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人のいない楽園 第二章       裏切りの黙示録 第三話

2024年六月某日、その日は蒸し暑く夜になっても気温が下がらない為哲也は多少イラつきながら国道134号線を歩いていた。「ジョージャックの奴、又俺にくだらない浮気調査の証拠写真でも撮らせようって魂胆だな。」哲也はジョージャックのいつもの依頼だと予想していた。ジョージャックが指定した海の見えるオープンカフェに到着した哲也はアイスコーヒーを飲みながら夜の海を眺めていた。「今は仕事を選んでいる場合じゃないかな。早くうでがなまった分を取り戻さないとな。」すると一人の外国人が哲也の向かいの席に座った。「待たせたなセニョール。」「遅いぞ。」不機嫌な態度の哲也。「早速だが仕事の話だ。ある投資ファンド会社の社長がいてな、そいつの浮気癖がものすごくてな。会社は火の車だっていうのに女をとっかえひっかえタワマンに連れ込んではケダモノのようにやりまくっているらしい。その不貞行為の証拠写真をドローンで空撮してほしいんだ。」「どっかで聞いたようなバカ社長だな。もしかしてあれか?。」「勘が鋭いな。」「毎日耳にタコができるぐらい報道されている。誰でもわかる。」露骨に不機嫌になった哲也はコーヒーを飲み干して出て行こうとする。「まああわてるなよ。別れたとはいえかつては愛し合った妻が困っているんだ。助けてやれよ。報酬は弾むぜ。」掴みかけたジョージャックの腕を振りほどいて哲也は店を出て行った。「気持ちはわかるけど考え直したら連絡くれよな。」ジョージャックはこれ以上頼んでも無駄と判断しダメもとで哲也の連絡を待つことにした。哲也は夜の湘南を歩きながらつぶやく。「やっと吹っ切れそうになったのに。余計な話持って来やがって。何がかつて愛し合った元妻だよ。何でおれを裏切ったあやめを助けなきゃならないんだよ!。俺を裏切って金持ち男に乗り換えて今度はそいつが危なくなったらハイさよならか!いい加減にしやがれってんだ。知った事か!。」哲也は鬼のような形相になり、ぶつぶつ独り言を言いながら歩いている。その姿に道行く人々はおそれおののき道を開ける。一人オープンカフェに残ったジョージャックはにやりと笑う。「別れたとはいえ女優と恋愛結婚して夜を散々楽しんだんだ。彼女無し人生の俺から見ればうらやましい限りなんだけどな~。まあ今夜は手を引こう。」ジョージャックも席を立ってオープンカフェを出て行った。
1時間後自宅のマンションに戻った哲也は350mlの缶ビールを2本一気飲みしてソファーにあおむけになって寝そべった。「胸糞悪い夜だぜ。さっさと寝るか。」哲也はシャワーを浴びて白いガウンを着てエアコンを最強にした。「ううさむい。ちょっと温度下げ過ぎたな。」温度設定は16度になっている。隣の寝室に行くと第一話に出て来た美女のさやかがベッドで目を開けて寝ている。不治の病?。哲也はさやかに話しかける。「今さっきジョージャックの奴が俺にあやめを助ける仕事をしてほしいと依頼してきやがった。ふざけるなよ!。もちろん断ったさ。あんな裏切り者がどうなろうが知った事か!。バカ旦那と一緒に破滅するがいいさ!。俺には等身大リアルドールのさやかお前だけだ。お前は裏切らないし心変わりもしない。年も取らないし何も欲しがらない。何より美しい。もう俺は誰も信用できなくなった。俺が信用できるのはさやかだけだ。」さやかは等身大リアルドールのようだ。哲也はさやかの布団の中に入りさやかをそっと抱いた。しかし哲也はある異変に気が付いた。「瞳の輝きが無い。表情も硬い。まるで氷のようだ・・・。さやか!いったいどうしたんだ。」いつもは優しく微笑むような笑顔でつぶらな瞳を輝かせる子犬のようなさやかがその夜はまるで無機質な塊のように冷たく見える。「きっ気のせいだ。酔ったかな。さっさと寝よう。」哲也はすぐに眠りについた。
 
