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人のいない楽園・・・第四章    1982 第二話

 一方、1982年当時の剛は朝起きたら2024年5月某日剛の屋敷のベッドで目覚めた。
 「ん?なんだか体が重いな。それにここはどこだ?。俺んちの二階は畳部屋のはずだか?。」
 1982年版の剛はよろよろとベッドから立ち上がり大学の教科書を探した。「あれ、どこにもない?。大変だ。」必死に教科書を探す1982剛。
 すると寝室の大きな鏡を見つけた。「ん?でかい鏡だな。なんだこのじじい!?」鏡に映る男性は品のいい貫禄のある還暦過ぎにしては渋い俳優のようで髪の毛もふさふさである男性だが20歳の1982剛から見ればその魅力は伝わらなかった。剛は振り向いてその男性を探したが・・・。「いない?。え?俺と同じ動きをする。なんだか親父に似ているな。えええ!これ俺?。」驚愕する1982剛。
 すると屋敷の中にある美女が入ってきた。「大頭領!ここに居られたのですか?。早く着替えてください。取引先との会議があと1時間で始まります。」「はあ?。会議?。なんだそりゃ。」
 この美女は剛の社長秘書で松本理沙27歳独身 色白で巨乳だがウエストは引き締まっており黒縁メガネが似合う見るからにインテリっぽい秘書である。
 理沙は無理やり剛をスーツに着替えさせてアストンマーチンを運転して会議の会場に向かった。「これは見たことないモデルだな。」
「何ふざけているのですか大頭領!先日死ぬほど自慢していたではないですか!アストンマーチンDB9 2007年型じゃないですか?。」1982剛はものすごく驚いた。「2007年だと!今何年だ?。」
 「はあ?。しっかりしてくださいよもう!。2024年5月ですよ。」「ええええええ!42年後なの。」1982剛はショックでしばらく頭の中が真っ白になった。
 「社長、会議は午後からです。いつものレストランでお食事なさいますか?。」「(1982剛の心の声)ラッキー。こんな美女と食事だなんて今まで考えられなかったぜ。」「ああ。まかせるよ。」理沙は車を和食レストランの駐車場に停めてレストランに入った。するとガラの悪い暴力団風の男が数人店の店員にいちゃもんを付けていた。「おい!いつまで待たせるんだコラー。」「すみません。この時間帯はどうしても混雑するのでもうしばらくお待ちください。」「ふざけんなこら!。もう20分は待っているぞ。」剛はその様子を見ていた。「42年後にもやくざっているんだな。」すると暴力団の一人と1982剛の目が合った。
 「おいじじい!何見てんだ!見せもんじゃねえぞおら。」つかつかと近寄って来る。すると・・・「おおおおおいばか!やめろ!そのお方はあの大頭領様だぞ!。うちの組長と大の仲良しの大頭領様だぞ。」
 「ええええええええ!。」さっきまでの勢いが消え、真っ青になってその場で土下座した。「どどっどどうかお許しを!。組長にだけは言わないでください。」その場にいた暴力団員は全員土下座した。驚く1982剛。
 「42年後の俺っていったいどんなキャラなんだ????。」
 暴力団員は店に謝罪して店をすぐに出て行った。お店の中で拍手が起こる。「大頭領かっこいい!。」「大頭領様があと20年若かったらコクっちゃうな。」まんざらでもない1982剛
「中身は20年どころか42年若いんだけどな。」
 一方、1982年に飛ばされた2024剛は六郎と一緒に誰かを待っていた。「すかいらーくか懐かしいな。そのうちガストに取って代わられるけどな。」「なんだそりゃ。わけわからん。」そうこうしているうちに10代後半ぐらいの女の子二人が店に入ってきた。そして2024剛の前に座った。「六郎ごめんねえ。ちょっと迷っちゃった。」「そんなのスマホのグーグルマップで調べればいいのに。」「はあ?スマホ、グーグル?」「ああそうか今は1982年だた。いやいや何でもない。」六郎は早速ドヤ顔で女の子を紹介する。「こちらが野村亜希子さんだ。」「野村亜希子です。19歳短大生です。家は世田谷です。」「おお美里に似ている。いいやこっちの話だ。」焦る2024剛。
「とりあえずドリンクバーでも頼む?。」「ドリンクバー?。」「ああそうか今はまだないんだった。」しどろもどろになる2024剛だった。
