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ドール達の午後・・・スピンオフ   人を超えたロマンス 第五話最終話

 2020年四月、某大学の卒業式が行われていた。皆社会人となる事を意識してかリクルートスーツ姿の卒業生が胸に赤い小さなバラの花をつけて体育館に集まっていた。ほぼ全校生徒が集まりマヤ様の最後の姿を一目見ようと押しかけていた。マヤ様が卒業生代表として体育館の演説台に上り、卒業生代表の挨拶をする。マヤ様節もこれが最後とスマホで録音する生徒も数え切れない。「卒業生代表、マヤ様こと大山雅子さん。」呼ばれたマヤ様は白いスーツ姿で演説台に上る。「皆の者、よく聴け。これが私が最後に皆に送る言葉だ。心して胸に刻んでおけ!。悲しみこらえて微笑むよりも 涙枯れるまで泣く方がいい。人は悲しみが多いほど人にはやさしくできるのだから。以下省略。」在校生も卒業生も静かに涙を流しだした。「さすがはマヤ様だわ~いい事言うわ~。」一人だけしらけた顔でつまらなそうに聞いている者がいる。「なるほど。今の学生世代には分からないネタね。」マヤ様の弟子一号氷室空子である。
昭和の歌詞を丸パクリしたのにバレなかった卒業式の卒業生代表の言葉を言い終えたマヤ様は皆がらものすごい拍手を送られた。「ありがとうマヤ様。さすがマヤ様。素敵な言葉でした~。」涙を流す在校生達。
その後の卒業パーティーで多くの在校生から花束や送りものを送らてたマヤ様はレンタルしたダンプカーにそれらの贈り物を積んで他の占いの弟子に運転手させて自宅に送らせた。「ふう。明日から花屋が出来るな。」マヤ様は一息ついたあとパーティー会場の吹き抜けの二階の外周廊下の外側にある広いバルコニーで夕陽を見ながら手すりに肘をかけて空を見ていた。そこへ祐希が現れた。「マヤ、どうしたの。こんなところに呼び出したりして。」
マヤ様は先ほどとは打って変わって真剣な表情になった。
「私が祐希と付き合い始めてもうすぐ1年になるな。早いものだな。」
「そうだね。俺にとっては夢のような日々だったよ。
でも学校の女帝の彼氏ということでいやがらせを受けた事があったね。マヤがその相手の男子生徒を呼び出してみんなの前で非難し、論破して公開処刑してくれた事には今でも感謝しているよ。」「そいつら後で気まずくなって自主退学したっけ?楽しい思い出だったな?。」「そそそうだね。💦」
マヤ様は急にさらに深刻な表情になった。
「話というのはな。率直に言うと別れ話だ。」マヤ様は回りくどい事が嫌いなのでまず率直に結論から言った。しかし祐希はさほど驚く様子はない。
なぜだ?。「やっぱりそうだね。そうだと思っていたよ。学生時代の思い出に傷をつけまいと卒業式まで言わなかったんだね。」祐希は笑顔で答えた。「祐希は私が今まで付き合って来た彼氏の中で最高だった。正直つまらないクズと一瞬付き合ったこともあった。そいつは今頃刑務所にいると思う。(別エピソードでそのうち<m(__)m>)。」「なんとなくわかっていたよ。マヤは結婚しないで自立して独立して社会で活躍したいんだろ。旦那がいると甘えが生じるし何をやっても旦那のおかげみたいなことを言われるのが嫌なんだろ。」「さすが私の彼氏だ。私の事を理解しているな。」
「俺の夢は古臭いけどマヤと結婚して幸せな家庭を作る事なんだ。でも1年たってもその決心は変わらなかったんだね。」祐希はさみしそうに笑った。「学生時代までは恋人としてで大丈夫だったが社会に出たらそうはいかない。祐希は私なんかより綺麗で優しい奥さん貰って幸せになってほしい。そして私は私の野望の為に一生独身で生きていく。だから私の人生最後の恋人は祐希だけだ。絶対に彼氏を作ったり結婚したりしない事をここに誓おう。」マヤ様は自分の身勝手な夢の為に祐希の夢である幸せな結婚を奪う事を恐れた。
それゆえに祐希の為に正直に本心を卒業式で打ち開けて別れる決心をしていた。
「それでもあの縫いドールのイケメンはお迎えするんだね。」
「偶像崇拝じゃないがやっぱり一人はさみしいからな。」
「あーあ 縫いドールがうらやましいなあ。次生まれ変わったらマヤのぬいどーるになりてー。」祐希は頭をかかえてうずくまった。
マヤ様はそれを横目で見ながら名残惜しそうに去っていった。

