見出し画像

人のいない楽園・・・第四章    1982 第五話最終話

1982年7月某日。2024年から戻った1982剛は元の生活に戻り、亜希子との交際を開始して1か月以上が経過したが・・・。
 
ここは2024剛と亜希子が出会ったすかいらーく。本日は日曜日の午後3時、デートで映画を見終わって休憩がてらソフトドリンクを飲みながら映画の感想などを話していた。
 「薬師丸ひろ子ちゃん可愛かったね。セーラー服と機関銃観たかったんだ。誘ってくれてありがとうね。」映画が面白かったらしく上機嫌な亜希子であった。
 「渡瀬恒彦の佐久間さんの役かっこよかったねー。ああいう渋くてかっこいい人あこがれるなー。」1982剛はあからさまに不機嫌な表情をした。

 「又2024剛を思い出したのか?。もう彼はいないんだから忘れろよ。」
ぶっきらぼうに言う1982剛。しかし亜希子の心には根強く2024剛と過ごした日々の思い出が残っている。
 「渋くて大人で、どっしりしていて、タフで、ああ2024剛君を思い出すなあ。」「またかよ。もうその話はよそうぜ。」

 1982剛はデートの度に2024剛の話ばかり聞かされた上に映画も2024剛を思わせるキャラが出てくる映画ばかり見たがるので1982剛は2024剛にジェラシーを感じていた。「正義感が強くていざというときに頼れる大人の男性って素敵。剛君も早くそうなってよね。」ちょっと物足りなげにつぶやく亜希子。

 1982剛はデートの度に2024剛と比較されるので正直うんざりしていた。「(1982剛の心の声)現役の大企業の社長と俺を比較するなよ。亜希子が惚れているのは俺であって俺じゃない。
 2024年の社長になった俺だ。このままじゃ別れるのも時間の問題だな。
 でも別れたくない。どうしたらいいんだ。」焦る1982剛。結局会話も弾まないデートでその日は不完全燃焼なデートになってしまったと1982剛は思った。

 剛はそんな憂鬱な日々を過ごしつつ、おもちゃ屋の店員のアルバイトを開始した。
 剛はおもちゃには興味が無かったがガンプラが大変な人気だったこの時代にガンプラ目当てでアルバイトを開始したのだ。
 日曜日になると開店前からガンプラを目当てに大勢の小学生や中学生、大人まで大勢行列に並ぶ。「凄い人気だな。こりゃ開店後数分で売り切れだな。」

 列の整理や商品の陳列に大忙しの1982剛。そこへ亜希子がやって来た。「よう、しっかりやっているか?未来の大社長!。」
 「なんだ亜希子か?。おまえもガンプラ目当てか?。」
 「家が近いから寄っただけよ。忙しそうだから又来るわね。」
 亜希子は何故か1982剛の仕事ぶりをよく見に来る。
 渋い年上好きな亜希子は仕事をする男性を見るのが好きなようだ。
 すると先日からアルバイトに来るようになった男の子が先輩の一流大学生のアルバイト店員に怒鳴られていた。
 「何度言えばわかるんだよ。これはガンプラじゃねえだろ。馬鹿野郎。それよりあのゴミさっさと片付けてこいよ。」一流大学生であることを鼻にかけて新入りのアルバイトを顎で使うその大学生に1982剛はいら立っていた。「手伝うよ。」「ありがとう。」ゴミ出しを手伝う1982剛。こんな感じで1982剛はデート費用や小遣い欲しさにアルバイトに励んでいた。

 自宅に帰った1982剛は一枚の手紙を読んでいた。それは2024剛が書置きしていったものだった。「何々、1982剛へ。君は過去の私だ。だから私と君は同じ人物だ。私は曲がった事が嫌いだ。特に弱い者いじめをする奴、人を見下してバカにする奴、自慢話をする奴、人を騙す奴。そんな人間が多い世の中で俺とお前はそんな奴を許したり見て見ぬふりをする奴ではない事を信じている。もし、事なかれ主義で見て見ぬふりをするのならお前は私にはなれない。愛する者も守れない。亜希子をめぐって私に勝ちたかったら!!。その事を忘れるな。」
 1982剛はハッとなった。「新人バイト君のことがひっかかるな。何とかしてあげたいけど。」1982剛は引き出しから録音機能付きマイクロカセットテープレコーダーを取り出した。
 「これは絶対役に立つ。頭を使って暴力に頼らず新人君を助けたいから念のために持っていくか。罵詈雑言を録音してやろう。」1982剛はそれを明日からバイト先に持ち込むことにした。

 亜希子が通う短大は付属短大で4年生の大学と校舎が隣接している。その大学生がよく亜希子が通う短大に遊びに来る。
 その日も若い男たちが短大の校舎に来てナンパをしていた。
 そこに亜希子が六郎の彼女と一緒に学校のベンチで座って話をしていた。
 近づくナンパ男たち。「君たちここの短大生だろ。かわいいね。何話しているのかなあ~。」軽い感じで話しかけて来た。