数分後話は盛り上がりつつあったが・・・。「六郎さんと剛さんはどういうご関係なんですか?。」「ああこいつはうちの社員だ。私は山城工務店の2代目社長 山城剛です。」「はあ?お前まだそんなでたらめ言ってんのかよ。だから俺がいつお前の会社の社員になったんだよ。まだ学生だぞ。」「ああそうだった。すまんいつもの癖で。」ゲラゲラ笑う亜希子。「剛さんって面白い方ですね。ドリフターズに入れそうじゃないですか。」「ドリフ懐かしいな。生きているのは高木と加藤だけになっちゃったね。」「はあ?まだ全員ぴんぴんしていますけど。」話がかみ合わない。話は2024剛と六郎の話題になった。「こいつ新卒で入社した会社を20年後に会社の金を横領して解雇されてしばらくニートだったんだ。」「ニート?」「雇ってくれって俺に泣きついてきたから仕方なく現場監督やらせたんだけど使えなくてなあ。挙句の果てにキャバクラで二日酔いになって現場の管理事務所で寝ていやがったんで解雇してやろうとしたら俺の足にしがみついて靴を舐めだしやがったんだ。」六郎は切れた。「お前いい加減にしろよ!なんで俺をそこまで嘘八百で侮辱するんだ!。」「全部本当の事じゃないか。」しかし2024剛ははっとなった。「そうか今は1982年だった。でもまあいずれそうなる。」亜希子は腹を抱えて笑い転げていた。「ザ、漫才に出られる実力だわあんたら。最高よ。」我に返った2024剛はいずれ起こる事ではあるが今は1982年という自覚を持ってこれ以上は未来の話はしなかった。
 亜希子は家に戻り今日の出来事を妹に話した。「その剛って子が最高なのよ。面白くて。思い出しただけで笑っちゃう。」「おねえちゃんは面白いハンサムがタイプだったわよね。」「そうね、顔4割、面白さ4割、人間性2割ってところかしら。」「人間性の割合低くない?。将来が心配だわ。」妹は亜希子が言った二言目には社長だという剛の口癖が気になった。「今時俺は社長になるんだなんて言うやつは田舎者か小学生ぐらいよね。その人よっぽど自信があるのか自信過剰なのかバカなのかそれが一番気になるわ。」「社長になるっていうよりはもう成りきっている感じね。それも何か嘘っぽくないのよね。」それはそうである。中身は大企業の現役社長である。ただ過去に飛ばされただけである。「じゃあ今度デートに誘わせて確かめてみたら?。ああ自分から誘っちゃだめよ。」「分かった。じゃあ何気なーくドライブ行きたいなあぐらい言ってみるわね。」亜希子は剛が気に入ったのでデートで人間性を確かめることにした。

 翌日、某大学建築学科校舎で2024剛と六郎が講義を受けていた。板書に四苦八苦する二人。「スマホがあれば写真取れるのになあ。」「始まったよ謎ワード独り言。」六郎は2024剛のキャラに慣れてきたようだ。「懐かしいな。でもすっかり忘れていた内容だったな。しかし古い建築技術だから履修しない方が良かったな。」「何言ってんだよ。最新技術だぜ、ツーバイフォーだぜ。」話をしながら教室を出ると野村亜希子が妹を連れて待っていた。「え?野村さん?何でこんなところに?。」「ちょっと話さない?。妹が山城君の漫談が面白いから聞きたいんだってさ。」「そうなんだ。ちょうど次の授業は休講だったから学食でお茶しに行く?。」四人は学生食堂の喫茶ラウンジに移動した。「剛君は社長になりたいんだよね。」「いや、もうすでに社長なんだが・・。ええまあ大工の頭領になって現場を知ってから社長に就任して建築業界の闇と戦うのさ。」「ほんとだー成り切り度合いが半端ないね。」引きつり笑う剛。その時剛は面白い事を思いついた。「実は俺は未来が分かるんだ。だから社長になる未来も見えるんだ。例えば今月 F1ドライバーのジル、ビルヌーブが事故死する。そして9月にモナコ公国グレース・ケリー大公妃が自動車事故死する。最後に11月にソ連のブレジネフ書記長が死去する。」目が点になる3人。「ええええええええ!。うそお!。」
「そのうちわかるさ。俺の予言能力が。」
 翌日、8日 F1ドライバーのジル、ビルヌーブが事故死するというニュースを亜希子はTVで知った。「ええええ!うそお。当たってるわ。まぐれかな?9月が気になるわ。」