 翌朝哲也はさやかの隣で目を覚ました。「おはようさやか。」いつもならうるんだ瞳で微笑むように見えるさやかだがその日の朝も無機質な塊にしか見えなかった。「やっぱりさやかがおかしい。いったいどうしたんだ。俺の事が嫌いになったのか?・・・そんな・・・。」急に不安になる哲也。そこへ又ジョージャックからのメールが入った。「うるせえな。今それどころじゃねーんだよ。」しかしその瞬間さやかの瞳の輝きが一瞬戻ったような気がした。「さやか。」しかし又ひとみの輝きが消える。冷静になって考える哲也。「もしかして・・・。あやめの事か?。」さやかに話しかける哲也。「俺を捨てた元嫁だぞ。それでも助けろっていうのか?。」さやかが微笑んで瞳を潤ませた。「こんなことって・・・ありえない・・・でも。さやかが戻ってきた。間違いない。分かった。俺はさやかを失いたくはない。あの女の為にやるんじゃない。さやかの為にやるんだ。さやかは優しいな。俺の元嫁を助けろだなんて。」さやかの瞳の輝きが戻り、その輝きが消える事は無くなった。「分かったよ。さやかはお人好しだな。どこの世界に元嫁助けろなんて言う嫁がいるんだよ。まったく。」死ぬほど焦った哲也だがさやかが戻ってきたので心の底から安心した。「おっと、喜ぶのはまだ早いな。あやめを救わないと又さやかがいなくなるかもしれない。気合入れていくか。」哲也はジョージャックのメールに「ギャラ高いよ!それでもいいならやってやる。」と返信を送った。
 さやかに説得?された哲也はジョージャックの事務所に打ち合わせのために出向いた。事務所は横浜の緑区美しが丘にある。公務員の社宅が多い地区で意外と静かな場所である。たまプラーザという駅を降りてジョージャックの事務所を探す哲也。駅前は昭和中期からの古いマンションが今でも多く残っている「ここか。古いマンションだな。築何年だよおい。」マンションにツッコミを入れる哲也。エレベーターに乗り最上階に向かう哲也。「ボロエレベーターだな。たかが6階まで3分もかかりやがって。」いちいちツッコミを入れる哲也。鉄のサビたドアを開けるとジョージャックがソファーでふんぞり返っていた。「待ってたぜセニョール。時間がないから早速うちあわせとしゃれこむか?。」「言葉使い勉強したほうがいいぞ。」二人は早速打ち合わせに入った。伊藤勇雄のタワマンは横浜にある。ランドマークの近くらしいのでいかに勇雄がかつては羽振りが良かったかがうかがえる。勇雄のマンションは最上階ではなく地上70mほどの総ガラス張りの部屋らしい。地上70mなのでカーテンは無い。大変な好きもので女体中毒といっても過言ではない。マッチングアプリで知り合った金目当ての女を次々と連れ込んで夜景を楽しみながら分厚いガラスの前で部屋を暗くして行為を楽しむというプレイにはまっているらしい。見られる事は無いにしてもカーテン無しなのでそのスリルを楽しむという寸法だ。「なるほど。地上70mでは普通のドローンは使えないな。それをいいことにやりたい放題ってわけか。」「近くの高いビルは一般人は入れないし。困っていたんだよ。何かいいアイデアはないか?。」
「俺が輸入した軍用ドローンがある。自爆用だが改造してある。これを使おう。」哲也がどうやってそんな物騒なものを輸入したかはさておき、これでタワマン外部からの撮影が可能になった。