 亜希子たちは無視する。「ねえねえ、シカトしないでよ。」亜希子の隣に座る男たち。立ち去ろうとする亜希子たち。その前に立ちはだかるもう一人の男。

 「私たち講義があるので失礼します。」
「講義なんてサボってどっか遊びに行こうぜ。」亜希子の手首をつかむ大学生。「やめてください。」「いいじゃんよ~。」しつこいナンパに怒りと恐怖が込み上げてくる亜希子。
 そこ見知らぬ男が現れた。「君たち、その子嫌がってるだろ。もうやめろよ。」
 「なんだてめえ。関係ねえだろ。」急に凄み出す男たち。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。君たち大学生なら学生証を見せろよ。」急に焦りだす男たち。「怪しいな。関係者以外立ち入る人は通報しないとな。おい、警備室に連絡してくれ。」
「はいよ。」見知らぬ男性の連れが警備室に向かった。「おいやばいぜ。」「ちッ面倒事はごめんだ。行くぞ。」男たちは逃げるように去っていった。

「君たち大丈夫?。ここは女子短大だからあいつらみたいな部外者が大学生を装って侵入してはナンパを繰り返すんだ。気を付けてね。」その見知らぬ男は落ち着いた雰囲気で大学4年生ぐらいに見える。しかも身長が180cm近くもあり見た目も俳優の要潤のようであった。
 「ありがとうございました。」亜希子と六郎の彼女は深々と頭をさげてお礼を言った。見知らぬ男はそれ以上何も言わず去っていった。「かっこいい。落ち着いた雰囲気が渋かったね。」「そうね。やっぱり大人の男性はいいかも。」二人はその男性の後姿を目で追っていた。

 数分後「さっきはご苦労さん。これ小遣いだ。」「すんません、神代さん。たったあれだけの芝居でこんなに貰っていいんですか?。」「ああ、かまわないさ。この後あのかわいい子から体で回収するからさ。」どうやらこの神代という男はこのニセナンパ男とグルだったようで一芝居打っては女の子と知りうきっかけを作り、体目当てで近づくことを繰り返しているようだ。亜希子が神代に目をつけられたようだ。実はこの神代こそ偶然にも1982剛のバイト先で偉そうにしている一流大学生である。

 助けてもらった?亜希子と六郎の彼女はファミレスでお茶会をしながら話していた。「あの神代さんっていう大学生かっこよかったな~六郎とはえらい違いだわ。」亜希子も神代が気になる様子である。「4年生かな?大人びた落ち着いた感じの人だったわね。それに毅然とした態度も頼りになりそうだったわね。」亜希子は2024剛と神代のキャラが少し被ったような錯覚を感じた。

 しかし数日後、事件が起こった。1982剛のバイト先で盗難事件が発生したのだ。店の中は騒然としていた。
 「在庫チェックしていたらプレミアム物のガンプラが無くなっていました。」店長は青くなった。
 「何!よく探したのか?。あれは店に並べずにプレミアム付きで裕福なマニアに闇で流す予定だったお宝だぞ。絶対に探し出せ。見つけるまで帰るな!。残業代は払わんぞ!。」
 転売ヤーというものは昔からいるようだ。この店主もまっとうな店売りだけでなく闇市場で荒稼ぎしているようだ。
 そのお宝が無くなったのだから真っ青である。
「店長、あの新人バイト、中卒で少年院にいたことがあるそうですよ。あいつが怪しいです。」「そうだな。奴を呼び出せ。」
店長はその新人バイトを呼び出した。「正直に言え。そうすれば警察に突き出すのだけは勘弁してやる。」
 新人バイトは驚きを隠せない様子で必死に弁明した。「俺じゃないですよ。知りませんよ。」神代は見下すような態度で新人バイトをなじった。「店長、こんな少年院帰りの言う事なんて信じちゃだめですよ。腐った根性は一生治らないんだから。」
 「だから違うって言ってるだろ!。」新人バイトは神代につかみかかった。「おおこわ。店長、これがこいつの正体ですよ。こいつは何もしていない俺に暴力をふるいました。」店長は新人バイトの両肩をつかんで神代から引き離した。
 「もうやめろ。警察を呼んだから正直に言うんだぞ。」
「だからやってないって。」涙を流す新人バイト。その様子を亜希子も六郎の彼女と見ていた。
「神代君だわ。窃盗犯を捕まえるなんてかっこいいね。」「そうね。正義感が強い人なのね。だから私たちを助けてくれたんだわ。」