一方、1982剛は会議に出席する為ある会社に到着した。「何々、津酔組?(つよい組)。建設会社かな?。」二人は車を駐車場に停めて建物に入った。すると。「きょうでえ。よく来てくれたな。さささ!中へへえんな。」見るからにガラの悪そうな体格のいい大男がこの会社の社長と思われる男の両脇に立っている。ガラの悪い目つきの悪い男たちがずらりと並んでいる。「こここここはどこなの。?」「ここは津酔組という裏社会の組織の事務所です。」「えええええなんで?。」「大頭領が行きたいって言ったんじゃないですか。」「(1982剛の心の声)もういやだ。未来の俺っていったい何者なんだよお。」組長の津酔権三郎62歳は実は山城工務店に緊急対応で作業員を斡旋している。数年前この組が指定暴力団に指定されそうになった時に剛がマスコミに圧力をかけて作業員を山城工務店に斡旋してくれたことを大々的にメディアで発表させたことがある。その功績で指定暴力団化を防ぐことが出来たのだ。組長はそのことを恩に感じている。権三郎は急に深刻な顔になって頭をさげた。「すまねえ兄弟!昼間うちの若いもんが兄弟につまんねえ事をしたってさっき聞かされた。連れて来い。」間もなく昼間和食レストランでイキガッテいたチンピラが連れてこられた。顔中殴られて腫れあがっている。「すまねえ兄弟。こいつには指詰めさせるから勘弁してくれや。」1982剛は青くなった。「そそそそそれだけややめたげて。そこまでしなくても怒ってないから。」親分は急に大声をあげた。「聞いたかてめえら!。これが男の中の男ってもんよ!。よーくこのお姿を目に焼き付けておけ。」カメラで撮影する組員もいる。チンピラは泣き出して剛に謝った。「すみませんでした大頭領!。この恩は一生忘れません。俺!大頭領に一生ついて行きます。」「いやいやいや。ついてこなくていいから。」焦る1982剛。「(1982剛の心の声。)もういやだ。1982年に帰りたいよ。2024のおれのバカ~。いったい2024の俺って何者なんだよお~。」心底2024年の剛を演じるのが嫌になった1982剛だった。
 そんな1982剛の苦労も知らず2024剛はある日曜日、亜希子とドライブデートをしていた。あのフェラーリ348に亜希子が助手席に乗っている。ラジオからはサザンの チャコの海岸物語が流れた。「懐かしいなあ。」「何言ってんのよ。発売されたばっかりよ。カセットあるなら赤いスイートピーかけてよ。」「亜希子ちゃん渋い趣味だね!?。この車1992年式だからCDしかないよ。」「はあ、今年1982年だよ。」「いいいいいいやいやこの車は10年先の開発中の試作車なんだ。」でたらめを言う2024剛。「それより剛君凄いね。F1ドライバーのジルなんとかさん死んじゃったよ。何でわかるの?。」「俺は未来が分かるのさ。だから俺の未来も分かる。山城工務店二代目社長だ。年商2000億円の会社だよ。」「不思議ね~嘘に聞こえないのよね。」「六郎も雇ってやるから安心しな。ただし、おとしまえはつけさせるけどな。」2024剛の顔がひきつる。高速道路に入りPAレストランで二人は食事を取る。「何食べる?好きなもの頼んでいいよ。」「じゃあ私はおそばがいいな。」「奇遇だな。俺も和食派なんだ、いきつけの和食レストランもあるんだ。でも知り合いの事務所の若いもんが良く来るからガラの悪い店っぽく言われるんだよな。」そのレストランで1982剛がトラブルに会っていることなど2024剛は知るはずもない。「不思議よね~。剛君てさ、花火大会の帰りに会った時はもっとはっちゃけた感じだったのに今はなんか渋いというか貫禄があるっていうか別人っぽいのよねえ~。」実際別人なんだからしょうがない。「昔はちゃらかったからなあ。」「何言ってんの、つい最近じゃない。」
一方、六郎は2024剛が亜希子とデート中とは知らずに剛の家に遊びに来た。「おじゃましまーす。」「剛は生意気にもデートだってさ。適当に剛の部屋で遊んでお行き。」剛の母公認で部屋に入る。六郎は剛の部屋をひっかきまわし始めた。「この前貸したビニ本10冊返してもらってねえから奪って帰らねば。」六郎はクローゼットを開けた。「ん?なんだこの毛布にくるまっている物体は。う、重いな。」引っ張り出して毛布をめくるとものすごい美女があらわれた。「なんだこりゃ。死体か?。いや人形だ。凄い美人だ。でも何で剛の部屋に・・・・。」そのあまりのリアルさと美しさと柔らかさに驚く六郎。信じられないものを見たのでそれが現実か夢幻か実感がまだわかない様子だった。 第二話 END

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