数日後の日曜日、哲也は友人のジョージャックとバイクに乗って人が来ない廃墟の工業団地をノーヘルで走っていた。すると見慣れないアドレスから一通のメールが入った。「なんだ?又スパムか?。うるせえなあ。」哲也はすぐにメールを削除しようとしたがAYAMEというアドレスにハッとなった。「消さなくて良かった。」友人が興味深々でメールを覗く。「ん?彼女でも出来たのか?。ああ!堀田さんからメール来たのか?。すげえな!どうやって仲良くなったんだ?。」メールの内容は雑誌を貰ったお礼だけでなくあやめからのお願い文も含まれていた。「先日は雑誌ありがと。早速見たよ。南ちゃん凄く綺麗だった。ねえ知ってる?。南ちゃん好きだった先輩にコクられたんだって。雑誌の写真がきっかけらしいよ。あなた凄いわね。ねえ、今度二人で話さない。来週の日曜空いてる?。お願いがあるんだけど。」その文章を見た友人は急に不機嫌になる。「あやめちゃんからデートのおさそいなんて信じられない。どうやって口説いたんだ。哲也すげえな。」「あやめちゃんがさみしそうに海を見ていたんだ。その姿がごく普通の女子高生に見えたんだ。それで雑誌を渡してモデルやってくれとお願いしたらこのメールが来たんだ。多分デートじゃないよ。」そういいつつ少し微笑む哲也だった。
 

次の日曜日。国道134号線沿いにあるファミレスで哲也はあやめの到着を待っていた。「相談場所はここでいいかな?。知り合いに見つかるとやっかいだからちょっと離れた場所にしたが堀田さん場所分かるかな?。」やや不安そうにあやめの到着を待つ哲也。「ごめーん。待った?。」あやめは地味な白いセーターに青いパンツというラフな格好やってきた。哲也もTシャツに薄いジャケットとジーパンなので似たような感じである。お互い目立たないようにしたようだ。「ドリンクバーだけでいいよね。ごめん金ねねーんだ。」「いいよいいよ。今日は私のおごり、好きなもの頼んで。でも1000円以下でお願い。」ちょっと微笑むあやめ。とりあえずドリンクを飲んで一息ついたあやめは早速本題に入った。「呼び出してごめんねー。お願いっていうのはね。」実はあやめは幼い頃から女優に憧れていた。実は何度もオーディションに応募していた。しかし書類選考さえも合格しないので夢をあきらめようとしていた。ちょうどそんなことを考えていたら哲也が声をかけて雑誌をくれたのだ。その雑誌に掲載された哲也の写真を見たあやめは衝撃を受けた。後輩の南ちゃんがあやめより綺麗に見えたのだ。しかも南ちゃんらしさが十二分に伝わってくる写真だった。「白銀君の写真ってすごいよね。私より綺麗だったから嫉妬しちゃった。」哲也は自分が呼び出された理由が何となく分かった。「なるほど、オーディションに合格して女優になるのが夢なんだね。しかし書類選考さえ通過しないから諦めようとしていたと・・・。」哲也は少し考えこんだが力強く言った。「まだ高校生だぜ。諦めるのは早すぎるよ。まずは書類選考なんだろ。俺に任せろ。最高の写真を撮ってやる。それを添付して送りつけてやれ。」「本当ー。本当にーありがとうーとっても嬉しい。」感激したあやめの目から涙がこぼれる。「泣くなよ。俺が泣かせたみたいじゃないか。よし。早速この後撮影会だ。ちょうど今ウチの両親出張中なんだ。うちに来いよ。」学校一の美少女に対して実に大胆な提案をする哲也。「もちろん行くわ。」大喜びでついていくあやめ。
哲也の家は一軒家で屋上にバルコニーがあり撮影するには好都合であった。しかも海と夕陽をバックに撮影する事が出来る。
周りをきょろきょろしながら哲也はあやめを自宅に招き入れた。ファミレスの後衣装を一緒に購入したのであやめはその衣装に着替える。着替えをこっそり覗いている哲也。下着姿のあやめは細い体に大きな胸がまるで外国人のモデルのようであった。「綺麗な体だな。この世のものとは思えない。」
「お待たせ。」「あッああ。それでは屋上に行こうか。撮影の時間帯もちょうどいいし。」二人はバルコニーに上がって海と夕日をバックに撮影を開始した。「少し上を向いて。そうそう。目線をカメラ目線でおねがいね。」言葉は柔らかいが哲也のまなざしは真剣だった。一通り撮影を終えるとPCにデータを移して写真を拡大しながら一緒に見る二人。その姿は紛れもなく恋人同士に見える。「しんじられなーい。これが私。綺麗・・・。」「俺もこんなに綺麗に撮れた写真は初めてだよ。ありがとう。」「お礼を言うのは私よ。ありがとう。これなら書類選考は大丈夫ね。何かお礼がしたいな。」オーディションに向かって確実な第一歩を踏み出したと確信したあやめは心から哲也に感謝した。「両親は明日の夜まで帰って来ないんだ。よかったら今後の打ち合わせしていかないか?。」あやめはこれが哲也の自分に対する気持ちだと直感した。「うんいいよ。」実はあやめは哲也が着替えを覗いていたことを知っていた。自分の夢を叶えてくれる救世主のように思っていたあやめはちっとも嫌ではなかった。自分でも不思議な感覚だった。自分の将来の夢実現に不可欠なパートナーだと確信したあやめは哲也を手放さない決心をしていた。哲也はPCモニターの写真を見ながらそっとあやめを後ろからやさしく抱いた。あやめはそのまま哲也に身をゆだね、哲也にとっては初めての夜を迎えた。欲望に負けそうな勢いの哲也に笑顔で「だめ、そっと優しくお願いね。」と何度も繰り返すあやめ。そのたびに照れくさそうに笑う哲也。若い二人は一晩中愛し合った。哲也は女性の性器を生で初めて見たがあやめの美しさとは裏腹に本当にあやめのものか疑わしくなるような形の性器に戸惑いを隠せなかった。
 一週間後、あやめの元にあるアニメの実写映画のオーディションの結果が届いた。履歴書に添付したあの写真が評価され一次審査に初めて通過したのだ。大喜びで哲也にメールするあやめ。「合格おめでとう。でもまだ早いよ。次の最終審査頑張れよ。」と返信を送った。二人はあの日から付き合い始めており何度も一晩中愛し合うようになっていた。あやめは哲也の両親がいない時を見計らって何度も哲也と寝るようになり、屋上のバルコニーで演技の練習までするようになった。あやめが最も美しく見える照明の角度や表情。声の出し方まで徹底的に研究してあやめに指導した。
 最終オーディション当日、あやめは哲也と一緒に選んだ白いドレスを着てオーディション会場に来た。哲也は外で待っている。あやめが応募したアニメ実写映画は”回流呪詛師”という大変人気のあるアニメ作品で実写化はハードルが高いものであった。それゆえキャスト選びもプロが中心だったが18歳という設定なのでリアルJKもキャストに加える必要があった。ビジュアル中心に厳正な書類選考を行ったので書類選考だけでも並みのオーディション以上にハードルが高かったのだ。