一か月後、九州某所。ある人形工房店主が水害被害から復興し、
人形の生産を再開すべく機材や材料を工房に運び込んでいた。
看板には”あいぬい人形”と書かれている。どういう意味だろうか?。
「ふう、これで全部だな。」
20代後半ぐらいの見るからに優しそうな好青年がこの工房の持ち主である。あいぬい人形の職人さんのようで和服が似合う。和服はそでも足丈も短く動きやすそうなデザインである。スマホを確認しオーダーの状況を工房である和室で見ている。
「うれしいなーこんなにバックオーダーがたまっている。最初のお客様は大山雅子(マヤ様)さんか。よーし記念すべき復興第一号だ!気合入れてつくるそ~。」後に樹お兄さんと呼ばれる等身大縫いドールがこの職人の手によって誕生する。職人の名は”町田俊丞(しゅんすけ)”28歳である。等身大縫いドール職人の第一人者で元は服飾メーカーに勤務していたが人形で人を癒す”ドールセラピー”に興味を持ち、工房を立ち上げた。
主に女性向けにかっこいい男性縫いドールを生産している。何故女性向けドールを生産するのか?。
それは俊丞の病気の恋人が等身大人形が大好なのだが重すぎて扱えなかった事があり、恋人の為に作った事がきっかけだった。
しかし恋人は不治の病だったため残念ながら他界してしまった。それをきっかけに全国の体の弱い等身大人形大好きな女性の為に女性がお求めやすい価格で生産販売する事を決めたのだ。マヤ様はその職人さんの心意気に感激したこともあり等身大縫いドールに強い思い入れがあるのだ。
「この大山雅子(マヤ様)という女性は感心だ!自分の将来の夢で迷惑をかけないように彼氏と別れ、心の孤独を等身大ドールで癒しつつ自分の夢を自分の力で実現しようとしている。
男でも働かないニートや引きこもりがあふれているこの日本でもまだこんな素晴らしい女性がいるんだな。よーし頑張って作るそ!。」
俊丞はこの仕事にかなり気合を入れている。

 マヤ様は大学卒業後彼氏と別れた後とある大手雑誌出版社に就職した。仕事は広告掲載の営業である。得意の占いを使って営業先を選定し、
それを上司や同僚に伝えている。
「大山さん。すごいよ。大山さんが推薦した会社の広告の仕事が決まったよ。」新入社員A君は初手柄に大喜びである。
「そうであろう。私の占いは絶対だ。」
「大山君、君が選んでくれた宝くじが当たったよ。ありがとう。これで風呂の修繕費が賄える。かあちゃんに怒鳴られずに済むよ。」
昭和のダメ亭主っぽい営業課長はマヤ様の占いで宝くじを買い10万円ほど当たったので鬼嫁からのバッシングを逃れたと大喜びである。
(占いは私利私欲に使ってはいけません。)
さらに社長の社運を賭けた提携先探しも占いで選定したおかげで大成功した。
社長から感謝状まで贈られた。このように男の力などはマヤ様の人生に不必要なので結婚したがらない理由も十分理解できる。
こんな調子でマヤ様の社内評価が爆上がりしたのだ。