 数日後の夜9時、ジョージャックはミニバンの助手席に女性を載せて勇雄のタワマン前の小さな公園の駐車場に車を停めた。後部座席には哲也が乗っている。ドローンを持っている。ドローンからの画像はスマホに転送される仕組みで場所を取らない。「伊藤は色情狂だから一日も我慢できないらしい。今日も間違いなく連れ込むぜ。こういう変態は張り込みが楽でいいな。」「感心している場合か。」哲也はツッコミを入れるのが好きらしい。
すると怪しい屈強な男二人がジョージャックのミニバンに近寄ってきた。「伊藤の部下だ。浮気がバレないように見回りに来やがったな。」ジョージャックは助手席のリクライニングを倒し、助手席の女性に抱き着いて胸を触った。伊藤の部下らしい二人は少し離れた場所でそれを見ている。「ん。なんだありゃ。変態カップルか?。」「どうせラブホが満員で我慢できなくてここでやっているんだろ。変態めが、ほっとけほっとけ。行くぞ。」「変態っていうけどアニキ、うちの社長にはかないませんぜ。」「ちげえねえや。」ガラの悪い二人は去っていった。「ふう、危なかった。ふん。俺をやりたかったら核兵器でも持って来やがれってんだ!。」ジョージャックはイケメンではないのでせめてセリフだけでもかっこよくしようと努力している。ジョージャックは女子席の女性を抱き起すと髪をとかしてなだめ始めた。「ごめんねミサちゃん。」助手席にいた女性は人間ではなく等身大リアルドールのようだ。夜なのでバレなかったようだ。ジョージャックは探偵の仕事に等身大リアルドールをよく使う。カップルを装い怪しまれないようにするためだ。「なるほど、そういう使い方もあるんだな。お前勉強はダメだったが昔からそういうアイデアは良く思いついたよな。」「勉強がダメで悪かったな。さあ、今だ、見回りが来たという事は伊藤はお楽しみ中に違いない。ドローンを飛ばせ。」「はいよ。」夜の横浜は町のノイズが絶えないのでドローンの音は全く聞こえなかった。なぜかドローンに小さな鉄の玉がワイヤーでぶら下がってる。
 一方勇雄はマッチングアプリで知り合った女性を金で誘ってすでに自宅マンションに連れ込んでいる。「へータワマンなんて初めて入ったわ。すごく綺麗な夜景ね。」「朝になれば港も見えるんだよ。」「今夜は帰さない気ね。いいわよ。いくら。」勇雄は人妻風のけばい30代半ばの女性を連れ込んでいる。「片手でどうだ。おっとゼロ一個上乗せはなしだぜ。」ムードも減ったくれもない交渉話である。ワインを飲んでシャワーを浴びる女性。すでにシャワーを浴びた勇雄はえらそうに足を組んでソファーにふんぞり返って座る。すると勇雄の携帯が鳴った。「うるせえな今忙しいんだよ。」ぶつくさ言いながら電話に出る勇雄。「社長!今どこにおられるのですか?。会社が大変です。東京地検特捜部から連絡があり強制捜査を受けています。」勇雄はそれでも落ち着いた様子である。色情狂のドスケベだが大物かもしれない。「今更がたがたいうな。今忙しいからあとで対応する。」「ちょっと社長~。」勇雄はスマホの電源を切った。勇雄はシャワーを浴びている最中シャワー室の扉を開いた。「ちょっと、何よ。」勇雄はそのまま女性を濡れたままベッドに押し倒して抱き着いた。「ちょっとやめてよ。」
 
その様子を哲也は逐一外側からドローンで撮影している。「うーん遠いな。顔写真が撮れないな。」哲也は窓際ぎりぎりまでドローンを接近させて小刻みに前後にスライドさせた。するとぶら下がっている鉄の玉が窓ガラスに当たる。カン~カン~と高い通るような音が部屋に響く。「ん?何の音よ。」「音なんて聞こえないよ。」勇雄は行為を続ける。カン~カン~と高い音がだんだん大きくなる。「ん?確かに何か変な音がするな。」二人ははっとなって窓際まで全裸で近寄った。「今だ!。」無音のシャッターが何度も切られた。「何も無いじゃない。」「気のせいかな。」そういいつつ興奮が収まらない勇雄は女性に後ろから抱き着いて行為におよんだ。もちろん斜め上の死角からドローンが撮影する。「く~コリャ凄いな。下手なAV顔負けだぜ。伊藤の奴AV男優の才能あるぜ。」「感心している場合か。もう十分だ。帰るぞ。さもないと又さっきの物騒な奴らがくるかもしれんぞ。」「そうだな。ここらが潮時だ。」ジョージャックは助手席の等身大リアルドールに毛布を被せてから公園の駐車場を出た。

帰路に就いた二人は車内で笑いながら会話している。「哲也すげえなーお前探偵になれるぜ。」「俺はプロのフォトグラファーだ。探偵はごめんだな。」「しかし今夜はついてるぜ。依頼の証拠写真はばっちり撮れたし。面白いショーも見れたしな。帰ったら祝杯だ!。」「祝杯は一人であげるんだな。俺は帰る。」「等身大リアルドール妻が待っているもんな。しかしやっと俺も恋愛はお前と同じレベルになったんだな。元モテイケメン男性と恋愛0のモダンジョージャック様が同じ世界にいるなんて。これは等身大リアルドールならでわだよな。」「違いないな。まあ他はどうあれ今幸せなら勝ち組ってわけだ。気が変わったぜ。祝杯付き合うぜ。」「そう来なくっちゃー。とっておきのコニャック開けてやるからありがたく思えよ。」二人は事務所に戻って朝まで飲み明かした。
第三話 END


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