 ある晴れ渡った昼下がり、オーディションの会場は野外のオープンスタジオで行われた。映画出演だけでなくその後のイベント出演などマルチにこなせる人材を発掘するためだ。哲也はそれも見越してあやめに指導した。哲也は写真撮影の才能だけでなくどうすれば目的を果たせるか研究する能力も高かった。「次はエントリーナンバー89番。現役女子高生美少女 堀田あやめさんです。」オープンスタジオの女性アナウンサーが綺麗な通る声であやめを紹介する。「堀田あやめです。女子高生です。回流呪詛師の天山様の大ファンです。あんな彼氏がほしいな~💛。」等身大の女子高生であることをイントロでアピールしたのち、オーディションの重要要素であるアテレコ寸劇に挑んだ。
「ここで引いたら女じゃねえーんだよ!。俺は女の中の女だバカヤロー!。」先ほどの等身大の女子高生とは思えない迫真の迫力の演技に会場内が静まり返った。オーディションはその後も長時間続いたがそのインパクトを超える演技は無かった。哲也のプロデュースした一発勝負が効果的だった。

さらに1週間後。なんとあやめは最終オーディションに合格し、主演ではないが準主役の”回流白百合”役に抜擢された。主役はプロに任された為新人応募者の中では事実上のトップ合格である。早速哲也とあやめの友人が集まってささやかだが祝賀会が開かれた。哲也とあやめが待ち合わせたファミレスで祝賀会が行われているがはほぼ貸し切り状態だった。「おめでとうあやめ~。すごいじゃない。回流白百合って主役を食える人気キャラだよ!。」「おめでとうあやめ。私たちも鼻が高いわー。今のうちにツーショットお願いね。」皆が楽しそうにはしゃぐ中哲也は少し寂しそうだった。「どうした哲也。嬉しくないのか?。将来の大女優の彼氏なんだぜ。もっと喜べよ。」
「ああ、もちろんうれしいよ。」しかし哲也は不安を感じていた。このまま愛するあやめが手の届かないところまで行ってしまうのではないか?と不安に思っていた。

数日後休む暇も無くあやめは映画の撮影に参加した。演技指導や衣装合わせ、ストーリーの改編や設定資料の暗記に撮影ロケ地見学と学校を休学する日が続いた。あやめの姿はメディを通してでしか見ることができなくなりつつあった。「あやめあれからさらに綺麗になったな。」言葉とはうらはらにさみしそうに笑う哲也だった。

第二話 END


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