 一方それとは対照的にあのパピー君は女性と遊んでばかりの日々だったので大学で留年を繰り返しとうとう大学を辞めてしまった。
 その後彼女の家に居候してヒモ同然の生活を送っていた。
 それを知ったマヤ様はたまりかねて時々パピー君に会って立ち直らせようと努力するようになった。あるファミレスで仕事帰りにマヤ様はパピー君と会った。
「マヤちゃん、また会えてうれしいよ。今日もごはんおごってね。
金ないんだ。」マヤ様は心配そうな表情で話す。
「大学辞めて今は彼女の家に居候か。この先どうするんだ?。」
パピー君は笑顔で答える。
「今の彼女から別れ話されちゃてさー。家を出なければならなさそうなんだ。そういえばマヤちゃん彼氏と別れたんだよね~。よかったら僕と付き合わない。マヤちゃんの専業主婦になってあげるよ。自宅警備員もやったげる。」無垢な笑顔でマヤ様に話すパピー君。
マヤ様は一瞬嬉しそうな表情になるが・・・。
「私は今実家暮らしだ。お前私の両親と同居する気か?。
しかもお前料理下手だろう。掃除も半年に一回やるかやらないか?。
洗濯も親頼りらしいな。」少々呆れて話すマヤ様。
「私は甘える奴は大嫌いなんだ。パピー君は女性に優しいし体が小さいのに勇敢でいい奴だと思う。しかしもう20歳を超えているのに甘え癖が直っていないようだな。」パピー君は笑顔で答える。
「頑張って家事できるようになるからさ~。」マヤ様はその言葉が偽りであると即座に見抜いた。「悪いが私は甘える奴は嫌いなんだ。」言い終わるとこれ以上の説得は無意味と悟ってファミレスを出て行った。
 会計だけはパピー君の分も支払った。残されたパピー君は家に帰る事も出来ないらしく閉店までドリンクバーで粘っていた。

さらに一か月後、縫いドール職人の俊丞からマヤ様にメールが届いた。
「お~あいぬい人形からだ。なになに?。やった~等身大縫いドールが完成したので送りましただってさ。ひゃっほー。」マヤ様は飛び跳ねて喜んだ。
等身大縫いドールは身長175cmもあるが布製なので女性でも手軽に扱える軽量設計でしかも丈夫な骨格まで入っているので立たせることもポージングも可能なのだ。
しかも顔や体の造形も人体に近く触り心地も人体と遜色ない優れものである。
「祐希ともパピー君とも別れた今、私のダーリンはこの世でただ一人!
この縫いドール”樹お兄さん”あるのみだ!。もう後へは引けない。」
マヤ様は以前から縫いドールお兄さんの名前を決めていた。
”樹”とは静かなる力強い生命を宿し樹木のようにさわやかに包み込むように守ってくれる存在という意味である。
しかし喜びもつかの間、マヤ様は後戻りできない状況下で縫いドールおにいさんの出来栄えが気になって仕方が無かった。「いかに優れた職人さんであっても難しい縫いドールで等身大男性をどこまで再現できるか?。不安だな。」マヤ様は到着まで不安な日々を過ごし、眠れぬ夜もあった。

 数日後 縫いドールお兄さんが到着した。マヤ様は父にタクシーを運転させてフォトウエディングスタジオに向かった。縫いドールの段ボールを後部座席に積んである。「雅子(マヤ様)いったい何が入ってるんだ?。」
答えないマヤ様。間もなくフォトウエディングスタジオに到着した。マヤ様の弟子たちが待っていた。「マヤ様ご結婚おめでとうございます。我々弟子一同心からご祝福申し上げます。」弟子たちはマヤ様の縫いドールの段ボールを運び出してスタジオに運び込んだ。「かるいですね。」
「そうだろう。」得意げなマヤ様。皆が注目する中開封の儀式が執り行われた。「男を捨てて戦う女となった今、新たなるパートナーがここに降臨するのだ。」皆が拍手喝采を送る中いよいよ段ボールを開封した。すると・・・「かっこいい~。」その姿は縫いドールとは思えないほどの美男子で集まった女性の弟子全員が感激の黄色い声を上げるほどだった。

「鳥肌が立つほどにしびれる。」マヤ様は感激のあまり涙を流した。
「これが樹おにいさんか・・・良かった・・・私の想像を良い意味ではるかに超えている。」その時マヤ様の中の理想像の幻影と樹お兄さんが重なり合って強く光る幻をもう一回見た。「樹おにいさん、たった今あなたの幻の光を見た。これまで出会った多くの男性が束になってもかなわないや。よかった・・・・。」マヤ様は安堵したのかそのまま樹おにいさんの胸の中で目を閉じてやさしく抱き着いた。
10分後、マヤ様は白いウエディングドレスを着た。樹おにいさんは職人さんの復興第一号サービスで、すでに上下に黒いスーツを着ていた。白いネクタイも着用している。