 新人バイト君は何を言っても無駄と諦めた様子で呆然と立ち尽くしていた。
 間もなく警察が来た。店内は騒然としている。野次馬だらけである。神代は大勢の前でヒーロー気取りのように見える。
「おまわりさん。こいつは少年院帰りです。調べてください。」警察官は新人バイトを連行しようとした。静まり返ったその時。テープレコーダーの音声が大音量で流れた。
「新人バイトの奴これでクビだな。一流大学四年生の僕が疑われるはずもないもんな。」「しかし神代は悪だよなあ。バイト先のプレミアムプラモをくすねてその窃盗犯を少年院帰りの新人バイトだと言って犯人に仕立て上げようなんて。」「安い時給のバイト料じゃホテル代やナンパ費用が足りねえからな。おあつらえ向きに前科者が現れて大助かりだぜ。プラモは先日粗大ごみの袋に入れて出しておいたさ。ゴミ回収のバイトしている仲間が今頃回収済だ。これで大儲けだな。」1982剛が現れた。「お巡りさん。こういう事です。このテープは証拠品として提出します。あと先日のゴミ回収業者を調べてください。以上」1982剛は証拠を警察に提出するとそのまま店を去ていった。 「でたらめだ~。こんなテープはニセモノだー。」うろたえながら泣き叫ぶ神代。

亜希子はその様子を見て1982剛と2024剛が重なって見えた。


「神代君といったね、署まで一緒に来てもらうよ。」皆が見ている前で神代は力の抜けた様子でうなだれながら連行された。

 店長は大喜びで1982剛に駆け寄った。「ありがとう剛君。盗まれたプラモはゴミ回収業者が持っているんだね。良かったー。これで一安心だ。」
「店長、それより大事な事を忘れていますよ。」1982剛は新人バイト君を見た。「おおそうだったね。疑って悪かったね。」しかし新人バイト君は浮かない顔である。新人バイト君はすぐに1982剛に駆け寄って両手で1982剛の右手のひらを両手で握った。「ありがとう。ありがとう。助けてくれてありがとう。」涙を流して感謝する新人バイト君。

 「いいんだ。元々俺はあいつが嫌いだったしいい気味だ。これであいつは一流大学を退学だな。頭は一流だったかもしれないが人間性は三流以下だな。」「そういえば自己紹介がまだだったね。俺は津酔権三郎です。」「え?どっかで聞いたような名だな?。ええええええ!親分さん!昔の親分さん?。先日はごちそうさまでした。楽しいい宴会ありがとうございました。」「はあ?。」「ああそうか2024年の話だから・・・。津酔君、元気出して!君は将来ちょっと特殊だけど大物になるんだ。絶対あきらめるなよ。」「はい。なんだか分からないけどこのご恩は一生忘れません。」二人は奇妙な再会?を果たした。

 2024年6月、2024剛は元の姿になって自宅に戻った。美里も車も元の位置にあった。「ふう、なんだか今までの事がすべて夢だったような感覚だな。」すると見知らぬ年配の綺麗な女性が2024剛を家で待っていた。「あなたお帰りなさい。」「え?どちらさま?。どっかで見たような?。」「いやですわあなた。もしかして疲れていらっしゃるの?。」「あなた?。俺の妻は山城工務店の一人娘 山城しのぶのはずだが?。ってもしかして亜希子?。!」「もうふざけないでくださいよ。亜希子ですよ。」「って言う事は俺はフラれずに済んだ?。」「あら、覚えていてくれたんですね。確かに一度物足りなくなって頼れるイケメン年上男性に惹かれた事があったわ。でもそいつがとんでもない悪党だったから危なかったのよ。ってその悪党やっつけたのあなたじゃない。その時2024年のあなたと当時のあなたが重なって同じ人に見えたのよ。かっこよかったわよ。42年待たなくてもよくなった感じがしたわ。」2024剛はあの出来事が分岐点になった事を確信した。

 「ってことは!私の二人の息子は!。息子の写真見せてくれ。」
「後ろに家族写真があるわよ。」写真立てに家族写真が置いてあり二人の息子の姿に変化はなかった。「良かった~。息子たちは無事だ~。」「あなた、変ですよ。」「そういえば俺は山城工務店の社長に間違いないんだよな?。」「そうですよ。大工の頭領から出世して山城工務店に入社して当時の社長に気に入られて婿になって会社を継ぐという話を”私には心に決めた女性がいます。”と言って断って私と結婚したじゃありませんが。その言葉に当時の社長が ”気に入った。好きな女を捨てて婿入りするような男じゃなくて良かった。社内に優秀な社員がいないから社長を引き受けてくれ ”って頼まれて社長になったんじゃありませんか。」「そうだったんだ。」「社長の娘さんのしのぶさんもあなたを狙っていたんですって。そしてあなたはしのぶさんが結婚して後継者が生まれるまでの中継ぎで良ければ引き受けるって言ったじゃありませんが。会社を乗っ取る気はありませんってね。」
 2024剛は今回のタイムスリップで少し未来が変化した事を実感したが不思議と後悔は無かった。
後に2024剛の長男と山城しのぶの長女が結婚して晴れて元の世界の嫁であるしのぶとも形は違うが後に家族になる。

第五話 END
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?