二人は並んでステージにあがった。嬉しそうなマヤ様。そこへ神父の格好をしたマヤパパが聖書らしきものを持って現れた。「何で私がこんなことまで。でも可愛い娘の為だ。」ぶつくさいいながらも神父役を引き受けるマヤパパ。写真のフラッシュがあちこちから光る。
「新郎樹おにいさん あなたはここにいる雅子(マヤ様)を病める時も 健やかなる時も富める時も 貧しき時も妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」「誓います。」と樹お兄さんが言った声がマヤ様には聞こえた。

「新婦マヤ様あなたはここにいる樹おにいさんを病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか? 」「誓います。」マヤ様は恥ずかしそうに言った。弟子たちが拍手を送る。
以下マヤパパの本音。
「何が悲しくて愛する娘を等身大男性ドールに嫁がせにゃならんのだ?。でもどこの馬の骨ともわからない甲斐性なしに嫁がせるよりはいいかな。雅子がこのイケメン等身大ドールと結婚すりゃ永遠にお嫁に行くことも無いだろう。まあいいか。」
結婚式は披露宴まで行われた。学生時代の友人や会社の同僚、占いの弟子、弟子一号 氷室空子 マヤパパが立食形式の披露宴で飲食をしながら余興のクラッシックの生演奏やマヤ様の友人のカラオケなどを楽しんだ。
マヤ様はしきりに出入り口を見る。「やっぱり来るわけないよな。」少し寂しそうなマヤ様。すると息を切らせた男が二人披露宴会場にやってきた。祐希とパピー君である。「ごめんマヤ、こいつを連れてくるのに手間取ってさー。」祐希はパピー君を無理やり引っ張ってきたようだ。「祐希、来てくれたのか?。」「樹お兄さんが姿か見たくなってな。っていうかおめでとう。くやしいけど俺よりいい男だな。ほら、お前も何か言え!。」祐希はパピー君の背中を叩いた。「いてっ。マヤちゃんとってもきれいだよ。おめでとう。だんなさんもかっこいいね。お幸せにね。僕も頑張ってまやちゃんみたいなお嫁さんほしくなっちゃった。」
無垢な笑顔で祝福の言葉を言うパピー君。
 その後方でマヤ様の学生時代の女友達や会社の若い独身女性社員が二人を見つめる。「二人ともいい男ね。」「マヤ様の元彼だってさ。」「ってことは今フリー。チャンスチャンス!。」披露宴にいる若い女性たちが二人に殺到する。「あなたが祐希さんですか?。今お付き合いしている人いるんですか?。」「この子がパピー君?かわいい~おねえさんと遊ばない?。」二人はたちまち若い女性たちに囲まれた。「おい!お前たち。私の元カレだぞ。遠慮しろこら!。」全く聞く耳を持たない女性達であった。

 2024年五月某日
仕事を終えたマヤ様はその夜自宅マンションでワインを飲みながらソファーに座り隣にはイケメンの縫いドール樹おにいさんを座らせていた。幸せそうな表情で樹おにいさんに抱き着くマヤ様「にゃーん。💛こうして抱きしめていると果てしなく気持ちいいのよね。体温もすぐ温まるから逆に温めてもらっているみたい。こんな姿死んでも他人に見られたくないわ。にゃーん。💛」しかしマンションの部屋のドアにカギをかけるのを忘れていたので手下の空子が勝手に入ってその様子をずっと見ていた。空子は床に落ちていたビールの空き缶を誤って踏んでしまった。ぐしゃっと音がする。マヤ様ははっとなって振り向いた。「そこにいるのはだれだ。!」すると空子が現れた。

「おまえ~!み~た~な~あ~。」焦る空子「見てません。何も見てません。マヤ様が狂ったところなんか見てません。マヤ様が頭がおかしくなったところなんて見てません。」「やっぱり見たんじゃないか~~。(#^ω^)」「誰にも言いません。でも次の人は誰かに言うかもしれません。💦」「やっぱり言う気だな。お前首だ!。」「へへーん 首になったらこの動画マスコミにりーくするもんね~。」マヤ様はこの世で一番見られたくないものを一番見らてたくない相手に見られてしまった。

第五話 END
 

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